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第八十二話 黒桜の贈り物


 結界石を使った実験も一段落し


晴真たちは再び


歴博のお宝屋の中を見て回っていた


その時――


刀也がふと思い出したように


晴真を見る


「そういや晴真」


「何?」


「なんで今回、凛たち誘わなかったんだ?」


迅も横から入ってくる


「俺も気になってた」


「いつもの晴真なら、すぐに“みんなで行こう”って言うじゃん」


「…………」


言われてみれば確かにそうだった


西御門家へ行った時も


角来道場へ行った時も


何か面白そうなことがあれば


晴真はすぐ仲間を誘う


今回は珍しく


男子だけ


晴真は


「ああ、それね」


と頷いた


「実は――」


少し照れくさそうに頭を掻く


「月桜の世話をしてた時に、牧人さんから聞いたんだよね」


「何を?」


「小夜ちゃん」


晴真が答える


「もうすぐ誕生日らしいんだ」


「…………」


周囲の男子たちの動きが


ぴたりと止まった


「それで」


晴真は気づかず続ける


「何か贈り物しようかなと思って」


迅


刀也


秀


学


誠


樹


全員の顔が


少しずつにやけていく


刀也が


「なるほどなぁ」


と頷く


「それで女子を誘わなかったのか」


「うん」


「凛ちゃんたち誘ったら、小夜ちゃんも一緒に来るだろうし」


「そりゃ来るだろうな」


刀也が笑う


「本人連れて誕生日の贈り物探すわけにもいかねぇもんな」


「そうなんだよ」


迅が晴真の肩へ腕を回す


「そんで?」


「何?」


「いい物あったのか?」


「うーん……」


晴真が店の中を見る


「難しいよね……」


道満も腕を組む


「確かに」


「女子への贈り物など、何を選べば良いか分からんな」


すると与一が


何気ない調子で言った


「小夜なら」


「うん?」


「晴真からもらえれば、何でも喜びそうだけど」


「えー?」


晴真が本気で驚く


「そうなの?」


「…………」


周囲


また沈黙


秀が小声で


「そこからなのか……」


学も頷く


迅は今度


道満を見る


「だったら紅葉も同じだな」


「何がだ?」


「道満が何か贈れば、何でも喜ぶと思うぞ」


道満は眉を寄せる


「そんなことはないだろう」


晴真も頷く


「そうだよ」


「ちゃんとその人が欲しい物じゃないと」


男子たちは


二人を見る


「「「…………」」」


そして――


どっと笑った


「何だ?」


道満が不機嫌そうに聞く


「なんで笑うの?」


晴真まで首を傾げる


迅が腹を抱えながら


「いや……」


刀也も笑う


「お前ら二人、本当に似てるな」


「どこが?」


「どこだ?」


晴真


道満


揃って首を傾げる


それを見て


さらに笑いが大きくなった


◇


晴真は気を取り直し


歴博へ声をかけた


「歴博さん」


「はい?」


「なんかない?」


「何か、と申しますと?」


「初等部の女の子に贈る物」


「ああ」


歴博が顎へ手を当てる


「なるほど」


商売人の目になる


「初等部の女子への誕生日の贈り物ですか」


「うん」


「そうですねぇ……」


店の中を見回す


そして


「指環などは――」


「指環?」


晴真が聞き返す


歴博はすぐ首を横へ振る


「いや、いけませんな」


「なぜ?」


「目立ちすぎます」


さらに


少し真面目な顔


「そもそも婚姻関係でもございませんし」


「婚姻!?」


晴真が驚く


男子たちが吹き出す


「じゃあ指環はなし!」


「それがよろしいでしょう」


歴博はしばらく考え


「でしたら――」


「首飾りなどはいかがでしょう?」


「首飾り?」


「はい」


「普段身につけていても、服の中へしまえます」


「修練の時にも邪魔になりにくいですし」


「なるほど……」


晴真が考える


首飾り


小夜なら


派手な装飾品より


そういう物の方が似合う気がする


「首飾りか……」


そう呟いた時


晴真の視界の端に


先ほどまで実験していた物が入った


黒い石


《結界石》


「…………」


晴真が止まる


そして


「あっ!」


歴博が振り返る


「どうなさいました?」


晴真は結界石を手に取った


「歴博さん」


「はい」


「これって加工するの難しい?」


「結界石ですか?」


「うん」


歴博も手に取る


指先で軽く確かめ


「そうですね」


「それほど硬い石ではありませんので」


「細工師へ頼めば、十分加工できると思いますよ」


晴真の目が輝く


「じゃあさ」


黒い結界石を光へ透かして見る


「この石、真っ黒でしょ?」


「はい」


「桜の花の形にしたら――」


指で五枚の花弁を描く


「黒桜寮の紋章みたいにならないかな?」


道満が結界石を見る


「黒い桜か」


「うん」


晴真はさらに考える


「それを首飾りにして」


石を裏返す


「裏側に――」


少し考え


「自動発動式の《守護結界》の術式を刻んだらどうかな」


「……!」


歴博の目が光る


道満もすぐ意味を理解した


「身につけている者へ危険が迫った時」


「自動で結界を張るのか」


「そう!」


晴真が頷く


「小夜ちゃん、桜駆けにも出るし」


「これから危ないことだってあるかもしれないから」


「お守りにもなるかなって」


与一が小さく頷く


「小夜には似合いそうだね」


「だよね!」


晴真も嬉しそう


そして――


くるっ


道満を見る


「じゃあ道満君、お願い!」


「…………」


道満が固まる


「何がだ?」


「術式」


「なぜ俺が?」


「だって――」


晴真は結界石を見る


「僕が書いたら……」


そこで言葉が止まる


道満も


晴真を見る


過去に


晴真が札へ術式を書き


霊力を込めすぎ


色々とおかしなことになった記憶が蘇る


「…………」


「…………」


道満がため息


「……そうだな」


「お願い!」


「仕方ない」


◇


すぐに


歴博が店の奥から職人を呼んできた


「こちらでございます」


年配の職人が


晴真の考えを聞きながら


結界石を小さく割り


加工しやすい大きさへ整えていく


その横


道満は筆を持ち


小さな結界石の欠片へ


術式を書いていた


自動発動


危険感知


防御対象識別


結界展開


解除条件


狭い石の裏面へ


一つ一つ


整然と組み上げていく


職人が覗き込み


「ほう……」


感心した声


「実に綺麗な術式ですな」


「そうですか?」


「ええ」


「線に無駄がない」


「しかも、この大きさへよく収めておられる」


道満は少し嬉しそうに


「ありがとうございます」


職人が


もう一枚の結界石を置く


「では、こちらにもお願いできますかな」


「え?」


さらにもう一枚


「こちらも」


「…………?」


さらに


もう一枚


「これも試作品として」


道満の前へ


どんどん結界石が増えていく


「待て」


職人が手を止める


「はい?」


「なぜ増えている?」


「いやぁ」


職人が笑う


「実に良い術式でしたので」


「何枚か余分にいただければと思いまして」


道満が歴博を見る


歴博は――


にこにこ


「…………」


道満は察した


――まただ


一方


晴真は職人へ聞いている


「桜の形って難しいですか?」


「いえ」


職人は石を見る


「黒桜寮の紋章を模した程度でしたら、それほど複雑ではございません」


「本当?」


「はい」


「すぐに仕上げられますよ」


「では皆様」


歴博が笑顔で言う


「店内でもご覧になりながら、お待ちください」


「分かった!」


晴真たちは再び店内へ散っていく


ただ一人――


道満だけ


まだ机へ座っている


歴博の笑顔を見ながら


思う


――こいつ


――また商売の種を見つけたな


◇


道満が


五枚目ほどの術式を書き終えた頃


「道満様」


「何だ?」


歴博が


すっと一本の武具を差し出した


道満が見る


「これは……」


美しい薙刀


柄には


淡い木目を持つ霊木


刃との接合部にも


丁寧な術式加工が施されている


歴博が得意げに言う


「最高級の霊木の薙刀でございます」


「……素晴らしいな」


道満も素直に感心する


軽い


それでいて芯が強い


霊力も通しやすい


桜がけで使えば――


そんな考えが一瞬浮かぶ


だが


値札を見る


「…………」


そっと戻した


「実に素晴らしいが」


「予算以上だ」


「そうですか」


歴博が残念そうな顔


そして


すぐ笑う


「では――」


嫌な予感


「少しお手伝いいただければ」


「?」


「差し上げますよ」


道満の動きが止まる


「……何をすればいい?」


歴博は満面の笑みで


道満の前へ


箱を置いた


どさっ


蓋を開ける


中には――


大量の結界石の欠片


「あと百個ほど」


「同じ術式を書いていただけませんか?」


「百個!?」


店中へ


道満の声が響いた


晴真たちが振り返る


歴博はにこにこ


「ですが道満様」


薙刀を持ち上げる


「こちら」


「最高級の霊木を使用しておりますよ?」


「…………」


道満


薙刀を見る


結界石を見る


もう一度


薙刀を見る


「…………」


長い沈黙


そして――


「……分かった」


歴博の顔が輝く


「ありがとうございます!」


こうして


麻賀多道満


延々と


結界石へ術式を書き続けることになった


一個


二個


三個


四個


五個――


「…………」


書く


書く


ひたすら書く


その横


歴博は


出来上がった結界石を眺めながら


嬉しそうに呟く


「これはまた売れますよ」


「きっと」


道満の筆が


ぴたり


止まる


「やはり売るつもりか」


「もちろんでございます」


「…………」


道満のこめかみに青筋


◇


すると――


その光景を見ていた刀也が


薙刀の横に並んだ刀へ目をやった


「なあ歴博さん」


「はい?」


「俺も最高級霊木の木刀欲しい」


「お前……」


道満が顔を上げる


すると迅も


「じゃあ俺、忍刀!」


隼人も


「俺も忍刀!」


与一が


「僕は弓」


誠も


「俺も弓がいい」


太一


豪太


秀


学


樹


遊喜


剛


次々と集まってくる


「じゃあ俺も!」


「俺も何か欲しい!」


「最高級霊木なら霊力の通りいいんだろ?」


「桜駆けでも使えるじゃん!」


道満が立ち上がった


「待て!」


全員が止まる


「お前ら――」


大量の結界石を指差す


「自分で書け!」


刀也


即答


「無理!」


迅も


「無理無理!」


隼人


「こんな細かい術式、綺麗に書けねぇよ」


誠も苦笑


「俺も無理だな」


秀


「失敗したら石が無駄になるし」


学


「道満が一番上手い」


「だからと言って俺に全部書かせるな!」


道満が怒鳴る


刀也が


妙に甘えた声


「頼むよぉ、道満ぁ」


「気持ち悪い声を出すな!」


迅も


「道満様ぁ」


「やめろ!」


男子たちが笑う


道満は


呆れたように言う


「そもそもお前たち」


「霊装武具があるだろう!」


「普通の武具など必要ないではないか!」


その言葉に


刀也たちが


一瞬黙る


そして


迅が言った


「でもさ」


「何だ?」


「《封術結界》の中じゃ、霊装武具使えないだろ?」


「…………」


道満が止まる


刀也が畳み掛ける


「桜駆けでそういう場所があったらどうする?」


隼人も


「予備の実物武具があれば安心だよな」


与一まで


「確かに弓が一本あるだけでも違う」


誠も頷く


「霊装武具だけに頼るのは危ないかも」


「…………」


道満の顔が


少しずつ険しくなる


迅が


にやり


「なあ道満」


「何だ」


「桜駆け――」


肩へ手を置く


「勝ちたいだろ?」


「当たり前だ」


「だよなぁ」


今度は隼人


妙に悲しそうな声


「もしさ」


「何だ?」


「桜駆けで負けたら」


「…………」


「あの時、武具を手に入れておけば……」


胸へ手を当てる


「もう少し武具が強ければ……」


「って後悔するかもしれないぞ」


「お前――」


道満が隼人を見る


「卑怯だぞ!」


「何が?」


「俺の勝負心を利用するな!」


「でも間違ってないだろ?」


「ぐっ……」


道満


言い返せない


そこで


歴博が


静かに口を挟んだ


「でしたら――」


全員が見る


歴博は


ものすごく


やらしい笑みを浮かべていた


「道満様が今後も定期的にお越しくださり」


「術式を書いてくださるのであれば――」


店内の最高級霊木の武具を指す


「皆様の分も、お譲りいたしましょう」


「おおっ!」


男子たちの目が輝く


道満だけ


歴博を睨む


「お前……」


「何でしょう?」


「最初からそこまで考えていたな?」


「まさか」


「顔が笑っているぞ!」


「商売人ですので」


「開き直るな!」


しかし


周囲を見る


刀也


迅


与一


隼人


豪太


太一


秀


学


誠


樹


遊喜


剛


全員――


期待に満ちた目


「…………」


道満は


大きく息を吐く


「……仕方ない」


「え?」


迅が聞き返す


道満は机へ座り直した


「分かった!」


「書けばいいんだろう!」


一瞬の沈黙


次の瞬間――


「やったぁぁぁ!!」


店中へ歓声


迅が勢いよく


道満へ抱きついた


「愛してるぞ道満!」


「やめろ!!」


道満が必死に引き剥がす


「お前ふざけるなよ!」


「ははははっ!」


刀也が腹を抱える


隼人も


豪太も


秀も


学も


全員大笑い


晴真も


楽しそうに笑っていた


「道満君、大人気だね」


「お前も原因の一人だ!」


「えっ、俺!?」


「そもそも結界石に術式を書こうと言い出したのはお前だろう!」


「あっ」


晴真が気づく


「確かに」


「確かに、じゃない!」


また――


店いっぱいに笑い声が響いた


その横で


歴博は


完成した結界石を一つ手に取り


満足そうに眺めている


黒い結界石


桜の形


裏側には


道満が書いた守護結界の術式


それは最初


ただ一人の少女へ贈るために


晴真が思いついた物だった


けれど――


歴博の頭の中では


すでに


次の商品として


しっかり計算が始まっていた


そして道満の前には


まだまだ大量の結界石


「…………」


道満が筆を握る


「あと何個だ?」


職人が箱を見る


「九十二個ですな」


「まだ八個しか書いていないのか!?」


男子たちから


再び笑い声が上がる


晴真はそんな道満を横目に


出来上がりを待つ


黒桜の首飾りを思い浮かべながら


小さく笑った


小夜ちゃん


喜んでくれるかな――

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