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第八十話 男子たちの休日


 待ちに待った週末が――


ついにやって来た


朝から黒桜寮の男子たちは


どこか落ち着かない


「いいか、みんな」


迅が妙に張り切った顔で皆を見渡す


「準備できてるか?」


「大丈夫だ」


「いつでも行ける」


「忘れ物なし」


次々と返事が上がる


その少し後ろでは


道満


秀


樹


一年一組の中でも頭の回転が速い三人が並んでいた


樹が周囲を見る


刀也は朝から妙に元気


迅は完全に遊びに行く顔


豪太は何か食べる物があるかばかり気にしている


与一は弓の射的について聞いている


そんな様子を見て


樹が少し笑った


「なんか、こういうのも面白いね」


「ああ」


道満も頷く


だが秀は


じーっ


迅と刀也を見る


「俺たち……」


「うん?」


「すっかりアイツらに騙されてる気がするんだけど」


「…………」


道満と樹が黙る


少し考え


道満が答える


「否定はできんな」


「だよね」


三人が苦笑する


その横では


晴真と遊喜が


朝からずっとニコニコしていた


「楽しみだねー」


晴真が言う


「うん」


遊喜も頷く


「どんな遊びがあるのかな」


「俺、歴博さんのお店も楽しみ」


二人とも


完全に遠足気分だった


そこへ


道満が少し気になったように言う


「しかし」


「何?」


「本当に初等部だけで遊戯場へ入れるのか?」


一瞬


男子たちの動きが止まる


「…………」


隼人が迅を見る


「そこ大丈夫なのか?」


「大丈夫、大丈夫」


迅が手を振る


刀也も得意げに説明する


「与一と太一と豪太がいるだろ?」


三人を見る


与一


太一


豪太


確かに


一年生にしてはかなり身体が大きい


刀也が続ける


「こいつら、中等部くらいの身長あるから」


「おい」


与一が嫌そうな顔をする


「それで何とかなるのか?」


「中等部の人と一緒なら、初等部でも入れるんだろ?」


「いや」


隼人が眉を寄せる


「それって中等部の人間じゃないと駄目なんじゃねえの?」


「…………」


迅


刀也


二人が顔を見合わせる


そして


「まあ」


「なんとかなるだろ」


二人同時


道満が即座に言った


「一番信用できない答えだ」


笑い声が起こる


◇


しばらくして


女子たちが紅葉を中心に出かけていくのを確認した


「行ったぞ」


迅が窓から確認する


「よし」


刀也が立ち上がる


「今だ」


「何で逃げるみたいになってるんだ」


秀が呆れる


それでも


男子たちは次々と荷物を持ち


黒桜寮の玄関へ向かう


玄関では


寮母の摩季が待っていた


「今日はずいぶん大人数ね」


「はい」


晴真が答える


「みんなで歴博さんのお店へ行ってきます」


「そう」


摩季が全員を見渡す


「帰宅時間は?」


「夕方までには戻ります」


道満が答える


「行き先は?」


「宮小路町の歴博さんのお店です」


「分かりました」


摩季は頷く


「気をつけて行ってらっしゃい」


「行ってきます」


男子たちが揃って返事をする


豪太だけは


玄関を出る直前に振り返った


「摩季さん」


「何?」


「今日の晩飯なんですか」


一同


「そこ?」


摩季が笑う


「帰ってきてからのお楽しみ」


「絶対帰ってきます」


「帰ってこなかったら困るわよ」


また笑いが起きた


◇


こうして


一年一組の男子たちは


歴博のお宝屋を目指して歩き始めた


道中


自然と話題は――


桜駆けへ移っていく


最初に口を開いたのは豪太だった


「やっぱ奉先の槍、すげぇよな」


「だよな」


遊喜が頷く


剛も


「あいつ、一年の中じゃトップクラスじゃないか?」


「槍だけなら」


刀也が腕を組む


少し悔しそうに


「俺でも敵わねぇな」


「お前が素直に認めるの珍しいな」


迅が笑う


「うるせぇ」


刀也が返す


迅はそのまま続ける


「でも響もヤベェよな」


隼人も頷いた


「あいつも相当すげぇ」


「速いし、判断も早い」


「しかも桜駆け向きだよな」


そんな話をしていると


隼人が少し声を落とした


「でもさ」


「ん?」


「一番やべぇのって――西御門蒼空じゃね?」


「…………」


皆が少し黙る


道満が頷いた


「ああ」


「今回の合宿で忍術も相当覚えたらしい」


「それだけじゃない」


道満は指を折りながら続ける


「西御門流結界術」


「神門流札術」


「さらに忍術」


晴真が驚く


「神門流札術も?」


「そうらしい」


「でも蒼空さん、前に“面倒くさい”って言ってなかった?」


「言っていた」


道満も少し呆れた顔


「深月さんが遊び半分で教えていたら、簡単に覚えてしまったそうだ」


「それで深月さんの方が楽しくなって――」


少し間を置く


「色々教えまくったらしい」


迅が笑う


「深月さんらしいな」


「武術は?」


刀也が聞く


「本格的にやっているのは体術くらいらしい」


「それでも十分だろ」


迅が肩をすくめる


そして


少し遠い目


「うちの親父と、白夜の親父まで面白がって色々教えたらしいし……」


「完全に大人たちのおもちゃになってたな」


隼人が笑う


晴真も笑った


「なんか俺と似てるね」


一同


「…………」


晴真が首を傾げる


「何?」


道満が答えた


「いや」


迅も


「自分で言うんだなって」


刀也が笑う


「晴真並みに規格外だよな」


結局


皆で笑った


◇


そこで


与一が思い出したように言う


「そういえば」


「蒼空には弓月と桜華がついてるらしいよ」


「なんで?」


晴真が聞く


「サボらないようにする、お目付け役」


「…………」


迅が遠い目


そして


ぽつり


「かわいそうに……」


「いや、蒼空さんが悪いでしょ」


秀が突っ込む


誠が笑いながら言う


「でも弓月と桜華も、かなり強いよな」


「ああ」


与一が頷く


「二人とも小さい頃から武術をやってるし」


すると


秀がにやっとする


「それに男子人気も高いよな」


「そうなの?」


与一が本気で不思議そうに聞いた


一同


「…………」


学が与一を見る


秀も見る


誠も


迅も


刀也も


全員が同じ顔


「何?」


与一が聞く


秀がため息をついた


「知らないのお前だけだぞ」


「何が?」


「学園でも人気の二人に追いかけ回されてるくせに」


学も笑う


「しかも本人は嫌がってるし」


与一が真顔で答える


「追いかけ回される人間の気持ちも考えろ」


「はいはい」


秀が手を振る


学も


「僕らには永遠に分かりません」


「分かりたくても経験できないからな」


二人が笑う


迅が追い打ちをかける


「それに蘭だって、与一のこと結構気にしてるだろ?」


「えー?」


与一が驚く


「そんなことないだろ」


「これだからモテ男は嫌だ」


迅が大げさに肩を落とす


「自覚がねぇ」


一同が笑う


与一だけが


納得いかない顔をしていた


◇


そんな中


晴真が何気なく言った


「そういえば雅ちゃん」


皆が晴真を見る


「最近、女の子の制服着てるよね」


道満が頷く


「ああ」


「よく似合ってるよね」


「似合っていたな」


晴真と道満


二人とも


何の悪気もない


だが


迅が


ぴたり


歩みを止めた


「お前ら二人」


「何?」


「何だ?」


「それ――」


迅は妙に真剣な顔になる


「小夜と紅葉の前では言うなよ」


「なんで?」


晴真


「なぜだ?」


道満


迅は二人を見て


「怖いから」


刀也が深く頷く


「それは言わない方がいい」


太一も


「俺もそう思う」


豪太も


「うん」


与一まで


「言わない方がいいと思う」


全員


「確かに」


晴真


道満


二人だけが


「…………?」


顔を見合わせ


首を傾げた


秀が小声で言う


「本当に分かってないんだな……」


学が頷く


「ある意味すごい」


◇


さらに歩いていると


太一が話題を変えた


「勝田先生の妹の天音と」


「上勝田詩織」


「下勝田武尊」


「アイツらもすげぇよな」


「確かに」


道満が頷く


太一は続ける


「三人とも武術も陰陽術もいけるんだろ?」


「ああ」


道満は少し考え


「天音は強かった」


学がすぐに言う


「道満と引き分けたもんな」


「……まあな」


道満は少し悔しそう


そこで


秀と学が


なぜか同時に遠い目をした


「それに……」


「紫花さんは綺麗だよなぁ……」


ぴたりと声が揃う


道満が呆れる


「またそれか」


秀が道満を見る


そして


やけに悲しそうな顔


「紅葉みたいな綺麗な子に思われているお前には――」


胸へ手を当てる


「この切なさは分からないだろうな」


学も


うんうん


と深く頷く


「持つ者には分からない苦しみだよ」


「何を言っているんだ、お前たちは」


道満は本気で分からない


迅が笑いを堪える


刀也も肩を震わせていた


◇


そこで


隼人が思い出す


「そういえば紫穂」


「ん?」


「春花さんに弟子入りしたみたいだな」


「そうなの?」


晴真が聞く


「ああ」


「最近、春花さんの真似してるぞ」


迅が


すっ


と眼鏡を上げる仕草を真似する


「こうやって――」


少し澄ました声


「なるほど、そういうことですね」


「似てる」


遊喜が笑う


「めっちゃ似てる」


豪太も大笑い


刀也も


「確かに春花さんっぽい」


そんな中


樹だけが


少し考えるように言った


「でも」


「何?」


「紫穂って、なんか可愛いよね」


「…………」


一同


静まり返る


樹が周囲を見る


「何?」


迅が


ぽん


樹の肩へ手を置く


「そうか」


「何だよ」


「樹はああいうのが好きなんだな」


「は?」


刀也も


うんうん


「まあ人それぞれだからな」


「待て」


樹が顔を赤くする


「なんでそうなるんだよ」


「可愛いって言ったじゃん」


「人の好みにケチつけるな」


「ケチつけてない」


「むしろ尊重してる」


「余計なお世話だ」


また皆が笑った


◇


すると


豪太が突然


両手を広げた


「俺は――」


全員が見る


「摩季さんが大好きだー」


「急に何だよ」


隼人が即座に突っ込む


豪太は堂々としている


「何だよ、悪いか」


「お前」


隼人が呆れる


「摩季さん本人じゃなくて、摩季さんが作る飯が好きなだけだろ」


「…………」


豪太が考える


そして


「そんなに変わらないだろ」


一瞬


静寂


次の瞬間


「全然違うわ」


男子たちの声が揃い


どっと笑い声が広がった


◇


そんなくだらない話をしているうちに


いつの間にか


目的地へ到着していた


宮小路町の一角


古びているのか


由緒があるのか


一見しただけではよく分からない建物


しかし店先には


古い札


武具


何に使うのか分からない置物


妙な式神人形


古書


壺


そして


明らかに怪しそうな品々まで並んでいる


看板には――


《歴博のお宝屋》


刀也が目を輝かせる


「おお」


迅も


「久しぶりだな」


晴真は嬉しそうに店へ近づいた


すると


店の奥から


ぱたぱたと足音


「これはこれは」


歴博が姿を現す


晴真と道満を見るなり


すぐに深々と頭を下げた


「晴真様」


「道満様」


「本日はわざわざお越しくださり、誠にありがとうございます」


晴真が苦笑する


「歴博さん」


「はい」


「そんなに畏まらないでよ」


「いえいえ」


歴博は顔を上げ


満面の笑み


「お二人のおかげで――」


両手を広げる


「商売の方が絶好調でございますから」


「俺たちのおかげ?」


晴真が首を傾げる


道満も眉を寄せる


「どういう意味だ?」


歴博は


にやり


商売人らしい笑みを浮かべた


そして


男子たちを店の中へ招き入れる


「まあまあ」


「それは中でゆっくりお話しいたしましょう」


その言葉に


刀也と迅の目が輝く


与一は店内の弓具を見る


誠は術具


秀と学は古書


樹は珍しい仕掛け


豪太は――


なぜか食べ物がないか探している


そして晴真は


店の奥に並ぶ品々を見ながら


楽しそうに笑った


「やっぱり面白い物いっぱいあるね」


「でしょうとも」


歴博が胸を張る


こうして――


男子だけの週末


最初の目的地


《歴博のお宝屋》での時間が始まった

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