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第二十四話 忍び対忍び


 第三試合を前に。


一年一組の五人は、実技場の隅で円になっていた。


隼人。


迅。


綾女。


茜。


桔梗。


相手は――七曲響率いる三組の忍び五人。


隼人が腕を組む。


「さて……どうするか」


綾女がぽつり。


「やりづらい」


「また突撃かぁ?」


迅が笑う。


「この前、晴真と道満には通用したじゃん」


「響に通用するかな?」


茜が首を傾げる。


桔梗も難しい顔をする。


「私たちのやりやすいようには、絶対してくれないよね」


「だろうな」


隼人は三組側を見る。


そして。


ふと――。


「……待てよ」


「何?」


「相手も忍びなんだよな」


「そりゃそうだろ」


「なら」


隼人は口元を上げる。


「向こうも俺たちと同じように考えてるはずだ」


「同じ?」


「忍び同士なら、相手が罠を仕掛けてくることくらい分かってる」


「だから――」


隼人は指を立てた。


「逆に、戦ってて『やりやすい』と感じたら不安になる」


綾女がすぐに理解する。


「……相手の誘いに、わざと乗る」


「ああ」


「最初は向こうの思い通りに動く」


「そうすると相手は――」


茜が気づく。


「うまくいきすぎてるって思う?」


「そう」


隼人は頷く。


「特に響みたいな奴なら、絶対に途中から警戒し始める」


「そこを利用する」


迅が腕を組んだ。


「なるほど」


「つまり――」


少し考えて。


「こんな感じか!」


「どんな感じだよ!」


隼人が即座に突っ込む。


迅は笑いながら隼人の肩を叩く。


「まあ、細かいところは任せたぜ!」


「お頭!」


「結局丸投げか!」


「へい、お頭!」


「試合前くらいやめろ!」


茜と桔梗が笑う。


綾女も僅かに口元を緩めた。



対する一年三組。


リーダーは――。


七曲響。


その隣には。


根郷時雨。


綾女の従兄弟で、特に忍術を得意とする少年。


さらに――。


麻倉霞。


迅とは親戚であり、幼い頃からの付き合い。


そして。


青菅旭。


こちらも隼人の従兄弟で、幼馴染だった。


霞と旭は――。


「旭」


「なんだ」


「今日は足引っ張らないでよ」


「それはこっちの台詞だ」


「は?」


「何?」


顔を合わせれば、すぐに喧嘩。


犬猿の仲。


だが。


実戦となれば互いの動きを誰よりも理解している。


忍術。


武術。


どちらもそつなくこなし――。


なんだかんだで非常に相性の良い名コンビだった。


そして最後の一人。


寒風白夜。


寒風流忍術の使い手。


七曲や根郷などとは異なる流れを汲む忍びである。


寒風流の特徴は――。


忍術と体術を組み合わせること。


中でも氷遁を好み。


足場。


間合い。


相手の動きそのものを奪う戦い方を得意としていた。


響が四人を見る。


「相手は隼人たちだ」


「簡単にはいかないよ」


時雨が頷く。


「綾女もいるしね」


霞が迅を見る。


「迅はどうせ突っ込んでくるでしょ」


旭が鼻で笑う。


「それを読んでる時点で逆に怪しいけどな」


「珍しく意見が合ったね」


「珍しくは余計だ」


白夜だけは静かに相手を見ていた。


「新しい忍具も使うらしい」


響も頷く。


「油断しないでいこう」



審判。


鏑木与乃が実技場中央へ立つ。


「双方、準備はよろしいですね?」


十人が構える。


「はい!」


観覧席もざわついていた。


「忍び同士か!」


「どんな戦いになるんだ?」


「七曲響が出るぞ」


「一組はこの前、晴真と道満に勝った五人だろ?」


晴真も楽しそうに身を乗り出す。


「隼人君たち、どんな作戦にしたんだろう」


道満が腕を組む。


「普通には戦わないだろうな」


「忍びだから?」


「いや」


道満が苦笑する。


「あの五人だからだ」


与乃の手が上がる。


「それでは――」


振り下ろす。


「始め!」



その瞬間。


ダンッ!!


「えっ!?」


観客席がどよめく。


最初に動いたのは――迅だった。


「巡らせ!」


全身へ霊力を巡らせる。


そして。


「風遁――!」


風が身体へ纏わりつく。


雷光が走る。


「紫電迅雷!」


バシュン!!


迅の姿が消えた。


次の瞬間。


「響!」


真正面。


ギンッ!!


響の忍刀と迅の刃がぶつかる。


「速い!」


だが。


それで終わらない。


迅は風を纏ったまま。


右。


左。


後方。


上方。


四方八方から斬撃を浴びせる。


ギン!


ガッ!


キィン!


響が忍刀で受け流していく。


「相変わらず……速いな!」


「まだまだ!」


迅がさらに踏み込む。


だが――。


「土遁!」


時雨が札を地面へ叩きつけた。


「剛壁!」


ズドン!!


地面から土壁が立ち上がる。


「うおっ!」


迅の進路が塞がれた。


すぐに横へ抜ける。


その先。


「霞、左!」


旭の声。


「分かってる!」


霞が忍刀で迅の攻撃を防ぐ。


ギィン!


今度は霞が叫ぶ。


「旭、右!」


「見えてる!」


旭が逆方向から来た斬撃をいなす。


ギンッ!


「おお!」


刀也が目を輝かせる。


「すげえ連携!」


隼人も遠くから二人の動きを見る。


(やっぱり霞と旭は厄介だな)


そして――。


「白夜!」


響の声。


白夜が前へ出た。


「寒風流忍術――」


片足を持ち上げる。


ドンッ!!


地面を踏み抜いた。


「氷遁・氷華踏!」


パキィィィン!!


白夜の足元を中心に。


地面が一気に凍り始める。


「うわっ!」


迅の足が滑る。


「足場が!」


紫電迅雷の高速移動。


その弱点。


地面を蹴る足場を乱された。


「ちっ!」


迅が技を解除する。


そこへ。


白夜が一気に踏み込んだ。


「もらった!」


鋭い掌底。


「迅!」


だが。


シュシュシュシュッ!!


四方向から。


小さな何かが白夜の足元へ飛んできた。


「何?」


木銭。


隼人。


綾女。


茜。


桔梗。


四人が投げた木銭だった。


空中で――。


ブォン!


霊装武具が形成される。


手裏剣。


そして。


その表面に刻まれた術式が光った。


「火炎!」


ボッ!!


「なっ!?」


手裏剣が炎を纏う。


火炎手裏剣。


ザザザザッ!


白夜の周囲へ突き刺さった。


ジュワァァァ――!


炎で氷が一気に溶ける。


「今だ迅!」


「おう!」


迅が跳び退いた。


白夜も追撃せず、距離を取る。


迅が隼人たちのところへ戻ってくる。


「ふぅ」


隼人が笑う。


「お疲れ」


「偵察係にしちゃ働いただろ?」


「ああ」


隼人は響たちを見る。


「どうだ?」


「大体把握した」


迅がにやり。


「響はやっぱ強い」


「時雨は忍術」


「霞と旭は連携が厄介」


「白夜は足場を潰してくる」


隼人が頷く。


「十分だ」


観覧席の凛が気づく。


「迅君……」


「最初から偵察だったんですね」


与一も頷いた。


「勝手に突っ込んだように見せて、相手の対応を全部引き出した」


刀也が驚く。


「迅が!?」


迅が聞きつける。


「どういう意味だ!」


「いつものお前なら普通に突っ込むからな!」


「否定できねえ!」



三組側。


響たちは――。


地面へ落ちた火炎手裏剣を見る。


正確には。


その核になった木銭。


「これが噂の……」


時雨が拾い上げる。


「霊装武具」


旭が一組の五人を見る。


その腰には。


紐へ括り付けられた――。


大量の木銭。


霞が眉をひそめる。


「いっぱい持ってるね」


響の表情が僅かに険しくなる。


「持久戦はきついな」


「向こうは普通の手裏剣より、ずっと多く持ち込める」


「しかも術式入り」


白夜が溶けた氷を見る。


「属性まで付けられる」


「うん」


響は即座に判断した。


「短期決戦だ」


四人が頷く。


そして響は考える。


隼人たちは。


距離を取る。


木銭から手裏剣や苦無を形成。


物量で圧力を掛け。


こちらの隙を作る。


そして――。


その隙へ。


迅が飛び込んでくる。


「多分……」


響は小さく笑った。


「そう来る」


時雨が尋ねる。


「誘う?」


「ああ」


「迅を引き込む」


「そこを崩せば、一組の攻め手が一気に減る」


「分かった」


響が合図を出す。


三組の五人が――。


見事な連携で布陣を変えていく。


時雨が後方へ。


霞と旭が左右。


白夜が中堅。


響が全体を見る。


そして。


時雨が――。


わざと。


ほんの僅かに。


足をもつれさせた。


「……!」


一組側。


迅が気づく。


「隙!」


響の目が鋭くなる。


(来る!)


迅が踏み込んだ。


「今だ!」


三組側が構える。


ところが――。


「行くぞ!」


「おう!」


「はい!」


「行くよ!」


「うん!」


「……え?」


響の目が見開かれた。


迅だけではない。


五人全員。


全員が真正面から突っ込んできた。


「全員!?」


霞が驚く。


一組の五人は。


腰の依代へ霊力を流す。


ブォン!


一斉に――。


霊装武具の忍刀。


迅を先頭に。


隼人。


綾女。


茜。


桔梗。


五人が一直線に突撃してくる。


「何だそれ!」


観覧席の刀也が叫ぶ。


「忍びなのに正面突破!?」


道満が笑う。


「逆に読めないな」



響は一瞬で意図を読む。


(時雨を狙ってる!)


「時雨!」


響が飛び込む。


時雨の肩を掴み――。


ドンッ!


横へ押し出す。


「響!?」


その瞬間。


迅が迫った。


「もらった!」


霊装武具の忍刀。


その刀身に刻まれた術式が光る。


バチバチバチッ!!


雷が走る。


迅が勝手に名付けた――。


迅雷の術式。


「行くぜ!」


雷撃を纏った忍刀。


迅雷。


それが響へ振り下ろされる。


「くっ!」


響は――。


受けない。


スッ!


紙一重でかわす。


もう一撃。


スッ!


またかわす。


「受けない?」


迅が気づく。


「そりゃそうだろ!」


響が叫ぶ。


「そんなもの忍刀で受けたら感電する!」


「賢い!」


「褒めてる場合か!」


さらに迅が斬る。


だが。


響はぎりぎりで回避し続ける。


そこへ――。


「迅!」


時雨が札を構えた。


「水遁!」


水流が発生する。


「食らえ!」


ザバァァァッ!!


狙いは迅。


雷を纏っている迅を濡らせば――。


自分の雷で感電する。


だが。


その瞬間。


「待ってた!」


隼人が前へ出た。


「風遁――!」


両手を突き出す。


「爆風!」


ドンッ!!


強烈な風が水流へぶつかる。


「えっ!?」


水が押し返された。


ザバァァァッ!!


「うわっ!」


「きゃっ!」


逆に――。


響。


時雨。


霞。


旭。


白夜。


三組側へ大量の水が降り注ぐ。


全身。


地面。


びしょ濡れ。


「しまった!」


響が気づく。


隼人が叫ぶ。


「迅!」


「いけ!」


「おう!」


迅が雷を纏った忍刀――迅雷を。


地面へ突き刺した。


ズドン!


「行けぇぇぇ!!」


バチバチバチバチッ!!


濡れた地面を通じて――。


電撃が三組へ走る。


「まずい!」


響たちが跳び退こうとする。


だが。


濡れた地面。


電撃の方が速い。


「白夜!」


「分かってる!」


白夜が前へ出る。


片足を振り上げ。


ドンッ!!


「寒風流忍術――!」


「氷遁・氷華踏!」


パキパキパキパキッ!!


濡れた地面が一瞬で凍る。


水の流れが止まり。


電撃の伝わる経路を断ち切る。


バチッ!


電撃が途中で散った。


「防いだ!」


晴真が声を上げる。


「すごい!」


だが。


一組も止まらない。


「茜!」


「桔梗!」


隼人の合図。


二人が左右から飛び込む。


「行くよ!」


「せーの!」


霊装武具の忍刀が走る。


狙いは――。


霞。


旭。


ギィン!!


「くっ!」


霞が茜を受ける。


同時に。


ガキィン!


旭が桔梗の忍刀を止める。


「霞!」


「分かってる!」


「旭!」


「そっちこそ!」


互いに背中を預けるように位置を変え。


茜と桔梗の連撃を防いでいく。


「やっぱこの二人!」


「息ぴったり!」


「誰が!」


「こいつと!」


霞と旭が同時に叫んだ。


「いや、ぴったりじゃん!」


茜と桔梗が声を揃える。



一瞬。


戦場が入り乱れる。


迅と響。


茜と霞。


桔梗と旭。


時雨と白夜。


隼人と綾女。


互いに次の一手を探る。


そして。


隼人が――。


「全員!」


指を鳴らした。


「一旦引け!」


「了解!」


迅が大きく跳ぶ。


茜と桔梗も即座に離脱。


綾女も距離を取る。


五人が一気に後退した。


響も追わなかった。


「こっちも一度引く!」


「了解!」


三組の五人も距離を取る。


再び。


実技場の左右。


忍び五人対五人。


向かい合う。


「…………」


「…………」


双方。


誰一人倒れていない。


だが。


最初とは明らかに違う。


互いに――。


相手の手の内を少しずつ理解し始めていた。



「面白いな……」


道満が呟く。


晴真が頷く。


「うん!」


「どっちも相手の作戦を読んで」


「読まれたらまた変えてる」


与一も静かに分析する。


「技の勝負というより、考え方の勝負になってる」


凛も頷く。


「隼人君も響君も、戦いながらずっと次の手を考えてるんですね」


正臣は腕を組みながら。


満足そうに見ていた。


一方。


実技場。


隼人が五人を集める。


「想像以上に硬い」


綾女が頷く。


「でも、反応は見えた」


迅が迅雷を肩へ担ぐ。


「次どうする、お頭?」


「考えてる」


「響は?」


茜が見る。


桔梗も。


「絶対、向こうも作戦変えるよ」


「ああ」


隼人は三組を見る。


その向こう。


響も仲間たちを集めていた。


「隼人たち」


時雨が言う。


「遠距離主体じゃなかったね」


「むしろ逆だった」


白夜も頷く。


霞が濡れた袖を絞る。


「あの水遁を返してくるの、反則じゃない?」


旭が言う。


「お前が言うな」


「何で私なのよ!」


「静かに」


響が苦笑する。


そして――。


一組を見る。


隼人も。


三組を見る。


響と隼人。


二人の視線がぶつかる。


どちらも。


僅かに笑った。


第一手。


第二手。


互いに読み。


互いに外し。


互いに対応した。


ならば――。


次は。


さらにその先。


忍び同士の戦いは、ここからが本番だった。

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