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第八十五話 男子部屋対抗ボウリング大会


 こうして――


一年一組男子による


ボウリング大会が始まることになった


最初は個人戦のつもりだったが


迅が突然


「なあ!」


皆を見回す


「どうせなら部屋対抗でやろうぜ!」


「部屋対抗?」


樹が少し考え


すぐに笑う


「いいね!」


「負けないよ」


誠も頷く


「面白そうだな」


道満は腕を組み


「やるからには勝つ」


早くも完全な勝負顔


そして――


同じ組になった隼人を見る


「隼人」


「何だよ」


「足を引っ張るなよ」


「ちょっと待て!」


隼人が即座に反応


「輪投げが下手だからって、ボウリングまで下手と決めつけるな!」


「実際、輪投げは酷かっただろう」


「それは関係ない!」


晴真も


二人の間へ入る


「道満君、それは酷いよ」


「ほら見ろ!」


隼人が晴真を指差す


「晴真は分かってる!」


「輪投げはどうしようもないけど、ボウリングはまだ分からないじゃん」


「…………」


隼人の顔が固まる


そして


胸を押さえた


「晴真……」


「何?」


「お前の一言が一番傷つくわ!」


「えっ!?」


周囲から


どっと笑い声が上がる


◇


その少し後ろ


迅が


隣にいた与一へ小さな声で話しかけた


「なあ与一」


「何?」


迅は


道満へ食ってかかっている隼人を見る


「隼人、変わったよな」


与一も


少しだけ目を細める


「ああ」


以前の隼人なら


こんなふうに


皆の前でムキになることも少なかった


何か言われても


適当に流すか


一歩引くことが多かった


それが今では――


「輪投げと一緒にするな!」


「なら結果を出せ」


「見てろよ!」


道満と本気で言い合っている


与一が少し笑う


「あんなにムキになること、前はなかったもんな」


「だよな」


迅も笑った


そして――


すぐに隼人へ向かって


「まあまあ、お頭!」


肩を組む


「ここはボウリングで良いところ見せつけてやろうぜ!」


「当たり前だ!」


隼人が拳を握る


「見てろよ道満!」


「同じチームなんだから俺に見せつけてどうする」


道満が呆れる


太一まで


「お前ら同じチームだろうが!」


また笑い声


今度は与一が


刀也の隣へ移動する


「ああ言ってた迅も」


「ん?」


「変わったよな」


刀也が迅を見る


以前より


よく笑う


よくからかう


仲間同士の輪へ


自然に入るようになった


刀也は少し考え


「俺らみんな――」


笑う


「変わってんのかもな」


そして


指を差す


その先では――


「はいはい、二人とも!」


晴真が道満と隼人の間に入っている


「同じチームなんだから喧嘩しない!」


「晴真、俺は喧嘩などしていない」


「こいつが先に煽ったんだ!」


「だから両方!」


刀也が笑った


「アイツのせいで」


与一も晴真を見る


そして


小さく頷いた


「そうだな」


◇


チーム分けも終わり


いよいよ開始


ジミーが腕を組み


男子たちの前へ立つ


「よーし!」


「せっかくの部屋対抗だ」


にやっと笑う


「優勝したチームには――」


皆が注目


「俺から特別賞品を出してやる!」


「おおおおっ!」


一気に盛り上がる


「何だ!?」


刀也が聞く


「秘密だ!」


「じゃあ余計に勝つしかねぇ!」


迅が拳を上げる


「よし!」


「やるぞ!」


男子たちも気合いを入れた


◇


最初に前へ出たのは――


「俺から行く!」


隼人だった


「大丈夫か?」


道満が言う


「うるせぇ!」


隼人は


かなり重めの球を持つ


レーンを見る


十本のピンを見る


「…………」


絶対倒す


全部倒す


道満に文句を言わせない


そんな気持ちが


顔に出ていた


「いくぞ!」


大きく振りかぶり――


投げる!


ゴロゴロゴロ――!


速い


だが――


右へ


右へ


さらに右へ


ガタンッ


「…………」


ガーター


「…………」


隼人の肩が


がくっ


落ちる


「なぜだ……」


道満が即座に


「ちゃんとやれ」


「足を引っ張るな」


「くそっ!」


隼人が睨む


そこで


晴真が見かねて近づいた


「隼人君」


「何だ?」


「ピンに当てようとしすぎてるよ」


「?」


晴真は


レーンの途中を指差す


床に付いている


いくつかの印


「奥のピンを見るより」


「あの印を通過させる感じで投げてみて」


「印?」


「うん」


「ここを通す」


晴真が指で軌道を描く


「そこだけ意識してみて」


「……分かった」


隼人が頷く


二投目


今度は


力を少し抜く


見るのは


十本のピンではない


床の印


「ここを――」


投げる


ゴロゴロゴロ――!


「おっ!」


晴真が声を上げる


先ほどとは違う


良い位置


そのまま――


ガシャァン!!


七本


「やった!」


隼人が飛び上がる


「晴真!」


「お前のおかげだ!」


「良かった!」


二人が喜ぶ


そして隼人は


すぐ道満を見る


「見たか道満!」


「三本残しているだろうが」


「ぐっ」


だが


道満は少しだけ笑い


「まあ――」


「隼人にしては上出来だ」


「…………」


隼人の眉が


ぴくっ


褒められている


間違いなく褒められている


なのに


ものすごく腹が立つ


「その言い方がムカつくんだよ!」


◇


倒れたピンのところへ――


ぴょこっ


何かが現れた


「ん?」


晴真が見る


小さな式神


兎のようでもあり


小人のようでもある


そんな式神が数体


ちょこちょこと走っていく


一本


二本


倒れたピンを持ち上げ


元の場所へ並べていく


別の式神は


転がった球を


よいしょ


よいしょ


と運び


返球口まで持ってくる


晴真の目が輝く


「すごい!」


「式神がやってるんだ!」


ジミーが笑う


「ここじゃ表みてぇに電気を好き放題使えるわけじゃねぇからな」


「ピン並べも」


「球を戻すのも」


「うちじゃ式神の仕事だ」


「へぇー!」


晴真は


楽しそうに式神を見る


一匹の式神が


球を押しながら


ぷるぷる震えている


「頑張れー!」


なぜか晴真が応援


道満が


「そこを応援するのか?」


と呆れていた


◇


「次は俺だ!」


迅が前へ出る


「いくぜ!」


そう言った瞬間――


どんどん


後ろへ下がっていく


「…………」


与一が見る


「迅」


「何?」


「どこまで行くの?」


「助走だ!」


さらに下がる


「遠すぎるだろ」


「速い方が威力出るだろ!」


「そういう競技じゃないと思うけど」


迅は構わない


「いくぜぇぇぇ!!」


ダッ!!


ものすごい速度で走る


「速っ!」


そのまま投球


ゴォッ!


球が猛烈な勢いで進み――


ガコンッ!!


七本


「よっしゃ!」


迅が拳を握る


三本残り


晴真が声をかける


「迅君、頑張れ!」


「スペア取れるよ!」


「任せろ!」


迅は再び――


ずんずん後ろへ下がる


与一


「またやるの?」


「当然!」


ダダダダッ!!


全力助走


そして――


投げる!


ゴォォッ!!


三本のピンとは


かなり離れた場所を通過


ガタンッ


「…………」


全員


沈黙


与一が言う


「無駄に助走つけるから制球できないんだろ」


「…………」


迅


返す言葉がなかった


◇


「次は僕だね」


樹が球を持つ


先ほどから


皆の投球を見ていた


「こういうのは力任せじゃ駄目だよ」


「ほう」


秀が見る


樹は少し得意げ


「頭を使わなくちゃ」


立ち位置


ピンの配置


軌道


腕の角度


色々計算しているようだった


「ここからなら――」


投げる


「うっ!」


だが――


身体の小さい樹には


球が重かった


腕が球に引っ張られ


体勢が崩れる


ごろんっ


球が転がる


そのまま――


ガタンッ


ガーター


「…………」


樹


「うっ……」


晴真が声をかける


「ドンマイ!」


そして


小さめの球を持ってくる


「樹君、もう少し軽いのにしよう」


「……うん」


樹は素直に頷いた


二投目


今度は


無理に力を入れない


自分の身体で扱える球


狙った線を通す


すっ――


ゴロゴロゴロ――


その球は


綺麗に中央へ入り


ガシャァァン!!


十本


全部倒れた


一瞬


沈黙


「えっ?」


樹本人が一番驚く


晴真が叫ぶ


「ストライク!」


「やった!」


樹の顔が輝く


晴真と――


パンッ!


ハイタッチ


「すごいじゃん!」


「これならいける!」


予想外の才能を見せ


樹のチームも一気に盛り上がった


◇


そして――


意外な才能を発揮した者が


もう一人


高崎秀


派手ではない


豪快なストライクも少ない


しかし――


一投目


八本


二投目


残り二本を確実に倒す


スペア


次も


九本


残り一本


またスペア


「秀、上手くない?」


晴真が言う


「そう?」


秀本人は


あまり気にしていない


誠が笑う


「地味だけど確実だな」


学も


「秀らしい」


「地味は余計だ!」


それでも


きっちり点数を積み上げていった


◇


そして――


道満の番


待ってましたとばかりに


隼人が笑う


「おい道満」


「何だ」


「俺のこと、あれだけ弄ったんだから」


にやにや


「さぞちゃんとやるんだろうな?」


「当然だ」


道満は自信満々


レーンを見る


先ほどまで


他の者たちの投球を分析していた


立ち位置


角度


速度


回転


ピンへ入る位置


「分析の結果――」


道満が球を構える


「ここからならストライクだ」


隼人が腕を組む


「ほぉー」


道満


助走


そして


投球


ゴロゴロゴロ――


最初は真っ直ぐ


しかし――


少しずつ左


さらに左


ガタンッ


「…………」


ガーター


「おい!!」


隼人が叫ぶ


晴真


「ドンマイ!」


道満


「…………」


レーンを見る


「なぜだ」


「道満君」


晴真が近づく


「力みすぎだよ」


「力んでなど――」


「力んでるよ」


「…………」


晴真は笑う


「もっと楽しんでやろうよ」


道満は少し考え


「……分かった」


再び球を持つ


だが


顔は――


さっきより真剣


「道満君?」


「だが――」


「負けるわけにはいかん」


すっ


道満の身体を


霊力が巡り始める


晴真が目を見開く


「えっ」


迅も気づく


「おいおい」


道満


「《三重の巡らせ》」


霊力が


身体を三重に循環


身体能力を引き上げる


隼人が叫ぶ


「そこまでする!?」


「いくぞ!」


強化された身体で――


投球!!


ゴォォォォッ!!


恐ろしい勢い


だが


勢いがありすぎた


真っ直ぐ行った球は


途中から大きく外れ


ガタンッ


「…………」


乾いた音だけが


レーンに響いた


道満


「…………」


晴真


「…………」


迅


「…………」


隼人


「…………」


そして――


「ぶははははははっ!!」


隼人が腹を抱えて大笑い


「三重の巡らせ!」


「三重の巡らせまで使ってガーター!!」


「うるさい!!」


道満の顔が


珍しく赤い


「たまたまだ!」


「二回連続だろ!」


「黙れ!」


刀也も笑い転げる


迅も


「道満、ボウリングで術使ってガーターって伝説だぞ!」


「お前は無駄な助走で外しただろうが!」


「俺は術使ってない!」


「ぐっ……!」


道満が


本気で悔しそう


晴真も笑いながら


道満の肩を叩く


「だから考えすぎだって」


「…………」


「力も入れすぎ」


晴真は球を一つ持つ


「これは修練じゃないんだから」


笑う


「楽しんでやるものだよ」


「……楽しむ」


「うん」


道満は


少しだけ肩の力を抜いた


◇


そこから晴真は


皆へコツを教えていった


「隼人君は床の印を見る!」


「分かった!」


「迅君は助走短く!」


「やっぱり?」


「絶対その方がいい!」


「樹君は軽い球!」


「うん!」


「道満君は考えすぎない!」


「それが一番難しい」


「豪太は――」


晴真が見る


ガシャァァン!!


ストライク


「…………」


豪太が振り返る


「何だ?」


「そのままでいいや」


「おう!」


実は――


豪太がとんでもなかった


投げる


ストライク


また投げる


ストライク


さらに


ストライク


「…………」


ジミーまで呆然


「なんだあの小僧」


豪太本人は


特に考えていない


「真ん中に投げれば全部倒れるだろ?」


「それができないから困ってるんだよ!」


隼人が叫ぶ


豪太は首を傾げる


「そうなのか?」


「腹立つ!」


◇


試合が進むにつれ


隼人も


道満も


少しずつコツを掴んでいく


「よし!」


隼人が八本


次の一投で


残り二本


スペア


「見たか!」


「少しはマシになったな」


道満も


力を抜いて投げるようになり


安定して点を取る


「なるほど」


「余計な力を入れない方が軌道が安定するのか」


「だから最初から言ってるじゃん!」


晴真が笑う


しかし――


序盤の失点が


あまりにも大きかった


◇


そして


全ての投球が終了


ジミーが


集計された点数を見る


「よーし!」


全員が集まる


「結果発表だ!」


「おお!」


「まず――」


第四位


つまり最下位


「道満、隼人、豪太、太一組!」


「…………」


道満


「なぜだ」


隼人


「嘘だろ」


太一がため息


「最初のお前ら二人だよ」


豪太は


全投球ストライク


とんでもない成績だった


太一も安定していた


だが――


道満と隼人


二人がコツを掴むまでの低得点が


あまりにも響いた


隼人が道満を指差す


「お前のせいだ!」


「お前もだろう!」


「俺は三重の巡らせ使ってガーターなんてしてない!」


「それを言うな!」


再び笑いが起こる


ジミーが続ける


「第三位!」


「晴真、刀也、迅、与一組!」


「三位かぁ!」


刀也が悔しがる


晴真は笑う


「でも楽しかったからいいじゃん」


与一も頷く


「僕もそう思う」


迅


「いや、俺は賞品欲しかった」


「正直だな」


そして


「第二位!」


「樹、遊喜、剛組!」


「やった!」


樹が拳を握る


遊喜と剛も喜ぶ


「ストライク効いたな!」


「樹、意外と上手かったな!」


「意外は余計!」


そして――


第一位


「秀、学、誠組!」


「おおっ!」


三人が顔を見合わせる


派手なストライクを連発したわけではない


だが


三人とも大崩れせず


特に秀が


堅実にスペアを取り続けた


その積み重ねが


最終的に一位へ繋がった


「やったな!」


学が笑う


誠も


「地味に強かったな、秀」


「だから地味って言うな!」


皆が笑う


◇


「いやぁ――」


刀也が伸びをする


「面白かったな!」


「うん!」


晴真も笑う


輪投げとは違い


隼人も満足そう


道満ですら


「もう一度やれば勝てる」


と本気で再戦を考えている


その時


ジミーが


「さて」


手を叩いた


「優勝賞品だったな」


秀


学


誠


三人が前へ出る


「何がもらえるんです?」


「こいつだ」


ジミーは


店の奥から


一枚の札を持ってきた


古い紙


色褪せ


端も少し傷んでいる


だが


そこには確かに――


術式が書かれていた


「これはな」


ジミーが得意げに言う


「夜叉丸様が幼い頃に描いたという札術の札だ」


「…………!」


その瞬間


一番反応したのは――


道満


「何だと!?」


立ち上がる


「夜叉丸様の!?」


「そうだ」


「くっ……!」


道満が本気で悔しがる


「なぜこんな時に限って最下位なんだ……!」


隼人が


「三重の巡らせのせいじゃね?」


「黙れ!」


◇


優勝した秀たちは


札を受け取る


「これが夜叉丸様の……」


学が興味深そうに見る


誠も覗き込む


そして――


秀が


「…………」


何かに気づいた


「なあ」


「何?」


「これ……」


札を持ち上げる


晴真を見る


「晴真が描いたやつじゃないの?」


「え?」


晴真が近づく


「僕?」


「だって見てみろよ」


秀が札を見せる


そこに書かれた術式


確かに――


術式そのものは


筋が通っている


だが


文字が


かなり独特


線が少し曲がり


大きさも揃っていない


癖が強い


そして何より――


晴真が普段書く術式と


妙に似ていた


「…………」


晴真が固まる


道満も横から見る


「…………」


そして


晴真を見る


また札を見る


「確かに」


「だよね?」


晴真は首を横へ振る


「でも僕、描いてないよ!」


「そりゃそうだろ」


「何百年前の札だよ」


迅が笑う


「じゃあ何でこんなに似てるんだ?」


皆が札を見る


道満が


少し表情を変えた


「待て」


「どうしたの?」


「この札――」


術式を見る


「誰か発動できるのか?」


ジミーが首を横へ振る


「ああ、それがな」


「誰も発動できねぇ」


「誰も?」


「術式そのものは間違っちゃいないらしいんだ」


ジミーは笑う


「だが発動しない」


そして


札を指差す


「まあ――」


得意げに


「流石の夜叉丸様も、幼子の頃はこんなに字が汚かった」


「だが大人になると、誰もが褒めるほどの達筆になった」


大きく頷く


「人は努力すれば成長できるということを表している一品だな!」


晴真


道満


「「違うだろ!」」


声が綺麗に揃った


「なんだよ!」


ジミーが驚く


晴真と道満は


もう一度札を見る


晴真の字に似ている


術式自体は正しい


それなのに


誰にも発動できない


そして――


夜叉丸


晴真


その二人の間に


直接の繋がりはない


だが


晴真の脳裏に


一人の人物が浮かぶ


「道満君」


「ああ」


二人は


ほぼ同時に言った


「これ――」


「龍姫様の札じゃない?」


周囲が静かになる


「龍姫様?」


秀が札を見る


道満は頷く


「少なくとも確かめる価値はある」


晴真も


じっと札を見る


なぜ


自分の書く術式と


ここまで似ているのか


本当に龍姫が描いたものなのか


それとも――


別の理由があるのか


晴真は顔を上げた


「学園に帰ったら」


「ミヅチたちに見てもらおう」


「それが一番だな」


道満も頷く


優勝賞品として渡された


一枚の古びた札


男子たちの遊びから始まった一日は――


最後の最後で


思いもよらない謎を


晴真たちの前へ残すことになった

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