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第四十八話 剛快VS清盛


 角来道場。


道場中央では清盛と剛快が向かい合っていた。


清盛は軽く肩を回しながら笑う。


「今日こそは勝ちますよ」


剛快も楽しそうに拳を握った。


「よし、全力で来い!」


柔次郎が二人の間に立ち、片手を上げる。


「では――始め!」


その瞬間、清盛が一気に間合いを詰めた。


「霊爆轟身!」


ドンッ!


全身へ霊力が爆発的に行き渡り、一気に速度が上がる。


剛快が目を細めた。


「来い!」


清盛は地面を強く蹴る。


身体を回転させながら跳び上がり、右脚へ霊力を集中させた。


「将門流――旋風衝勁脚!」


飛び回し蹴り。


その脚には霊衝勁の霊力が纏われていた。


「速い!」


晴真が声を上げ、桜華も思わず身を乗り出す。


だが剛快は避けない。


両腕へ霊力を集める。


「剛!」


ガンッ!


清盛の蹴りを腕で受け止めた。


だが霊衝勁の衝撃は身体の内側へ抜けてくる。


剛快の身体が僅かに揺れた。


その瞬間、剛快が右手を開く。


「柔波掌!」


掌から柔らかな霊力の波が広がった。


清盛の脚に纏われていた霊力が、波に呑まれるように散っていく。


「なっ!」


愛理が目を見開く。


道満もすぐに気づいた。


「霊力そのものをぶつけているんじゃない。波を合わせて崩している……」


柔次郎が頷く。


「柔波掌は霊力を波動として放ち、相手の霊力の流れを乱して相殺する技だ」


清盛は着地すると、すぐに距離を取ろうとする。


だが剛快は逃がさない。


「今度はこっちだ!」


一気に踏み込み、両手へ霊力を込めて連続で打撃を放つ。


「角来流――剛気乱打掌!」


ドドドドドッ!


拳、掌底、肘、裏拳。


次々と攻撃が飛んでくる。


「うおっ!」


清盛が身体を捻りながら避ける。


それでも手数が多い。


「これはきついな!」


その瞬間、清盛が腰の霊木棒へ手を伸ばした。


スッ――


霊力が流れ込む。


「霊装武具――諸行無常」


二本の霊木棒から霊装が形成される。


握りの先から横へ伸びる柄。


旋棍――俗に言うトンファーの形だった。


刀也の目が輝く。


「兄貴カッケー!」


「兄貴ぃ!」


迅まで叫ぶ。


与一が呆れたように二人を見る。


「もう完全に兄貴扱いだな」


旋棍は前腕を覆うように構えることができ、防御に非常に優れた武具だった。


清盛は二本の旋棍で剛快の連撃を受ける。


ガガガガガッ!


ただ防ぐだけではない。


衝撃を横へ流し、腕を回し、旋棍の柄を滑らせながら剛快の拳を次々と受け流していく。


「なるほどな!」


剛快が楽しそうに笑う。


「それが噂の霊装武具か!」


清盛も笑った。


「便利ですよ」


剛快がさらに踏み込む。


「どれほどのもんか見せてもらおう!」


「望むところ!」


剛快の拳と清盛の旋棍。


激しい攻防が続く。


清盛は攻撃を受け流しながら、一瞬の隙を見つけた。


旋棍を回転させる。


「そこ!」


ガンッ!


剛快の脇腹へ打ち込む。


だが剛快は当たる瞬間だけ脇腹を剛で硬化。


直後には清盛の腕へ手を添え、柔で軌道を逸らした。


「うまい!」


清盛が笑う。


「そっちこそ!」


しばらく打ち合った後、剛快が大きく後ろへ下がった。


「一回仕切り直すか!」


だが清盛は逃がさない。


旋棍に流していた霊力を切り替える。


スッ――


形が変わった。


「諸行無常――棍!」


二本の旋棍が一本の長い棍へと変化する。


「今度は棍か!」


晴真が目を輝かせ、小夜も興味深そうに見つめていた。


清盛が棍を構えると間合いが一気に伸びる。


剛快が踏み込もうとした瞬間――


「将門流棍術――百蛇突!」


ドドドドドドッ!


棍の先端が蛇のように何度も伸びる。


胸、肩、腹、脚、顔。


一瞬で何十もの突きが剛快へ襲いかかった。


「ちっ!」


剛快は腕で防ぎながら後退する。


清盛の棍の間合いでは、剛快の拳が届かない。


与一が感心したように頷く。


「なるほど。剛快さんが離れれば棍、近づけば旋棍か」


小夜も頷いた。


「自分の得意な間合いだけで戦ってない」


紅葉も清盛の動きを追いながら言う。


「相手との距離に合わせて武具を変えているんですわね」


剛快は突きを払いながら、さらに距離を取ろうとする。


「こいつは面倒だな!」


清盛が笑った。


「まだですよ!」


棍を地面へ突き立て、そのまま棒高跳びのように身体を浮かせる。


「将門流棍術――飛蛇脚!」


「なに!?」


棍を支点に身体を一気に跳ね上げ、その勢いのまま飛び蹴りを放つ。


ドゴォン!


剛快は両腕を剛で硬化させて防御する。


だが勢いまでは殺し切れない。


ズザザザッ!


剛快の巨体が大きく後ろへ押し飛ばされた。


「おおっ!」


刀也が叫ぶ。


剛快は腕を振りながら笑った。


「いい技だ! 棍を移動にも使うのか!」


清盛は着地するとニヤッと笑う。


「ありがとうございます」


剛快が一歩踏み出す。


その時、清盛が両手を前へ突き出した。


「ついでにもう一発! 霊撃砲!」


ドォォォン!!


「おい!」


剛快が叫ぶ。


巨大な霊力の奔流が真正面から直撃した。


バァァァン!!


煙が道場中央を覆う。


愛理が目を丸くした。


「兄ちゃん容赦ないなぁ」


与一も苦笑する。


「普通あそこから追い打ちするか?」


迅は楽しそうに笑った。


「兄貴ならする!」


やがて煙が晴れていく。


その中心に――


「いってぇ……」


剛快が立っていた。


道着は少し焦げている。


だが倒れていない。


晴真が驚く。


「立ってる!」


柔次郎が笑った。


「霊撃砲が当たる寸前に、剛で全身を硬化したんだ」


剛快が首を回す。


「清盛のやつ容赦ねぇな。結構痛かったぞ」


清盛が苦笑した。


「普通それ、痛かったで済まないんですけど」


道場に笑いが起こる。


剛快も大声で笑った。


「はははは! だから面白いんだよ!」


そして拳を構える。


「さあ清盛、次は何を見せてくれる!」


清盛はその言葉を聞くと、ふっと笑った。


そして道満を見る。


ニヤッ。


「……?」


道満が眉をひそめる。


「なんだ」


清盛は答えず、そのまま腰を落として丹田へ霊力を集めた。


「霊爆轟身!」


ドンッ!


一度目。


さらに霊力が全身を巡る。


「二重――!」


ドンッ!!


清盛の身体から一段強い霊圧が広がった。


晴真が目を見開く。


「二回重ねた!」


道満も立ち上がりかける。


「まさか……」


清盛が笑った。


「お前の三重の巡らせを見て思いついたんだよ!」


「……俺の?」


道満が驚く。


次の瞬間、清盛の姿が消えた。


いや――速すぎて見えない。


「っ!」


剛快が咄嗟に腕を上げる。


ガンッ!


清盛の蹴り。


剛快が防ぐ。


次の瞬間には背後。


右。


左。


再び正面。


凄まじい速度で剛快へ連続攻撃を仕掛けていく。


与一が目を細めた。


「速い……もしかしたら迅より速いんじゃないか?」


迅も素直に頷く。


「ああ」


そして拳を握った。


「流石だ兄貴!」


道満が横から突っ込む。


「そこは悔しがれ」


剛快はかろうじて清盛の連撃を防いでいく。


「本当に面白いやつだ!」


一瞬、清盛の腕を掴む。


その力を利用して柔で身体を流し、一気に投げ飛ばした。


「うおっ!」


清盛が宙を舞う。


だが空中で身体を捻り、綺麗に受け身を取った。


ザッ!


すぐに立ち上がる。


剛快も構え直した。


「よし、今度はこっちの番だ!」


両拳を握る。


丹田から霊力が一気に全身へ広がった。


ズッドォン!!


床が鳴り、空気が震える。


剛快の全身を濃い霊力が覆った。


「角来流――剛気纏身!」


晴真が息を呑む。


「身体能力が……」


柔次郎が頷いた。


「剛による全身強化だ。筋力、速度、反応、防御、そのすべてを一時的に引き上げる」


愛理が思わず口にする。


「霊爆轟身に似てる」


「似ているが少し違う」


道満が剛快を見る。


「霊爆轟身は霊力を爆発的に巡らせる。剛気纏身は全身を剛で強化し続ける技か」


柔次郎が笑った。


「その通り」


道場中央で清盛と剛快が同時に腰を落とす。


互いに笑っていた。


「行きますよ!」


「来い!」


ドンッ!!


二人が同時に地面を蹴り、一気に間合いが消える。


清盛は両手を前へ突き出す。


左右の掌へ霊力が集まった。


「将門流――霊衝双発勁!」


両手から同時に放つ霊衝勁。


一撃ではなく二撃。


左右から剛快の身体の内部を撃ち抜く技。


だが剛快も退かない。


右拳を腰へ引く。


全身の霊力が一本の拳へ集中していく。


それだけではない。


拳から霊力が溢れ始めた。


「行くぞ!」


剛快が踏み込む。


「角来流――剛気爆崩拳!」


拳を放つ。


剛気崩拳。


その正拳突きからさらに圧縮した霊力を前方へ爆発的に放出する。


ドォォォォン!!


清盛の両掌と剛快の拳。


二つの技が真正面から激突した。


「うおおおおっ!」


「はあああっ!」


バァァァァン!!


霊力が弾ける。


だが押し切ったのは剛快だった。


剛気爆崩拳から放出された巨大な霊力が、清盛の身体を正面から呑み込む。


「ぐっ!」


清盛の身体が吹き飛ぶ。


ドンッ!


床へ転がった。


「兄貴!」


刀也と迅が同時に叫ぶ。


清盛が腕をついて起き上がろうとする。


「まだ……!」


顔を上げた瞬間――


ピタッ。


目の前で拳が止まっていた。


剛快の拳だった。


清盛が目を瞬き、少し悔しそうに笑う。


「……負けました」


剛快も笑った。


「今回も俺の勝ちだな!」


柔次郎が手を上げる。


「そこまで! 勝者、角来剛快!」


一瞬の静寂。


そして――


「すげええええ!」


刀也が立ち上がる。


迅も目を輝かせた。


「兄貴すげぇ!」


清盛が苦笑する。


「負けた方だぞ俺」


刀也と迅は剛快を見る。


そして――


「大兄貴!」


「大兄貴!」


剛快が固まった。


「なんだそれ!」


道場中に笑いが広がる。


与一が腹を抱えた。


「また増えた! 兄貴の次は大兄貴かよ!」


清盛も笑う。


「じゃあ俺より上だから大兄貴なのか?」


「そういうことです!」


刀也が真顔で答える。


「勝手に決めるな!」


剛快も笑った。


少し離れた場所では、道満と晴真がすでに今の試合について話していた。


「清盛さんは武具を使って間合いを変えてたね」


「ああ」


道満が頷く。


「旋棍では近距離の防御、棍では中距離の制圧。さらに霊爆轟身で自分から間合いを変える」


晴真が考える。


「剛快さんは逆だね。武器を変えない代わりに剛と柔を切り替えて、どの間合いにも対応してた」


道満が少し笑った。


「その通りだ。清盛さんは道具で戦い方を変え、剛快さんは身体そのもので対応を変える」


「面白いな」


二人ともすでに試合の分析に夢中だった。


その近くでは、小夜が清盛の使っていた霊装武具を思い出していた。


「紅葉ちゃん」


「うん?」


「やっぱり霊装武具って面白いね」


「そうですわね」


紅葉も頷く。


小夜は晴真からもらった霊木棒を見る。


「清盛さんは間合いによって旋棍と棍を使い分けてた。私も薙刀だけじゃなくて、杖に変えればもっと色々できるのかな」


紅葉が笑う。


「小夜ならきっとできますわ」


少し離れたところでは、先ほど試合を終えた愛理と桜華が並んで座っていた。


愛理がため息をつく。


「はぁ……」


桜華も苦笑した。


「まだまだですね、私たち」


「だね」


二人が顔を見合わせて笑う。


その頭上で桜花が腕を組んだ。


「まだまだですね」


愛理と桜華が同時に見上げる。


「なんで桜花が上からなの!」


「そうですよ!」


桜花は胸を張った。


「私は応援していた側なので!」


「関係ないでしょ!」


また笑い声が起こった。


そして、その笑いが落ち着いた頃。


ずっと腕を組んで試合を見ていた剛乃介がゆっくり立ち上がる。


「よし!」


晴真が振り返った。


「はい?」


剛乃介は晴真を見て豪快に笑う。


「次は晴真と俺だな!」


「……え?」


晴真が固まった。


愛理、道満、刀也、迅、与一、小夜、紅葉、清盛、桜華。


全員が一斉に剛乃介を見る。


そして次に晴真を見る。


晴真は自分を指差した。


「僕ですか?」


「おう!」


剛乃介が拳を鳴らす。


ゴキッ。


ゴキッ。


「わしもお前がどれだけやれるのか見てみたい!」


晴真の顔が引きつる。


その横で清盛が笑った。


「頑張れ晴真」


刀也も拳を握る。


「晴真ならいける!」


迅も頷いた。


「大丈夫だ」


一拍置いて――


「多分」


「多分って何!?」


晴真の声が道場に響き、再び大きな笑いが起こった。

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