第十九話 受け継がれるもの
御堂家での修練を終えた翌日。
佐倉陰陽学園。
休み時間になった一年一組の教室では――。
当然のように昨日の修練の話で盛り上がっていた。
「なあ太一!」
刀也が自分の新しい木刀を片手に身を乗り出す。
「霊装武具で刀身を伸ばした状態で大斬刃を撃ったら、やっぱ斬撃もデカくなると思うか?」
「俺もそれ試したいんだよ!」
太一も目を輝かせる。
「刀身の長さだけじゃなくて、幅も変えたらどうなるんだろうな」
「巨大な刀にして――」
「大斬刃!」
「絶対かっこいい!」
「そこですか……」
凛が呆れたようにため息をつく。
その隣では。
「与一君」
晴真が何やら紙へ図を描いている。
「昨日の矢だけどさ」
「うん」
「矢全部を霊装武具で作るんじゃなくて、筈だけ霊木メッキにして、そこから必要な分だけ霊気を伸ばしたらどうかな?」
「なるほど……」
与一も真剣に考える。
「それなら消費する霊力を抑えられるかもしれない」
「それに術式を変えれば――」
「火矢とか?」
「雷矢もできそうだね」
「水矢も忘れるなよ!」
迅が口を挟む。
道満がちらりと見る。
「お前、この前まで水矢に何の意味があるんだって言ってただろ」
「使い道聞いたら欲しくなった」
「単純ですわね」
紅葉が笑う。
一方。
小夜と紅葉は霊装武具で作った薙刀について話し合い。
美鈴は新しい布陣を考え。
豪太は――。
「投げ槍だ!」
ひたすら霊装武具の槍を投げる方法を考えていた。
茜と桔梗は霊木メッキを施した木銭を机へ並べ。
綾女はそれを黙々と手裏剣へ変化させている。
昨日の御堂家での修練。
霊装武具。
新しい武器。
新しい術。
そして新しい連携。
たった一日で――。
十五人それぞれに、新しい発見が生まれていた。
そんな中。
隼人がふと思い出したように迅を見る。
「そういえば迅」
「ん?」
「昨日、お前の親父さん――うちに来たぞ」
「親父が?」
「ああ」
隼人は苦笑する。
「霊装武具について、ものすごい熱く語ってた」
迅の顔が引きつる。
「……想像できる」
「しかも」
隼人は続ける。
「霊装武具用の依代を大量に置いていった」
「え?」
「忍刀用」
一本。
「苦無用」
もう一本。
「手裏剣用」
さらに。
「木銭用」
「…………」
迅が頭を抱える。
「親父……」
茜が笑う。
「親父さん、すっごく楽しそうだったよ」
桔梗も頷く。
「『忍びの武器が変わるぞ!』って」
「言いそう……」
迅がため息をつく。
すると綾女も小さく手を上げた。
「うちにも来た」
「マジで!?」
「うん」
綾女は頷く。
「父さんに霊装武具の忍刀と手裏剣を披露してた」
「それから――」
少し間を置く。
「やっぱり、いっぱい置いていった」
「親父ぃ……」
教室に笑いが起きる。
「何やってんだよ!」
迅が机へ突っ伏した。
「自分の家だけでやってろよ!」
隼人が笑う。
「うちの親父も苦笑いしてた」
「だろ?」
「でも」
隼人は父親の言葉を思い出す。
「最後には笑ってたよ」
迅が顔を上げる。
「なんて?」
「――疾風には、世間の垣根なんて関係ないからなって」
「…………」
迅が少し黙った。
綾女も頷く。
「うちの父さんも、同じこと言ってた」
「麻倉疾風は昔から変わらないって」
刀也が迅の肩を叩く。
「いい親父じゃん!」
「うるせえ」
そう言いながらも。
迅は少し嬉しそうだった。
◇
「世間の垣根って?」
晴真が首を傾げる。
「家の違いとか?」
「まあ、そんなところだ」
隼人が答える。
「忍びって言っても一枚岩じゃない」
麻倉衆。
青菅衆。
根郷衆。
七曲衆。
それぞれの家に。
それぞれの技。
それぞれの歴史がある。
当然。
秘伝もあれば。
他家には教えない術もある。
「昔は特に」
隼人は続ける。
「他の忍びの家へ自分の技術を簡単に教えたりしなかったらしい」
「へえ……」
晴真が感心する。
綾女も静かに言う。
「でも疾風様は、そういうのをあまり気にしない」
「強くなる方法があるなら、みんなで使えばいいって人」
「うちの親父らしいな」
迅が笑う。
「昔からそうなんだよ」
「面白そうな技を見つけたらすぐ覚える」
「自分の技もすぐ教える」
「だからよく爺ちゃんに怒られてたらしい」
「お前と同じじゃないか」
与一が言う。
「うっせえ!」
皆が笑った。
すると。
「でも――」
晴真が嬉しそうに言う。
「いいと思う」
「何が?」
「だって」
晴真は茜たちの机に置かれている木銭を見る。
「麻倉家の人が考えたことを青菅家の人が使って」
「青菅家の人が考えたことを七曲家の人が使って」
「そこからまた新しい使い方が生まれたら」
笑う。
「もっと色んなことができるようになるじゃん」
「…………」
隼人が晴真を見る。
「お前は簡単に言うな」
「駄目?」
「いや」
隼人は小さく笑った。
「俺もそう思う」
「私も」
綾女が頷く。
茜と桔梗も。
「私たちも!」
「その方が絶対面白いよ!」
迅が立ち上がった。
「よし!」
「じゃあ忍び五人衆で、新しい霊装忍具を作りまくろうぜ!」
「おう!」
「でも迅」
隼人が言う。
「お前はまず昨日言ったことを直せ」
「何?」
「勝手に突っ込むな」
「昨日はそれで勝ったじゃん!」
「昨日は俺が指示したからだ!」
「結果同じだろ!」
「全然違う!」
「へい、お頭!」
「だからそれをやめろ!」
わはははは!
教室に笑い声が響いた。
◇
そんな皆を見ながら。
道満は静かに自分の机へ置いた宵桜へ目を向けた。
霊装武具。
かつて。
夜叉丸が使っていた技。
長い年月の中で使い手が減り。
いつしか廃れていった術。
それが今。
晴真たちによって再び使われ始めている。
「……不思議だな」
道満が呟く。
「何が?」
紅葉が振り返る。
「この術だ」
道満は宵桜へ触れる。
「夜叉丸様の時代には存在していた」
「だが使う者がいなくなって、忘れられた」
「それを春花さんが俺たちへ教えた」
紅葉が頷く。
「ええ」
「そして今度は」
道満は迅たちを見る。
「俺たちが新しい使い方を考えている」
刀身を伸ばす。
巨大化させる。
投げ槍にする。
手裏剣にする。
矢にする。
術式を組み込む。
昔とまったく同じ使い方ではない。
昔の技術を学び。
今の知識を加え。
新しいものへ変えていく。
「そう考えると」
与一も会話へ加わる。
「技術って、誰か一人のものじゃないのかもしれないね」
「受け継いだ人が次へ渡して」
「その人がまた何かを加える」
太一も頷く。
「小篠塚流だってそうだな」
「元を辿れば大篠塚流から枝分かれして生まれた剣術だし」
刀也が笑う。
「立身流だって昔からずっと同じじゃねえぞ」
「親父も姉ちゃんも、自分に合うように技を変えてる」
道満は宵桜を見る。
四百年前。
この刀を握っていた夜叉丸も。
同じように。
誰かから学び。
考え。
自分の技を作ったのだろう。
そして。
その技が今――。
自分たちへ届いている。
「なら」
道満が小さく笑った。
「俺たちも次へ残せるくらいのものを作らないとな」
「おお!」
刀也が拳を上げる。
「俺、新しい剣技作る!」
「俺は新しい忍術!」
「俺は槍技!」
「僕は弓術かな」
次々と声が上がる。
そして。
全員が晴真を見る。
「…………?」
晴真が餡蜜の本から顔を上げた。
「何?」
「お前はもう十分作ってる!」
刀也が叫ぶ。
「ええ!?」
「少し休め!」
「なんで!?」
「お前が何か思いつくたびに大人が大騒ぎになるんだよ!」
「そんなことないよ!」
道満が即答する。
「ある」
凛も。
「ありますね」
紅葉も。
「ありますわ」
小夜まで。
「……あると思う」
「小夜ちゃんまで!?」
わはははは!
再び教室が笑いに包まれる。
古い技を受け継ぎ。
新しい知恵を加え。
仲間へ伝える。
そして。
その仲間がまた――。
新しい何かを生み出していく。
かつて夜叉丸たちが歩んだ道の続きを。
今度は十五人の若芽たちが――。
少しずつ歩き始めていた。




