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第八十一話 結界石


 店の奥へ案内された晴真たちは


所狭しと並べられた品々を眺めていた


古い札


霊装武具


術具


式神人形


何に使うのか分からない石


用途不明の壺


怪しげな木箱


男子たちは早くも


それぞれ興味のある物へ目を奪われている


そんな中


歴博が晴真と道満へ向き直った


「改めまして――」


満面の笑み


「晴真様、道満様」


「お二人のおかげで、商売の方も絶好調でございます」


「えっ?」


晴真が自分を指差す


「僕らの?」


道満も眉を寄せた


「どういうことだ?」


歴博は嬉しそうに頷く


「将門流とのタイアップでございますよ」


「ああ」


晴真が思い出す


歴博は続ける


「特に清盛殿」


「清盛さん?」


「はい」


歴博は両手を広げる


「あの変幻自在に霊装武具を操るお姿が、たいへん評判になりまして」


刀


槍


旋棍


状況に合わせ


次々と形を変える霊装武具


清盛の戦い方を見た者たちの間で


霊装武具そのものへの関心も


一気に高まったらしい


「同じような物はないのか」


「自分にも扱える霊装武具が欲しい」


「一度試してみたい」


そんな客が


次々と歴博のお宝屋を訪れるようになったという


晴真が笑った


「じゃあ清盛さんのおかげじゃん」


「もちろん」


歴博は大きく頷く


「清盛殿のお力によるところは非常に大きいです」


そして


晴真と道満を見る


「ですが――」


少し声を柔らかくする


「晴真様と道満様は、人をつなぐ縁に恵まれておられる」


「縁?」


「はい」


「お二人が何かを始めれば」


「そこへ別の方が集まり」


「その方から、また別の方へ縁が繋がっていく」


歴博は嬉しそうに笑う


「私どもは、そのおこぼれを少々頂戴しているだけでございます」


「うーん……」


晴真が首を傾げる


「なんか、よく分からないなぁ」


「晴真様は」


歴博が即答する


「それでよろしいのでございます」


「そうなの?」


「はい」


道満は


じーっ


歴博を見る


「…………」


「何でしょう?」


「なんか怪しいな」


「そんなことはありません!」


歴博が即座に否定する


「本当に?」


「もちろんでございます!」


「まあいいや」


晴真はもう別のことへ興味が移っていた


店の中を見回し


「そんなことより歴博さん」


「はい」


「なんか面白い物ない?」


「面白い物――」


歴博の顔が変わる


商売人の顔


「ございますとも」


「おっ」


「最近、少々珍しい物が見つかりまして」


歴博は店の奥へ入り


小さな箱を持って戻ってきた


ぱかっ


中に入っていたのは


掌に収まるほどの


少し黒みがかった石


いくつもの細い線が


石の表面へ刻まれている


「これは?」


晴真が覗き込む


「《結界石》でございます」


「結界石?」


道満が一つ手に取る


歴博が説明する


「昔は、この石を依代として結界を張っていたのですよ」


「依代を?」


晴真が不思議そうな顔


「わざわざ石を使って結界を張るの?」


「そうですね」


歴博が頷く


「昔は結界術も、現在ほど進歩しておりませんでしたから」


霊力によって直接境界を作り


そこへ条件を与える


今では


ある程度修練を積んだ術者なら


何もない場所へ結界を形成できる


だが昔は違った


石


木


札


縄


杭


そういった物を


境界の基点として使うことが多かったらしい


「技術は変わる物です」


歴博が笑う


「そのうち札術も、札を使わずに術を放つ時代が来るかもしれませんよ」


「それはもう札術じゃないじゃん」


晴真が即答


歴博が笑い出す


「はははっ、確かに!」


道満も苦笑する


「それで」


手の中の結界石を見る


「これは、どうやって使うんですか?」


「使い方はいくつもございますが――」


歴博は結界石を指差す


「基本は非常に簡単です」


「霊力を流してみてください」


「分かりました」


道満が石を握る


ゆっくりと霊力を流す


すると――


ふわっ


石に刻まれた線が光った


次の瞬間


道満の周囲へ


薄い膜のような結界が広がった


「おお」


晴真が声を上げる


道満を中心に


一人をすっぽり包めるほどの結界


「なるほど」


道満が内側から触れてみる


「石そのものが結界の基点になっているのか」


「その通りです」


歴博はもう一つ


晴真へ渡す


「晴真様もどうぞ」


「うん」


晴真も霊力を流す


ぽうっ


こちらも


晴真を包むように結界が形成された


「できた」


「ではお二人とも」


歴博が言う


「少し変わったことをしてみましょう」


「何するの?」


「互いの結界を――」


二つの石を指差す


「繋げる意識を持ってみてください」


「繋げる?」


晴真と道満が互いを見る


「やってみるか」


「うん」


二人は


それぞれの石へ意識を向ける


自分の結界だけではなく


隣の結界へ


繋ぐ


境界同士を合わせる


すると――


ふわっ


二つの結界が


互いへ向かって伸びた


そして


ぴたり


境界同士が接触


その瞬間――


一つの大きな結界へ変わった


「えっ!」


晴真の目が輝く


「繋がった!」


道満も結界を見る


「これは面白いな」


晴真は


すぐに別のことを考え始める


「歴博さん」


「はい」


「これってさ」


結界石を一つ持ち上げる


「片方の石に先に霊力を入れて」


「どこかに置いておいて」


もう一つを見る


「あとから別の石に霊力を流して、離れた場所から繋げることもできるんですか?」


「…………」


歴博が止まる


少し考える


「うーん」


「そういった使い方は、あまり聞いたことがございませんな」


「できない?」


「いえ」


歴博の顔に


好奇心が浮かぶ


「分かりません」


そして


にやり


「ならば――やってみましょう」


「うん!」


道満も


もう一本結界石を手に取る


店の奥には


簡単な術具の試験をするための空間がある


男子たちも


何が始まるのかと集まってきた


晴真は


結界石へ霊力を流す


「これくらいかな」


「晴真」


道満がすぐ言う


「入れすぎるなよ」


「大丈夫だよ」


「その言葉は信用できない」


「ちゃんと考えてるって!」


桜花が春花との仙童になるための修練でいない今日は


道満が代わりに止める役になっている


晴真は


霊力を込めた結界石を――


ぽんっ


少し離れた場所へ投げる


ころころ


石が地面へ落ちた瞬間


ふわっ!


結界が広がった


「できた」


晴真はもう一つの石を持つ


そこへ同じように霊力を流し


最初の石から


五メートルほど横へ


投げる


ころっ


ふわっ!


二つ目の結界が広がる


そして――


ぐぐっ


二つの結界が


互いへ伸びていく


「あっ!」


秀が声を上げる


結界同士が接触


その瞬間


二つの石の間へ


一枚の大きな境界が形成された


まるで


見えない壁


「できた!」


晴真が喜ぶ


道満も


すぐ結界石を手にする


「なら」


同じ程度の霊力を込め


さらに横へ投げる


ふわっ!


三つ目の結界


そして


二つ目と三つ目が繋がる


結界の範囲が


さらに横へ広がった


道満が頷く


「なるほど」


三つの石


三つの基点


その間を


結界が繋いでいる


「面白いな」


「だよね!」


晴真も嬉しそう


その横では――


歴博が


じーっ


晴真を見ていた


「…………」


満面の期待顔


晴真が気づく


「何?」


歴博は微笑む


「いえ」


「なんかすごく期待してない?」


「いえいえ」


道満が呆れた顔で言う


「晴真」


「何?」


「お前のことだから」


歴博を見る


「また金になりそうな使い道を思いつくだろうと期待しているんだ」


「えっ」


晴真が歴博を見る


歴博


にこにこ


「いやいや」


晴真が手を振る


「そんな毎回、何か思いつくわけじゃないよ」


「左様でございますか」


歴博の顔が


少しだけ残念そうになる


晴真は結界石を見る


「せいぜい――」


少し考える


「鏃にするとか」


歴博の顔が戻る


「ほう!」


「矢の先に結界石をつけて」


晴真は矢を射る仕草


「敵の周りへ何本か撃ち込む」


道満が気づく


「複数の結界石を繋げて――」


「うん」


晴真が頷く


「相手を結界で囲めるかもしれない」


誠がすぐ反応する


「俺の結界棒にも使えるかも」


与一も結界石を見る


「射った場所に、そのまま結界を作れるなら便利だね」


晴真は続ける


「あと苦無」


隼人が振り返る


「苦無?」


「忍びの人が使う苦無に付けて投げたら」


晴真は地面を指差す


「素早く結界を配置できるんじゃない?」


隼人が腕を組む


「……それ、かなり使えそうだな」


道満が晴真を見る


「十分良い提案だと思うが」


「そう?」


歴博は


もう完全に商売人の顔


「なるほど、なるほど」


何度も頷く


「鏃」


「苦無」


「携帯型の結界具……」


何か頭の中で計算している


道満が


また怪しい顔をする


晴真は気にせず続けた


「あとは――」


石を近くで見る


「ここに術式を刻むとか?」


「術式ですか?」


歴博が食いつく


「うん」


「結界だけじゃなくて」


「条件を与えて術を発動させたり」


道満も


すぐ結界柱を思い出す


「刀優先輩の結界柱に近い考え方か」


「そうそう」


晴真が頷く


「それに」


結界石を見る


先ほどから


結界はまだ消えていない


「この石、結構長い時間ずっと結界を出してるよね」


歴博も見る


「確かに」


「だったら――」


晴真が石を持ち上げる


「霊力を貯められるのかもしれない」


道満が目を細める


「結界を作るだけでなく」


「霊力を蓄える依代としても使えるということか」


「うん」


歴博は


ぱっと顔を輝かせる


「流石です、晴真様!」


「そんな大したこと言ってないけど……」


「いえいえ」


歴博はさらに近づく


「では!」


「具体的には、どのような物が作れそうでしょうか?」


「具体的?」


晴真は少し考える


結界石


霊力を蓄える


結界の形を変える


「うーん」


しばらく考え


「あっ」


「何か?」


「結界の形を制御して」


手で四角を作る


「中を光らせるとか」


「光らせる?」


「うん」


「ランタンみたいに」


道満


歴博


二人が同時に


「「ランタン?」」


「あ」


晴真が苦笑する


表佐倉の言葉だった


「えーっと……」


少し考え


「行燈かな」


「ああ!」


歴博が理解する


「行燈ですか」


「そう」


晴真は石を指差す


「結界を四角とか丸い形にして」


「中の霊力を光に変えて」


「持ち運べる行燈にする」


「火を使わないから危なくないし」


「外でも使えるし」


道満が頷く


「霊力が残っている限り使えるのなら、夜間の移動にも便利だな」


「でしょ?」


歴博は


腕を組み


うーん


と唸る


「面白い……」


しかし


すぐ難しい顔


「問題は、結界の形を自由に制御する技術ですな」


「それなら」


道満が何気なく言う


「結界術の達人へ協力を頼めばよいのでは?」


歴博が頷く


「それが一番なのでしょうが」


「どなたか良い方がいれば……」


晴真が


あっさり言った


「じゃあ伯父上に頼ったらどうですか?」


「伯父上?」


歴博が首を傾げる


「誰のことでございます?」


「西御門紫玄さん」


「…………」


歴博が止まった


「え?」


晴真は普通の顔


「西御門紫玄さん」


「聞こえております!」


歴博が慌てる


「西御門家当主様ではございませんか!」


男子たちも笑う


晴真が首を傾げる


「そうだけど」


「そうだけど、ではございません!」


歴博は急に不安になる


「私ごときの商売へ、協力していただけますでしょうか……」


「うーん」


晴真が考える


紫玄本人へ直接頼む


それでも頼めば


話くらいは聞いてくれそうだが――


「あっ」


晴真が手を叩く


「春花さんに間へ入ってもらえば?」


歴博が目を見開く


「春花様に?」


「うん」


「春花さんなら紫玄さんとも話せるし」


「結界石の使い方も説明できると思う」


歴博がしばらく考え


「…………」


そして


深く頷いた


「そうですね」


「それが一番よろしいでしょうな」


だが


ほんの少しだけ――


歴博の顔が曇った


「…………」


道満は


その表情を見逃さなかった


じーっ


歴博を見る


そして


心の中で思う


――なるほど


――春花殿が間に入れば、その分取り分が少なくなるからか


歴博が道満の視線に気づく


「道満様?」


「いや」


「何でしょう?」


「何でもない」


「なぜ笑っておられるのです?」


「気にするな」


「気になりますな!」


その横で


晴真は


まだ結界石を眺めていた


「これ、桜駆けでも使えそうだよね」


道満が晴真を見る


「また何か考えたのか?」


「まだ分からない」


結界石を指先で転がし


晴真は楽しそうに笑った


「でも――」


「色々できそう」


その言葉を聞いた瞬間


歴博の目が――


再び


きらりと光った

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