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第四十二話 放課後の敗北


 放課後。


表佐倉――将門流古武術道場。


「お願いします!」


晴真の元気な声が道場に響いた。


桜がけへ向けた学園での授業を終えたあと。


晴真はそのまま将門家の道場へ修練に来ていた。


そして今日は。


もう一人。


「お邪魔します」


道満も一緒だった。


愛理が道場の玄関のほう見る。


「道満君が一緒に来るの珍しいね」


「ああ」


道満は道場の中を見渡す。


「少し興味があってな」


その視線の先。


道着姿の少年が準備運動をしている。


将門清盛。


晴真より少し年上。


明るく気さくで。


将門流古武術をかなり高い水準で身につけている少年だった。


道満がここへ来た理由も。


清盛だった。


以前。


刀優から聞いた話。


清盛は刀優と本気で手合わせをして。


ほぼ互角。


引き分けるほどの実力があるという。


刀優本人は。


剣術よりも札術の方が好きで。


剣術修練にはそれほど熱心ではない。


それでも。


姉の刀姫から。


――本気で剣術を続ければ私より強くなるかもしれないのに。


そう言われるほどの才能を持っている。


その刀優と。


互角に戦う少年。


(どんな戦い方をするんだ)


道満は単純に興味を持った。


まさか。


自分が戦うことになるとは思っていなかったが――。


「道満」


清盛が笑う。


「せっかく来たんだし」


「少し身体動かさないか?」


「俺とですか?」


「ああ」


清盛が拳を合わせる。


「見てるだけじゃつまんねぇだろ」


道満は少し考えた。


そして。


教経を見る。


「よろしいのですか?」


将門教経が笑う。


「もちろん」


「怪我をしない程度にな」


「ありがとうございます」


道満は立ち上がった。


晴真の目が輝く。


「道満君と清盛さんかぁ」


愛理も興味津々。


「これ面白そう」


清盛が道場の中央へ歩く。


道満も。


霊木で作られた居合用の刀を腰へ差した。


「それでは」


教経が二人を見る。


「始め!」


その瞬間。


道満が丹田へ霊力を集めた。


(まず)


(三重の巡らせ)


一重。


二重。


三重――。


身体中の霊脈へ霊力を巡らせようとした。


だが。


ドッ!


「――っ!」


視界いっぱい。


拳。


清盛の正拳突きが。


道満の鼻先。


ほんの数ミリのところで止まっていた。


「…………」


道満が固まる。


清盛が笑う。


「道満」


「止まりながらやってたら」


「格好の的だぞ」


「くっ……」


道満が後ろへ跳ぶ。


完全に一本取られていた。


だが。


まだ終わりではない。


「もう一度!」


「来い!」


道満が走り出す。


今度は止まらない。


走りながら。


丹田から霊力を全身へ巡らせる。


一重。


二重。


三重!


三重の巡らせ。


一気に速度が上がる。


ダッ!


「速い!」


愛理が声を上げる。


道満は一瞬で清盛との間合いを詰めた。


腰を落とす。


居合。


宵桜ではない。


修練用の霊木刀。


それでも。


道満の居合は十分に速い。


(取った)


柄へ手を掛け。


抜こうとした。


その瞬間――。


ガッ!


「なっ!」


鞘から刀が出ない。


清盛の足。


その足裏が。


道満の刀の柄を押さえていた。


「居合を使うなら」


清盛が言う。


「抜く瞬間を読まれるな」


「っ!」


道満は即座に判断。


一度距離を取る。


後方へ跳ぶ。


だが――。


「離れると思った」


清盛の掌へ霊力が集まる。


「霊撃砲!」


ドンッ!!


「結界!」


バァン!


道満の目の前に結界が展開する。


霊撃砲が激突。


「ぐっ!」


結界が大きく軋む。


なんとか防いだ。


しかし。


清盛はもう動いていた。


腰へ手を伸ばす。


取り出したのは。


二本の短い武具。


旋棍。


清盛が旋棍を回転させる。


ブンッ!


霊力が流れ込む。


「行くぞ!」


ガン!


「っ!」


道満の結界へ。


旋棍が叩き込まれる。


ガン!


ガン!


ガン!


一撃ごとに。


結界へ亀裂が走る。


「硬いな!」


清盛は笑っている。


「でも!」


さらに一撃。


バキッ!


「いつまで持つ!」


道満が歯を食いしばる。


(まずい)


(結界だけでは削られる)


札を取るか。


距離を取るか。


剣を抜くか。


判断。


一瞬。


迷った。


その間にも。


清盛は攻め続ける。


「仕方ない!」


道満は結界を解いた。


同時に霊木刀を抜く。


キィン!


旋棍を刀で受ける。


「おっ!」


清盛の顔が楽しそうに変わる。


道満は刀で押し返す。


「はっ!」


横薙ぎ。


清盛が旋棍で防ぐ。


次。


斜め。


さらに突き。


「いいじゃん!」


清盛が笑う。


だが。


道満の意識が。


刀へ寄った。


次の瞬間。


ブンッ!


「!」


横から足。


清盛の蹴り。


道満は刀で受けようとする。


だが。


(いや)


(間合いを取るべきか)


(それとも)


(このまま剣術で――)


迷った。


一瞬だけ。


その一瞬。


清盛が懐へ入った。


襟。


袖。


掴まれる。


「しまっ――」


ぐるん!


道満の視界が。


天地逆転。


次の瞬間。


ドン!


「ぐっ!」


背中に衝撃。


天井が見える。


「…………」


道満は。


仰向けになっていた。


清盛が見下ろす。


「一本」


「…………」


道満は天井を見る。


見事だった。


何もできなかったわけではない。


三重の巡らせも使った。


結界も。


居合も。


剣術も。


だが。


全部。


清盛に先を取られた。


それ以上に。


自分が迷った瞬間。


必ず。


そこを突かれた。


「…………」


こんなに綺麗に負けたのは。


いつ以来だろう。


そして。


分かる。


清盛は。


本気ではない。


手加減している。


そのうえで。


わざと。


道満の弱点が出るように戦っていた。


立ち上がる。


道満は刀を納めた。


そして。


深く頭を下げる。


「参りました」


清盛が笑う。


「おう!」


道満は顔を上げる。


「清盛さん」


「ん?」


「お願いがあります」


「なんだ?」


「俺も」


少し間を置く。


「こちらの道場でご厄介になれませんか?」


「いいぞ!」


即答。


「ありがとうございます」


「ちょっと待て!」


教経が慌てる。


「清盛!」


「勝手に決めるな!」


「いいじゃん父さん」


「よくない!」


教経は道満を見る。


「道満君」


「君は麻賀多宗家のご子息だろう?」


「はい」


「こちらだけで決められる話では……」


「父には」


道満が答える。


「俺から許可を得ます」


その迷いのない答えに。


教経も少し困ったように笑った。


「では」


「お父様の許可が得られたら」


「正式にということで」


「ありがとうございます」


道満がもう一度頭を下げる。


そして清盛を見る。


「よろしくお願いします」


清盛が笑う。


「おう!」


横で見ていた愛理が吹き出した。


「なんか」


「うちの道場やばくなってない?」


晴真が首を傾げる。


「何が?」


「だって」


愛理は指を折る。


「御堂の血筋の晴真君」


次。


「麻賀多宗家の道満君」


二人を見る。


「こんな町道場に二人揃って入門って」


笑う。


「やばくない?」


晴真も苦笑した。


「確かに……」



手合わせが終わると。


清盛は道満の前へ座った。


「さっきのな」


「はい」


「道満は技そのものはすげぇよ」


「三重の巡らせも」


「結界も」


「居合も」


「俺より上手いものだってある」


「…………」


道満は黙って聞く。


「でも」


清盛が指を立てる。


「技を選ぼうとしすぎる」


道満の眉が動く。


「相手がこう来た」


「じゃあ何を使う」


「結界か」


「札か」


「剣か」


「距離を取るか」


「全部頭の中で選んでる」


「…………」


思い当たる。


「考えるのは悪くない」


清盛が笑う。


「むしろお前の長所だと思う」


「でも」


「近距離じゃ」


自分の拳を道満の前へ出す。


「考えてる間に殴られる」


「……その通りですね」


道満は素直に認めた。


「だから」


清盛が笑う。


「身体にも覚えさせようぜ」


「考える前に動けるようにな」


道満は。


少し驚く。


どこかで聞いたような話だった。


クシナダが刀也へ教えていた。


何度も反復し。


身体へ染み込ませる。


考えるより早く身体が動くまで。


「なるほど」


道満が小さく笑った。


「俺には必要な修練かもしれません」


「だろ?」


清盛が肩を叩く。


「一緒にやろうぜ」


「はい」



そんな二人を見ながら。


晴真は愛理へ尋ねた。


「ねぇ愛理ちゃん」


「何?」


「清盛さん」


清盛を見る。


「どうして道満君の三重の巡らせについていけたの?」


「ああ」


愛理は納得した。


「将門流にもあるんだよ」


「身体強化?」


「そう」


「でも巡らせとはちょっと違う」


「どう違うの?」


愛理が立ち上がる。


「見せた方が早いかな」


道場の中央へ移動する。


足を肩幅に開く。


息を整える。


「まず」


「丹田へ霊力を集める」


晴真の目が。


愛理の霊力を追う。


腹部。


丹田。


そこへ霊力が。


圧縮されるように集中していく。


「それを」


愛理が腰を落とす。


「爆発させるみたいに」


「一気に全身へ放つ!」


ズドンッ!!


空気が震えた。


愛理の霊力が。


丹田から。


腕。


脚。


背中。


全身の霊脈へ。


一瞬で爆発的に広がる。


その瞬間。


愛理の身体能力が跳ね上がった。


踏み込み。


シュッ!


一瞬で数メートル移動する。


「うわ!」


晴真の目が輝く。


愛理が振り返る。


「こんな感じ」


拳を握る。


「将門流――」


「霊爆轟身」


晴真が呟く。


「れいばくごうしん……」


「一気に霊力を全身へ爆発させて」


愛理が説明する。


「筋力」


「速度」


「反応」


「全部を一時的に引き上げる技」


晴真は。


愛理を見ていなかった。


正確には。


その身体に流れる。


霊力を見ていた。


丹田から。


どの霊脈へ。


どの順番で。


どれほどの霊力が流れたか。


金桜眼を発現させていない。


それでも。


晴真は。


なんとなく。


分かった。


「…………」


愛理が嫌な予感を覚える。


「晴真君?」


「なんとなく」


「え?」


晴真が構える。


「できそう」


「ちょっと待って!」


だが遅い。


晴真が丹田へ霊力を集める。


(ここに)


(集めて)


(それを)


(爆発させるように)


一気に――。


放つ。


ズドォォォン!!


「うわぁぁぁ!」


道場の空気が爆発した。


「晴真!」


教経が叫ぶ。


晴真の身体から。


凄まじい霊力が吹き上がる。


そして。


瞳。


金色。


そこに。


美しい桜が咲いた。


金桜眼。


「…………!」


教経が目を見開く。


重盛も。


その姿を見る。


晴真自身も。


分かる。


身体が軽い。


視界が違う。


音が鮮明。


脚へ力を入れれば。


普段とは比較にならないほど強い。


「すごい……!」


一歩。


ドン!


床が鳴る。


「こんなに変わるんだ!」


だが。


その瞬間。


晴真の集中が。


ほんの少しだけ。


途切れた。


ふっ。


霊力が消える。


金桜眼も。


消えた。


「あれ?」


晴真が自分の身体を見る。


「解けちゃった」


「そりゃそうだよ!」


愛理が叫ぶ。


教経も苦笑した。


「晴真君」


「今のは霊力を使いすぎだ」


「え?」


「霊爆轟身は」


教経が説明する。


「ただ全力で霊力を放てばいいわけじゃない」


「必要な分だけ」


「必要な霊脈へ」


「均等に放つ」


「それを維持するんだ」


「今みたいに全力で身体強化したら」


「少し集中が切れただけで解ける」


さらに。


「普通の人間なら」


「霊力もすぐ空になる」


晴真が。


少し気まずそうに笑う。


「僕の場合は?」


「…………」


教経も笑う。


「そこは例外だな」


「ですよね」


愛理がため息をつく。


教経は。


改めて晴真を見る。


「しかし」


「本当に一度見ただけで……」


以前。


話には聞いていた。


霊撃砲。


愛理が一度使っただけ。


それを晴真は再現した。


その話を聞いた時も。


半信半疑だった。


だが。


今。


目の前で見た。


「これが……」


教経が呟く。


「晴隆様と晴時様がおっしゃっていた」


「金桜眼か」


晴真が振り返る。


「伯父さんたちが?」


「ああ」


教経は頷く。


晴隆と晴時が。


晴真の入門を頼みに来た日。


二人は。


一つだけ。


将門家へ伝えていた。


――晴真は龍姫様以来となる金桜眼の持ち主です。


――これから先、この子は皆様を驚かせることが何度もあると思います。


――どうか、よろしくお願いいたします。


教経は当時。


少し大袈裟だと思った。


だが。


「なるほどなぁ……」


晴真を見る。


「こういう意味だったのか」


「?」


晴真だけ分かっていない。



そして。


その光景を。


黙って見ている少年がいた。


道満。


「…………」


愛理の霊爆轟身。


晴真の再現。


二つ。


じっと見ていた。


道満が立ち上がる。


「なるほど」


「え?」


愛理が振り返る。


「道満君?」


「丹田へ集中させ」


自分の腹部へ手を当てる。


「一気に全身へ」


「爆発させる」


「ちょっと待って」


愛理の顔が引きつる。


「まさか」


道満が。


霊力を丹田へ集める。


晴真ほどではない。


だが。


極めて精密。


無駄がない。


そして。


「こうか」


ドンッ!


霊力が。


一気に全身へ広がる。


「…………」


愛理が固まる。


清盛も。


教経も。


固まる。


道満が手を握る。


「確かに」


「三重の巡らせとは違うな」


その瞳。


ほんの一瞬だけ。


淡い銀色の光。


銀桜。


僅かに。


咲いた。


「…………」


重盛だけが。


その瞳を見ていた。


そして。


小さく呟く。


「なるほど」


「金桜が咲く時」


「銀桜もまた咲く」


皆が見る。


だが重盛は。


一人。


納得するように頷いていた。


「古い伝承は」


「本当じゃったのだなぁ」


清盛は。


そんなことより。


目の前の二人に驚いている。


「すげぇな!」


晴真。


道満。


二人を見る。


「お前ら二人とも」


「本当に一回見ただけじゃん!」


「…………」


愛理が。


深いため息をついた。


「あのね」


二人が見る。


「晴真君」


「道満君」


「はい」


「なんだ?」


愛理は腰へ手を当てる。


「そんな簡単にできちゃうと」


「将門流が大したことないみたいに思われるでしょ!」


「…………」


晴真と道満が顔を見合わせる。


そして。


「すみません」


「すまない」


二人とも。


苦笑い。


清盛が大笑いする。


「いいじゃん!」


「できる奴がすげぇだけだろ!」


「清盛兄ちゃんは黙ってて!」


「なんで!?」



晴真は。


まだ気になっていた。


「でも」


皆を見る。


「なんでこんなに」


「金桜眼と相性がいいんだろう」


霊撃砲。


そして。


霊爆轟身。


将門流古武術の技は。


晴真が見ると。


妙に理解しやすい。


まるで。


知っていたものを。


思い出しているような。


不思議な感覚。


すると。


重盛が口を開いた。


「それなら」


「一つ心当たりがある」


「本当ですか?」


「ああ」


重盛は。


道場の奥に掲げられた将門流の額を見る。


「将門流古武術の基となった技は」


「我らの先祖が」


「クシナダ様より伝授していただいたものじゃ」


「クシナダから?」


晴真が驚く。


「うむ」


「長い年月をかけて」


「将門家なりに変化させてきたが」


「根はクシナダ様の武術」


「金桜眼と何か縁があっても」


「不思議ではないのかもしれん」


「なるほど……」


晴真は自分の掌を見る。


その時――。


ガラガラ。


道場の戸が開いた。


「失礼いたします」


聞き慣れた声。


「あ!」


晴真が振り返る。


そこには。


眼鏡を掛けた春花。


「春花さん!」


「お迎えに参りました」


春花は道場へ入り。


教経たちへ丁寧に頭を下げる。


「晴真様がお世話になっております」


「こちらこそ」


教経も頭を下げる。


春花は晴真を見る。


「どうですか?」


「修練は」


「あ!」


晴真が近づく。


「春花さん」


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「何でしょう」


「新しい技覚えたんだけど」


「金桜眼とすごく相性が良くて」


晴真は首を傾げる。


「なんか不思議なんだよね」


「そうなのですか?」


春花が少し興味を示す。


「将門流は晴真様と相性が良いとは思っておりましたが」


「そこまでですか」


「うん」


春花は微笑む。


「では」


「その技を拝見してもよろしいですか?」


「うん!」


晴真が道場中央へ。


息を整える。


丹田。


霊力。


今度は。


さっきより。


丁寧に。


流れを意識する。


「将門流――」


丹田へ霊力を圧縮。


「霊爆轟身!」


ドンッ!!


霊力が。


全身へ爆発的に広がった。


同時に。


瞳へ。


金色の桜。


春花の目が。


大きくなる。


「…………!」


晴真は。


今度は集中を切らさない。


足を運ぶ。


将門流の構え。


踏み込み。


正拳。


掌底。


蹴り。


身体能力が。


爆発的に引き上げられている。


それでも。


霊力の流れは。


先ほどより安定。


春花は。


技そのものではなく。


その姿を。


じっと見ていた。


霊力の流れ。


足運び。


腰。


肩。


掌。


金桜眼。


そして。


将門流の型。


「…………」


春花の表情が。


変わる。


驚き。


そして。


納得。


「なるほど」


晴真が動きを止める。


集中が途切れる。


ふっ。


霊爆轟身が解け。


金桜眼も消える。


「はぁ……」


晴真が春花を見る。


「春花さん」


「分かったの?」


「はい」


春花は。


教経。


重盛。


清盛。


愛理。


そして晴真を見る。


「分かりました」


「将門流古武術は」


「クシナダ様から伝授されたもの」


「そう伺いました」


重盛が頷く。


「はい」


「先祖よりそのように伝わっております」


「それは間違いではありません」


春花が答える。


「ですが」


「クシナダ様が」


「一から考案された武術ではございません」


「え?」


重盛が目を見開く。


春花は晴真を見る。


「この武術を最初に考案されたのは」


少し間を置く。


「龍姫様です」


「…………」


道場が。


静まり返る。


「龍姫様?」


教経が聞き返す。


「はい」


「龍姫様は金桜眼の力を」


「より効率よく身体へ巡らせ」


「接近戦で扱うための武術体系を作られました」


晴真が驚く。


「じゃあ」


「これって龍姫様の……」


「はい」


春花が頷く。


「それをクシナダ様が受け継ぎ」


「人間の霊脈や身体能力でも扱えるよう」


「技を整理し」


「負担を減らし」


「編纂されたもの」


春花は。


道場を見渡す。


「それが」


「将門流古武術の源流です」


「…………」


晴真は。


自分の掌を見る。


それなら。


納得できる。


霊撃砲を見た時。


霊爆轟身を見た時。


感じた。


妙な懐かしさ。


理解しやすさ。


「だから」


晴真が小さく笑う。


「金桜眼と相性がいいんだ」


「その通りです」


重盛は。


しばらく言葉が出なかった。


「本当ですか……」


「はい」


春花がはっきり言う。


「間違いありません」


教経も呆然。


「龍姫様が考案し」


清盛が続く。


「クシナダ様が人間用に作り直した武術……」


愛理も。


ぽかん。


「うちの町道場」


「思ったよりすごくない?」


清盛が笑う。


「今さらかよ!」


「だってお爺ちゃん」


「家伝とか一子相伝とか盛ってたじゃん!」


「それとこれとは別じゃ!」



その時。


愛理の目が。


きらり。


「春花さん」


「はい?」


「これ」


一歩近づく。


「チャンスでは?」


「?」


春花が首を傾げる。


「何のことでしょう」


「道場を盛り上げるチャンス!」


「…………」


愛理が指を立てる。


「考えてみてください!」


「御堂家の血筋」


晴真を指差す。


「桜晴真君が入門!」


次。


「麻賀多宗家!」


道満。


「麻賀多道満君も入門予定!」


さらに。


道場を指差す。


「そして!」


「龍姫様が考案!」


「クシナダ様が編纂!」


愛理が両手を広げる。


「将門流古武術!」


「…………」


春花の眼鏡が。


きらっ。


晴真が。


嫌な予感を覚える。


「あ」


道満も。


気づいた。


「これは」


春花が。


口元へ笑みを浮かべる。


「確かに」


「良い時期ですね」


「ですよね!」


愛理が喜ぶ。


春花は。


完全に考え始めている。


「御堂家の血筋である晴真様」


「麻賀多宗家のご子息である道満様」


「お二人が学ばれている」


「そのうえ」


「龍姫様が考案」


「クシナダ様が人間向けに編纂」


「由緒としても申し分ありません」


重盛が。


少し困惑。


「いや」


「そこまで大々的にせんでも……」


「何言ってるのお爺ちゃん!」


愛理が叫ぶ。


「門下生増やしたいんでしょ!」


「それはそうじゃが……」


「でしたら」


春花が微笑む。


「私からクシナダ様へお願いして」


「由来について一筆いただきましょうか」


「えぇ!?」


教経が驚く。


そこへ。


「それいいじゃない!」


さらに声。


道場の奥から。


一人の女性が顔を出した。


将門愛美。


愛理の母。


「お母さん!」


愛美は。


すでに話を聞いていたらしい。


「龍姫様とクシナダ様の武術なら」


「ちゃんと皆さんに知ってもらった方がいいわよ!」


愛理が頷く。


「だよね!」


「問題は」


愛美が考える。


「どう宣伝するかね」


その瞬間。


春花が笑った。


「それでしたら」


皆が見る。


「私に」


眼鏡へ指を添える。


「良いご縁がございます」


「…………」


男性陣。


晴真。


道満。


清盛。


教経。


重盛。


全員が。


なぜか。


背筋に寒いものを感じた。


一方。


愛理。


愛美。


女性陣は。


目を輝かせる。


「本当ですか!」


「はい」


春花は立ち上がる。


「少々お時間をいただけますか?」


「どこへ行くんです?」


晴真が尋ねる。


「すぐ戻ります」


次の瞬間。


春花が。


一歩。


踏み出す。


シュン!


「え?」


姿が消えた。


「…………」


清盛が。


道場の入口を見る。


「今」


「何した?」


道満が真剣な顔で答える。


「歩法だ」


「歩法!?」


「あれが!?」


もう。


春花の姿は。


どこにもない。


晴真が苦笑する。


「春花さん」


「またすごくなってる……」


だが。


晴真たち男性陣の脳裏に残ったのは。


去り際。


眼鏡越しに見えた。


春花の笑顔。


にっこり。


「…………」


清盛が小声で言う。


「なんか」


「嫌な予感しない?」


晴真が頷く。


「する」


道満も。


「かなりする」


教経も。


「私もだ」


重盛が。


遠い目。


「何か大事になりそうじゃのう……」


その反対側。


愛理と愛美は。


わくわくした顔。


「何してくれるんだろ!」


「楽しみね!」


男たち。


女たち。


完全に。


温度差があった。


その日。


将門流古武術道場は。


二つの大きな出来事を迎えた。


道満の入門希望。


そして。


四百年近く知られていなかった。


将門流の真の源流。


龍姫が生み。


クシナダが人へ伝えた武術。


それが。


再び。


金桜眼を持つ少年の手へ戻ってきた。


そして。


誰も知らない。


春花が。


一体どこへ向かったのか。


ただ一つ確かなのは。


彼女があの笑顔を見せた時。


たいてい。


何か大きなことが始まる。


ということだった。

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