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第六十三話 勢揃い


 勝田家の広大な修練場には――。


一年一組の生徒たちだけではなく。


三組、四組、五組の生徒。


各家の当主。


学園の教員。


裏佐倉を支える重鎮たち。


さらには神の眷属まで。


とんでもない顔ぶれが、一堂に会していた。


「…………」


晴真たち一年生は、さすがに緊張していた。


普段なら簡単には顔を合わせることのできないような人物たちが、右を見ても左を見ても立っている。


ところが――。


実は、生徒たち以上に妙な緊張感を漂わせている者たちがいた。


大人たちである。


「……さて」


御堂晴隆が辺りを見渡す。


「これだけ集まると、誰が最初の号令をかけるんじゃ?」


「やはり、ここは刀斎兄では?」


麻賀多道秀がそう言うと、晴隆も頷いた。


「うむ。立身家の大御所じゃしの」


二人の視線が立身刀斎へ向かう。


しかし。


「嫌じゃ」


「え?」


刀斎は即答した。


「わしより格の高い家柄の者もおる。下手にわしが仕切れば、面目を潰す家もあるじゃろう」


「では、どうするんじゃ」


「こういう時は――」


刀斎の視線が、ある人物へ向く。


そこにいたのは。


「妾か?」


クシナダだった。


刀斎が頭を下げる。


「クシナダ様。最初に一言、号令をお願いできませぬか」


「その後は正臣に任せればよいので」


「俺ですか!?」


突然名前を出された勝田正臣が振り返った。


「当たり前じゃろう」


刀斎が呆れたように言う。


「お主の生徒たちの合宿じゃぞ」


「それは、そうですが……」


正臣が集まった面々を見る。


御堂家。


麻賀多家。


神門家。


立身家。


西御門家。


岩富家。


角来家。


鏑木家。


木之子家。


その他にも、裏佐倉を代表する家々。


「……とほほ」


思わず肩を落とす正臣。


すると沙羅が、その背中をバシッと叩いた。


「夜叉丸の生まれ変わりなんだから、しっかりしろ!」


「それを言うなよ!」


正臣が即座に振り返る。


「こういう時に余計な重圧を足すな!」


「ははは!」


周囲の大人たちから笑いが起こった。


そんな中。


クシナダがゆっくりと前へ進み出た。


その瞬間。


ざわついていた修練場が静まり返る。


クシナダは一同を見渡し――。


「皆の者」


静かに声を響かせた。


「今日は、妾の子飼いの弟子が受け持つ生徒たちのため、こうして馳せ参じてくれたこと、礼を言う」


正臣が小さく呟く。


「子飼いって……」


沙羅が肘で小突く。


「黙って聞け」


「はい……」


クシナダは続ける。


「本来なら、このまま妾が号令をかけ続けてもよいのじゃが――」


ちらり。


後ろに控える一葉たちを見る。


「それをやると、『クシナダ様の品格が下がります』と、うるさく言われておるのでな」


「クシナダ様」


従者の二葉が困った顔をする。


「事実をそのまま言わないでくださいませ」


「事実ではないか」


クシナダは悪びれる様子もない。


「というわけじゃ」


そして正臣を見る。


「ここから先は、妾の子飼いの弟子――勝田正臣に任せる」


「よろしく頼むぞ!」


その言葉に。


集まった者たちが一斉に頭を下げた。


「はっ!」


「仰せのままに!」


「…………」


正臣の頬が引きつる。


「本当に俺がやるのか……」


「正臣」


忠臣が横から声をかける。


「勝田家当主として言っておく」


「何ですか、父上」


「頑張れ」


「丸投げ!?」


また笑いが起こった。


◇


正臣は一つ息を吐くと、表情を教師のものへ切り替えた。


「それでは皆様」


前へ出る。


「クシナダ様よりご指名をいただきましたので、この合宿の進行は私、勝田正臣が務めさせていただきます」


一年一組の生徒たちが、少しだけ驚く。


いつもの担任とは違う。


大勢の重鎮を前にしても、声はしっかり通っている。


「今回の合同合宿では、桜がけに向け、生徒たちがそれぞれ必要とする分野を重点的に学べるよう、複数の修練を並行して行います」


そして正臣は、順番に名を挙げていった。


「まず――霊力操作に関するご教授を、御堂晴隆様」


晴隆が手を上げる。


「任せておけ」


「封印術に関するご教授を、御堂晴時様」


「承知した」


「霊圧の扱いについて、麻賀多道秀様」


「うむ」


「浄化術について、麻賀多道継様」


道継が静かに頷く。


さらに。


「札術については、神門蓮雅様、神門蓮司様、立身彩様。そして神門玄教諭」


「お任せください」


玄が丁寧に頭を下げる。


「結界術については、西御門紫玄様、西御門紫苑教諭」


「承知した」


「はい」


「式神術については、木之子大樹様、西御門小樹様」


小夜が思わず二人を見る。


大樹と小樹が揃って穏やかに笑った。


「続いて武術です」


生徒たちの目つきが変わる。


「剣術の指南を、立身刀斎様、立身刀次郎教諭」


「おう」


「任せろ」


刀也の顔がぱっと明るくなる。


「槍術の指南を、岩富槍玄様、岩富槍流教諭」


「よし!」


豪太と奉先が同時に反応した。


「薙刀術の指南を、立身巴様」


ひなた、小夜、紅葉、舞桜たちが真剣な表情になる。


「弓術の指南を、鏑木与之介様、鏑木与乃教諭」


「はい」


「承知しました」


与一と弓月が目を輝かせる。


「体術の指南を、角来剛乃介様、鏑木柔次郎教諭」


剛乃介が豪快に腕を組む。


柔次郎はいつもの穏やかな笑みを浮かべていた。


「さらに、各生徒の適性に合わせ――」


正臣が横を見る。


そこには。


御堂沙羅。


西御門紫月。


神門深月。


その他にも、それぞれの分野に秀でた者たちが並んでいる。


「各分野の特別指南も行います」


「おお……!」


生徒たちから感嘆の声が上がった。


これだけの人物たちから、一度に教えを受けられる機会など滅多にない。


晴真も思わず拳を握る。


「すごい……」


道満が頷いた。


「ああ。これだけの顔ぶれなら、桜がけまでに相当鍛えられるぞ」


凛も真剣な目で前を見る。


「絶対、無駄にはできませんね」


◇


説明が一段落すると。


生徒たちも少しずつ自由に話し始めた。


「晴真!」


声をかけてきたのは岩富奉先だった。


その隣には舞桜。


さらに。


西御門蒼空。


西御門紫穂。


将門愛理。


角来桜華。


鏑木弓月。


他クラスの顔馴染みたちが集まってくる。


「奉先君」


晴真が笑う。


奉先は楽しそうに拳を握った。


「今度こそ真剣勝負だな」


「うん!」


「発表試合じゃ、結局お前たちとは直接当たらなかったからな」


舞桜も頷く。


「私も楽しみです」


愛理も腕を組む。


「次は遠慮しませんからね」


「僕も負けないよ」


晴真が答える。


その時だった。


「詩織ちゃん」


少し離れたところから、少女の声が聞こえた。


上勝田詩織。


下勝田武尊。


その二人と一緒に、一人の少女がこちらへやって来る。


肩まで伸びた髪。


どこか正臣に似た、勝ち気な目。


蒼桜寮の制服。


詩織が晴真たちを指差した。


「あの子が桜晴真君だよ」


「それで――」


道満を見る。


「あっちが麻賀多道満君」


さらに凛を見る。


「こっちが麻賀多凛さん」


少女は三人をじっと見つめた。


「…………」


そして。


「あなたたちが――」


一歩前へ出る。


「お兄様がいつも話している方々ですね」


「お兄様?」


晴真が首を傾げる。


少女は丁寧に頭を下げた。


「初めまして」


「私は勝田天音と申します」


「初等部一年五組。蒼桜寮所属です」


そして――。


「勝田正臣の妹です」


「正臣先生の!?」


晴真が目を丸くした。


道満と凛も驚く。


天音はまず晴真を見る。


「桜晴真君」


「はい」


「あなたに会うまで――」


少し頬を膨らませる。


「兄が『規格外で面白い子がいる』と、いつもあなたの話をしていました」


「え?」


「なので、正直――」


天音がじーっと晴真を見る。


「かなり嫉妬していました」


「嫉妬?」


「兄を取られたような気分です」


「ええっ!?」


晴真が困った顔をする。


与一が小声で笑う。


「晴真、先生まで攻略したの?」


「してないよ!」


「次」


天音は道満を見る。


「麻賀多道満君」


「なんだ」


「あなたもです」


「俺も?」


「クシナダ様から直々に『弟子になれ』と言われているそうですね」


「ああ……まあ」


道満が若干言いづらそうに答える。


天音の頬がさらに膨らむ。


「私なんて、何度教えてほしいと言っても――」


クシナダの口調を真似する。


「『お主は三姉妹に教えてもらえ』」


「それだけです!」


「そ、そうか……」


道満が返答に困る。


そして最後に。


天音は凛を見る。


「麻賀多凛さん」


「はい?」


「あなたのことも、兄はいつも褒めています」


「えっ!?」


凛の顔が一気に明るくなる。


「成績が良いだけじゃない」


「頑張り屋で、真面目で――」


天音は正臣の口調を思い出すように続ける。


「『あの子は一年一組の要だ』って」


「…………!」


凛の頬が赤くなる。


「そ、そんなに褒められると照れちゃうね」


横から道満が感心する。


「凛、そんなに褒められているのか」


「てへへ……」


凛が嬉しそうに頭をかく。


しかし。


「いやぁ……」


与一が苦笑した。


「多分、晴真は褒めてないと思うよ」


「そうだな」


太一も頷く。


「そうなのー!?」


晴真が驚き落ち込む。


天音の眉がぴくりと動いた。


「…………」


そして詩織を見る。


「詩織」


「なに?」


「本当に彼が桜君なの?」


「そうだよ」


「こっちが麻賀多道満君で――」


「あっちが麻賀多凛さん」


武尊も隣でこくこく頷く。


天音は三人をもう一度見る。


「…………」


「なんか」


一言。


「想像と違うんですけど」


「ええっ!?」


晴真が声を上げた。


天音は小さく咳払いする。


「まあ、いいです」


そしてびしっと指を差した。


「桜がけで勝負です!」


「勝負?」


「はい!」


「兄があれだけ話す一年一組が、本当にそんなにすごいのか」


「五組の私たちが確かめます!」


晴真は少し考えたあと。


笑った。


「うん!」


「もともと桜がけはクラス対抗戦だから――」


拳を握る。


「勝負だね!」


道満も頷く。


「ああ」


凛も笑顔を向けた。


「お互い頑張りましょう」


「…………」


天音が微妙な顔になる。


「なんか張り合いがないんだけど……」


そこへ奉先が割って入った。


「おい」


「そこだけで盛り上がらないでくれ」


晴真たちを見る。


「こっちは、やっと晴真たちと真剣勝負できるんだからな」


舞桜も頷く。


「そうですね」


愛理も腕を組む。


「三組だって負けるつもりはありません」


すると今度は。


「そちらも勝手に盛り上がらないでください!」


弓月と桜華が前へ出た。


「四組――」


「紅桜寮も負けませんよ!」


桜華が得意げに笑う。


「こっちには、新しい秘密兵器が入ったんですから!」


弓月も笑う。


「ねえ、蒼空君!」


全員の視線が蒼空へ向く。


蒼空は心底面倒そうな顔をした。


「えー……」


「面倒くさいよ」


「蒼空君!」


紫穂が呆れる。


「少しはやる気を見せてください!」


「桜がけの日だけ起こして」


「寝るつもりですか!?」


そのやり取りに。


晴真が苦笑する。


一年一組。


三組。


四組。


五組。


みんなが互いに負けるつもりなどない。


でも。


敵ではない。


晴真は皆を見回すと。


いつものように笑った。


「じゃあ――」


「みんなで、お互い頑張ろう!」


「…………」


刀也が頭を抱える。


「出たよ」


迅も笑う。


「晴真らしいな」


与一も肩をすくめた。


「勝負の前に全員応援し始めるからね、晴真は」


「いいじゃん!」


晴真が笑う。


その言葉につられるように。


凛も。


道満も。


奉先も。


舞桜も。


天音も。


弓月も。


桜華も。


愛理も。


最後には蒼空まで。


皆が笑った。


桜がけまで――。


残された時間は、決して長くない。


それでも。


これだけの仲間。


これだけの師。


これだけの力が集まったのなら。


まだまだ強くなれる。


そう思わせるには十分すぎる――。


合同合宿の幕開けだった。

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