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第七十六話 教える者、学ぶ者


 昼休みを終え――


合同合宿、二日目の午後の修練が始まった。


午前中に教わったこと。


昼休みに思いついたこと。


他の流派から聞いたこと。


生徒たちはそれぞれ、自分の修練へ戻っていく。


そんな中。


晴真は――。


「…………」


一本の結界柱を前にして。


じっと睨み合っていた。


肩には桜花。


その少し後ろには凛、美鈴、秀たちもいる。


「晴真様」


「うん」


「少しずつですよ」


「分かってる」


「本当に少しずつですよ」


「分かってるって」


晴真は慎重に結界柱へ手を伸ばす。


昨日までなら。


そのまま霊力を――


ドバッ!!


と流していたところだが。


今日は違う。


「…………」


ほんの少し。


霊力を流す。


結界柱が淡く光る。


「おお……」


晴真の顔が明るくなる。


「できた!」


「まだです!」


桜花が即座に止める。


「ここから増やすんですよ!」


「分かってるよ」


さらに少し。


霊力を流す。


しかし――


ミシッ。


「…………」


晴真。


桜花。


凛。


全員が結界柱を見る。


「……まだ少ししか入れてないんだけど」


「晴真君の“少し”がおかしいんですよ!」


凛が呆れる。


「うーん……」


晴真は頭を抱えた。


「どうすればいいんだろう」


霊力を抑える。


これは、晴真にとって昔から苦手なことだった。


晴真は再び柱を見る。


「もっと細く……」


霊脈を細く。


流量を減らして――。


「…………」


その時。


「苦戦しているようだね」


聞き覚えのある声がした。


晴真が振り返る。


「紫玄さん!」


そこには西御門紫玄。


そして――


「晴真君」


西御門紫苑も一緒だった。


「何をしているんです?」


紫苑が尋ねる。


晴真は結界柱を指差した。


「刀優さんに教えてもらって、結界柱へ霊力を蓄える練習をしてるんですけど……」


黒く焦げた柱。


ひびの入った柱。


横に並べられた失敗作を紫玄が見る。


「なるほど」


少し笑う。


「君らしい失敗だ」


「やっぱりですか……」


晴真が苦笑する。


紫玄は一本の結界柱を見て


そして。


「晴真君」


「はい」


「前に君が当家へ来た時――結界術について、私はどう説明したかな?」


「え?」


晴真は少し考える。


西御門家を訪れた時のことを思い出す。


そして――


「あっ」


答えた。


「結界術とは、霊力によって境界を作って――」


自分の記憶を辿りながら続ける。


「その内側と外側に、別の条件を与える術……でした」


「そう」


紫玄が頷く。


「では聞こう」


結界柱を指差す。


「君は――この結界柱を、“空洞の柱”だと思っていないかい?」


「…………?」


晴真は首を傾げる。


空洞の柱。


その中へ。


霊力を注ぎ込む。


「…………」


晴真の目が少しずつ大きくなる。


「あ……」


桜花が晴真を見る。


「晴真様?」


「ああ!」


晴真が声を上げた。


「そうか!」


突然勢いよく立ち上がる。


「霊力を中に入れるんじゃない!」


「え?」


美鈴も首を傾げる。


晴真は結界柱を見ながら言う。


「結界の内側に――」


そして。


紫玄を見る。


「《霊力が存在する》っていう条件を作ればいいんだ!」


紫玄が笑った。


「その通り」


「じゃあ――」


晴真の思考が一気に走り出す。


「俺が結界柱の中へ霊力を押し込もうとするから、霊力が多すぎて壊れる」


「だったら……」


凛も気づいた。


晴真が頷く。


「霊力を入れるんじゃなくて――」


手のひらを出す。


「先に外へ出す」


そして。


ぎゅっと拳を握った。


「それを結界で閉じ込めればいい!」


「正解だよ」


紫玄が嬉しそうに笑った。


「逆転の発想だ……」


晴真の目が輝く。


肩の桜花はまだ分かっていない。


「晴真様、何か分かったんですか?」


「うん!」


「見てて」


手のひらを前へ。


無理に細くする必要はない。


無理に少量ずつ流す必要もない。


晴真が得意なのは――


霊力を外へ放つこと。


「ふっ……!」


ぽうっ。


晴真の手から。


霊力の塊がゆっくりと放たれる。


そして――


「結界!」


その周囲へ境界を作った。


霊力を囲み。


そのまま――


結界柱が形成されていく


柱に刻まれた術式が淡く輝く。


今までのように震えない。


亀裂も入らない。


安定した光が――


静かに灯り続ける。


「…………」


晴真が恐る恐る柱を見る。


「できた?」


紫玄が頷いた。


「正解だよ」


「やった!」


晴真が拳を握る。


桜花も嬉しそうに声を上げる。


「晴真様! 壊れてません!」


「そこ!?」


凛たちが笑った。


晴真は紫玄へ頭を下げる。


「ありがとうございます!」


「いやいや」


紫玄は笑う。


「覚えておきなさい」


晴真が顔を上げる。


「何かが上手くいかない時――無理にその方法を続ける必要はない」


紫玄は結界柱を指差した。


「一度、基礎へ戻る」


「基礎に?」


「そう」


「自分が何をしようとしているのか。そもそも、その術が何のためにあるのか」


そして笑う。


「そこから発想を変えると、案外すんなり上手くいくこともあるものだよ」


「はい!」


晴真は大きく頷いた。


◇


その様子を。


紫苑は黙って見ていた。


「…………」


感心していた。


普通の生徒なら。


霊力量を減らすように指導する。


流量を細く。


少しずつ。


慎重に。


それで十分だろう。


だが――


桜晴真には、それが難しい。


圧倒的すぎる霊力量。


独特な霊脈。


普通の生徒へ通じる指導を、そのまま当てはめても上手くいかない。


だから紫玄は。


晴真に「抑えろ」とは言わなかった。


結界術の基礎を思い出させ。


自分自身で――


逆の方法へ辿り着かせた。


「…………」


紫苑は小さく息を吐く。


教師として。


まだまだ学ぶことがある。


ただ正解を教えるだけではない。


その生徒に合わせて。


本人が答えへ辿り着ける道を作る。


学ばなくてはならないことは――


まだ多い。


紫苑は静かに襟を正した。


その隣で。


紫玄は結界柱を興味深そうに眺めていた。


「それにしても……」


「紫玄兄様 ?」


「面白い発想だ」


結界柱を指先で軽く叩く。


「結界術を、術の発動装置として利用するとは」


刀優が考案した使い方。


霊力を蓄え。


札を接続し。


条件に応じて術を発動する。


紫玄は感心したように頷いた。


「表佐倉の技術というものも、学ぶべきところが多いようだ」


「そうですね」


紫苑も頷く。


そこからは――


三人で実験が始まった。


「晴真君。ここへ発動条件を追加してみては?」


「なるほど!」


「だったら結界を二重にして、内側だけ別の条件にするのも面白そうですね」


「やってみます!」


札を貼る。


術式を変える。


結界を張る。


発動させる。


失敗する。


もう一度考える。


晴真は――


完全に夢中になっていた。


◇


その頃。


別の修練場では。


麻賀多道満が――


三人の女性に囲まれていた。


立身巴。


薙刀の名手。


立身彩。


札術の達人。


そして――


麻倉刀華。


立身流を修め、《紫電一閃》を得意とする居合の達人。


「道満君」


巴が真剣な表情で言う。


「桜駆けを考えるなら、馬上からの一撃が必要です」


「はい」


「そこで――」


薙刀を振る。


ヒュンッ!


「武器へ霊力を纏わせ、斬撃そのものを飛ばすのはいかがでしょう?」


「霊力の斬撃……」


道満が考える。


そこへ彩が入る。


「それなら補助札を組み合わせましょう」


「補助術?」


「《拡大》で斬撃の範囲を広げて――《疾走》で加速する」


「なるほど……」


道満が考え始める。


すると刀華まで。


「そこへ属性を持たせるのも面白いですね」


「属性?」


「例えば雷」


刀華が刀へ手を添える。


「霊力の斬撃に雷を重ねれば、斬撃を避けても雷撃が周囲へ走る」


「なるほど」


道満が頷く。


そして。


少し考え。


三人を見る。


「…………」


嫌な予感がした。


「まさか」


三人。


「はい?」


「全部やるのですか?」


巴。


彩。


刀華。


三人が顔を見合わせる。


そして。


まったく同時に答えた。


「「「あなたならできます」」」


「…………」


道満が固まった。


「さらに」


彩が笑う。


「居合にも応用しましょう」


刀華の目が輝く。


「それは良いですね!」


「抜刀と同時に術を発動させれば――」


「札を抜刀動作に合わせて――」


「馬上でも使えますね」


三人の話がどんどん膨らんでいく。


「…………」


道満は思った。


どうしてこうなった。


その様子を少し離れた場所から。


刀也。


迅。


刀優。


三人が眺めていた。


刀也がぽつり。


「あの三人って……」


「うん?」


「なんか似てるよな」


迅が即答する。


「分かる!」


「だろ!」


「しかも仲いいよな」


刀優が苦笑した。


「義理の姉妹だからね」


三人を見る。


一人が思いつき。


一人が乗っかり。


もう一人がさらに難しくする。


完全に息が合っている。


刀優が道満を見る。


「ただ――」


「ん?」


「道満」


少し同情するように笑う。


「あの三人に目をつけられたら、無茶難題をどんどん押しつけられるぞ」


「そうなのか!?」


刀也が驚く。


迅は道満を見る。


少し考えて。


「まあ……」


刀也も頷く。


二人同時に。


「「道満だから大丈夫だろ!」」


「お前ら!」


道満が振り返った。


三人は大笑いした。


――その直後。


「楽しそうだな」


低い声。


三人の笑いが止まった。


ゆっくり振り返る。


そこには。


角来剛乃介。


岩富槍玄。


そして――


立身刀真。


三人が立っていた。


「…………」


刀也。


迅。


刀優。


顔を見合わせる。


裏佐倉でも一、二を争うほど――


修練となると面倒くさい大人たち。


剛乃介が笑う。


「午後の鍛錬、まだ余裕がありそうだな」


槍玄も笑う。


「ちょうどよい。付き合え」


刀真も静かに口元を上げる。


「三人まとめて見てやろう」


「…………」


刀也がぼそり。


「逃げるか?」


「無理だろ」


迅。


刀優も苦笑する。


「諦めよう」


三人は――


笑っていた罰でも受けるかのように。


今度は自分たちが捕まってしまった。


◇


そして。


さらに別の一角。


ここには妙な集団ができていた。


中心にいるのは――


西御門蒼空。


その周囲には。


ほとんどが忍び。


しかも。


各家の頭領や、それに近い者ばかりだった。


「…………」


蒼空が周囲を見る。


「なんでこんなことになってんの?」


原因は。


根郷宗時。


「ほら蒼空」


一枚の札を見せる。


「隠遁術だけではないぞ」


「何?」


「この術を覚えておくと――」


少し声を落とす。


「サボるのに便利だ」


蒼空の目が変わった。


「教えて」


「食いつき早いな」


そこへ。


「宗時殿が目をかけている少年というのは、その子か?」


麻倉疾風。


青菅鷹人。


七曲響明。


そして。


寒風白夜の父――寒風白峰。


さらに他の忍びたちまで集まってきた。


もともとは。


宗時が気にかけている少年を見に来ただけだった。


だが。


蒼空へ一つ術を教えれば。


「なるほど」


蒼空は一度見ただけで構造を理解する。


二つ目を見せれば。


「これ、一つ目と組み合わせられるね」


すぐ応用へ進む。


蒼蛇眼。


術式。


身体の動き。


霊力の流れ。


罠の構造。


あらゆるものを見て。


脳へ情報として送り。


理解していく。


「…………」


疾風が驚いた。


「本当に一度で覚えたぞ」


鷹人も蒼空を見る。


「これは……面白いな」


響明も笑った。


結果。


大人たちの悪い癖に火がついた。


疾風が言う。


「速く動けるようになれば、サボる時間を増やせるぞ」


「本当?」


「移動に十分かかるところを一分で行けば、九分休める」


「覚える」


鷹人も負けじと。


「状況把握も大事だ」


「なんで?」


「敵――ではなく、見回りに来る人間の位置を先に把握しておけば安心して休める」


「なるほど」


「罠を張っておけば、誰か来ても分かるぞ」


「便利」


響明も加わる。


「隠遁術だけではない」


「他にもある?」


「当然だ」


「教えて」


そして白峰まで。


「暑い日は氷遁が便利だ」


「戦うため?」


「いや」


白峰は真顔だった。


「涼しくサボれる」


「それ良い」


「だろう?」


どんどん。


どんどん。


忍術が増えていく。


気配遮断。


高速移動。


索敵。


罠。


偽装。


分身。


氷遁。


逃走経路の確保。


いつの間にか。


忍びの技のオンパレードになっていた。


そして蒼空も。


「サボるのに役立つなら」


という理由だけで――


次々と覚えていく。


それを見た忍びたちは。


ますます面白がった。


「これもできるか?」


「できる」


「ならこれは?」


「多分」


「こっちは?」


「見せて」


完全に。


珍しい玩具を見つけた大人たちになっていた。


しばらくして。


蒼空がぽつりと言った。


「なんかさ」


「ん?」


宗時が見る。


「忍びの人って――もっと寡黙で怖い感じだと思ってた」


「…………」


忍びたちが顔を見合わせた。


宗時が笑う。


「まあ、そう見えるだろうな」


そして。


少しだけ声を落とした。


「任務となれば――命を懸けてでも全うする者が多い」


蒼空が宗時を見る。


「命を?」


「ああ」


忍びは。


見つからぬように動き。


誰にも知られず仕事を終え。


時には――


戻れないこともある。


だからこそ。


宗時は肩をすくめた。


「その反動なのかもしれんな」


「?」


「面白いものを見ると、つい悪ふざけしたくなる」


周囲の忍びたちが笑う。


「そういうもの?」


「そういうものだ」


「ふーん」


蒼空は軽く流した。


だが。


心の中では――


少し違うことを思っていた。


命を懸ける仕事だから。


明日も同じように笑えるとは限らないから。


だから。


笑える時に笑う。


面白い時間を。


大切にしているのかもしれない。


蒼空は何も言わなかった。


ただ――


少しだけ。


忍びという人たちへの印象が変わった。


その時。


「皆様」


冷静な声が飛んできた。


全員が振り返る。


紫苑だった。


「うちのサボり魔の――」


蒼空を見る。


「サボる技術ばかり磨かないでください」


「紫苑さん」


「何です?」


「見つかった」


「当然です!」


忍びたちが笑う。


その横で。


紫玄もやって来た。


「まあまあ、紫苑」


「兄様まで」


紫玄は息子を見る。


術を覚え。


忍びたちと話し。


珍しく真面目に修練している。


「どうせ蒼空のことだ」


「何?」


「一人にしておけば、どこかでサボって午後の修練を全部逃げていただろう」


「…………」


蒼空が目を逸らす。


図星だった。


「それがこうして――」


紫玄は忍びたちを見る。


「皆様のご好意で、多くを学ばせていただいた」


そして。


深く頭を下げる。


「ありがとうございます」


「いやいや!」


宗時が慌てた。


「頭をお上げください」


そして少し申し訳なさそうに笑う。


「すみません。つい、ご子息の才能に惹かれまして」


疾風も頷く。


「驚きました」


鷹人も。


「一度見ただけで、ここまで理解するとは」


響明も蒼空を見る。


「教える側としても面白くなってしまいましてね」


紫苑がため息をつく。


「お気持ちはありがたいのですが――」


蒼空を見る。


「探す私の身にもなってください」


「紫苑さんなら見つけられるでしょ」


「そういう問題ではありません!」


一同。


どっと笑った。


◇


笑いが落ち着いた頃。


宗時が――


静かに蒼空を見た。


それまでの柔らかい表情が。


少しだけ変わる。


「ですが」


紫玄と紫苑が宗時を見る。


宗時は蒼空の瞳を見つめた。


「一つだけ」


そして。


はっきりと言った。


「この子の陰陽眼は――必ず守りましょう」


「…………」


空気が変わった。


先ほどまで笑っていた忍びたち。


疾風。


鷹人。


響明。


白峰。


皆の表情から笑いが消える。


誰も反対しない。


むしろ。


当然のように頷いた。


「…………」


紫玄は。


そこで初めて理解した。


宗時が――


なぜ蒼空へ隠遁術を教えたのか。


単に。


サボるのに便利だからではない。


蒼蛇眼。


あらゆるものを見抜き。


構造を理解し。


術も。


技も。


人の感情さえも。


情報として受け取る特殊な陰陽眼。


そして――


蒼空は表佐倉で育った。


裏佐倉の危険から身を守る術を、十分には知らない。


七曲響明も静かに蒼空を見る。


彼の脳裏には――


七曲皐月の姿があった。


特殊な陰陽眼を持ち。


そして。


表の世界で生きてきた者。


だからこそ。


見えることが。


時には危険になる。


知ってしまうことが。


命を狙われる理由になる。


宗時はそれを理解していた。


だから――


まず隠れる術を。


逃げる術を。


生き残る術を。


蒼空へ教えた。


「宗時殿……」


紫玄が静かに呼ぶ。


宗時は首を横に振った。


「礼には及びません」


そして。


表情を険しくする。


「それに――」


一呼吸。


「直弥時貞は、我ら忍びの者にとっても共通の仇です」


その名が出た瞬間。


忍びたちの目つきが変わった。


悪ふざけしていた者たちとは――


まるで別人。


鋭く。


静かで。


冷たい。


「…………」


蒼空も。


その変化を敏感に感じ取った。


宗時が続ける。


「奴が何を企んでいるにせよ」


拳を握る。


「二度と好きにはさせません」


響明も低い声で言った。


「絶対に許さん」


白峰。


疾風。


鷹人。


他の忍びたちも。


静かに頷く。


紫苑は。


頭を下げた。


「ありがとうございます」


紫玄も深く頭を下げる。


「息子を――」


しかし宗時が止めた。


「紫玄殿」


顔を上げる。


「守るだけではありません」


「……?」


宗時が笑った。


「この子なら――そのうち我々の方が助けられるかもしれませんよ」


「僕が?」


蒼空が首を傾げる。


「その眼と、その頭があればな」


「面倒なのは嫌だけど」


「ははは!」


少しだけ。


空気が和らいだ。


しかし。


宗時の目だけは。


最後まで真剣だった。


「直弥時貞を見つけた時は――」


紫玄を見る。


紫苑を見る。


そして。


忍びの者たちを見る。


「共に戦いましょう」


紫玄は。


しっかりと頷いた。


「はい」


紫苑も。


「必ず」


響明が続く。


「今度こそ――逃がさない」


午後の日差しの中。


先ほどまで笑い声に満ちていた忍びたちの輪に。


ほんの一瞬だけ。


鋭い緊張が走った。


そして――


その中心。


蒼空は黙って彼らを見ていた。


怖い人たちだと思っていた。


けれど。


どうやら――


それだけではないらしい。


ふざけて。


笑って。


サボる技まで教えて。


それでも。


守ると決めたもののためなら――


命を懸ける。


「…………」


蒼空は小さく笑った。


「じゃあさ」


「ん?」


宗時が見る。


「もっと逃げる術、教えてよ」


一同が一瞬固まる。


紫苑が叫んだ。


「蒼空!」


「だって守ってくれるんでしょ?」


「自分でも守れるようになるんだ!」


「だから逃げる術」


「そういうところだけ頭が回るんだから!」


再び。


忍びたちの笑い声が――


修練場いっぱいに広がった。

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