第二十一話 チーム研修発表
夏休み前から始まった――チーム研修。
班を決め。
役割を考え。
互いの長所と短所を知り。
夏休みの間も何度も集まって修練を重ねた。
そして夏休みが明けてからも。
春花の容赦ない特訓。
正臣が用意した戦術資料。
新たに覚えた霊装武具。
指揮役を入れ替えての連携。
数え切れないほどの失敗と話し合いを繰り返してきた。
そして――。
ついに。
その成果を披露する日がやって来た。
チーム研修発表。
◇
佐倉陰陽学園・屋外実技場。
一年一組と一年三組の生徒たちが、それぞれ実技場へ集まっていた。
今回の発表形式は――。
五人対五人の模擬戦。
一組、三組ともに五人一班を基本とし、合計五試合を行う。
ただし。
あらかじめ対戦相手が決められているわけではない。
各班の代表者がくじを引き、同じ番号を引いた班同士が対戦する。
つまり――。
誰と戦うことになるのかは、くじを引くまで分からない。
「いよいよだな!」
刀也は朝から興奮を隠せない。
「早くやろうぜ!」
「まだ対戦相手すら決まってませんよ」
凛が呆れる。
「だから楽しみなんじゃん!」
豪太も拳を鳴らす。
「誰が来ても全力でやるだけだ!」
与一は苦笑する。
「君たちは本当に分かりやすいね」
そんな中――。
「晴真!」
三組の方から声が聞こえた。
「ん?」
晴真が振り返る。
そこには、見慣れた二人。
「奉先君!」
岩富奉先。
そして――。
「晴真!」
その横には岩富舞桜。
二人がこちらへ歩いてくる。
舞桜は楽しそうに笑った。
「今日は晴真たちと戦えるといいな!」
「僕たちと?」
「ああ!」
奉先も頷く。
そして晴真の隣に立つ道満を見る。
「俺は道満とも戦ってみたい」
「俺か?」
道満は苦笑する。
「お前と正面から武術でやり合うのは、かなり面倒そうだな」
「褒め言葉として受け取っておく」
奉先が笑う。
そこへ。
「おいおい!」
刀也が割って入る。
「俺もいるだろ!」
自分を指差す。
「お前ら俺とも戦いたいだろ?」
奉先。
舞桜。
二人は顔を見合わせる。
そして――。
「別にいいかな」
「妾も別に」
「なんでだよ!」
わはははは!
一組の皆が笑う。
「ひでぇなぁ!」
刀也が頬を膨らませる。
だが、すぐに笑う。
「まあいい!」
腰の新しい木刀へ手を置く。
「俺もこの前からめちゃくちゃ修練したからな!」
にやり。
「お前らビックリさせてやるから覚悟しろよ!」
「それは楽しみだ」
奉先も嬉しそうだった。
その時。
「奉先」
少し離れたところから声がした。
「そろそろ準備を――」
一人の男子生徒が歩いてくる。
「…………」
晴真が見上げた。
背が高い。
奉先や与一、太一と並んでもほとんど変わらないほどの長身。
だが体格の大きさとは対照的に、足運びは驚くほど静かだった。
舞桜がその男子生徒を見る。
「おお、響」
そして晴真へ紹介する。
「こやつが晴真じゃ」
奉先も続ける。
「俺たちと同じ三組の――七曲響」
「七曲……」
晴真はすぐに思い出した。
「あっ!」
「茜ちゃんと桔梗ちゃんが言ってた!」
響が首を傾げる。
「二人が?」
「うん!」
晴真は目を輝かせる。
「従兄弟の響君!」
「すごい忍者なんだって!」
響は少し困ったように笑った。
「いやいや」
「俺なんてまだまだだよ」
すると。
「そんなことないよ!」
後ろから声がした。
茜と桔梗だった。
「響はすごいよ!」
「忍術なら私たちよりずっと上手いもん!」
「二人とも……」
響は苦笑する。
だが。
茜と桔梗の表情が少し曇った。
「でもさ……」
「この前……」
二人は顔を見合わせる。
「直弥を逃がしちゃった」
「…………」
響の表情も僅かに変わる。
二人は悔しそうに俯いた。
「せっかく道満君が追い詰めてくれたのに」
「また逃げられた……」
だが響は。
「茜」
「桔梗」
二人へ優しく声を掛けた。
「焦らなくていい」
「…………」
「またチャンスはあるよ」
響は穏やかに笑う。
「その時は――俺も一緒に戦うから」
「響……」
二人の表情が少しだけ明るくなる。
その光景を見ていた美鈴が。
「…………」
何やら真剣な顔をしていた。
綾女が気づく。
「どうしたの?」
「分析しています」
「何を?」
美鈴は響を見ながら、小声で言う。
「あれは――」
一拍。
「道満君と同じです」
「俺?」
道満が振り返る。
「ナチュラルイケメンです」
「……何だそれ?」
「本人はまったく意識していないのに」
美鈴が説明する。
「自然に格好いい振る舞いをしてしまう人です」
「ほら!」
響が茜と桔梗を励ましている。
「今のなんて完璧ですよ!」
「なるほど」
綾女が頷く。
そこへ紅葉が割って入った。
「お待ちなさい」
「はい?」
紅葉は胸を張る。
「道満様と比べるのは酷というものですわ」
「…………」
美鈴。
綾女。
二人が顔を見合わせる。
「はいはい」
「はいはい」
「なんですの、その反応は!」
皆が笑った。
◇
晴真は響の前へ出る。
「改めて」
手を差し出した。
「桜晴真だよ」
「よろしくね、響君」
響もその手を握る。
「七曲響」
「君が晴真君か」
にこり。
「二人から色々聞いてるよ」
「え?」
晴真が茜と桔梗を見る。
二人が目を逸らした。
「……変なこと聞いてない?」
「いや」
響は笑う。
「大したことじゃないよ」
「よかったぁ」
「クラス全員を封印しかけたとか」
「…………」
「学園全部を結界で覆いかけたとか」
「…………」
「チヨヒメ様の結界をぶち壊そうとしたとか」
「全部聞いてるじゃん!」
わはははは!
一組から笑いが起こる。
茜と桔梗も。
「だって本当のことだもん!」
「響にも教えておこうと思って!」
「そこ教えなくていいよ!」
晴真が困った顔をする。
響も笑った。
「でも」
少し真剣な表情になる。
「今は、すごい陰陽術を使うらしいね」
「…………」
晴真は一瞬黙る。
そして。
にこっ。
「それは内緒」
「え?」
「試合までね!」
響もすぐに意味を理解する。
「なるほど」
にやり。
「それじゃあ、当たったら楽しみにしておくよ」
「うん!」
二人が笑い合う。
◇
だが――。
「おい!」
突然。
鋭い声が飛んだ。
一年一組の表情が変わる。
三組の生徒たちの中から歩いてきたのは――。
麻賀多影也。
「奉先」
「舞桜」
「響」
三人を睨む。
「試合前に敵と馴れ合うとは、どういうつもりだ」
「…………」
奉先の表情が一気に面倒そうになる。
影也は続ける。
「貴様ら」
「三組を裏切るつもりか?」
「いや」
奉先は淡々と答えた。
「友人と話していただけだ」
「何?」
舞桜も腕を組む。
「そうじゃ」
そして容赦なく。
「お前と話していても、つまらんからな」
「貴様!」
影也の顔が引きつる。
「響!」
「…………」
響は。
すーっ。
別の方向を向いた。
「おい響!」
聞こえていないふり。
「貴様! 無視するな!」
晴真が三人を見る。
奉先。
舞桜。
響。
そして影也。
(……あれ?)
どうやら。
三人は影也とうまくいっていないらしい。
それは一組の皆も同じように感じたようだった。
その時。
「何を騒いでいる」
低い声が響いた。
三組の生徒たちが静かになる。
歩いてきたのは――。
一年三組担任。
麻賀多影行。
麻賀多本家に近い立場の人物であり。
一組の生徒たちからすれば、少々近寄りがたい教師。
「試合前だぞ」
影行は三組の生徒を見渡す。
「無駄話をしていないで、早く準備に取り掛かりなさい」
「……はい」
影也は不満そうに答える。
影行はそのまま歩き――。
ふと。
道満の前で止まった。
「道満」
「はい」
「実技試験では、随分面白いものを見せてもらった」
道満が少し笑う。
「ありがとうございます」
そして。
影行の視線が晴真へ向く。
「晴真」
「はい?」
「お前もだ」
「今日も――」
ほんの僅か。
影行の口元が緩んだ。
「何か面白いものを見せてくれるんだろう?」
晴真が目をぱちぱちさせる。
そして笑った。
「はい!」
「たぶん!」
「たぶんか」
影行は苦笑する。
「期待している」
そう言い残し。
三組の方へ戻っていった。
晴真はその背中を見ながら呟く。
「影行先生って……」
「なんだ?」
道満が聞く。
「なんか損してるよね」
「…………」
道満も影行の背中を見る。
麻賀多本家寄り。
厳しい。
無愛想。
家柄や伝統を重んじる。
そのため誤解されやすいが――。
陰陽術そのものが大好きで。
努力する者。
優れた術を生み出す者。
陰陽術へ真剣に向き合う生徒には、家柄に関係なく意外なほど優しい。
「ああ」
道満も苦笑した。
「俺もそう思う」
「ですよね」
凛も笑う。
◇
「一年一組!」
少し離れた場所から正臣の声が飛ぶ。
「そろそろ準備しろ!」
「はーい!」
晴真が返事をする。
刀也が拳を鳴らした。
「よっしゃ!」
迅も笑う。
「いよいよだな!」
凛が皆を見回す。
「みんな」
「夏休み前からやってきたこと――全部出しましょう!」
「おう!」
みんなの声が重なった。
晴真も拳を握る。
夏休み前から始まり。
数え切れないほど失敗して。
何度も話し合って。
何度も戦って。
みんなで学んできた――
チームで戦うということ。
その成果を見せる時が。
ついに――。
やって来た。




