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第二十六話 規格外の霊装防具


 実技場へ向かいながら――。


晴真は、いつになく少し緊張していた。


(みんなに合わせないと)


(僕だけ変な動きをして、邪魔にならないように……)


夏休み前から、何度も何度も練習してきた。


凛。


刀也。


豪太。


与一。


四人と一緒に。


だからこそ。


自分のせいで連携を崩したくない。


そんなことを考えていると――。


凛が晴真の様子に気づいた。


「晴真君?」


声を掛けようとした、その瞬間。


バチンッ!!


「いったぁぁぁ!?」


晴真が飛び上がる。


「刀也君!」


刀也が晴真の尻を思い切り叩いていた。


「晴真!」


「行くぞ!」


「痛いよ!」


「なんで叩くの!?」


「あんだけ練習したんだから!」


刀也は笑う。


「大丈夫だ!」


その横で。


豪太も。


「そうだぞ!」


与一も。


「今さら一人で全部背負おうとするなよ」


凛も苦笑しながら頷いた。


「五人で戦うんですから」


「…………」


晴真は四人を見る。


皆、笑っている。


その表情を見て――。


晴真の肩から少し力が抜けた。


「……そうだね」


にこっ。


「よし!」


「行こう!」



実技場へ向かう途中。


与一がふと思い出したように尋ねる。


「そういえば晴真」


「何?」


「晴真の霊装武具って」


「俺たち、まだ見たことないよね?」


「うん!」


晴真は嬉しそうに笑った。


「今日、初お披露目だよ!」


「…………」


四人が黙る。


刀也が。


「嫌な予感しかしねえ」


与一も。


「うん」


「絶対何かやるよな」


豪太も真顔で。


「大騒ぎになる」


凛まで。


「晴真君」


「はい?」


「お願いですから、やり過ぎないようにしてくださいね」


「大丈夫だよ!」


晴真は胸を張る。


「ちゃんと分かってるよ!」


四人が顔を見合わせた。


そして。


「「「「絶対大丈夫じゃない」」」」


「なんで!?」



一組第一班が実技場へ姿を現すと。


三組側からざわざわと声が聞こえてきた。


「あいつだろ……」


「桜晴真」


「あの笑ってる奴」


「影也さんの父上たちを、卑怯な手で陥れたっていう……」


「でも相当強いらしいぞ」


「俺、ちょっと怖いんだけど……」


晴真は何も知らず。


にこにこ。


「よろしくお願いします!」


中央で元気よく頭を下げる。


対する三組の五人は――。


「よ、よろしくお願いします……」


明らかに怯えていた。


晴真が首を傾げる。


「なんであんなに緊張してるんだろ」


刀也が小声で。


「お前だよ」


「え?」


「なんでもない」



三組四番の班。


陰陽術を得意とする女子二人。


同じく陰陽術を使う男子一人。


弓を得意とする女子。


そして前衛の剣士らしい男子。


五人とも決して弱くはない。


だが。


目の前にいる相手の評判が悪すぎた。


学園全体を覆う結界を張りかける。


クラス全員を封印しかける。


チヨヒメの結界を壊しかける。


麻賀多本家当主を含む三当主との戦いで勝利。


しかも本人は――。


ずっと笑顔。


(何するか分からない……)


その一点で。


恐怖が増していた。


審判の鏑木与乃が両者を見る。


「双方、準備はよろしいですね?」


「はい!」


一組は元気よく。


「……はい!」


三組は少し硬い。


与乃が手を上げる。


「それでは――」


振り下ろす。


「始め!」



最初に動いたのは――。


三組の弓使い。


「まず牽制を――!」


弓へ矢を番える。


だが。


次の瞬間。


シュンッ!!


「え?」


前方から。


青白く光る霊力の矢。


ものすごい速度で一直線に飛んできた。


パァンッ!!


「ええっ!?」


女子生徒が声を上げる。


手にした弓。


その――。


弦だけが切れていた。


「…………」


女子生徒は。


弓を見る。


前を見る。


もう一度弓を見る。


「えぇー……」


放ったのは――。


与一。


「よし」


静かに弓を下ろした。


観覧していた奉先が感心したように笑う。


「なかなかやるな」


与乃も小さく頷く。


正確に。


相手を傷つけず。


攻撃手段だけを奪った。


「与一君!」


凛が声を掛ける。


「そのまま後方お願いします!」


「了解!」


そして。


「刀也君!」


「頼むよ!」


「おう!」


刀也が前へ出る。


腰の古い木刀――。


霊装武具の依代。


それを握る。


「霊装武具――!」


ブォン!!


青白い霊気。


刀身が形成される。


そして。


「煉獄――術式解放!」


ボォォッ!!


刀身が――。


真紅の炎を纏った。


「なっ!?」


観覧席がざわつく。


「霊気の刀!?」


「燃えてるぞ!」


対する三組の剣士が木刀を構える。


「来い!」


刀也が踏み込む。


「行くぜ!」


一閃。


ザンッ――!


「…………え?」


男子生徒が固まった。


カラン。


木刀の先端が。


地面へ落ちる。


自分の木刀が――。


真っ二つ。


「……何が起きた?」


刀也は得意げに煉獄を肩へ担いだ。


観覧席。


クシナダが満足そうに頷く。


「ほう」


「刀也も随分、太刀筋が良くなってきたのう」


刀姫も嬉しそうに弟を見る。


「うん」


「前より無駄が減ってる」



「何をしている!」


三組側から。


影也の声が飛んだ。


「接近戦に付き合うな!」


「陰陽術で攻撃しろ!」


三組の女子二人が我に返る。


「はい!」


二人が札を構えた。


「火球!」


ボッ!!


一人の前に大きな火球。


もう一人。


「雷撃の矢!」


バチバチッ!!


雷を纏った霊気の矢が形成される。


二つの術が――。


晴真たちへ飛ぶ。


「結界!」


凛が札へ手を掛けた。


だが。


「凛ちゃん!」


「え?」


晴真が一歩前へ出た。


「僕に任せて!」


「え?」


凛が固まる。


晴真は両腕の籠手。


そして脚の具足へ霊力を流した。


「えーっと……」


少し考えて。


「霊装防具――籠手、具足!」


さらに。


「術式解放!」


ブォン!!


晴真の両腕。


両脚。


霊木で作られた籠手と具足を覆うように。


青白い霊力が一気に広がる。


まるで。


霊気の鎧。


迅が観覧席から叫ぶ。


「なんだよそれ!」


晴真が振り返る。


「だって!」


「技の名前、言わなきゃいけないでしょ!」


凛が即座に。


「別に言わなくてもいいんです!」


「ええっ!?」


そんな会話をしながら。


晴真は――。


「巡らせ!」


一重。


二重。


三重。


三重の巡らせ。


全身に霊力が走る。


「行くよ!」


ダンッ!!


晴真が――。


飛び上がった。


「何!?」


迫る火球。


晴真は空中で身体を捻る。


霊装具足を纏った脚で。


「えいっ!」


蹴った。


ドゴォン!!


「…………は?」


観覧席全体が固まる。


火球が。


蹴り返された。


そのまま――。


元の術者へ一直線。


「ええええっ!?」


女子生徒が悲鳴を上げる。


さらに。


もう一方から。


雷撃の矢。


バチバチバチッ!!


「晴真君!」


凛が叫ぶ。


晴真が手を伸ばす。


そして――。


ガシッ。


掴んだ。


「…………」


全員。


沈黙。


晴真は雷撃の矢を握ったまま。


「これも!」


くるっと身体を回して。


「返すよ!」


ブンッ!!


投げ返した。


「うわぁぁぁ!?」


蹴り返された火球。


投げ返された雷撃の矢。


二つの術が三組へ逆流する。


男子生徒が慌てて前へ出た。


「結界!!」


バァン!!


結界が展開。


ドォン!!


バチィィン!!


「ぐっ……!」


結界が激しく揺れる。


だが。


何とか耐えた。


「防いだ!」


その瞬間。


「今だぁぁぁ!!」


豪太。


「岩名流――!」


槍を構え。


一直線。


「猪突撃!!」


ドゴォォォン!!


「なっ!?」


結界へ豪太が体ごと突っ込む。


バキッ。


バキバキッ――。


そして。


バァァァン!!


結界が粉々に砕け散る。


「しまっ――!」


男子生徒が後退しようとした。


だが。


もう遅い。


シュッ。


「そこまでです」


凛。


神楽双刃術の小太刀。


その刃が――。


三組リーダーの喉元へ。


「…………」


与乃が手を上げた。


「そこまで!」


一拍。


「勝者――!」


「一年一組、第一班!」



「…………」


静かだった。


誰も。


すぐには拍手しなかった。


あまりにも。


途中の出来事が――。


おかしかった。


火球を蹴り返した。


雷撃の矢を掴んだ。


そして投げ返した。


「…………」


最初に。


「ぶははははははは!!」


沙羅の大笑いが響いた。


「晴真!」


「お前何やってんだよ!」


「ははははは!」


その隣でミヅチも腹を抱える。


「いやいやいや!」


「妾も長く生きておるが!」


「火球を蹴り返す者は初めて見たぞ!」


チヨヒメも大笑い。


「それより見たか!」


「雷撃の矢を掴みおったぞ!」


クシナダまで。


「はっはっは!」


「無茶苦茶じゃ!」


「実に晴真らしい!」


銀花も口元を押さえながら。


「ふふっ……」


「流石、晴真様です」


春花も。


珍しく笑っていた。


「仕方ありません」


「晴真様は――規格外ですから」


その肩の上。


桜花だけは。


頬を膨らませていた。


「だから!」


「やりすぎないようにって言ったのに!」


そして。


いつもの一言。


「またやっちゃいましたね!」



それをきっかけに。


一年一組も――。


「ぶはははは!」


「晴真お前!」


「何だよあれ!」


大爆笑。


刀也は自分も戦っていたのに腹を抱えている。


「俺、横で見てて笑いそうになったぞ!」


与一も。


「火球を蹴った時点で十分だったのに」


豪太が。


「その後、雷まで掴んだからな!」


凛は頭を抱える。


「晴真君……」


「やり過ぎないでって言ったじゃないですか……」


「え?」


晴真は困った顔になる。


「ちゃんと加減したよ?」


「「「「そこじゃない!」」」」


一班全員から突っ込まれた。



三組側。


奉先も笑っていた。


「いやぁ……」


「面白いな、晴真」


舞桜も。


「妾も火球を蹴り返してみたい!」


「やめとけ」


奉先が止める。


響も肩を震わせている。


「茜と桔梗から聞いてたけど……」


「想像以上だな」


白夜も。


「雷撃って掴めるものなのか?」


時雨が即答する。


「普通は掴まない」



教師陣も同じだった。


三組担任の影行は。


必死に笑いを堪えていた。


「……勝田先生」


「はい」


「いやぁ……」


口元が震える。


「実に面白い子だ」


「私には」


ついに堪えきれず。


「ふっ……」


「火球を蹴り返そうなどという発想は、思いつきもしない」


正臣も苦笑する。


「そうですね」


少し遠い目をする。


「私もです」


西御門紫苑も。


「ふふ……」


神門玄も肩を震わせていた。


「凄いことをしているはずなのに」


紫苑が笑う。


「なぜでしょう」


「笑うしかありませんね」


「同感です」



観覧席では。


道秀が晴隆を見る。


「晴隆」


「なんじゃ?」


「お前の孫」


少し間を置き。


「とうとう火球を蹴り返したぞ」


「がっはっはっは!」


晴隆は大笑い。


「それだけではないわい!」


膝を叩く。


「雷撃の術を掴んで投げ返しおった!」


「晴臣!」


「お前の息子、ますます訳分からんぞ!」


晴臣は。


「俺に言わないでくださいよ……」


頭を抱えていた。



試合を終え。


晴真たちが戻ってくる。


「道満君!」


「勝ったよ!」


「見てた」


道満は呆れたように笑う。


「晴真」


「何?」


「お前な」


「うん」


道満は周囲を見る。


まだ皆。


笑っている。


「やってることがあまりにも規格外すぎて」


晴真を見る。


「みんな、もう笑うしかないんだよ」


「ええっ!?」


「なんで!?」


「普通は火球を蹴らない」


「そうなの?」


「雷撃の矢も掴まない」


「籠手があったから大丈夫だよ!」


「そういう問題じゃない!」


また笑いが起こった。



だが――。


その空気に。


冷たい声が割り込んだ。


「くだらん」


影也だった。


負けた三組の五人を睨む。


「何をあんな大道芸みたいなものに負けているんだ」


「…………」


三組の生徒たちが俯く。


その隣。


麻賀多雛菊も冷ややかに言う。


「まったくですわ」


「あなた方のような者たちが同じ三組の生徒だと思うと――」


「恥ずかしいですわ」


その言葉に。


奉先の表情が変わった。


「おい」


影也が振り返る。


「何だ?」


奉先は静かに言う。


「さっき影行先生にも言われただろ」


「負けた奴を罵る暇があるなら」


「自分の準備をしろって」


「…………」


「相手の方が強かった」


「それだけだ」


「こいつらだって最後まで戦った」


影也の顔が歪む。


「なんだ貴様」


「麻賀多本家の俺に逆らうつもりか?」


「本家だか宗家だか知らん」


奉先は一歩も引かない。


「頑張った仲間を労うこともできないのか?」


「負けた奴を労う必要があるか!」


影也が怒鳴る。


「勝てなければ意味がない!」


奉先の眉が寄る。


「お前――」


その肩へ。


ぽん。


手が置かれた。


「奉先」


響だった。


「もういい」


「でもよ」


「話しても無駄だ」


響は静かに首を振る。


「行こう」


「…………」


奉先はまだ言いたそうだったが。


やがて。


「……ちっ」


影也から離れる。


響と共に三組側へ戻っていった。



影也はその背中を睨みつけた後。


自分の班へ振り返る。


「行くぞ」


「準備する」


その声に。


一緒に戦う班員たちが黙って頷く。


いよいよ。


残る試合も僅か。


そして――。


晴真たちはまだ知らない。


このチーム研修発表が。


単なる授業の勝敗だけではなく。


一年三組というクラスの中にある――。


それぞれの考え方の違いまで。


少しずつ浮かび上がらせ始めていることを。

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