第八十六話 首飾りと交渉
ボウリング大会を終えた後も――
「だから、お前の最初の二投が悪いんだ!」
「お前だって二連続ガーターだっただろうが!」
道満と隼人は
まだ言い合っていた
「俺は途中からスペアも取った!」
「俺だって途中から安定した!」
「三重の巡らせまで使ったくせに!」
「それを何度も言うな!」
周囲の男子たちは
もう止める気もない
刀也が笑う
「なんだかんだ、二人ともハマってんじゃん」
「だよな」
迅も笑う
案の定――
「次は直接勝負だ!」
隼人が道満を指差す
「望むところだ」
道満も即答
「今度は絶対に負けん」
「こっちの台詞だ!」
太一が呆れた顔
「さっきまで同じチームだったのに、もう次の勝負の話してるよ」
晴真も笑う
「また来ようよ」
「次は勝つ」
道満が真顔で答える
隼人も
「俺もだ!」
二人とも
完全に気に入っていた
◇
ひと通り遊び終わり
男子たちは
佐倉柏麗の入口へ戻ってきた
晴真がジミーへ頭を下げる
「ジミーさん、ありがとうございました!」
「楽しかった!」
刀也も笑う
「また来る!」
与一
誠
樹
秀
学
豪太たちも
それぞれ礼を言う
ジミーは腕を組み
豪快に笑った
「おう!」
「初等部の小僧ども!」
「また来いよ!」
「…………」
男子たちの動きが
止まった
刀也
「え?」
迅
「ちょっと待って」
二人が振り返る
「バレてたのかよ!」
ジミーが呆れた顔
「当たり前だろ」
「どう見たって初等部じゃねぇか」
「太一たちを保護者って言ったの、通じてなかったの!?」
「通じるわけねぇだろ!」
「じゃあ何で入れてくれたんだよ!」
ジミーは笑う
「楽しそうだったから」
「そんな理由!?」
一同が笑う
そこで迅が
にやっとする
「いやぁ――」
ジミーの肩を軽く叩く
「流石、正さん」
ぴたり
空気が止まる
ジミーの笑顔が消えた
「迅」
「はい?」
「お前だけ次から出禁な」
「ええっ!?」
迅が青ざめる
「そんな殺生な!」
「俺は言ったよな?」
「正とは呼ぶなって」
「冗談じゃないですか!」
「駄目だ」
「ジミーさん!」
「遅い!」
「ごめんなさい!」
皆が大笑い
晴真も腹を抱えている
こうして――
最後まで騒がしく
男子たちは佐倉柏麗を後にした
◇
だが――
建物を出た瞬間
「…………」
男子たちの足が
一斉に止まった
目の前
そこには――
女子たち
先頭に立っているのは
麻賀多凛
その後ろには
小夜
紅葉
美鈴
綾女
千尋
紗月
ひなた
菜穂
そして他の女子たちまで
ずらり
「…………」
男子一同
嫌な汗
凛が
にこっ
と笑った
ただし
目は笑っていない
「皆さん」
「はい……」
男子たちの返事が
妙に揃う
凛が佐倉柏麗の看板を指差す
「ここ――」
一拍
「初等部だけでの入場は禁止されていますよね?」
「…………」
男子たち
全員
下を向いた
「桜駆け前に――」
凛の声が少し強くなる
「何をしているんですか!」
「いや……」
刀也が目を逸らす
「これはだな……」
迅も壁を見る
すると美鈴が
腕を組む
「しかも」
紅葉を見る
「紅葉を使って、女子だけ別の予定を作らせてまで」
そして男子たちを見る
「そんなに行きたかったの?」
紅葉も
少し困った顔
「道満様に女子の団結を深めようと言われたので……」
道満
「…………」
視線が集中する
「いや」
「それは……」
その時――
晴真が一歩前へ出た
「ごめん」
皆が晴真を見る
「僕がみんなを誘ったんだ」
女子たち
「え?」
凛が驚く
「晴真君が?」
紅葉も
目を丸くする
小夜まで
「晴真君が……?」
「うん」
女子たちが顔を見合わせた
そして
美鈴が不思議そうに
「でも晴真君」
「何?」
「いつもなら私たちも誘ってくれるじゃん」
紅葉も頷く
「そうですよ」
「どうして今回は男子だけだったんです?」
晴真は
少し言いづらそうに笑う
「それは――」
与一が横から助け舟
「ちょっと秘密にしておきたいことがあったんだよ」
凛の眉が動く
「秘密?」
「何ですか?」
男子たち
「…………」
誰も答えない
なぜなら
本人が目の前にいるから
凛は
その沈黙を別の意味に受け取った
「やっぱり」
「やましいことがあるから答えないんですね!」
「違う違う!」
晴真が慌てる
「そうじゃないんだ!」
そして――
小夜を見る
「小夜ちゃん」
「はい?」
晴真は
小夜の前まで歩いていく
「本当はもう少し後に渡そうと思ってたんだけど」
「?」
腰の小さな袋から
箱を取り出す
「ちょっと早いけど――」
晴真が笑う
「小夜ちゃん」
「誕生日、おめでとう」
「…………」
小夜が固まる
晴真は
箱を開いた
中には――
黒い桜
結界石から作られた
一点物の首飾り
「これ」
「どうぞ」
「…………」
小夜の顔が
一瞬で真っ赤になった
「わ、私に……?」
「うん」
晴真は笑う
「小夜ちゃんのために作ってもらったんだ」
「…………!」
女子たち
「えっ」
「作ってもらった!?」
「晴真君が!?」
一気にざわつく
小夜は
恐る恐る首飾りを受け取る
黒い桜を
両手の上へ乗せる
「綺麗……」
小さく呟く
そして
晴真を見る
「ありがとうございます」
顔は
まだ真っ赤
けれど――
本当に嬉しそうだった
晴真も
ほっとする
「良かった」
「喜んでもらえるか心配だったんだ」
そして女子たちを見る
「ごめんね」
「みんなを誘ったら、小夜ちゃんも来ると思って」
「それだと驚かせられないかなって……」
「…………」
女子たち
しばらく沈黙
次の瞬間――
「きゃあああ!」
美鈴が声を上げる
「なにそれ!」
「かわいい!」
千尋も小夜のところへ
綾女も
ひなたも
一気に集まる
「見せて!」
「黒桜だ!」
「小夜に似合う!」
「晴真君、ちゃんと考えてるじゃん!」
「え?」
晴真がまた首を傾げる
小夜は
女子たちに囲まれながら
首飾りを胸元へ当て
ずっと嬉しそうに眺めていた
◇
その様子を見ていた紅葉が
小夜の隣へ来る
「小夜さん」
「はい?」
紅葉も
黒桜の首飾りを見つめる
そして――
少し羨ましそうに
「私も欲しいですわ……」
「…………」
道満の耳が
ぴくっ
動いた
「紅葉」
「はい?」
道満は
自分の持っていた小箱を取り出す
「これ」
「?」
箱を開く
中にあるのは
もう一つの黒桜
晴真の物と同じく
最初に作られた試作品
「これも」
「小夜の物と同様、一点物らしい」
紅葉が目を見開く
道満は
あっさりと差し出した
「欲しいなら――」
「紅葉にやる」
「…………」
紅葉
完全に固まる
美鈴
綾女
千尋
一斉に道満を見る
「えっ?」
道満が首を傾げる
「何だ?」
紅葉は
両手で首飾りを受け取る
「本当に……?」
「ああ」
「俺が持っていても仕方ないしな」
その瞬間
女子たち
「…………」
迅が
小声で刀也へ
「余計な一言つけなきゃ完璧なのにな」
刀也が頷く
「道満だからな」
紅葉は
そんな言葉など気にしていない
黒い桜を見つめながら
うっとり
そして
満面の笑み
「ありがとうございます、道満様!」
「大切にいたします!」
「あ、ああ」
道満は少し戸惑う
綾女が
ぼそっ
「いいなぁ……」
美鈴も
「一点物……」
千尋
「しかも本人から……」
「…………」
男子たち
何となく
嫌な予感
◇
その時――
美鈴の目が
迅の胸元で止まった
「…………」
「ん?」
迅が気づく
美鈴は
迅の首から下がっている物を見る
黒い桜の首飾り
「迅」
「何?」
「それ何?」
「…………」
迅
そっと
首飾りを服の中へ隠そうとする
「待ちなさい」
「いや」
「見せなさい」
「これはだな――」
今度は綾女が
隼人を見た
「あっ」
隼人の胸元にも
黒桜
「隼人も持ってる」
「…………」
隼人
後退
女子たちが
男子を見る
よく見ると――
持っている
刀也
迅
隼人
豪太
太一
秀
学
誠
樹
遊喜
剛
全員
同じような黒桜の首飾り
美鈴が
にこっ
「それ」
「佐倉柏麗で遊んだこと黙っててあげるから」
手を出す
「よこしなさい」
「何でだよ!」
迅が叫ぶ
綾女も
隼人へ手を出す
「私も」
千尋
「私も欲しい」
紗月
「じゃあ私も」
「待て待て待て!」
男子たちが騒ぐ
しかし――
弱みを握られている
「先生に詳しく報告していいの?」
美鈴が聞く
「…………」
迅
悔しそうに首飾りを外す
「汚ねぇ……」
「交渉と言って」
「恐喝だろ!」
結局――
男子たちが歴博からもらった
大量生産用の黒桜の首飾りは
次々と女子たちへ渡っていった
「やった!」
「かわいい!」
「これ結界も張れるんでしょ?」
「便利じゃん!」
女子たちは満足そう
男子たちは
空になった首元を見て
がっくり
◇
ただ一人――
与一だけ
黒桜の首飾りをつけたまま
「…………?」
周囲を見る
「僕のは取らないの?」
美鈴たち
一瞬
黙る
そして
美鈴が言った
「だって……」
「何?」
「与一君の取ったら」
少し声を落とす
「弓月と桜華に……」
女子たち
一斉に頷く
「「「うん」」」
与一
「…………」
迅が肩を叩く
「良かったな、モテ男」
「全然嬉しくない」
◇
そこで――
晴真が何かを思い出した
「あっ!」
「どうしたの?」
凛が見る
「そういえば歴博さんから」
袋を取り出す
「僕たち用だって、別に三つもらってた」
「三つ?」
晴真が箱を開く
そこには――
三つの桜
一つは
金色
そして
二つは
銀色
黒い結界石とは
見た目がまるで違う
けれど
石そのものは同じ結界石
表面へ
霊木と同じような加工を施し
金と銀に仕上げたものだった
「綺麗……」
凛が覗き込む
道満も思い出す
「ああ」
「歴博殿が試作品として作った物か」
晴真が金の桜を手に取る
「これが僕用」
道満が銀の桜を受け取る
「そして」
もう一つの銀桜
晴真が凛へ差し出した
「これ、凛ちゃんのだって」
「私に?」
「うん」
凛が受け取る
銀の桜
光へかざすと
淡く輝く
「ありがとうございます」
凛は嬉しそうに笑った
そして
少し考える
ちらっ
与一を見る
「与一君」
「何?」
凛は
自分が持っていた黒桜の首飾りを差し出す
「これを」
「え?」
「弓月さんと桜華さんに渡してください」
「二人に?」
「ちゃんと渡してください」
「一番困るんだけど」
皆が笑う
凛も笑いながら
「これで喧嘩にならないですね」
「…………」
与一は黒桜を見る
「もう、あげることは決定してるんだね」
苦笑
「頑張れ、与一」
刀也が肩を叩く
「何を頑張ればいいんだよ」
◇
ひとまず
首飾り騒動も落ち着いた
小夜は
晴真からもらった黒桜を
何度も眺めている
紅葉も同じ
二人とも
顔には出さないようにしているが――
どう見ても嬉しそう
その時
綾女が
ぽつり
「でも――」
皆が見る
「何?」
「晴真が小夜への贈り物を秘密にしたかったことは分かった」
「うん」
晴真が頷く
「だけど」
綾女が佐倉柏麗を見る
「ここへ遊びに来たことは――」
一拍
「関係ないよね?」
「…………」
男子一同
固まる
迅が
真っ先に叫んだ
「もういいだろ!」
「首飾り取ったじゃん!」
美鈴が笑う
「それは女子を仲間外れにした罰」
「まだあるの!?」
千尋も笑顔
「佐倉柏麗へ行ったこと」
「先生たちに黙っていてほしいなら――」
男子たち
ごくっ
美鈴
千尋
綾女
三人で顔を見合わせる
そして――
「そうだね」
美鈴が言う
「《麗らか》の餡蜜で手を打つわ」
「えええええっ!?」
男子たちから
悲鳴
「全員分!?」
「高いだろ!」
「俺たち今日もう金使ってるぞ!」
「酷くないか!?」
迅が頭を抱える
刀也も
「横暴だ!」
隼人
「これが女子のやり方か……!」
だが――
一人だけ
「やった!」
嬉しそうな声
全員が振り返る
晴真だった
迅
「おい晴真!」
「何?」
「なんで喜んでんだ!」
晴真が不思議そう
「だって――」
にこっ
「餡蜜食べられるんだよ?」
「お前が払う側だよ!」
「でも食べられるじゃん」
「そういう問題じゃねぇ!」
女子たちが笑う
男子たちも
つられて笑い始めた
凛はため息をつきながらも
もう怒ってはいなかった
「もう……」
「今回だけですよ」
「はーい」
晴真が返事
「晴真君が一番反省してません!」
「してるよ!」
また笑い声
◇
小夜は
胸元の黒桜へそっと触れる
晴真が自分のために考え
自分のために作ってくれた物
その裏には
守護結界の術式
ただ綺麗なだけではない
自分を守るための贈り物
「…………」
小夜の頬が
また少し赤くなる
その隣
紅葉も
道満からもらった一点物の黒桜を
大事そうに両手で包んでいた
「…………」
美鈴が
そんな二人を見る
にやっ
「二人とも」
「何です?」
「何でしょう?」
「別にー」
「?」
二人は首を傾げる
美鈴は笑いながら
皆へ向かって声を上げた
「さあ!」
「行くよ!」
指差す先は――
甘味処《麗らか》
「いざ――」
「麗らかへ!」
女子たち
「おーっ!」
晴真も
「おーっ!」
男子たち
「…………」
迅が頭を抱える
「なんで罰を受ける側が一番楽しそうなんだよ……」
刀也が笑う
「晴真だからな」
結局――
男子だけの休日だったはずの一日は
いつもの一年一組らしく
最後には全員一緒になって
賑やかなまま――
甘味処《麗らか》へ向かうことになっ




