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第二十二話 速攻


「それでは――」


実技場の中央で、対戦する班を決めるくじ引きが始まった。


一年一組。


一年三組。


それぞれの班の代表者が順番にくじを引いていく。


そして最初に呼ばれたのは――。


「一組、一番!」


「三組、一番!」


その瞬間。


「よし!」


美鈴が立ち上がった。


「私たちの出番よ!」


振り返る。


そこには――。


道満。


紅葉。


小夜。


太一。


美鈴は少し緊張しながらも、笑った。


「二班のみんな!」


「行くわよ!」


「はい!」


五人が実技場へ向かう。


その姿が見えた瞬間――。


周囲の観覧席がざわついた。


「おいおい……」


「最初から麻賀多道満だぞ」


「実技試験で札を三枚同時発動した奴だろ?」


「今日はどんな術を使うんだ?」


「見ろ」


「麻賀多紅葉と木之子小夜もいるぞ」


「あの二人が――」


「噂の黒桜の薙刀双花か」


紅葉の耳がぴくりと動いた。


「二人とも可愛いのに、そんなに強いのか?」


「麻賀多本家当主の結界にひびを入れたって聞いたぞ」


「…………」


紅葉の口元が。


ほんの少し上がる。


「紅葉さん」


小夜が気づく。


「……嬉しそう」


「べ、別に嬉しくありませんわ!」


「そう?」


「当然です!」


そう言いながら。


明らかに嬉しそうだった。


一方、小夜は――。


「黒桜の薙刀双花……」


頬を赤くする。


「やっぱり……恥ずかしい」


太一が笑う。


「格好いいじゃん」


「そうですわ!」


紅葉は胸を張る。


「悪くなくってよ!」


「紅葉さんは気に入ってるんだ……」



対する三組の五人も実技場へ入る。


陰陽術を得意とする女子二人と男子一人。


そして前衛には――。


木刀を持つ男女二人。


太一がその構えを見ただけで気づいた。


「大篠塚流だ」


二人とも大篠塚流剣術の門下生らしい。


三組側では、大篠塚正光が腕を組んでいた。


「お前たち!」


「はい!」


「大篠塚流の名前に泥を塗るなよ!」


「はい!」


さらに影也が前へ出る。


「いいか!」


三組の五人へ声を飛ばす。


「麻賀多道満の札術には十分気をつけろ!」


「はい!」


「奴は札術の天才だ!」


「三枚同時発動だけじゃない!」


「複合術まで使う!」


道満はその声を聞きながら――。


ちらり。


美鈴を見る。


美鈴も気づいていた。


影也は続ける。


「所詮――」


「道満主体のチームだ!」


「道満さえ抑えれば勝てる!」


「はい!」


「…………」


美鈴が小さく笑った。


道満を見る。


そして。


こくっ。


合図。


道満も頷く。


続いて――。


紅葉。


小夜。


太一。


美鈴が順番に視線を送る。


全員が。


静かに頷いた。


作戦は決まった。



審判を務めるのは――。


一年二組担任。


鏑木与乃。


与乃が両班を確認する。


「双方」


「準備はよろしいですね?」


「はい!」


十人が構える。


三組の三人は札を取り出した。


前衛二人は木刀を構える。


対して一組二班。


道満は――。


札を持っていない。


宵桜へ手を添えているだけ。


三組側が僅かにざわつく。


「……?」


影也も眉をひそめた。


「何をするつもりだ?」


与乃が片手を上げる。


「では――」


手を振り下ろした。


「始め!」



最初に動いたのは――。


「美鈴!?」


観覧していた刀也が驚く。


美鈴だった。


両手に一枚ずつ札。


「火球!」


ボッ!


ボッ!


二つの火球が――。


同時に発生した。


観覧席がざわめく。


「二枚同時!?」


「麻賀多道満じゃないぞ!」


「江原美鈴だ!」


「一年生だろ!?」


美鈴が腕を振る。


「行って!」


ドォッ!


二つの火球が三組へ飛ぶ。


「結界!」


三組の生徒が札を発動。


バァン!


結界が展開される。


ドンッ!


ドンッ!


二つの火球が激突。


「防いだ!」


三組の生徒が安堵する。


だが。


美鈴は笑っていた。


「紅葉!」


「小夜!」


「はい!」


二人は――。


すでに動いていた。


左右から。


紅葉。


小夜。


二人が並ぶ。


薙刀を――。


大上段。


観覧席の一部が気づいた。


「あの構え……」


「まさか!」


かつて。


麻賀多本家当主・麻賀多景虎の結界へひびを入れた二人の一撃。


あの日から。


何度も。


何度も。


二人は修練してきた。


ただ同時に斬るだけではない。


呼吸。


踏み込み。


霊力を込める瞬間。


斬撃を放つ角度。


すべてを合わせる。


二人だけの技として――。


完成させるために。


紅葉が小夜を見る。


「行くわよ、小夜!」


「はい、紅葉さん!」


二人の薙刀へ霊力が集まる。


「――黒桜双花斬!」


ズバァァァン!!


左右から放たれた二つの斬撃。


それが途中で重なり――。


一つになる。


巨大な斬撃が結界へ激突した。


バキッ!


「なっ!?」


亀裂。


そして――。


バァァァン!!


結界が砕け散った。


「破ったぁ!?」


観覧席が沸く。


「すげえ!」


「結界を一撃で!」


紅葉と小夜が着地する。


「成功ですわ!」


「うん!」


だが――。


二班の攻撃は終わらない。


「太一!」


美鈴の声。


「待ってました!」


太一が前へ出る。


手にしているのは。


短い依代。


霊力を流し込む。


「霊装武具!」


ブォン!


霊気が膨れ上がる。


刀。


だが――。


「何だあれ!?」


「デカすぎだろ!」


通常の刀ではない。


太一の身長すら優に超える――。


巨大な霊気の刀。


刀也が目を見開く。


「太一!」


「お前それ!」


太一が刀也を見る。


にやり。


「お先に!」


「ずりぃぞ!」


巨大な刀を――。


大上段へ。


「小篠塚流――!」


霊力が一気に刀身へ集中する。


「超・大斬刃!!」


ドォォォォン!!


巨大な斬撃。


「なっ――!」


三組の前衛。


大篠塚流の二人が咄嗟に木刀を構える。


「受けろ!」


「はい!」


二人同時に防御。


だが。


次の瞬間。


ズドォォォン!!


「うわぁぁぁっ!」


「きゃあっ!」


二人まとめて吹き飛ばされた。


「…………」


観覧席が静まり返る。


太一自身も。


「…………」


自分の刀を見る。


「でか……」


刀也が叫ぶ。


「お前も驚いてんじゃねえか!」


だが。


その時には――。


すでに。


道満が動いていた。


「え?」


三組のリーダーが気づいた時。


遅かった。


三重の巡らせ。


道満の身体を巡る霊力。


一歩。


二歩。


一気に距離が消える。


「速っ――!」


宵桜へ手を掛ける。


スッ――。


静かな抜刀。


そして。


ピタッ。


三組リーダーの首筋へ。


霊装武具で形成された宵桜の刀身が――。


静かに添えられていた。


「…………」


誰も動けない。


与乃が手を上げる。


「そこまで!」


そして。


高らかに告げた。


「勝者――」


「一年一組、第二班!」



「…………」


一瞬。


静寂。


観客たちは。


何が起こったのか理解するのに時間が掛かっていた。


美鈴の火球二枚同時発動。


紅葉と小夜の黒桜双花斬。


太一の超大斬刃。


そして。


道満の高速抜刀。


あまりにも短時間。


あまりにも多くのことが起きた。


その静寂の中――。


パチ。


パチ。


パチ。


正臣が拍手を始めた。


「よくやった!」


その声をきっかけに。


パチパチパチパチ!!


観覧席全体から拍手が起こった。


「すげえ!」


「なんだあの連携!」


「道満が札術を一回も使ってないぞ!」


「江原美鈴が指揮してたのか!」


「黒桜の薙刀双花、本当に強いぞ!」


「太一のあれ何だよ!」


歓声が飛び交う。


美鈴は。


ほっ。


胸を撫で下ろした。


「よかったぁ……」


道満が笑う。


「完璧な指揮だったぞ、美鈴」


「本当?」


「ああ」


紅葉も。


「わたくしたちも迷わず動けましたわ」


小夜も頷く。


「うん」


太一も巨大な霊気の刀を消しながら笑う。


「いい指示だった!」


美鈴の顔が明るくなった。


「みんな、ありがとう!」



両班が中央へ集まる。


「ありがとうございました!」


互いに礼。


試合終了。


一組二班が戻ってくる。


すると――。


「道満君!」


晴真が走ってくる。


「すごかった!」


「晴真」


パンッ!


二人がハイタッチ。


「札術使わなかったね!」


「ああ」


道満が笑う。


「相手が警戒してくれていたからな」


「使わない方が都合が良かった」


「なるほど!」


そこへ。


「美鈴!」


迅が声を掛ける。


「ん?」


「格好よかったぞ!」


「…………!」


美鈴が固まった。


「え?」


「最初の火球!」


迅は笑う。


「それに指揮も!」


「めちゃくちゃ良かった!」


「……ありがとう」


美鈴は嬉しそうに笑った。


少し離れたところ。


綾女がその表情を見る。


「…………」


小さく微笑む。


(また、いつもより嬉しそう)



だが。


勝ったから終わり――。


ではなかった。


「最初の火球ですが」


春花がやって来る。


五人が即座に集まった。


「はい!」


「美鈴様」


「二枚同時発動そのものは綺麗でした」


「ですが二発目が僅かに遅れました」


「はい!」


「紅葉様、小夜様」


「黒桜双花斬は成功です」


二人の顔が明るくなる。


「ただし、成功したからと満足しないこと」


「はい!」


「太一様」


「はい!」


「超大斬刃」


「どうでした!?」


春花は眼鏡を直す。


「大きくし過ぎです」


「やっぱり!?」


皆が笑う。


「威力だけを考えてはいけません」


「霊力消費も大きすぎます」


「はい……」


「道満様」


「はい」


「最後の踏み込み」


「僅かに力みましたね?」


「……気づきましたか」


「当然です」


「次は直してください」


「はい」


勝った直後なのに。


すでに反省会。


その姿を正臣は満足そうに見ていた。



一方。


三組側では――。


まるで正反対の光景があった。


「何をやっている!」


正光が前衛二人へ怒鳴る。


「大篠塚流の剣士が、あんな分家の剣術に吹き飛ばされるなど!」


「……すみません」


影也も苛立ちを隠さない。


「情けない!」


「道満さえ警戒していればいいと言っただろう!」


三組の五人が俯く。


すると。


「それは違うだろ」


奉先が口を挟んだ。


「何?」


「相手が上手だった」


奉先は一組二班を見る。


「それだけだ」


「道満だけを警戒させたから、他の四人への対応が遅れた」


「負けた奴らだけのせいじゃない」


影也が睨む。


「貴様……!」


舞桜も呆れた顔をする。


「負けたなら次どうするか考えればよかろう」


「怒鳴って強くなるなら苦労せん」


「黙れ!」


影也の怒りは収まらない。


そんな中。


響が静かに負けた五人へ近づく。


「気にしなくていい」


「次の班の準備が始まる」


「一度戻ろう」


さりげなく五人をその場から離していく。


その様子を。


隼人。


綾女。


茜。


桔梗が静かに見ていた。


「……響らしい」


茜が呟いた。



やがて。


与乃の声が実技場へ響く。


「続いて――」


全員が注目する。


「一組、二番!」


そして。


「三組、二番!」


「おっ!」


奉先が立ち上がる。


舞桜も自分たちのくじを確認した。


「妾たちじゃな!」


対する一組から立ち上がったのは――。


晴真や道満たちとは別の班。


一年一組の第四班。


舞桜は晴真を見る。


「残念!」


「晴真との戦いはお預けじゃ!」


奉先も道満を見る。


「道満ともか」


「俺は助かったよ」


道満が笑う。


「何を言う!」


刀也が割って入る。


「俺がいるだろ!」


「お前とも違う班だろ」


「そうだった!」


「何しに来たんだ、お前」


迅が笑う。


「うるせえ!」


奉先はそんな一組を見て笑った。


そして――。


表情を変える。


「舞桜」


「ああ」


二人は実技場へ向き直る。


先ほどまでの友人としての顔ではない。


武人の顔。


奉先が静かに言った。


「行くぞ」


「うむ!」


一組二班の圧倒的な勝利で幕を開けた――。


チーム研修発表。


第二試合。


今度は三組が誇る二人の武人。


岩富奉先。


岩富舞桜。


その実力が――。


ついに明らかになる。

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