↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
78/111

第七十八話 自分たちのやり方


 勝田家で行われた合同合宿も――


いよいよ終わりが近づいていた


二日間


本当に多くのことを学んだ


剣術


体術


槍術


薙刀術


弓術


鞭術


札術


結界術


忍術


そして――


霊馬との付き合い方


普段なら自分の家や学園だけでは触れることのできない技


自分とはまったく違う考え方


それぞれの家が長い時間をかけて積み重ねてきたもの


それらを


見て


聞いて


実際に試した


だからこそ


生徒たちの頭の中には――


もう次の《桜駆け》しかなかった


「早く試してみたい!」


「俺も!」


「あの技、桜駆けで使えるかな?」


「少し変えればいけるんじゃない?」


「だったら今のうちに合わせようぜ!」


あちらこちらで


そんな声が上がっている


もう


桜駆けが待ち遠しくて仕方がない


◇


そんな中


庭の隅


「…………」


麻倉迅が


地面へ座り込んでいた


いや


座っているというより――


ほとんど崩れ落ちている


その隣


立身刀優も


珍しく肩で息をしていた


「はぁ……」


「はぁ……」


二人とも


完全にヘロヘロだった


迅がぼそり


「あの三人……」


「うん……」


「しつこいよ、本当に……」


刀優が乾いた笑いを漏らす


角来剛乃介


岩富槍玄


立身刀真


三人に捕まり


午後いっぱい


みっちり修練をつけられていたのだ


迅が倒れそうになりながら言う


「しかもさ……」


「何?」


「なんで途中から清盛さんと剛快さんまで、あんな嬉しそうに参戦してたの……?」


刀優は遠い目をする


「あの人たちは――」


少し間を置いて


「完全に、あっち側だから」


「あっち側……」


迅が視線を動かす


その先では――


「清盛さん!」


立身刀也が元気いっぱいに構えていた


「もう一本お願いします!」


「おう!」


清盛が笑う


刀也と清盛


激しく打ち合う


ガンッ!!


刀也が吹き飛ばされる


「ぐっ!」


だが


すぐに立ち上がった


「ありがとうございました!」


そして


何を思ったのか


今度は角来剛快を見る


「次!」


刀也が笑う


「剛快さん! お願いします!」


「おう! 来い!」


剛快も


ものすごく嬉しそうだった


迅


「…………」


刀優


「…………」


刀也はそのまま


また修練へ飛び込んでいった


迅が呟く


「あいつも……」


刀優が頷く


「うん」


二人同時に


「あっち側だな……」


顔を見合わせ


苦笑した


◇


一方


少し離れた場所では


江原美鈴


千尋


高崎秀


寺崎学


樹


五人が地面へ座り


何枚もの札を並べていた


全員


難しい顔をしている


「うーん……」


美鈴が頭を抱える


「やっぱ簡単にはいかないね」


秀も頷く


「刀優先輩みたいに、結界柱を何本も動かしながら条件発動させるのは無理だ」


学も術式を見ながら言う


「一本なら何とかなる」


「でも二本になると、一気に術式管理が難しくなる」


千尋がため息をつく


「刀優先輩、剣まで使いながらこれやってるんだよね……」


「改めて考えると、おかしいよな」


樹が苦笑する


美鈴も


「本人、“天才だからかな”って冗談で言ってたけど……」


全員


「…………」


しばらく沈黙


「いや」


秀が言った


「結構、本当に天才なんじゃない?」


「だよね……」


五人で頷いた


だが


そこで


美鈴の表情が変わった


何かを思いついたような


少し悪戯っぽい顔


「ねえ」


「何?」


千尋が見る


美鈴は尋ねた


「これさ」


並べられた結界柱を見る


「晴真君だったら――どうすると思う?」


「晴真君?」


五人が考える


千尋がすぐ笑った


「そりゃ――」


晴真の顔を思い浮かべる


「何とかして真似しようとするよね」


「する」


秀が即答


学も


「絶対する」


樹も笑う


「できるまでやるだろうな」


美鈴が頷いた


「でしょ?」


「でも」


秀が結界柱を見る


「晴真でも、一人で刀優先輩とまったく同じことをするのは――」


その瞬間


樹が


「あっ!」


勢いよく顔を上げた


「分かった!」


「何?」


「晴真だったらさ!」


皆が樹を見る


「一人でできなかったら――」


樹は笑った


「みんなでやろうって言うよ!」


「…………」


美鈴の口元が上がる


「正解!」


「あっ……」


千尋も気づく


秀


学


二人も互いを見る


「そうか……」


美鈴は結界柱を一本手に取った


「私たち、一人で刀優先輩みたいに戦おうとしてたんだよ」


もう一本


千尋へ渡す


「一人で二本も三本も管理しようとするから難しい」


さらに


秀


学


樹へ


一本ずつ渡していく


「だったら――」


五人


一本ずつ


「一人一本でいいじゃん」


「…………!」


秀が立ち上がった


「二人なら二本!」


千尋も


「三人なら三本!」


学が続ける


「四人なら四本」


樹が笑った


「五人なら――五本!」


美鈴が頷く


「そう」


そして


五人を見渡す


「一人で刀優先輩を真似するのは無理」


「でも――」


二本の結界柱を並べる


「二人なら、少し近づける」


三本


「三人なら、もっと近づける」


四本


五本


「そして」


美鈴がにっと笑った


「四人、五人なら――」


一拍


「刀優先輩一人を超えられることだってあるかもしれない」


五人の表情が変わる


「それに」


美鈴は続ける


「今回の初等部一年の桜駆けは――団体戦でしょ?」


「……そうだ!」


秀が声を上げる


刀優の戦法


一人の術者が


複数の結界柱を配置し


それぞれへ役割を与え


戦場そのものを作る


それを――


五人で分担する


千尋が考える


「だったら私は防御?」


「いいね」


「秀と学は陰陽術が得意だから攻撃柱」


「樹は?」


「俺は……」


少し考える


「相手の進路を塞ぐ!」


「じゃあ私は全体のつなぎやる!」


美鈴が言う


次々と


役割が決まっていく


「ちょっと合わせてみようよ!」


「やろう!」


五人は一斉に立ち上がった


刀優の技を


そのまま真似するのではない


自分たちにできる形へ変える


五人だからこそ使える


新しい戦い方へ――


◇


その頃


修練場の端


三人の生徒が弓を囲んでいた


鏑木与一


先崎誠


そして


弥富ひなた


ひなたは今回の合宿で


新しく弓術を学び始めていた


元々は薙刀を学んでいる


だが


桜駆けでは


遠距離への攻撃手段があれば大きな武器になる


そう考え


今回


かなり熱心に弓へ取り組んでいた


鏑木与之介


そして与乃からも


「筋が良い」


と褒められている


「ここ?」


ひなたが弓を構える


与一が後ろから確認する


「もう少し肘を上げて」


「こう?」


「そう」


ぎりっ


弦を引く


「肩に力を入れすぎない」


「うん」


ひなたが息を吐く


そして――


放つ


ヒュンッ!


矢が飛び


的へ


トンッ!


中心から少し外


だが


しっかり的へ刺さった


「おお!」


ひなたが嬉しそうに声を上げる


与一も頷く


「かなり良くなった」


「本当?」


「うん」


「やった!」


その横で


誠が何かを考えていた


「与一」


「何?」


「ちょっと見てもらっていいか?」


「もちろん」


誠は立ち上がった


そして


手を前へ出す


霊力が集まり


形を作る


現れたのは――


霊装武具


弓


そして


矢


与一が目を細めた


「……その矢」


普通ではない


霊力で形成された矢の表面


そこには


びっしりと――


術式が刻まれていた


ひなたも覗き込む


「すご……」


「何が書いてあるの?」


「結界術」


誠が答える


「結界術?」


与一が興味を示す


誠は四本の矢を


同時に番えた


「昨日、刀優先輩の結界柱を見てて思ったんだ」


ぎりっ


弦を引く


「柱を置くんじゃなくて――」


狙う


「矢を柱にできないかなって」


――放つ


ヒュンッ!!


四本の矢が


扇状に広がりながら飛ぶ


そして


ザザザザッ!!


地面へ突き刺さった


その瞬間


矢に刻まれた術式が光る


ゴゴゴッ――


矢を中心に


細長い結界が上方へ伸びていく


一本


二本


三本


四本


まるで


地面へ打ち込まれた杭


「結界柱……?」


ひなたが言う


誠は首を横へ振った


「そこまで大きくないから」


少し照れたように


「《結界棒》って呼んでる」


次の瞬間


バチッ!


一本目と二本目


雷が繋がる


バチバチッ!


二本目と三本目


三本目と四本目


雷撃が次々と結ばれていく


そして――


四本の結界棒の間に


巨大な


雷の網が形成された


バチバチバチバチッ!!


「うわっ!」


ひなたが目を丸くする


与一も驚いていた


「すごい……」


攻撃ではない


相手を通さない


巨大な――


防御網


桜駆けで相手の進路へ撃ち込めば


その瞬間


道を塞げる


誠は少し不安そうに与一を見る


「どう思う?」


「いい」


与一は即答した


「すごくいいよ」


誠の顔が明るくなる


「本当か?」


「うん」


与一は立ち上がり


四本の結界棒へ近づく


「ただ――」


「何?」


「このままだと」


四本を見る


「矢の間隔が広い場所から抜けられる可能性がある」


「ああ……」


「それと」


一番端の棒を見る


「一本壊されると、一辺が消える」


「そこなんだよな」


誠も悩んでいたらしい


「もっと本数を増やす?」


ひなたが尋ねる


「でも」


誠が首を横へ振る


「増やすほど形成する矢が増えるし、術式維持の負担も大きくなる」


与一も頷く


「なら」


少し考え


弓を構える


「撃つ位置を変える」


「位置?」


「四本全部を同じ距離に撃つ必要はない」


与一が地面を指す


「二本を少し前」


そして


「二本を後ろ」


「……あっ」


誠が気づく


真正面から見れば


二列になる


前列を抜けても


後列の雷網が待つ


「二重にするのか!」


「うん」


その時


ひなたが首を傾げた


「でもさ」


二人が見る


「どうせ矢なんでしょ?」


「うん」


「だったら」


ひなたは手で軌道を描く


「全部、真っ直ぐ地面に撃たなくてもいいんじゃない?」


「……?」


ひなた自身


まだ弓を習い始めたばかり


だからこそ


固定観念がない


「一本は木に撃つ」


「一本は地面」


「一本は岩」


「もう一本は――」


少し高い位置


「壁とか」


誠と与一が


黙る


ひなたが不安そうになる


「……変?」


「いや」


与一が答える


「面白い」


誠の目も輝いていた


「高さを変える……!」


地面だけでなく


上


横


斜め


異なる位置へ結界棒を形成すれば


平面的な網ではない


立体的な雷撃結界を作れる


「だったら!」


誠が地面へ術式を書き始める


「棒同士を近い順に繋ぐんじゃなくて、あらかじめ接続先を指定すれば――」


与一も加わる


「射った順番で繋げるのは?」


「できる!」


ひなたも


「じゃあ最初の矢をここ!」


地面を指す


「次を向こう!」


「三本目を上!」


「四本目を反対側!」


三人で


ああでもない


こうでもない


と話し始める


誠が術式を直す


与一が射角を調整する


ひなたが


「これだったら馬で走りながらでも置ける?」


と新しい疑問を投げる


また考える


また試す


四本の矢が飛ぶ


失敗


雷が途中で切れる


「惜しい!」


もう一度


今度は三本しか発動しない


「誠! 三本目!」


「術式が薄かった!」


もう一度


ひなたが笑う


「なんか楽しくなってきた!」


「俺も!」


誠も笑う


与一も


静かに口元を緩めた


◇


少し離れた場所では


五人の生徒が


五本の結界柱を囲んでいる


「美鈴! 右!」


「分かってる!」


「秀、発動!」


「いくぞ!」


ボッ!


火球


「学!」


バチッ!


雷撃


「樹!」


「結界!」


それぞれが


一つずつ


自分の役割を担う


一人では


刀優には到底届かない


けれど


五人なら――


刀優が一人でやっていたことを


少しずつ


再現できる


「できた!」


千尋が声を上げた


五人の顔が輝く


◇


こちらでは


誠の矢が飛ぶ


四方へ


ザッ!


ザッ!


ザッ!


ザッ!


結界棒


形成


バチッ!!


雷が走る


今度は


地面だけではない


一本は低く


一本は高く


一本は斜め


一本は木の幹


雷撃が立体的に走り


簡単には抜けられない


防御網が生まれた


「できた!」


ひなたが跳び上がる


誠も拳を握る


与一も


「これなら使える」


大きく頷いた


◇


そして


あちらでは


「もう一本お願いします!」


刀也がまだ叫んでいた


迅が


遠くから眺め


「…………」


刀優を見る


「まだやってるよ」


「元気だね……」


「俺には無理」


「僕も今日は無理」


二人は


そのまま地面へ寝転がった


空を見る


「でも」


迅が言う


「楽しかったな」


刀優が少し笑った


「うん」


周囲から聞こえてくる


笑い声


術の音


武器がぶつかる音


霊馬の蹄


誰かの歓声


誰かの――


「もう一回!」


という声


合同合宿で


大人たちから


たくさんのものを教わった


けれど――


もう


ただ教わっているだけではない


自分ならどう使う


自分たちならどうする


一人で無理なら


仲間とどう補う


別の技と


どう組み合わせる


生徒たちは


それぞれ勝手に――


次の形を作り始めていた


◇


少し離れた縁側


正臣が


その光景を眺めていた


隣にはクシナダ


「…………」


美鈴たちが


刀優の結界柱を


五人用の戦法へ変えている


誠は


結界柱の発想を


弓矢へ変えている


ひなたは


覚え始めたばかりの弓だからこそ


誰も考えなかった使い方を口にする


晴真たちだけではない


合宿に参加した生徒たちが


それぞれ


新しいことを始めている


正臣が小さく笑った


「こういうのを――」


クシナダが見る


「見たかったんだよな」


「ほう」


「俺たちが答えを全部教えるんじゃなくて」


生徒たちを見る


「教わったことを自分たちで考えて」


「失敗して」


「また考えて」


「自分たちのやり方を見つける」


クシナダは


しばらく黙っていた


そして


嬉しそうに笑う


「良いではないか」


「はい」


「技とは本来、そうやって育つものじゃ」


クシナダが言う


「教えられた形を守る」


「そこから」


「己に合わせて変える」


「そしていつか――」


目の前の若者たちを見る


「次の者へ渡す」


正臣も笑った


「そうですね」


◇


桜駆けは


まだ始まっていない


勝敗も


まだ誰にも分からない


けれど――


晴真たちにとって


もう以前と同じ桜駆けではなかった


新しく覚えた技


新しい考え


新しい戦い方


そして――


仲間たちと一緒に作ったもの


それを


早く試したい


「桜駆け――」


誰かが言った


「早く始まらないかな!」


すぐに


別の声


「俺も!」


「楽しみ!」


「絶対勝つぞ!」


笑い声が広がる


勝田家での合同合宿


それは――


ただ強くなるための二日間ではなかった


誰かの技を見て


誰かの考えを知って


そこから――


自分たちならどうするか


考えるための二日間だった


そして


その答えを試す場所は


もうすぐやって来る


一年生たちの《桜駆け》が――


いよいよ


近づいていた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。