第三十六話 裏佐倉ふるさと広場
翌日の昼休み
一年一組を代表して凛は職員室を訪れていた。
「正臣先生、今度の休日なのですが一年一組のみんなで裏佐倉ふるさと広場へ行きたいんです」
机で書類を読んでいた正臣が顔を上げる。
「ふるさと広場?」
「はい、クラス全員二十五人で行く予定です」
「…………」
正臣の表情が少しだけ曇った。
「うーん……」
凛が不安そうに尋ねる。
「ダメですか?」
「いや、チーム研修も頑張ったし、せっかくクラス全員で行くんだ。俺だって行かせてやりたいんだが……」
近くにいた紫苑が振り向く。
「どうしたんですか?」
玄も顔を上げた。
「何か問題でも?」
正臣は凛をちらりと見ると深いため息をついた。
「いやぁ……こいつらだけで行かせると、また何か問題に巻き込まれそうでなぁ」
「…………」
凛が苦笑した。
否定できない。
入学してから晴真たち一年一組が学園の外へ出れば何かが起こる。
宮小路町
草笛の丘
豪斎の暴走
直弥との遭遇
もはや偶然とは思えないほどだった。
「確かにな」
玄も納得してしまった。
「では教師が同行すればいいんじゃないか?」
「え?」
「俺も行ってやる」
正臣が玄を見る。
「いいんですか?」
「ああ、どうせ休日だ」
玄は笑った。
すると紫苑も口を開く。
「でしたら私も行きます」
「紫苑先生も?」
「ええ。このところ色々ありましたから、たまには生徒たちと遊びに行くのもいいでしょう」
そして何か思いついたように笑う。
「沙羅も誘いましょう」
「……俺が?」
正臣が嫌そうな顔をする。
「ええ、誘ってきてください」
「なんで紫苑先生が誘わないんですか」
「ふふふ」
紫苑はいたずらっぽく笑った。
「たまには正臣先生から誘ってあげた方が沙羅、喜ぶんじゃないですか?」
「…………」
正臣が顔を引きつらせる。
凛は
(仲がいいんだなぁ)
と思いながら黙って笑っていた。
こうして教師陣の同行を条件に、一年一組二十五人の裏佐倉ふるさと広場への外出が認められた。
◇
そして待ちに待った休日。
朝。
黒桜寮の玄関前には一年一組の生徒たちが集まっていた。
「おーい!」
寮母の鍋山摩季が大きな包みをいくつも抱えて出てくる。
「これ持ってきな!」
「わぁ!」
美鈴が目を輝かせる。
「お弁当ですか?」
「二十五人分。それに先生たちの分もあるよ」
摩季は豪快に笑う。
「せっかくのお出かけなんだから腹いっぱい食べてきな!」
豪太の目が輝いた。
「摩季さん、大好きです!」
「食い物がある時だけ言うんじゃないよ!」
「本心です!」
「はいはい」
皆が笑う。
摩季は改めて二十五人を見ると少しだけ優しい表情になった。
「最近お前たち色々ありすぎたからねぇ。今日は余計なこと考えないで思いっきり楽しんできな」
「はい!」
「行ってきます!」
「気をつけてね!」
一年一組は元気よく黒桜寮を出発した。
◇
学園へ到着すると正臣、玄、紫苑
そして――
「おっせぇぞ!」
腕を組んで待っていた沙羅
その隣には春花もいた。
「沙羅さん!」
晴真が手を振る。
「おう、今日はよろしくな」
「はい!」
一行が向かったのは学園の霊馬小屋
そこではいつものように木之子牧人が待っていた。
「おはようございます」
「おはようございます!」
牧人は二十五人を見渡す。
そしていとこの――小夜を見つけた瞬間、表情が緩んだ。
「小夜」
「はい」
「今日は遠出か」
「はい、ふるさと広場へ」
「そうか」
牧人は満足そうに頷くと周囲の生徒たちへ言った。
「皆さん、小夜は大人しいですが非常に気が利く子です」
小夜の顔が一瞬で赤くなる。
「牧人兄さん?」
「それから料理もかなり上手です」
「牧人兄さん」
「霊獣にも好かれますし」
「牧人兄さん!」
「将来とても――」
「やめてください!」
小夜が真っ赤な顔で止める。
「皆さんの前で何を言ってるんですか!」
「…………」
牧人が見るからに落ち込んだ。
「小夜の良いところを知ってもらおうと……」
「必要ありません!」
「……そうか」
がっくり肩を落とし、牧人は霊馬小屋の奥へ戻っていった。
刀也が呟く
「毎回あれやってない?」
迅が頷く。
「やってる」
小夜はまだ真っ赤だった。
◇
晴真も自分の霊馬のもとへ向かう
そこには美しい毛並みの霊馬――月桜
「月桜!」
ヒヒン!
月桜が嬉しそうに晴真へ首を寄せる。
晴真は笑いながらその首筋を撫でた。
「今日はよろしくね」
月桜も晴真の頬へ鼻先を押しつける。
「くすぐったいよ」
ほかの生徒たちもそれぞれ自分の霊馬へ乗る。
与一の黒曜毛。
小夜の白桜毛。
それぞれの霊馬が次々と小屋から出てくる。
ところが晴真が周囲を見渡す。
「あれ? 沙羅さん」
「はい?」
「霊馬は?」
「あたしはこれだよ」
沙羅がにやりと笑う。
ブォン!
何とも場違いな低い駆動音。
「え?」
建物の横から姿を現したのは一台の式神バイク。
しかも横にはサイドカーまで付いている。
「…………」
一年一組が一斉に固まる。
晴真の目が輝いた。
「うわ! すごいかっこいい!」
「だろ?」
沙羅は得意げだ。
「ミヅチ特製、式神バイク・サイドカー付き!」
「何でそんなの作ったんですか……」
正臣が呆れる。
サイドカーには当然のように春花が座っていた。
春花は眼鏡を直す。
「乗り心地は悪くありませんよ」
「春花さんも乗るんだ……」
晴真が笑う。
そしてふと気づいた。
「あれ? ミヅチは?」
チヨヒメ、クシナダ、銀花、珠代。
いつもなら顔を出しそうな神の眷属たちもいない。
春花が説明する。
「裏佐倉ふるさと広場は印旛大龍王様のお膝元、印旛沼に非常に近い場所です。そのためミヅチ様たちは大勢で押しかけるのは不敬にあたるとして今回は遠慮なされました」
「へぇー」
刀也が感心する。
「神様たちにも色々あるんだな」
春花がくすりと笑う。
「むしろ人間より、しきたりやしがらみが多いかもしれませんね」
「神様も大変なんだ」
晴真が妙に納得した。
「では」
正臣が霊馬へ跨がる。
「全員いるな?」
「はい!」
「出発するぞ!」
「おー!」
二十五頭の霊馬。
教師たち。
そして――。
ブォン!
一台だけ妙に目立つ式神バイク。
一行は裏佐倉ふるさと広場を目指して走り出した。
◇
風が頬を撫でる。
蹄が地面を蹴る。
パカラッ、パカラッ。
通学や修練で何度も通ったことのある道。
それでも霊馬の背に乗り皆で走れば、まるで違う景色に見える。
「気持ちいい!」
晴真が笑う。
月桜も楽しそうに速度を上げた。
「晴真!」
刀也が横へ並ぶ。
「競争しようぜ!」
「駄目ですよ!」
すぐ後ろから凛。
「集団行動です!」
「はい!」
「刀也、お前凛に怒られるの早すぎ」
迅が笑う。
「うるせぇ」
そんなやり取りをしながら一行は進んでいく。
すると道満が晴真の横へ霊馬を寄せた。
「そういえば晴真」
「何?」
「将門流の道場、もう行ったのか?」
「ああ、行ったよ」
晴真が笑う。
「どうだった?」
「それがね……晴時伯父さんとお爺ちゃんが一緒についてきちゃって」
「…………」
道満が晴真を見る。
玄も後ろから話を聞いていた。
「まさか御堂家当主と先代当主が二人揃って町道場へ行ったのか?」
「はい」
玄が吹き出す。
「そりゃ驚くだろ。ある日突然、自分の道場に御堂家の現当主と先代が現れたんだぞ」
「やっぱり?」
「当たり前だ」
晴真はその日のことを思い出した。
◇
数日前。
表佐倉。
将門流古武術道場。
古びてはいるものの、長い年月大切に使い込まれてきたことが分かる。
そんな町道場の前へ四人が立っていた。
桜晴真
御堂晴時
御堂晴隆
春花
「…………」
道場の中では将門愛理の父――将門教経。
そして祖父――将門重盛。
二人が明らかに緊張していた。
「まさか御堂家当主様が直々にお越しになるとは……」
教経が晴時を見る。
晴時は丁寧に頭を下げた。
「突然の訪問、申し訳ありません」
「い、いえ!」
「それから」
晴時が晴真を見る。
「家伝とされている御家の技を甥の晴真が許可なく使用してしまいました」
晴真も頭を下げる。
「すみませんでした」
「いやいやいや!」
教経が慌てる。
晴時は続けた。
「そこで将門流は家伝の武術と聞いておりますが、ぜひ甥へご教授いただけないでしょうか」
「…………」
教経が困ったような顔をして父の重盛を見る。
「父さん……」
「…………」
重盛は少し顔を赤くしていた。
「その……御堂様」
「はい」
「これは非常に言いにくいのですが……」
晴隆が首を傾げる。
「なんじゃ?」
重盛が観念したように言った。
「私どものような町道場は門下生を集めるのもなかなか大変でしてな。その、少し格好をつけるために……」
視線を逸らす。
「家伝、一子相伝、秘伝などと……」
「…………」
晴真が瞬きをする。
愛理も横で聞いていた。
「え?」
重盛が続ける。
「まあ多少、見栄を張っておりまして……」
「マジでぇ!?」
愛理の悲鳴が道場に響いた。
「お爺ちゃん! 私、晴真君にめちゃくちゃ偉そうに言っちゃったよ! 家伝なんだから勝手に使うなって! 恥ずかしい!」
「仕方ないだろう! 道場を守るためだ!」
重盛も赤くなる。
すると晴隆が豪快に笑った。
「はっはっはっは! 良いではないか!」
愛理が振り返る。
「え?」
「見栄も反骨精神も、武術を守ろうとする意地も、それも含めて将門流の強さじゃとわしは思うぞ」
重盛が驚く。
「御堂様……」
「それに実際、この武術は晴真と相性が良い。人を殴ることを好まぬ晴真でも霊力を使った打撃なら新しい道が見つかるかもしれぬ」
そして晴隆は重盛へ頭を下げた。
「ぜひ孫へ将門流を教授してくだされ」
「そんな! 頭をお上げください!」
教経も続く。
「私どものような町道場の技でよろしければ、むしろ御堂家に連なる方へ教えられるなど光栄です」
晴真がぱっと顔を明るくする。
「ありがとうございます!」
教経は晴真を見る。
そしてふと尋ねた。
「そういえば晴真君は桜晴臣さんの息子さんなのですね」
「はい、父をご存じなんですか?」
教経が笑う。
「学生時代、少しお世話になりました」
「そうなんですか?」
「ああ。晴臣さんは本当に誰にでも分け隔てなく接する方でした。家柄も寮も学年も関係なく、気さくに話しかけてくれてね」
晴真は少し照れくさそうに笑った。
「へへ」
父親を褒められる。
それがなんだかすごく嬉しかった。
その時――。
ガラッ!
道場の戸が開いた。
「ただいまー!」
元気な声。
少年が一人入ってくる。
「ん? お客さん?」
「こら!」
教経が怒鳴る。
「清盛! 失礼だぞ!」
「え?」
少年が首を傾げる。
将門清盛。
晴真より少し年上に見える。
活発そうな目。
日に焼けた顔。
道着姿。
いかにも身体を動かすことが好きそうな少年だった。
「こちらは御堂家当主の晴時様、そして先代当主の晴隆様だぞ」
「…………」
清盛が固まる。
そして――。
「えぇぇぇ!? なんでそんな偉い人がうちの道場に!?」
「声が大きい!」
「痛っ!」
教経が清盛の頭を叩く。
愛理が呆れる。
「清盛兄ちゃん、晴真君がうちで将門流を習いたいんだって」
「晴真?」
清盛がじっと見る。
「桜晴真?」
「はい」
「おお!」
突然目を輝かせた。
「愛理が言ってた奴! 一回見ただけで霊撃砲撃っちゃった奴だろ!」
「……はい」
晴真が気まずそうに笑う。
「それに刀優からも聞いた!」
晴真が驚く。
「刀優さんと知り合いなんですか?」
「知り合いっていうか親友。寮は違うけどな」
「へぇー!」
「刀優いわく規格外って言ってた」
晴真が少ししょんぼりする。
「刀優さんまで……」
愛理が笑う。
「みんな思ってるから」
「そんなぁ」
すると清盛がにやっと笑った。
「よし、手合わせしようぜ!」
「え?」
「三人の当主にも勝ったんだろ?」
「いや、僕一人で勝ったわけじゃないです。十五人で戦ったんです」
「でも戦ったんだろ?」
「それは……」
晴真はちらりと晴隆を見る。
晴隆は楽しそうに笑っていた。
「行ってこい。胸を借りるつもりで手合わせしてもらえ」
「はい!」
肩の上では桜花が拳を握る。
「晴真様、頑張ってください!」
「うん!」
すると桜花はぴょんと晴真の肩から愛理の肩へ飛び移った。
「え?」
「私はこちらで応援します!」
愛理の目が一瞬で輝いた。
「か……かわいい……!」
「ありがとうございます!」
「かわいい! 小さい! 髪さらさら!」
「きゃぁぁ!」
桜花を愛理が完全に気に入ってしまった。
晴真は苦笑する。
「桜花、ほどほどにね」
◇
二人が道場中央へ出る。
「晴真、本気で来いよ」
清盛が構える。
「はい」
「始め!」
教経の声。
晴真は構えた。
しかし動かない。
「…………」
清盛が少しだけ笑う。
(なるほど)
すぐに分かった。
(こいつ、自分から攻めるタイプじゃねぇな)
なら――。
清盛から仕掛ける。
ダッ!
一気に距離を詰める。
右拳。
晴真は目を見開く。
(来た!)
待っていた。
腕を取る。
体勢を崩し合気術へ――。
「今だ!」
晴真が清盛の腕を掴んだ。
その瞬間――。
ドンッ!
「――っ!」
腹部に突然、鈍い衝撃が走った。
「うっ!」
晴真がその場にうずくまる。
「晴真様!」
桜花が立ち上がる。
しかし清盛は笑っていた。
「大丈夫、手加減してる」
晴真が腹を押さえながら顔を上げる。
「今の……何?」
清盛が自分の掌を見せた。
「霊衝勁」
「れいしょうけい?」
「ああ、いわゆる発勁だな」
「発勁って気をぶつけるやつですか?」
「うちの流派は、霊気だけどな」
清盛が晴真へ手を差し出す。
「拳で殴る技じゃない。掌から相手の中へ霊力の衝撃を打ち込む」
晴真がその手を取って立つ。
「霊力の衝撃……」
「そう」
清盛が笑う。
「人を殴るの苦手なんだろ?」
晴真が驚く。
「分かるんですか?」
「見りゃ分かる」
清盛は笑う。
「だからこれなら、お前にも使いやすいと思うぞ」
晴真の目が輝く。
「はい!」
「じゃあ次、晴真から打ってこい」
「え?」
晴真の動きが止まる。
「僕から?」
「ああ」
「でも……」
「大丈夫」
清盛は自分の胸を軽く叩く。
「これは組み手だ。喧嘩じゃない」
晴真を見る。
「全力で来ない方が相手に失礼だぞ」
「…………」
晴真は少し考える。
そして――。
「分かりました」
構える。
清盛が説明する。
「霊力を掌へ集めろ」
晴真が丹田から霊力を動かす。
霊脈。
腕。
掌。
「そう。ただ集めるだけじゃ駄目だ。相手の身体へ打ち込むイメージを持て」
晴真の掌に淡い霊力が集まる。
「そして触れる寸前、一気に放つ」
「はい!」
晴真が踏み込む。
掌底。
清盛の胸へ。
「そこだ!」
パァン!
「おっと」
清盛が身体を僅かにずらす。
晴真の霊力が横へ流れる。
「今の感じ! 悪くない!」
「もう一回!」
「はい!」
何度も打つ。
清盛が受ける。
いなす。
ずらす。
そのたびに声を飛ばす。
「腕だけで打つな!」
「はい!」
「足から、腰、最後に掌!」
「はい!」
「霊力を先に出すな! 相手へ触れる瞬間!」
「はい!」
晴真の動きが少しずつ変わっていく。
そして十数回。
清盛が尋ねる。
「どうだ? コツ掴んだか?」
晴真が息を整えながら頷く。
「はい、なんとなく」
「じゃあ両手でやってみろ」
「両手?」
「ああ、左右同時だ」
清盛が腰を落とす。
「来い!」
「はい!」
晴真が両掌へ霊力を集める。
(相手に打ち込むように)
足。
腰。
肩。
腕。
掌。
そして触れる寸前――。
「今!」
ドンッ!!
「おっ!」
清盛の表情が変わった。
「こりゃすげぇ!」
二つの掌から想像以上の霊力が押し寄せる。
まともに受ければ、いくら手加減されているとはいえ危険。
清盛も左右の掌へ霊力を集める。
晴真の掌へ触れ、力の方向を僅かにずらす。
ゴォッ!
晴真の霊力が清盛の両脇を抜けた。
背後。
道場の壁がビリビリと震える。
「…………」
晴真が固まる。
「え?」
愛理も口を開けたまま。
「今の……」
清盛は楽しそうに笑っている。
「いいじゃん晴真! お前やっぱすげぇ才能あるぞ!」
「ありがとうございます!」
少し離れたところ。
春花が静かに二人の組み手を見ていた。
眼鏡の奥、その目がいつも以上に真剣になる。
「ご隠居様」
晴隆が見る。
「なんじゃ?」
「これは飛んだ掘り出し物を見つけましたね」
「ほう」
「あの少年、なかなか見どころがあります」
清盛を見る。
「自分が技を見せるだけではなく、相手の癖を瞬時に読み晴真様が理解しやすい形へ教え方を変えている」
晴時も清盛を見る。
「確かに」
春花は続ける。
「それに晴真様へ遠慮がありません。御堂家の血筋、金桜眼、そういったものを気にせず一人の武術仲間として接している」
そして春花は微笑んだ。
「晴真様の成長に欠かせない存在になり得るかと」
晴隆が嬉しそうに笑う。
「春花殿のお眼鏡にかなうとは、なかなかの少年じゃ」
晴時も頷く。
「将門流なら安心して晴真を任せられそうですね」
そして教経と重盛へもう一度頭を下げる。
「晴真をよろしくお願いします」
「こちらこそ!」
重盛も頭を下げた。
◇
一方。
清盛は晴真の肩をバンと叩いていた。
「いやぁ晴真! お前本当に面白いな!」
「ありがとうございます」
すると重盛が慌てて止める。
「清盛、こら! 御堂家の御子息になんて口の利き方だ!」
「え? 晴真って呼んでるじゃん」
「それが駄目だと言っている!」
すると――。
「いやいや、そういうのは気にせんでよい」
晴隆が笑う。
「しかし……」
「晴真本人も気にせんから」
晴隆は孫を見る。
「そうじゃろ?」
晴真はにこっと笑う。
「はい! 晴真って呼んでください」
清盛が笑う。
「ほら、本人が言ってる!」
「お前は少し遠慮を覚えろ!」
また道場に笑い声が広がった。
教経はその様子を見ながらふと思った。
(晴臣さんのあの気さくさは……)
ちらりと晴隆を見る。
豪快に笑い、町道場の人間ともまるで昔からの知り合いのように話している。
(この方からなのかもしれないな)
その場にいた者たちはなんとなく同じことを思っていた。
◇
「――って感じだった」
晴真が霊馬の上で話を終える。
「なるほどな」
道満が頷く。
玄も感心したように言う。
「将門流か。晴真にはかなり良い修練になりそうだな」
「はい!」
晴真は自分の掌を見る。
「霊衝勁、もう少し上手く使えるようになりたいです」
後ろから迅が叫ぶ。
「おい! 今日ぐらい修練の話やめろ!」
「あ、そうだった」
皆が笑う。
その時。
美鈴が前方を指差した。
「あ! 見えてきた!」
「どこ!?」
晴真が前を見る。
広い空。
その向こう。
印旛沼から流れてくる澄み切った霊気。
色とりどりに咲く無数の霊花。
そして――。
その中央。
大地へ根を張るように建つ巨大な風車。
ゆっくりと巨大な羽根が回っている。
一回。
また一回。
回るたびに清らかな霊気が風となって裏佐倉へ広がっていく。
「うわぁ……」
晴真が思わず声を漏らす。
あれが裏佐倉の霊気を巡らせる大霊風車。
――霊風殿。
さらにその周囲を埋め尽くす色鮮やかな霊花。
四百年前。
龍姫と夜叉丸も二人で歩いたという場所。
「着いた!」
刀也が叫ぶ。
「裏佐倉――佐倉ふるさと広場!」
二十五人の歓声が秋空の下へ大きく響いた。




