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第二十九話 金桜と銀桜

「それでは――」


審判を務める鏑木与乃が、両陣営を見渡す。


一年一組。


十五人。


一年三組。


十五人。


先ほどまでの五人対五人とは、まるで違う。


実技場いっぱいに三十人が広がり、それぞれが仲間の位置を確認していた。


「双方、準備はよろしいですね?」


「はい!」


一組側。


凛を中心に十五人が静かに構える。


対する三組。


「さっさと終わらせるぞ!」


影也が叫ぶ。


「一組ごときに時間を掛けるな!」


そして――。


与乃の手が振り下ろされた。


「始め!」



その瞬間。


「布陣!」


凛の声。


一組十五人が一斉に動いた。


前衛。


中堅。


後衛。


春花の修練で何度も組み替えた布陣を、迷うことなく完成させる。


三組側も同時に広がった。


そして。


影也が叫ぶ。


「放て!!」


「はい!」


三組十五人。


一斉に札を構えた。


火炎。


雷撃。


激水。


土石。


風刃。


様々な陰陽術が――。


同時に放たれる。


「十五人同時!?」


観覧席がどよめく。


無数の術が一組へ押し寄せる。


だが。


凛は驚かなかった。


むしろ――。


「来ました!」


美鈴を見る。


「美鈴!」


「了解!」


与一。


「与一君!」


「見えてる!」


隼人。


「隼人君!」


「ああ!」


そして。


凛が手を振り下ろす。


「今!」


前へ出たのは――。


美鈴。


紅葉。


小夜。


道満。


そして凛。


五人同時。


「結界!」


バァン!!


一枚。


「重ねます!」


二枚。


三枚。


四枚。


そして――。


五枚。


「重ね桜――五重!」


五つの結界が。


花弁を重ねるように展開された。


直後。


ドドドドドドドォォォン!!


三組十五人分の術が。


一斉に激突。


実技場を爆音が包む。


「うわっ!」


観覧席から悲鳴。


煙。


炎。


雷光。


水飛沫。


だが――。


煙が晴れる。


「…………!」


五重の結界。


一枚。


また一枚と亀裂が入っていた。


しかし。


最後の一枚は――。


残っている。


「防いだ!」


「十五人分を!?」


一組側から歓声。


凛はすぐに叫ぶ。


「次!」


その前に。


「待って!」


晴真だった。


金桜眼を輝かせたまま。


三組へ向かって声を張る。


「三組のみんな!」


影也以外の生徒たちを見る。


「影也君の考えに賛同してないなら!」


「今ここで試合を降りて!」


「僕たちは――」


一瞬。


迷い。


それでもはっきり言う。


「手加減しない!」


「…………」


三組の生徒たちの何人かが。


僅かに動揺する。


目を伏せる者もいた。


だが。


後方。


影也が睨んでいる。


麻賀多本家。


その名前。


その立場。


幼い頃から刷り込まれた上下関係。


怖い。


逆らえない。


晴真の声は――。


届かなかった。


「…………」


晴真は唇を噛む。


そして。


「分かった」


大量の札を取り出した。


道満の目が変わる。


「あれは……」


春花も静かに見つめる。


晴真が両腕いっぱいに札を広げる。


一枚。


二枚。


十枚。


二十枚。


そして――。


三十枚。


「三十!?」


影行が目を見開いた。


「馬鹿な……!」


札へ。


一本ずつ。


細い霊脈が繋がっていく。


晴真が昨日。


春花と一緒に完成させようとしていた術式。


龍姫が残した札から着想を得た――。


少量の霊力でも発動できる簡略術式。


通常の火球より威力を落とす。


その代わり。


霊力の通り道を極限まで細くし。


発動に必要な量を減らす。


そして。


多数を同時に扱う。


「火球!」


ボッ。


ボッ。


ボボボボボボッ!!


空中。


晴真の周囲に。


小さな火球が次々と生まれていく。


十。


二十。


三十。


「…………」


観覧席が静まり返る。


空が。


火球で埋まった。


刀也が。


「……やっぱやったな」


与一が。


「絶対やると思った」


豪太。


「大騒ぎだな」


凛。


「晴真君……」


晴真が腕を振る。


「行け!!」


三十の火球が――。


一斉に飛んだ。



「結界!」


影也が怒鳴る。


「早く張れ!」


三組側。


次々と結界。


バァン!


バァン!


バァン!


そこへ――。


ドドドドドドドッ!!


無数の火球。


一発一発の威力は低い。


だが。


数が多すぎる。


右。


左。


上。


正面。


次から次へと飛んでくる。


「くっ!」


「まだ来る!」


「結界を維持しろ!」


三組の生徒たちは。


火球を防ぐことだけで精一杯になった。


だから。


見えていなかった。


火球の向こう側。


晴真以外の十四人が――。


すでに動き始めていることに。


「行くよ!」


美鈴。


「はい!」


紅葉。


小夜。


「右から回る!」


太一。


「後方取った!」


隼人たち忍び組。


「豪太!」


「おう!」


「刀也!」


「任せろ!」


次々と。


三組の陣形へ食い込んでいく。


「降参します!」


一人。


「俺も降参!」


二人。


「負けです!」


三人。


気づけば。


三組の人数が――。


次々と減っていった。


影也が叫ぶ。


「何をしている!」


「戦え!」


だが。


もう遅い。


最後に残ったのは。


影也と共にいた者たちだけだった。



ギィィン!!


実技場の一角。


正光と刀也。


木刀が激しくぶつかる。


「立身!」


「小篠塚!」


正光は刀也の攻撃を受けず。


かわし。


隙を探る。


一方。


刀也は。


止まらない。


一撃。


二撃。


三撃。


連続して斬り込む。


「しつこい!」


正光が叫ぶ。


「剣は力任せに振るものではない!」


「知ってるよ!」


刀也が笑う。


「だから!」


さらに踏み込む。


「お前みたいに!」


ギンッ!


「他の流派の良いところも見ないで!」


ガキンッ!


「自分の流派だけで威張ってる奴ってさ!」


刀也が思い出したように叫ぶ。


「なんて言うんだっけ!」


「井の中の――」


一瞬。


「鮭!」


「大海を知らず!」


「蛙だよ!」


遠くから与一が叫んだ。


「どっちでもいいだろ!」


「全然違うよ!」


刀也の煉獄が燃え上がる。


「立身流――!」


風。


炎。


二つが刀身へ集まる。


「火炎烈風斬!!」


ズバァァン!!


「なっ!?」


正光の木刀へ。


直撃。


バキィン!!


霊木の木刀が――。


真っ二つに折れた。


「…………!」


正光が呆然とする。


刀也は煉獄を肩へ担ぐ。


「まず一人!」



その隣。


西御門紫穂は。


迅の高速攻撃を必死に結界で防いでいた。


バン!


バン!


バン!


「くっ……!」


「すげえな!」


迅が四方八方を駆ける。


「まだ防ぐのか!」


「西御門流を……!」


紫穂が歯を食いしばる。


「舐めないで!」


結界。


次。


さらに結界。


だが――。


迅が。


消えた。


「え?」


背後。


ひやり。


「…………」


迅雷の刀身。


紫穂の首筋へ。


「……降参します」


「よし!」


迅が刀を引いた。


「いい結界だったぜ!」


紫穂が少し驚き。


そして。


「……ありがとう」


小さく笑った。



神門蘭は――。


さらに苛立っていた。


「火矢!」


札を出す。


シュッ!


矢が飛ぶ。


ボッ!


札だけが燃える。


「また!?」


遠く。


与一。


霊装武具――扇切。


「次も燃やすよ」


蘭が新しい札。


シュッ!


ボッ!


「もう!」


さらに一枚。


また。


ボッ!


「術を使わせてよ!」


与一が苦笑する。


「それが仕事だから」


「なら!」


蘭が霊木を手に取る。


「接近戦なら――」


地面を蹴る。


「弓使いに負けない!」


「え?」


与一は弓を下ろした。


蘭が斬りかかる。


その瞬間。


与一が身体を半歩ずらす。


腕を取る。


重心を崩す。


そして。


くるり。


「えっ!?」


ドサッ!


蘭が地面へ。


与一の膝で腕を制される。


「……何?」


与一が静かに言う。


「鏑木流弓体術」


「弓が使えなくなった時のための体術だよ」


「……卑怯者!」


蘭が悔しそうに叫ぶ。


「弓使いのくせに体術まで使うなんて!」


与一が笑う。


「男のくせに負け惜しみ言うなよ」


「…………」


蘭の顔が引きつる。


「私は女だ!!」


「え?」


与一が固まる。


美鈴が遠くから。


「えっ!?」


「あの子、男子じゃなかったの!?」


凛も。


「制服も男子用ですし……」


蘭が怒る。


「好きで着てるの!」


与一が慌てて蘭を解放。


手を差し出した。


「ご、ごめん!」


「男子だと思ってたから!」


「あんな思いっきり投げて……」


「大丈夫?」


「…………」


蘭が差し出された手を見る。


長身。


整った顔立ち。


しかも。


本気で心配そうに覗き込んでくる。


(……近い)


胸が。


きゅん。


「…………」


「蘭?」


「だ、大丈夫!」


蘭は慌てて手を取る。


顔が少し赤い。


「私の負け!」


「そ、そう?」


「早く向こう行って!」


「なんで怒ってるの?」


「いいから!」



別の場所。


薙刀。


二本。


激しく打ち合っていた。


ギンッ!


雛菊。


紅葉。


「随分と――」


雛菊が薙刀を振る。


「黒桜の薙刀双花などと呼ばれて!」


ギィン!


「図に乗っているそうですわね!」


紅葉は。


にこり。


「ええ」


「…………?」


雛菊が目を丸くする。


「わたくし」


紅葉が薙刀を返す。


「その名前――」


踏み込む。


「気に入っていますのよ!」


ギィン!!


「大切な相棒と!」


小夜を見る。


「二人で修練して!」


「二人で評価されて!」


「つけていただいた名ですもの!」


ふふっと。


嬉しそうに笑う。


少し離れた場所。


小夜は――。


その言葉を聞いていた。


「…………」


胸の奥が。


じんわり。


温かくなる。


「紅葉さん……」



一方。


雛菊の顔には苛立ち。


「それに!」


紅葉が続ける。


「あなたには理解できませんわ!」


「何がですの!」


「よりにもよって――」


影也をちらり。


「あのような殿方に恋焦がれるなんて!」


「信じられませんわ!」


「あなたに何が分かるの!」


雛菊が激昂した。


薙刀を強く振り下ろす。


「わたくしは!」


「幼い頃から!」


「本家の嫁に選ばれろ!」


「なんとしても影也様に気に入られろと!」


「ずっと!」


「親から言われて育ったんです!」


「…………」


紅葉の顔から。


からかうような表情が消えた。


「そう……なんですのね」


「何ですか!」


紅葉は静かに言う。


「あなたの意思では――」


「ないんですのね」


「…………!」


雛菊が止まる。


紅葉は。


少し寂しそうに。


そして。


はっきり。


「つまらない人」


「なっ……!」


「うるさい!!」


雛菊が力任せに薙刀を振った。


その瞬間。


「そこですわ」


紅葉の薙刀が絡む。


クルッ。


ガンッ!


雛菊の薙刀が弾き飛ばされた。


「……!」


紅葉の刃が首筋へ。


雛菊は唇を噛む。


「……降参します」


「ふふ」


紅葉が薙刀を引く。


「次は札術でも勝負いたします?」


「……嫌な人ですわ」


雛菊が睨む。


だが。


分かっていた。


札術でも。


おそらく勝てない。


紅葉は。


誰かに認められるためではなく。


自分自身のため。


仲間のため。


そして。


心に決めた相手に胸を張れる自分であるため。


強くなっている。


今の自分とは――。


違う。



そして。


残ったのは。


影也。


一人。


「影也!」


道満が駆ける。


宵桜へ手を掛ける。


「終わりだ!」


だが。


影也が――。


笑った。


「遅かったな」


「……何?」


「準備は」


両手を合わせる。


「万端だ」


道満の顔色が変わる。


「貴様!」


影也の式神。


再び。


黒い術式。


「麻賀多式封印術――」


「式神骸縛・終ノ棺!!」


「またそれを!」


道満が叫ぶ。


晴真も。


「馬鹿野郎!!」


ズズズズズズ――!!


地面から。


黒い蔓。


先ほどとは――。


比べ物にならない数。


「えっ!?」


しかも。


敵味方。


関係ない。


一組。


三組。


全員へ。


襲い掛かる。


「影也!」


蘭が叫ぶ。


「私たちまでいるのよ!」


「知るか!」


影也が笑う。


「勝てばいい!」


「何を――!」


黒い蔓が。


三組生徒へも絡みつく。


「うわっ!」


「くそ!」


そして一組。


「来るよ!」


凛。


「固まれ!」


道満の声。


両クラスの生徒たちは。


自然と一ヶ所へ集まった。


もはや。


一組も三組も関係ない。


全員で。


影也の術から身を守る。


「晴真!」


道満が叫ぶ。


「分かってる!」


金桜眼。


ドンッ!!


金色の霊力が解放される。


晴真が腕を振る。


バァン!!


黒い蔓を吹き飛ばす。


「よし!」


だが。


ズズズズ――。


すぐに。


生えてくる。


「再生する!?」


凛が表情を曇らせる。


道満が。


黒い蔓の気配を感じる。


「……この感じ」


凛も気づく。


「道満君」


「ああ」


二人の脳裏。


夏休み。


草笛の丘。


豪斎を蝕んでいた――。


瘴気。


「似てる」


「豪斎様の時の……」


晴真を見る。


道満が叫ぶ。


「晴真!」


「豪斎様の時と同じだ!」


「浄化と封印!」


「うん!」


凛も前へ。


「私も浄化をやります!」


「行くぞ!」


道満。


凛。


二人が札を構える。


「浄化!」


光が黒い蔓へ。


だが――。


「くっ……!」


「強い!」


晴真も封印術。


「金桜封印術――!」


金色の桜が舞う。


しかし。


瘴気は。


抵抗する。


その時。


「……?」


道満の腰。


宵桜。


カタカタカタ――。


震えている。


「宵桜?」


道満が抜く。


短い霊木の刀身。


そこへ刻まれた――。


夜叉丸自身の術式。


その術式が。


光っていた。


銀色。


「これは……!」


珠代が観覧席で立ち上がる。


「夜叉丸様の術式……!」


道満は直感で。


宵桜へ霊力を流した。


「頼む!」


銀色の光。


だが。


「……駄目だ」


弱い。


発動しない。


「霊力が……足りない?」


その瞬間。


「道満君!」


凛が。


道満の手へ。


自分の手を重ねた。


「凛?」


「一人で足りないなら!」


「二人で!」


「…………!」


道満が頷く。


「ああ!」


二人の霊力が。


宵桜へ流れる。


重なる。


銀色。


さらに。


二人の瞳へ――。


銀色の光。


「…………!」


道秀が立ち上がる。


銀花も。


「まさか……!」


銀の桜。


二人の瞳に。


一瞬だけ。


咲いた。


道満と凛。


同時に。


「霊装武具――!」


「宵桜!」


そして。


「術式解放!!」


短い刀身へ刻まれた術式が――。


一斉に輝く。


銀色の光が。


修練場全体へ広がった。


「銀桜浄化術――!」


道満。


凛。


声が重なる。


「銀花清浄の祓い!!」


ふわっ――。


銀色の桜吹雪。


黒い蔓へ。


触れる。


ジュウウウウ――。


「……!」


禍々しい黒。


それが。


消えていく。


瘴気が。


祓われる。


黒かった蔓は。


少しずつ。


清らかな白い霊気へ。


そして――。


一つの影。


影也が犠牲にした式神。


半透明の姿で。


現れる。


「…………」


皆が息を呑む。


式神は。


道満。


凛。


二人を見る。


そして――。


深く。


首を垂れた。


「…………」


凛の目に涙が浮かぶ。


道満も。


何も言えない。


やがて。


式神は。


光の粒になり。


静かに。


消えていった。



「晴真君!」


凛が叫ぶ。


「今です!」


「うん!」


晴真の金桜眼が。


強く輝く。


両手。


札。


そして。


黒い蔓。


「金桜封印術――!」


金色の桜が。


無数に舞う。


「金桜縛!!」


バァァン!!


金の桜が。


黒い蔓へ貼り付く。


一本。


二本。


次々。


禍々しい術が。


封じられていく。


「くそっ!」


影也が舌打ちする。


「なら!」


新しい札。


「巨岩!」


ゴゴゴゴゴ――!!


巨大な岩塊。


「おい!」


道満が叫ぶ。


「まだ仲間がいるんだぞ!」


「関係あるか!」


影也は。


自分のクラスメイトごと。


押し潰すつもりだった。


「落ちろ!」


巨岩が迫る。


凛と道満が――。


同時に札を構える。


「凛!」


「はい!」


「激流!」


「旋風!」


二つの術が。


絡み合う。


「複合術――!」


「激流旋風!!」


ドォォォン!!


水。


風。


巨大な渦となり。


巨岩へ激突。


「行けぇ!」


岩を。


押し返す。


「なっ!?」


影也の目の前へ――。


巨岩が逆流。


「くそ!」


寸前。


横へ飛ぶ。


ドゴォォン!!


地面へ落ちる。


影也は転がり。


すぐに起き上がる。


「この……!」


札を取り出す。


「次は――」


その瞬間。


ドンッ!!


「え?」


目の前。


晴真。


三重の巡らせ。


身体能力を強化し。


一気に距離を詰めていた。


「晴――」


晴真は


拳を握る


迷わなかった。


ドゴッ!!


拳が


影也の顔面へ。


叩き込まれた。


「ぶっ!」


影也が地面を転がる。


「…………」


実技場。


全員が――。


固まった。


「晴真が……」


刀也が目を見開く。


迅も。


「殴った……」


小夜は胸元で手を握る。


晴真は。


人を傷つけることが嫌いだ。


できるなら


受け


流し


止める


それを選ぶ子


そんな晴真が。


自分から


拳を振るった。


凛が


静かに呟く。


「それだけ……」


道満も。


「怒ってるんだ」



影也が


ふらつきながら立ち上がる。


「き……貴様……」


晴真は。


その前へ立つ。


金桜眼。


まだ消えない。


「もう終わりだよ」


「何を――!」


影也が札へ手を伸ばす。


だが。


晴真が。


両手で印を結ぶ。


春花から。


夏休みの間


少しずつ教わってきた術


かつて


龍姫と春花が編み出した。


危険な術


相手の霊門


丹田から霊脈へ霊力を送り出す


その根本を


強制的に閉じる。


本来


決して軽々しく使ってはいけない術


龍姫自身も


救いようのない者を止める時だけ


心を鬼にして使ったという。


晴真も


知っている。


これは


やり過ぎかもしれない。


だが


影也は


式神を犠牲にした。


降参した相手を攻撃した。


自分の仲間まで巻き込んだ。


このまま


止めなければ


いつか


もっと多くの人が


悲しむ。


晴真は。


目を閉じる。


一瞬だけ


迷う


そして


開いた。


「ごめん」


「でも――」


印を結ぶ。


「ここで止める!」


金色の霊力が。


影也へ。


「金桜封印術――!」


影也の顔色が変わる。


「待て……!」


霊門封断(れいもんふうだん)!!」


ドンッ――!


金色の光。


影也の身体へ。


入る。


「なっ……?」


丹田


霊門


そこへ


金色の桜の印


ガチン――


まるで


扉が閉じるような


音。


影也が


慌てて札を掴む。


「火球!」


「…………」


何も


起こらない


「火球!」



光らない


「雷撃!」


「土石!」


「結界!」


何も


起きない。


「な……」


影也の顔が


青ざめる。


「何だ……?」


「なんで……」


「霊力が……」


身体の中にある


なのに


外へ出せない


術へ


流せない。


状況を


理解できない。


「何を……した……?」


晴真が。


まっすぐ。


影也を見る。


いつもの笑顔ではない。


怒り


悲しみ


それでも


声だけは


静かだった


「君の――」


一拍


「陰陽術を封じた」


「…………」


「もう」


晴真は


はっきり告げる。


「陰陽術は使えない」


影也が


呆然と


晴真を見つめる。


実技場に


静寂が落ちた。

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