第七十二話 五行相剋
朝食を終えた晴真たちが、最初に向かったのは――神門蓮雅のもとだった。
昨日話していた通り、合同合宿二日目の午前は陰陽術。
その中でも、札術を中心に教わる予定になっている。
「おお!」
修練場へやって来た一団を見るなり、蓮雅が嬉しそうに声を上げた。
「これはまた、随分と集まったな!」
晴真
道満
凛
小夜
紅葉
美鈴
千尋
学
秀
樹
一年一組だけではない。
勝田天音
上勝田詩織
下勝田武尊
西御門紫穂
さらに、話を聞きつけた他のクラスの生徒も何人か混ざっている。
「これだけいれば教える側も張り合いがある!」
蓮雅が豪快に笑った。
その近くには、神門雅と蘭もいる。
「おはよう、雅ちゃん」
「お、おはよう……晴真君」
昨夜から呼び方の変わった晴真に、雅が僅かに頬を赤くする。
すると。
すっ。
小夜が、晴真のすぐ隣へ移動した。
「小夜ちゃん?」
「はい?」
「……いや、何でもない」
一方。
道満の隣にも。
いつの間にか紅葉がいる。
「紅葉?」
「何でしょう、道満様」
「いや……近くないか?」
「そうでしょうか?」
「…………」
少し離れたところ。
凛。
美鈴。
千尋。
三人が顔を見合わせる。
「…………」
「…………」
美鈴が苦笑した。
「朝から分かりやすいねぇ」
凛も小さく息を吐く。
「本人たちは全然分かっていないみたいですけど」
千尋も。
こくこくと頷いていた。
◇
全員が集まったところで。
蓮雅がぱんっと手を叩いた。
「さて!」
「昨日から、一度見てみたいと思っていたものがある」
視線が。
晴真へ向く。
「晴真」
「はい?」
「例の多重札だ」
蓮雅が指を三本立てる。
「三十発同時の火球」
「見せてくれ」
「三十発!?」
初めて聞いた生徒たちがざわつく。
だが。
一年一組は。
それほど驚いていない。
武尊がその反応を見る。
「なあ」
「なんで一組のみんな普通なんだ?」
美鈴が笑った。
「晴真君だから」
「その説明、万能すぎない?」
晴真は苦笑しながら札を構えた。
「じゃあ、いきます」
丹田から。
霊力。
三十枚の札へ。
一斉に流す。
ただし。
一発一発に込める霊力は少ない。
「火球!」
ボボボボボボボボボッ!!
晴真の周囲。
三十個の小さな火球が、一斉に浮かび上がった。
「うわっ!」
「本当に三十ある!」
「待って、数えられない!」
「行きます!」
晴真が腕を振る。
ドドドドドドドドドドドドッ!!
三十発。
一斉射。
修練場に置かれた複数の標的へ、次々と火球が突き刺さる。
ボボボボボボンッ!!
連続する爆発。
「おおおおおっ!」
歓声が上がった。
蓮雅は。
目を細める。
「なるほど……」
そして。
今度は道満。
「道満」
「はい」
「お前のも見せてくれ」
「分かりました」
道満も札を構える。
霊力を分け。
三十枚へ。
「火球」
ボボボボボボッ!!
三十発。
ほとんど乱れのない配置。
そして。
「行け」
ドドドドドドドドッ!!
一斉に標的を撃ち抜く。
「すごっ!」
天音が目を輝かせる。
詩織も。
「二人とも、本当に三十発を同時に……」
蓮雅は、晴真と道満を交互に見た。
「面白い」
そして。
晴真へ手を伸ばす。
「晴真」
「その札」
「少し貸してくれ」
「どうぞ」
晴真が何枚か渡した。
蓮雅は。
札を表裏から眺める。
霊力を僅かに流して。
術式の反応を見る。
「なるほど……」
もう一度。
「なるほど」
さらに見て。
「そういうことか!」
急に声が大きくなった。
生徒たちがびくっとする。
「これは」
札を掲げる。
「一発の威力そのものを意図的に落としておるのか」
「はい」
晴真が頷く。
「三十発全部を普通の火球にすると、霊力の消費も大きいし」
「制御も大変なので」
「一枚ごとの術を簡単にしてあります」
「つまり」
蓮雅が続ける。
「弱くしたことで必要な霊力も減る」
「術式の処理も軽くなる」
「だから複数を同時に扱いやすい」
「はい!」
蓮雅の口元が。
にやりと上がった。
「なるほどのぉ……」
◇
「父上」
そこへ。
女性の声。
立身彩だった。
「私にも見せてください」
「おお、彩」
蓮雅が札を渡す。
彩は。
札をじっと見る。
やがて。
目を細めた。
「なるほど……」
そこへ。
神門蓮司。
神門玄。
二人も近づく。
いつの間にか。
神門家の札術師たちが。
一枚の札を囲んでいた。
彩が言う。
「これ」
「発動できる最低霊力量を、かなり高く設定していますね」
「はい」
晴真が頷く。
「僕の場合」
「普通の札だと、流し込んだ霊力に札のほうが耐えられなくて」
玄が気づく。
「それで上級札を使っているのか」
「はい」
本来なら。
もっと強力な術に使う。
上級札。
それを。
低威力の火球へ使用している。
蓮司が。
札の中心を指した。
「そして、ここか」
「流れ込む霊力を受け止め」
「出力を一定に抑える術式」
「はい」
晴真式。
大量の霊力を無理に抑え込むのではなく。
最初から耐えられる札を使い。
術式で安定させる。
彩が。
興味深そうに晴真を見る。
「この発想」
「元になった札があるのでしょう?」
「あ」
晴真が頷いた。
「龍姫様の火球術です」
「…………」
蓮雅。
彩。
蓮司。
玄。
四人の表情が変わった。
「龍姫様の?」
「はい」
晴真は説明する。
「龍姫様が残した札を見て、そこからヒントをもらいました」
「ただ……」
苦笑。
「あの札は、金桜眼の霊力にしか反応しないみたいで」
「しかも威力が」
少し考える。
「ちょっと異常なんです」
「ちょっと?」
道満が横から言う。
「晴真の『ちょっと』は信用しないほうがいいですよ」
「道満君!」
蓮雅が笑う。
「それで?」
「一回使うと」
晴真は。
困ったように笑った。
「僕でも、霊力をゴッソリ持っていかれます」
「……お前の霊力量でか?」
玄の顔が引きつる。
「はい」
「それはいかんな」
「ですよね……」
「それで銀花さんと春花さんに使用禁止にされて」
晴真が。
今使った札を指す。
「威力を落としたものを、春花さんと一緒に作りました」
「なるほど……」
蓮雅。
彩。
蓮司。
玄。
改めて。
じっくり。
晴真の札を確認する。
術式。
霊力経路。
安定化。
どれも。
よく考えられている。
だが。
彩の目が。
少し止まった。
「…………」
玄も。
じーっ。
蓮司も。
「…………」
蓮雅が。
札を少し遠ざける。
「ところで」
「はい?」
「この文字」
「何か特殊な意味があるのか?」
晴真の肩が。
ぴくっと動く。
「え?」
「いや」
蓮雅が真剣な顔で見る。
「かなり独特な崩し方だ」
彩も。
「術式そのものは読めますが」
「確かに、少し判別しづらいですね」
玄。
「何か特別な記法なのか?」
蓮司。
「晴真君独自の暗号か?」
「…………」
晴真の顔が。
みるみる赤くなっていく。
そして。
小さな声。
「それ……」
「字が下手なだけです……」
「…………」
沈黙。
大人たち。
互いを見る。
「そ、そうか」
蓮雅。
「個性ですね」
彩。
「術が発動するなら問題ない」
玄。
「味のある字だ」
蓮司。
晴真が叫ぶ。
「絶対みんな気を遣ってますよね!?」
笑い声。
◇
そこで。
晴真が。
横の道満を見る。
「道満君のも見せてよ」
「ああ」
道満が。
同じ術式を書いた札を渡す。
四人の大人。
覗き込む。
「…………」
整然。
読みやすい。
一文字一文字。
はっきりしている。
術式の流れも。
一目で分かる。
「…………」
蓮雅が。
ぽつり。
「見事だな」
彩。
「綺麗です」
玄。
「非常に読みやすい」
蓮司。
「同じ術式とは思えんな」
「父上」
玄が。
すぐ止めた。
「最後のは言わなくていいです」
「…………」
全員。
ちらっ。
晴真を見る。
「何も言わないのが一番傷つきます!」
また。
笑い。
◇
その時。
「皆様」
銀花が。
こちらへやって来た。
「随分楽しそうですね」
「銀花さん!」
晴真が。
若干。
助けを求めるような顔。
「どうされました?」
彩が説明する。
「晴真君の札が」
「龍姫様の札を基にしているそうで」
「ああ」
銀花が頷く。
「それでしたら」
懐から。
一枚。
古い札。
「こちらですね」
「!」
蓮雅たちが。
一斉に集まる。
龍姫が残した。
火球の札。
強大な霊力を受け止める。
古い術式。
そして。
そこに記された。
文字。
「…………」
蓮雅。
「…………」
彩。
「…………」
玄。
「…………」
蓮司。
横から覗く。
「…………あれ?」
道満も。
目を細めた。
見覚えがある。
いや。
ありすぎる。
晴真の字と。
ほとんど同じだった。
曲がり方。
跳ね方。
時々。
文字同士が繋がっているところまで。
そっくり。
蓮雅が。
非常に言いづらそうな顔で。
銀花を見る。
「あの……」
「龍姫様は」
銀花は。
にっこり。
「はい」
「非常に個性的な字を書かれる方でした」
「…………」
晴真。
龍姫の札。
自分の札。
見比べる。
刀也がいたなら。
絶対に大笑いしていただろう。
代わりに。
武尊が耐えきれず。
「才能ってそこまで似るのか?」
「似てないよ!」
道満は。
真面目に二枚を見比べる。
「いや」
「かなり似ているぞ」
「道満君まで!」
今度こそ。
その場に。
大きな笑い声が響いた。
◇
だが。
その笑いの中。
蓮雅だけは。
突然。
黙った。
視線は。
晴真たちの同時発射札。
「…………」
三十枚。
同時に。
低出力。
ほぼ同じ威力で。
発動する札。
蓮雅の表情が。
ゆっくり変わる。
「……そうか」
彩が気づく。
「父上?」
「晴真」
「はい?」
「この札」
一拍。
「少し多めに借りてもいいか?」
「はい」
晴真が。
札の束を渡す。
蓮雅は。
その札を受け取ると。
修練場の中央へ歩いていった。
「せっかくじゃ」
振り返る。
にやり。
「少しは、わしも格好いいところを見せんとな」
蓮司の顔色が変わった。
「父上?」
玄も。
蓮雅の手元を見る。
「まさか……」
彩まで。
目を見開いた。
「父上」
「それを?」
「まあ」
蓮雅が笑う。
「見ておれ」
そして。
札を。
三十枚。
一斉に展開した。
「三十枚?」
晴真が目を開く。
その札へ。
蓮雅の霊力が。
流れ込む。
「火」
ボボボボボッ!!
六つ。
赤い霊力球。
「水」
バババババッ!!
六つ。
青。
「木」
ザザザザザッ!!
六つ。
緑。
「金」
キィィィィン!!
六つ。
白銀。
「土」
ゴゴゴゴゴッ!!
六つ。
黄褐色。
五属性。
六発ずつ。
合計三十。
「…………!」
道満が。
目を見開く。
「五行を」
「同時に……!」
蓮雅が。
両手をゆっくり動かした。
「集まれ」
六つの火。
一つへ。
ギュンッ!
六つの水。
一つ。
木。
金。
土。
同属性の六発が。
それぞれ一つの霊力塊へと集約されていく。
そして。
空中には。
五つ。
火。
水。
木。
金。
土。
五行。
それぞれの力が。
浮かんだ。
「ここからじゃ」
蓮雅の表情が。
変わる。
「行くぞ!」
五つの霊力塊が。
ゆっくり。
中央へ。
近づいていく。
火と水。
木と金。
土と木。
互いに。
相反する属性。
本来なら。
反発する。
だが。
蓮雅は。
霊力を細かく調整しながら。
少しずつ。
混ぜていく。
バチッ!
バチバチバチッ!!
空気が震える。
玄が。
息を呑む。
「混ざっている……」
彩も。
信じられないように見る。
「まさか……」
五つ。
完全に。
一つへ。
蓮雅が。
右手を突き出した。
「神門五行術――」
一拍。
「五行相剋!」
ドンッ!!
五色の霊力塊が。
一直線に飛ぶ。
標的へ。
そして。
ドォォォォォォォォン!!
巨大な爆発。
地面が震える。
衝撃波。
砂煙。
「うわっ!」
「きゃっ!」
生徒たちが。
思わず腕で顔を覆う。
やがて。
煙が晴れる。
「…………」
標的。
消失。
後方の地面まで。
大きく抉れていた。
「…………」
誰も。
声を出せない。
その中。
蓮雅だけが。
腰へ両手を当て。
「わっはっはっはっはっ!!」
大笑い。
「見たか!」
「できたぞ!!」
「…………」
生徒たち。
呆然。
しかし。
もっと驚いていたのが。
神門家の三人。
蓮司。
彩。
玄。
「父上……」
蓮司の声が。
震えている。
彩も。
「本当に……」
玄は。
言葉が出ない。
「五行相剋が……」
◇
「ふふふ」
そこへ。
聞き覚えのある声。
ミヅチが。
修練場へ歩いてくる。
蓮雅を見る。
「ようやく」
にやり。
「できるようになったか」
蓮雅は。
嬉しそうに笑った。
「ええ」
「この歳になって」
「ようやくです」
そして。
晴真たちを見る。
「しかも」
「子供たちのおかげで」
「僕たち?」
晴真。
「俺たちが?」
道満。
首を傾げる。
その横。
蓮司が。
父へ向き直った。
「父上」
深く。
頭を下げる。
「おめでとうございます」
彩も。
「おめでとうございます」
玄も。
頭を下げる。
「本当に」
「おめでとうございます、父上」
「うむ!」
蓮雅が。
満面の笑み。
しかし。
生徒たちには。
まだ事情が分からない。
天音が。
小さく手を上げた。
「あの……」
「どうして皆さん」
「そんなに驚いているんですか?」
「ああ」
玄が。
我に返った。
「すまない」
生徒たちを見る。
「説明していなかったな」
そして。
蓮雅を見る。
「この術は」
一拍。
「父上が――」
少し考え。
首を振った。
「いや」
「神門家が」
「長年完成を目指してきた術なんだ」
「神門家全体で?」
凛が聞く。
「ああ」
玄が頷く。
「ミヅチ様から五行術をご教授いただいて以来」
「神門家では」
「五属性を一つの術として成立させる方法を」
「代々研究してきた」
ミヅチが。
懐かしそうに笑う。
「火」
「水」
「木」
「金」
「土」
「五行は」
「それぞれが独立しておるわけではない」
蓮雅が。
言葉を引き継ぐ。
「互いに支え合い」
「互いに打ち消し合っている」
「相生と相剋じゃ」
晴真たちが。
真剣に聞く。
「それらを」
「完全に一つへ束ねれば」
蓮雅が。
先ほど抉れた地面を見る。
「あれほどの力になる」
「ですが」
玄が続ける。
「問題がありました」
指を一本。
「まず」
「五属性の札を同時に発動できない」
「五枚同時に?」
道満が聞く。
「そうだ」
玄が頷く。
本来。
人間の霊脈は。
一つの術を発動させるための流れを作る。
五つの異なる属性へ。
全く別の霊力を。
同時に流す。
それだけでも。
非常に難しい。
「ところが」
玄が。
晴真を見る。
「晴真が考案した」
「術ごとに新しい霊脈を繋ぐ方法」
晴真式。
術ごとに。
専用の霊力経路を作り。
同時に複数の術へ流す。
「その方法を参考にして」
「ようやく五枚同時発動までは可能になった」
「じゃあ」
美鈴が尋ねる。
「そこから五行相剋が完成したんじゃ?」
「いや」
玄が首を振る。
「今度は」
「混ざらなかった」
「混ざらない?」
「五属性は相反している」
「一つずつ完成した術を」
「そのまま一気に合わせようとすると」
バンッ。
玄が。
両手をぶつける仕草。
「反発する」
「出力がほんの僅か違うだけでも」
「最も強い属性が他を弾き」
「術が崩壊した」
蓮司が。
苦笑する。
「父上は」
「何度も吹き飛ばされました」
「蓮司!」
「事実でしょう」
笑いが起きる。
しかし。
蓮雅は。
晴真から借りた札を。
嬉しそうに掲げた。
「じゃが」
「今回は違った」
「一枚で一属性を完成させてから合わせるのではない」
「まず」
「威力を抑えた六発へ分ける」
六つ。
小さな霊力。
それを。
同属性同士で。
一度。
一つへまとめる。
「小さな力を」
「少しずつ均一に合わせた」
そして。
出来上がった。
火。
水。
木。
金。
土。
五つの霊力塊。
「それを」
「少しずつ」
「混ぜた」
道満の目が。
鋭くなる。
「一気に合わせるから反発していた」
「そうじゃ!」
蓮雅が笑う。
「小さく分け」
「同じ出力へ揃えてから」
「段階を踏んで融合させた」
晴真も。
理解する。
「あ……」
「僕たちの同時発射札」
「全部を同じくらいの出力にするように作ってある」
「そういうことじゃ!」
蓮雅が。
豪快に笑う。
「何十年」
「難しい術だと思って」
「一つ一つを完璧に制御しようとしておった」
「じゃが答えは」
札をひらひら。
「一度」
「簡単な術へ分けることだった!」
◇
「…………」
生徒たちは。
真剣に聞いていた。
その横。
「…………」
「…………」
二人だけ。
妙に静か。
晴真。
道満。
互いに。
顔を見る。
そして。
視線。
札。
凛が。
すぐに気づいた。
「二人とも」
「はい?」
「何をしようとしているんですか?」
「何も」
晴真。
「まだ何もしていない」
道満。
「『まだ』って言いましたね?」
二人の周囲に。
霊力が。
集まり始めていた。
「ちょっと待ってください!」
凛が慌てる。
だが。
蓮雅が。
手を上げた。
「待て」
「え?」
「やらせてみろ」
蓮雅が。
にやり。
「晴真」
「道満」
「今のを見て」
「何を思いついた?」
二人。
顔を見合わせる。
「やってみたいです!」
「俺もです」
「よし!」
凛。
「蓮雅様!?」
◇
晴真と道満は。
まず。
蓮雅と同じように。
五属性を。
同時に作ろうとした。
だが。
「火、水、木、金、土――」
バチッ!!
「あっ」
晴真の水と火が。
即座に反発。
道満も。
「くっ……」
五属性。
一人で。
それぞれ違う出力へ。
さらに。
同時制御。
難しい。
二人とも。
発動こそできる。
だが。
蓮雅のように。
綺麗に揃わない。
「うーん……」
晴真が。
腕を組む。
道満も。
「やはり」
「一人で五属性全部を調整するのは厳しいな」
その時。
晴真の目が。
動いた。
一人。
二人。
三人。
そして。
「あ!」
何か。
思いつく。
「小夜ちゃん!」
「はい?」
「凛ちゃん!」
「はい」
「紅葉さん!」
「何でしょう?」
三人を。
手招き。
「一緒にやろう!」
「え?」
晴真は。
札を。
それぞれ六枚ずつ渡した。
「道満君は火」
「僕は水」
「小夜ちゃんは木」
「紅葉さんは金」
「凛ちゃんは土」
道満が。
すぐに理解する。
「五属性を」
「五人へ分けるのか」
「うん!」
一人で。
五属性。
同時制御する必要はない。
一人。
一属性。
それだけなら。
遥かに簡単。
そして。
晴真が。
小夜を見る。
「小夜ちゃん」
「最後の調整」
「お願いできる?」
「はい」
小夜が。
すぐに頷く。
森羅聴。
僅かな音。
空気。
そして。
霊力の微細な揺らぎさえ。
感じ取る。
「皆さんの霊力」
「私が見ます」
「お願いします!」
◇
五人。
並ぶ。
道満。
火。
晴真。
水。
小夜。
木。
紅葉。
金。
凛。
土。
それぞれ。
六枚。
合計。
三十枚。
「いくよ」
晴真の声。
五人が。
同時に霊力を流す。
「火!」
ボボボボボッ!
「水!」
バババババッ!
「木!」
ザザザザザッ!
「金!」
キィィィン!
「土!」
ゴゴゴゴゴッ!
五属性。
六つずつ。
空中へ。
「次」
道満が言う。
「同属性を一つにするぞ」
しかし。
晴真が。
何かに気づく。
「ちょっと待って」
「どうした?」
「六個を」
宙に浮かぶ霊力球を見る。
「丸く並べよう」
「丸く?」
「うん」
晴真が。
指で。
空中へ六角形を描く。
「六個を六角形にして」
「中心へ」
「同じ距離で合わせるイメージ」
道満が。
一瞬考え。
「なるほど」
六方向から。
中心へ。
同じ距離。
同じ速度。
一つだけが。
先にぶつからないように。
「やってみよう」
六つの火。
六角形。
中央へ。
ギュンッ!
一つ。
水。
木。
金。
土。
すべて。
綺麗にまとまった。
「できた!」
晴真が笑う。
空中。
五属性。
五つの霊力塊。
「よし」
道満が。
前へ手を出す。
「合わせるぞ」
「待ってください!」
小夜。
「?」
全員が見る。
小夜は。
目を閉じていた。
森羅聴。
五人から放たれる霊力。
その強さ。
密度。
揺らぎ。
僅かな違い。
「このままでは」
「出力が揃っていません」
道満が。
すぐ問う。
「どうすればいい?」
小夜が。
一人ずつ見る。
「道満さん」
「少し弱くしてください」
「ああ」
「紅葉さん」
「もう少し強く」
「分かりました」
「凛」
「そのままで大丈夫です」
「はい」
そして。
晴真。
「晴真君」
「うん」
「ものすごく弱くしてください」
「…………」
晴真。
苦笑。
「そんなに?」
「はい」
即答。
周囲から。
笑い。
「晴真君だけ」
美鈴が笑う。
「調整幅がおかしいのよ」
「仕方ないじゃん!」
晴真が。
必死に。
水の霊力を弱める。
「このくらい?」
小夜が。
集中。
「もう少し」
「これ?」
「もう少し」
「…………これ?」
「はい!」
「やっと!?」
道満が。
思わず笑った。
◇
「今です」
小夜。
五属性。
ほぼ同じ出力。
凛が。
静かに声をかける。
「では皆さん」
「一気に混ぜようとしないでください」
蓮雅がやった。
あの方法。
「少しずつ」
「外側から」
「互いの霊力を馴染ませるように」
紅葉が頷く。
「押し込むのではなく」
「混ざる場所を増やしていく」
「そうです」
晴真。
道満。
凛。
小夜。
紅葉。
五人。
呼吸。
揃える。
少し。
また少し。
火。
水。
木。
金。
土。
互いに反発しながら。
それでも。
均衡を保つ。
バチッ。
バチバチッ。
そして。
中央。
五つの属性が。
一つになる。
「…………!」
蓮雅の目が。
大きく開いた。
ミヅチも。
楽しそうに見る。
「できた……」
雅が。
息を呑む。
五色。
渦巻く。
一つの霊力塊。
道満が言う。
「晴真」
「ああ」
晴真が。
皆を見る。
「いくよ!」
全員。
頷く。
「神門五行術――」
五人の声が。
重なる。
「五行相剋!」
ドンッ!!
五色の光。
一直線。
標的へ。
そして――。
ドォォォォォォォォン!!
巨大な爆発。
「うわぁぁぁっ!」
「本当に出た!」
「すごっ!」
先ほど。
蓮雅が放ったものにも迫る。
凄まじい威力。
標的は。
跡形もなく消えた。
一瞬。
静寂。
次の瞬間。
「おおおおおおおおっ!!」
歓声。
◇
晴真たち五人。
目を丸くする。
「できた!」
晴真。
「本当に再現したな……」
道満。
凛も。
驚きながら笑う。
「五人なら」
「ここまでできるんですね」
紅葉も。
自分の手を見る。
「五行術など」
「ほとんど扱ったことがないのに……」
小夜だけは。
まだ霊力の余韻を感じ取っている。
「でも」
「少しでも誰かの出力がずれていたら」
「失敗していました」
「…………」
五人。
改めて。
蓮雅を見る。
蓮雅は。
腕を組み。
神妙な顔。
「…………」
晴真が。
少し不安になる。
「蓮雅様?」
そして。
蓮雅が。
大きく息を吐く。
「よかった……」
「え?」
「これを」
一拍。
「一人でぽんっと撃たれたら」
胸を押さえる。
「わしの立場がないところだった」
「そこですか!?」
大笑い。
蓮雅も笑う。
「わっはっはっ!」
「じゃが」
今度は。
真面目な顔。
五人を見る。
「素晴らしい」
「五行相剋を見て」
「即座に一人で再現するのではなく」
「五人へ役割を分けた」
晴真。
道満。
凛。
紅葉。
小夜。
「日頃から」
「互いの力を合わせることを考えておるからこその発想じゃな」
そして。
小夜を見る。
「特に」
「森羅聴で全員の霊力差を測り」
「その場で出力を揃えた」
「これがなければ成立しなかったじゃろう」
小夜が。
少し照れる。
「ありがとうございます」
「見事じゃ」
蓮雅は。
晴真たちを見る。
「今は五人」
「じゃが」
にやり。
「お前たちなら」
「いずれ一人で放つ日も来るかもしれんな」
「…………」
晴真。
道満。
目が。
少し輝く。
凛が。
嫌な予感。
「二人とも」
「今」
「一人でやってみたいって思いましたよね?」
「…………」
「…………」
「思いましたね?」
晴真。
「ちょっとだけ」
道満。
「俺はかなり」
「やめてください!」
笑い声。
◇
その中。
晴真と道満は。
さっき蓮雅が一人で行った術を。
改めて思い返していた。
「でも」
晴真が呟く。
「蓮雅様」
「本当にすごかったよね」
道満も。
素直に頷く。
「ああ」
「俺たちは」
五人。
役割分担。
小夜の森羅聴。
凛の調整。
それだけ揃えて。
ようやく。
「五人でやった」
「でも蓮雅様は」
晴真が。
蓮雅を見る。
「全部」
「一人でやったんだよね」
三十枚。
五属性。
同属性融合。
五つの出力調整。
五行の反発制御。
そして。
融合。
「霊力操作が」
晴真が。
感心する。
「本当にすごい……」
道満も。
目を細める。
「術式の知識だけでは無理だ」
「五つ全部を」
「あれだけ細かく制御している」
「何十年かけたと言っていた意味が分かった」
二人の声。
少し離れていても。
蓮雅には。
しっかり聞こえていた。
「…………」
蓮雅の口元。
ゆっくり。
緩む。
そして。
得意げに。
髭を撫でた。
「ふふん」
玄が。
呆れる。
「父上」
「聞こえているのなら」
「普通にしてください」
「いいではないか!」
「孫ほどの歳の子に褒められたのだぞ!」
「嬉しいものは嬉しい!」
「はいはい」
◇
そんな一同を見ながら。
彩が。
くすりと笑った。
そして。
隣にいた玄へ。
小声で言う。
「玄」
「何です?」
彩は。
晴真。
道満。
凛。
小夜。
紅葉。
五人を見る。
その場で。
見た術を。
自分たちのやり方へ。
変えてしまった子供たち。
「この子たち」
一拍。
「本当に面白い子たちね」
玄も。
苦笑しながら頷いた。
「ええ」
「教師をしていて」
「退屈する暇がありませんよ」
「ふふ」
彩が。
一歩。
前へ出る。
そして。
晴真たちへ。
にっこりと微笑んだ。
「さて」
「父の授業は」
「これくらいにして」
「次は――」
晴真。
道満。
凛。
小夜。
紅葉。
そして。
集まった生徒たち全員を見る。
「私の教授を」
「受けてもらえるかしら?」
晴真の顔が。
ぱっと明るくなる。
「はい!」
道満も。
すぐ前へ出る。
「よろしくお願いします」
彩が。
楽しそうに。
札を一枚。
指の間へ挟んだ。
ミヅチが認める。
札術の天才。
立身彩。
その授業が――。
ようやく。
始まろうとしていた。




