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第二十一話 チーム研修発表


 夏休み前から始まった――チーム研修。


班を決め。


役割を考え。


互いの長所と短所を知り。


夏休みの間も何度も集まって修練を重ねた。


そして夏休みが明けてからも。


春花の容赦ない特訓。


正臣が用意した戦術資料。


新たに覚えた霊装武具。


指揮役を入れ替えての連携。


数え切れないほどの失敗と話し合いを繰り返してきた。


そして――。


ついに。


その成果を披露する日がやって来た。


チーム研修発表。



佐倉陰陽学園・屋外実技場。


一年一組と一年三組の生徒たちが、それぞれ実技場へ集まっていた。


今回の発表形式は――。


五人対五人の模擬戦。


一組、三組ともに五人一班を基本とし、合計五試合を行う。


ただし。


あらかじめ対戦相手が決められているわけではない。


各班の代表者がくじを引き、同じ番号を引いた班同士が対戦する。


つまり――。


誰と戦うことになるのかは、くじを引くまで分からない。


「いよいよだな!」


刀也は朝から興奮を隠せない。


「早くやろうぜ!」


「まだ対戦相手すら決まってませんよ」


凛が呆れる。


「だから楽しみなんじゃん!」


豪太も拳を鳴らす。


「誰が来ても全力でやるだけだ!」


与一は苦笑する。


「君たちは本当に分かりやすいね」


そんな中――。


「晴真!」


三組の方から声が聞こえた。


「ん?」


晴真が振り返る。


そこには、見慣れた二人。


「奉先君!」


岩富奉先。


そして――。


「晴真!」


その横には岩富舞桜。


二人がこちらへ歩いてくる。


舞桜は楽しそうに笑った。


「今日は晴真たちと戦えるといいな!」


「僕たちと?」


「ああ!」


奉先も頷く。


そして晴真の隣に立つ道満を見る。


「俺は道満とも戦ってみたい」


「俺か?」


道満は苦笑する。


「お前と正面から武術でやり合うのは、かなり面倒そうだな」


「褒め言葉として受け取っておく」


奉先が笑う。


そこへ。


「おいおい!」


刀也が割って入る。


「俺もいるだろ!」


自分を指差す。


「お前ら俺とも戦いたいだろ?」


奉先。


舞桜。


二人は顔を見合わせる。


そして――。


「別にいいかな」


「妾も別に」


「なんでだよ!」


わはははは!


一組の皆が笑う。


「ひでぇなぁ!」


刀也が頬を膨らませる。


だが、すぐに笑う。


「まあいい!」


腰の新しい木刀へ手を置く。


「俺もこの前からめちゃくちゃ修練したからな!」


にやり。


「お前らビックリさせてやるから覚悟しろよ!」


「それは楽しみだ」


奉先も嬉しそうだった。


その時。


「奉先」


少し離れたところから声がした。


「そろそろ準備を――」


一人の男子生徒が歩いてくる。


「…………」


晴真が見上げた。


背が高い。


奉先や与一、太一と並んでもほとんど変わらないほどの長身。


だが体格の大きさとは対照的に、足運びは驚くほど静かだった。


舞桜がその男子生徒を見る。


「おお、響」


そして晴真へ紹介する。


「こやつが晴真じゃ」


奉先も続ける。


「俺たちと同じ三組の――七曲響」


「七曲……」


晴真はすぐに思い出した。


「あっ!」


「茜ちゃんと桔梗ちゃんが言ってた!」


響が首を傾げる。


「二人が?」


「うん!」


晴真は目を輝かせる。


「従兄弟の響君!」


「すごい忍者なんだって!」


響は少し困ったように笑った。


「いやいや」


「俺なんてまだまだだよ」


すると。


「そんなことないよ!」


後ろから声がした。


茜と桔梗だった。


「響はすごいよ!」


「忍術なら私たちよりずっと上手いもん!」


「二人とも……」


響は苦笑する。


だが。


茜と桔梗の表情が少し曇った。


「でもさ……」


「この前……」


二人は顔を見合わせる。


「直弥を逃がしちゃった」


「…………」


響の表情も僅かに変わる。


二人は悔しそうに俯いた。


「せっかく道満君が追い詰めてくれたのに」


「また逃げられた……」


だが響は。


「茜」


「桔梗」


二人へ優しく声を掛けた。


「焦らなくていい」


「…………」


「またチャンスはあるよ」


響は穏やかに笑う。


「その時は――俺も一緒に戦うから」


「響……」


二人の表情が少しだけ明るくなる。


その光景を見ていた美鈴が。


「…………」


何やら真剣な顔をしていた。


綾女が気づく。


「どうしたの?」


「分析しています」


「何を?」


美鈴は響を見ながら、小声で言う。


「あれは――」


一拍。


「道満君と同じです」


「俺?」


道満が振り返る。


「ナチュラルイケメンです」


「……何だそれ?」


「本人はまったく意識していないのに」


美鈴が説明する。


「自然に格好いい振る舞いをしてしまう人です」


「ほら!」


響が茜と桔梗を励ましている。


「今のなんて完璧ですよ!」


「なるほど」


綾女が頷く。


そこへ紅葉が割って入った。


「お待ちなさい」


「はい?」


紅葉は胸を張る。


「道満様と比べるのは酷というものですわ」


「…………」


美鈴。


綾女。


二人が顔を見合わせる。


「はいはい」


「はいはい」


「なんですの、その反応は!」


皆が笑った。



晴真は響の前へ出る。


「改めて」


手を差し出した。


「桜晴真だよ」


「よろしくね、響君」


響もその手を握る。


「七曲響」


「君が晴真君か」


にこり。


「二人から色々聞いてるよ」


「え?」


晴真が茜と桔梗を見る。


二人が目を逸らした。


「……変なこと聞いてない?」


「いや」


響は笑う。


「大したことじゃないよ」


「よかったぁ」


「クラス全員を封印しかけたとか」


「…………」


「学園全部を結界で覆いかけたとか」


「…………」


「チヨヒメ様の結界をぶち壊そうとしたとか」


「全部聞いてるじゃん!」


わはははは!


一組から笑いが起こる。


茜と桔梗も。


「だって本当のことだもん!」


「響にも教えておこうと思って!」


「そこ教えなくていいよ!」


晴真が困った顔をする。


響も笑った。


「でも」


少し真剣な表情になる。


「今は、すごい陰陽術を使うらしいね」


「…………」


晴真は一瞬黙る。


そして。


にこっ。


「それは内緒」


「え?」


「試合までね!」


響もすぐに意味を理解する。


「なるほど」


にやり。


「それじゃあ、当たったら楽しみにしておくよ」


「うん!」


二人が笑い合う。



だが――。


「おい!」


突然。


鋭い声が飛んだ。


一年一組の表情が変わる。


三組の生徒たちの中から歩いてきたのは――。


麻賀多影也。


「奉先」


「舞桜」


「響」


三人を睨む。


「試合前に敵と馴れ合うとは、どういうつもりだ」


「…………」


奉先の表情が一気に面倒そうになる。


影也は続ける。


「貴様ら」


「三組を裏切るつもりか?」


「いや」


奉先は淡々と答えた。


「友人と話していただけだ」


「何?」


舞桜も腕を組む。


「そうじゃ」


そして容赦なく。


「お前と話していても、つまらんからな」


「貴様!」


影也の顔が引きつる。


「響!」


「…………」


響は。


すーっ。


別の方向を向いた。


「おい響!」


聞こえていないふり。


「貴様! 無視するな!」


晴真が三人を見る。


奉先。


舞桜。


響。


そして影也。


(……あれ?)


どうやら。


三人は影也とうまくいっていないらしい。


それは一組の皆も同じように感じたようだった。


その時。


「何を騒いでいる」


低い声が響いた。


三組の生徒たちが静かになる。


歩いてきたのは――。


一年三組担任。


麻賀多影行。


麻賀多本家に近い立場の人物であり。


一組の生徒たちからすれば、少々近寄りがたい教師。


「試合前だぞ」


影行は三組の生徒を見渡す。


「無駄話をしていないで、早く準備に取り掛かりなさい」


「……はい」


影也は不満そうに答える。


影行はそのまま歩き――。


ふと。


道満の前で止まった。


「道満」


「はい」


「実技試験では、随分面白いものを見せてもらった」


道満が少し笑う。


「ありがとうございます」


そして。


影行の視線が晴真へ向く。


「晴真」


「はい?」


「お前もだ」


「今日も――」


ほんの僅か。


影行の口元が緩んだ。


「何か面白いものを見せてくれるんだろう?」


晴真が目をぱちぱちさせる。


そして笑った。


「はい!」


「たぶん!」


「たぶんか」


影行は苦笑する。


「期待している」


そう言い残し。


三組の方へ戻っていった。


晴真はその背中を見ながら呟く。


「影行先生って……」


「なんだ?」


道満が聞く。


「なんか損してるよね」


「…………」


道満も影行の背中を見る。


麻賀多本家寄り。


厳しい。


無愛想。


家柄や伝統を重んじる。


そのため誤解されやすいが――。


陰陽術そのものが大好きで。


努力する者。


優れた術を生み出す者。


陰陽術へ真剣に向き合う生徒には、家柄に関係なく意外なほど優しい。


「ああ」


道満も苦笑した。


「俺もそう思う」


「ですよね」


凛も笑う。



「一年一組!」


少し離れた場所から正臣の声が飛ぶ。


「そろそろ準備しろ!」


「はーい!」


晴真が返事をする。


刀也が拳を鳴らした。


「よっしゃ!」


迅も笑う。


「いよいよだな!」


凛が皆を見回す。


「みんな」


「夏休み前からやってきたこと――全部出しましょう!」


「おう!」


みんなの声が重なった。


晴真も拳を握る。


夏休み前から始まり。


数え切れないほど失敗して。


何度も話し合って。


何度も戦って。


みんなで学んできた――


チームで戦うということ。


その成果を見せる時が。


ついに――。


やって来た。

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