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第六十八話 手に剣なくとも、五勢は変わらず


 道満と天音の模擬戦が終わり。


勝田忠臣は、今度は晴真の前へ立った。


「さて――晴真殿」


「はい!」


晴真が元気よく返事をする。


「先ほどは道満殿に、勝田流剣術についてお話ししましたが」


忠臣は両手を広げた。


その手には。


当然、刀はない。


「これからお教えする勝田流徒手術においても――」


晴真を真っ直ぐ見る。


「基本となる考え方は同じです」


「ということは……」


晴真が答える。


「勝田五勢?」


「その通りです」


忠臣が微笑んだ。


「攻め」


「守り」


「崩し」


「誘い」


「騙し」


「この五つ」


「勝田五勢が、徒手術においても根幹となっています」


「はい!」


晴真は真剣な顔で頷く。


先ほど。


道満と天音の戦いで見たばかりだ。


同じ五つを使いながら。


二人はまったく違う戦い方をした。


しかし。


忠臣は続けた。


「ただし――」


「剣術と徒手術では、大きく異なるところがあります」


「違うところ?」


「はい」


忠臣が構える。


拳を固く握るような構えではない。


自然体。


どこからでも。


拳。


掌。


蹴り。


組み。


どれでも出せそうな構えだった。


「勝田流剣術は」


「五勢を――繋ぎます」


晴真が先ほどの天音の戦いを思い返す。


誘い。


攻め。


騙し。


崩し。


攻め。


一つの動きが次の動きへ変わっていく。


「ですが――」


忠臣は自分の両手を見る。


「勝田流徒手術は」


一拍。


「五勢を――重ねます」


「重ねる?」


晴真が首を傾げた。


◇


「まず、勝田流徒手術というものは」


忠臣が説明を始める。


「拳法のように拳だけで戦うものでもなければ」


「投げ技を中心とするものでもありません」


「では、何を使うんですか?」


「すべてです」


即答だった。


「拳」


拳を作る。


「掌」


開く。


「肘」


肘を立てる。


「膝」


足を上げる。


「蹴り」


足を伸ばす。


さらに。


「組み」


「足払い」


「掴み」


「体当たり」


忠臣が晴真を見る。


「その場で使えるものは、すべて使います」


「全部……」


「はい」


忠臣は頷く。


「勝田流徒手術には、『この技で倒す』という決まりはありません」


「相手が何をしてくるか」


「自分がどの位置にいるか」


「何が使えるか」


「それを見ながら」


「その場で最も適した攻防を作る」


「それが勝田流徒手術です」


忠臣は胸の前で。


拳を軽く合わせた。


「ですから勝田家では――」


ゆっくりと言う。


「手に剣なくとも、五勢は変わらず」


「そう教えられます」


晴真がその言葉を繰り返す。


「手に剣なくとも……五勢は変わらず」


「はい」


◇


「まずは攻めです」


忠臣が晴真へ近づく。


「勝田流でいう攻めは」


「拳や蹴りを当てることだけではありません」


一歩。


ぐっと間合いを詰める。


晴真が思わず半歩下がった。


「今のも攻めです」


「え?」


「私はまだ何もしていません」


「ですが晴真殿は下がりました」


「……あ」


「踏み込み」


「接触」


「組み付き」


「圧力」


「そういったもので相手へ選択を迫ることも、勝田流では攻めと考えます」


忠臣が掌を構える。


「例えば――」


掌打。


晴真の顔へ向かって飛んでくる。


晴真が腕を上げる。


忠臣はその腕を。


ガシッ!


掴んだ。


「わっ!」


引く。


晴真の身体が前へ出る。


そこへ。


膝。


晴真が腹部を守ろうとする。


しかし。


膝は来ない。


忠臣の足が。


晴真の足首へ。


スッ。


「わっ!?」


足払い。


晴真の身体が傾く。


忠臣が肩を支える。


「この場合」


「最初の掌打は、本命ではありません」


「晴真殿に腕を上げてもらうための攻めです」


「それを掴んで」


「膝を意識させ」


「本命は足払い……」


晴真が目を丸くする。


「攻撃するための攻撃じゃないんだ」


「その通りです」


◇


「次は守り」


忠臣が言う。


「晴真殿」


「軽く拳を打ってみてください」


「はい!」


晴真が拳を出す。


すると。


スッ。


忠臣が身体を半身にする。


拳を避け。


手首へ軽く触れ。


外へ流す。


「勝田流では、真正面から受け止めることをあまり重視しません」


「避ける」


もう一撃。


スッ。


「逸らす」


もう一撃。


パシッ。


「潜る」


しゃがむ。


「身体を入れ替える」


晴真の横へ回る。


さらに。


腕を絡める。


「そして――」


晴真の腕を掴んだ。


「守った時には」


「すでに次が始まっている」


「…………!」


晴真の目が変わる。


忠臣は。


晴真の拳を払った姿勢のまま説明する。


「この腕を引けば――」


グッ。


晴真の体勢が崩れる。


「崩し」


「このままあえて離さず、晴真殿に続きを打たせれば」


「誘い」


そして。


払った腕の陰から。


忠臣の拳が。


晴真の目の前へ。


ピタッ。


「ここから拳を出せば――」


「攻め」


「一つの守りから……」


晴真が驚く。


「いろんなものに変わる」


「ええ」


「守って終わりではありません」


「守りとは」


「次へ移るための途中なのです」


◇


「次に――崩し」


忠臣が構える。


晴真は少し嬉しそうに言った。


「これは僕も分かるかもしれません!」


「合気術を学んでおられますからね」


「はい!」


晴真はクシナダから学んだ合気術を思い出す。


相手の力を受け。


流し。


その力を利用して崩す。


だが。


忠臣は首を横へ振った。


「似ているところはあります」


「ですが」


「勝田流では少し目的が違います」


「目的?」


「はい」


忠臣が晴真の肩へ手を置く。


軽く押す。


次に。


肘。


少し引く。


晴真の身体が傾く。


続いて。


膝裏へ軽く足を当てる。


「おっと」


さらに。


晴真の足を踏む。


「え?」


腰を押す。


視線の前へ手を出す。


「わっ」


晴真が僅かに混乱する。


「勝田流の崩しは」


忠臣が離れる。


「必ずしも、相手を倒す必要はありません」


「倒さなくていいんですか?」


「ええ」


忠臣は指を一本立てる。


「ほんの一瞬でいい」


「殴れない」


二本目。


「蹴れない」


三本目。


「踏ん張れない」


四本目。


「狙った方向を見られない」


五本目。


「呼吸が乱れる」


忠臣は言った。


「相手が本来持っている選択肢を、一つでも減らす」


「それが勝田流における崩しです」


「選択肢を減らす……」


「はい」


「合気術が相手の力を利用し、流れを崩すことを得意とするなら」


「勝田流は――」


少し笑う。


「相手が戦える形そのものを壊してしまう」


晴真が何度も頷いた。


「確かにちょっと違う」


「ええ」


「どちらが優れているという話ではありません」


「目的が違うのです」


◇


「次は――誘い」


忠臣が構える。


その瞬間。


晴真は気づいた。


顔が。


完全に空いている。


「……あ」


「殴りたくなりますか?」


「ちょっと」


「ではどうぞ」


「はい!」


晴真が顔へ拳を出す。


その瞬間。


忠臣が半歩。


横へ。


拳が空を切る。


忠臣はもう。


晴真の懐にいた。


「わっ!」


「これが誘いです」


忠臣が離れる。


「徒手では、剣以上に露骨な誘いも使います」


「わざと顔を空ける」


「腹部を見せる」


「後退する」


「よろける」


「疲れたように見せる」


「そこへ相手が来れば」


「自分の望む戦いに持ち込む」


晴真が笑う。


「なんか、ちょっとずるいですね」


「ははは」


忠臣も笑った。


「勝田流には」


少し声を落とす。


「隙とは、見せるもの」


「という教えもございます」


「隙とは……見せるもの」


晴真が苦笑する。


「相手したくないなぁ」


「それは勝田流への褒め言葉ですね」


◇


「そして最後」


忠臣の雰囲気が。


少し変わった。


「騙し」


晴真も身構える。


忠臣の視線は。


晴真の顔。


右肩が動く。


右拳。


腰は。


蹴りを出せる位置。


晴真が一瞬迷う。


顔?


右拳?


蹴り?


次の瞬間。


パッ。


左の掌が。


晴真の胸元寸前で止まった。


「えっ!?」


「視線は顔」


「肩は右拳」


「腰は蹴り」


「ですが」


左手を見る。


「本命は左の掌」


「全然分からなかった……」


「これが騙しです」


さらに。


拳。


晴真が防ぐ。


しかし。


拳は止まり。


そのまま腕を掴まれる。


「拳を打つと見せて、組む」


次。


組み付く。


そう見えた。


だが。


肘。


「組むと見せて、肘」


足を上げる。


晴真が蹴りに備える。


だが。


足を下ろし。


一気に踏み込む。


「蹴ると見せて、接近する」


「うわぁ……」


晴真が困った顔になる。


「嫌だなぁ、これ」


「まだあります」


「まだ!?」


忠臣が右拳へ霊力を集める。


「!」


明らかに。


右拳へ強い霊力が集まっている。


晴真が右拳へ意識を向けた。


その瞬間。


霊力が消える。


「え?」


左脚。


霊力が一気に移る。


足払い。


「わっ!」


晴真が跳んでかわす。


忠臣が笑った。


「右拳へ霊力を集め」


「必殺の一撃が来ると思わせる」


「しかし本命は左脚」


「霊力の動きまで騙す……」


晴真が驚く。


「はい」


「ですから勝田流を相手にする者は」


忠臣は少し楽しそうに言った。


「身体を見ても」


「霊力を見ても」


「次に何が来るか分からない」


◇


晴真は。


少し考え込んだ。


「攻め」


「守り」


「崩し」


「誘い」


「騙し」


「やっぱり剣術と同じ……」


「はい」


「しかし」


忠臣が指を一本立てる。


「ここからが徒手術の本質です」


「?」


「先ほど言いましたね」


「剣術は五勢を繋ぐ」


「徒手術は五勢を――」


晴真が答える。


「重ねる」


「その通りです」


忠臣が構える。


「晴真殿」


「もう一度、拳を」


「はい!」


晴真が右拳を放つ。


忠臣が腕を払う。


「守り」


同時に。


払った晴真の腕を掴み。


横へ引く。


「崩し」


しかし。


忠臣自身の顔は。


その瞬間。


無防備に見えている。


「誘い」


晴真が空いた左手で殴ろうとする。


忠臣の視線は。


晴真の腹。


「騙し」


そして。


本命。


掌底が。


晴真の胸元へ。


ピタッ。


「攻め」


「…………」


晴真が。


目を丸くした。


一瞬だった。


本当に。


一つの動作だった。


拳を払った。


ただそれだけに見えた。


なのに。


その中に。


守り。


崩し。


誘い。


騙し。


攻め。


すべてが入っている。


「今ので……全部?」


「はい」


忠臣が手を離す。


「高等技術になるほど」


「本人の中でも、五つを別々に考えなくなります」


「守りながら崩す」


「崩しながら誘う」


「誘いながら騙す」


「騙しながら攻める」


「すべてが同時に起きる」


晴真は。


自分の両手を見る。


「なんとなく……」


「はい」


「なんとなくだけど」


少し考える。


「分かった気がします」


忠臣が微笑む。


「それで十分です」


「でも……」


晴真が苦笑する。


「まだ、自分でできる感じはしないです」


「当然です」


忠臣が笑った。


「説明だけで会得されては、勝田家の立つ瀬がありません」


「そ、それもそうですね」


横から。


「道満様は一度見ただけでやり始めてましたけどね」


春花がぼそっと言った。


「…………」


忠臣。


晴真。


天音。


三人が道満を見る。


「なんだ?」


「いや」


晴真が笑う。


「道満君はちょっとおかしいから」


「失礼だな」


◇


忠臣が考える。


「そうですね」


「やはり――」


天音を見る。


「実際に立ち合ってみるのが一番でしょう」


「!」


天音の顔が輝いた。


「また私ですか!?」


「晴真殿と戦ってみれば、勝田五勢の感覚も――」


「やったぁ!」


「待った!」


その瞬間。


別の声が飛んできた。


「お嬢ばっかり、ずるいですよ!」


「え?」


全員が振り返る。


そこにいたのは。


下勝田武尊。


腕を組み。


明らかに不満そうな顔をしていた。


「道満君とも戦って」


「今度は桜君まで?」


「さすがにお嬢ばっかりは駄目です!」


「武尊!」


天音が頬を膨らませる。


「これは勝田流を教えるための模擬戦なんです!」


「俺だって勝田流を使うだろ!」


「それはそうですけど!」


二人が睨み合う。


忠臣が笑った。


「なら」


二人を見る。


「武尊」


「はい!」


「晴真殿のお相手をしてみますか?」


一瞬。


武尊が固まる。


次の瞬間。


「よしっ!」


拳を握った。


「やります!」


「ちょっと!」


天音が声を上げる。


「ずるい!」


すると。


「私もそう思う!」


今度は上勝田詩織。


「武尊だけずるいよ!」


「早い者勝ちだ!」


武尊が笑う。


そして晴真を見る。


「桜君も」


「女の子相手より、男同士のほうがやりやすいよな?」


「え?」


晴真は少し考える。


「まあ……そうだね」


「ほら!」


「晴真君!」


「桜君!」


天音と詩織から同時に責められる。


「ええっ!?」


晴真が困る。


武尊は満足そうに頷いた。


「じゃあ決まりだな!」


だが。


次の瞬間。


表情を真剣にする。


「ただし――」


「晴真君」


「うん?」


「一つ約束してくれ」


「なに?」


武尊は。


びしっと指を差した。


「陰陽術は――なし!」


「え?」


晴真が首を傾げる。


天音も。


詩織も。


「なんで?」


同時に聞いた。


武尊が二人を見る。


「当たり前だろ!」


「もし火球を三十発同時に撃たれたら、どうするんだ!」


「…………」


天音。


「…………」


詩織。


少し想像する。


三十個の火球。


四方八方から飛んでくる。


「……嫌ですね」


天音が呟く。


「でしょ?」


武尊は続ける。


「それに桜君だぞ?」


晴真を指差す。


「本気になったら」


「百発同時とかやりそうだろ!」


「やらないよ!」


晴真が慌てる。


「そんなに撃てないよ!」


「本当か?」


「うん!」


晴真が胸を張る。


「威力を弱くしても――」


少し考える。


「五十発くらいがいいところだよ」


「…………」


武尊。


「…………」


天音。


「…………」


詩織。


三人の顔から。


表情が消えた。


その横から。


「まあ」


道満が腕を組む。


「そのくらいだろうな」


「道満君まで!?」


武尊が振り返る。


「五十発を『そのくらい』って言うなよ!」


「初級火球なら、霊脈を分ければ可能だろう」


「そういう話じゃない!」


天音が。


深いため息を吐く。


詩織も。


同じように肩を落とす。


武尊が二人を見る。


「分かっただろ?」


「……はい」


「分かった」


「だから――」


武尊は晴真を見る。


「陰陽術なし!」


晴真も苦笑しながら頷く。


「分かったよ」


その肩の上。


桜花が。


小さな手を腰へ当てた。


「晴真様」


「なに、桜花?」


「普段からやり過ぎちゃってるからですよ」


「うっ……」


「火球を五十発と言って驚かれる時点で」


「晴真様の常識がおかしいのです」


「そ、そうかなぁ……」


「そうです」


桜花はきっぱりと言った。


晴真は。


苦笑するしかなかった。


◇


「よし!」


武尊が腕を回す。


「じゃあ――」


「始めようぜ!」


「うん!」


晴真も前へ出ようとした。


その時。


「待てぇぇぇっ!」


大声。


「え?」


振り返ると。


走ってくる者たちがいた。


岩富奉先。


岩富舞桜。


将門愛理。


「武尊!」


奉先が指を差す。


「ずるいぞ!」


「抜け駆けするな!」


舞桜も頬を膨らませる。


「妾も晴真殿とは一度、手合わせしてみたいのじゃ!」


愛理も頷く。


「私だってです!」


「へへーん」


武尊は得意げに笑った。


「役得ってやつだよ、奉先」


「何が役得だ!」


「お先に!」


「こいつ……!」


奉先が悔しそうに歯噛みする。


その騒ぎを聞きつけて。


「晴真が戦うのか?」


刀也。


「へぇ」


迅。


「武尊君と?」


凛。


さらに。


小夜。


与一。


紅葉。


美鈴。


豪太。


隼人。


一年一組の面々までぞろぞろと集まってきた。


「なんでみんな来るの!?」


晴真が驚く。


「そりゃ見るだろ!」


刀也が当然のように答える。


「勝田流徒手術を習った直後なんだろ?」


迅も笑う。


「どう使うか気になるしな」


凛も頷いた。


「私も見てみたいです」


「晴真君が勝田五勢をどう使うのか、興味があります」


小夜も興味深そうに修練場を見る。


気づけば。


観客はどんどん増えていった。


◇


そして。


その騒ぎは。


当然のように――。


大人たちにも届いた。


「あれ?」


角来剛乃介が近づいてくる。


「晴真坊が徒手で戦うのか?」


その後ろには柔次郎。


「勝田流を習ったばかりだとか」


立身刀次郎。


岩富槍流。


神門玄。


西御門紫苑。


さらに。


「なんじゃなんじゃ」


ミヅチまで。


沙羅を連れて歩いてくる。


「晴真が何かやるのか?」


「模擬戦だそうですよ」


「ほう!」


そして。


クシナダ。


チヨヒメ。


一葉。


二葉。


三葉。


いつの間にか。


神の眷属まで集まり始めた。


「…………」


武尊の顔が。


徐々に引きつっていく。


「なあ」


晴真を見る。


「うん?」


「これ……」


周囲を見る。


一年一組。


他クラス。


教員。


各家の武人。


神の眷属。


そして――。


少し離れた場所では。


御堂晴隆や麻賀多道秀までこちらを見ている。


「ただの模擬戦だよな?」


「そうだよ?」


「じゃあ――」


武尊が叫ぶ。


「なんでこんなに人が集まるんだよ!」


「僕に聞かれても!」


晴真も困る。


すると。


「ふふふ」


ミヅチが口元を袖で隠しながら笑った。


銀色の髪が揺れる。


「仕方なかろう」


「何がですか!」


武尊が聞く。


ミヅチは。


晴真を見る。


にやり。


「どうせ晴真のことじゃ」


「また何か面白いことをしてくれると思ってのぉ」


「しないですよ!」


晴真が慌てて否定する。


「普通にやります!」


「その『普通』が信用ならんのじゃ」


「ええっ!?」


クシナダも大きく頷く。


「うむ」


「晴真の普通は、大抵普通ではないからな」


「クシナダ様まで!」


刀也が笑う。


「諦めろ晴真!」


「もうみんな期待してるぞ!」


「何を!?」


笑い声が広がる。


そんな中。


武尊は一度。


大きく息を吐いた。


「……まあいい」


晴真を見る。


表情が変わる。


「これだけ見られてるなら――」


拳を構えた。


「なおさら負けられないな」


晴真も。


その表情を見て。


笑う。


そして。


ゆっくり構えた。


「うん」


「僕も――」


先ほど忠臣から教わった言葉を思い返す。


攻め。


守り。


崩し。


誘い。


騙し。


そして。


――五勢を、重ねる。


「やってみる」


その姿を見て。


忠臣の目が少し細くなる。


教えたばかりの勝田流徒手術。


そこへ。


晴真がすでに学んでいる合気術が。


どう混ざるのか。


その答えは。


まだ誰にも分からない。


ただ一つ。


間違いないことがあるとすれば――。


すでに。


ただの模擬戦では済みそうにない。


そんな予感だけは。


この場にいる誰もが。


何となく感じていた。

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