↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/40

第十八話 理詰めを捨てろ


 「――始め!」


春花の声と同時に。


シュッ――!


五人の忍びが一斉に姿を消した。


「消えた!」


刀也が身を乗り出す。


次の瞬間。


シュシュシュシュッ!


四方から無数の手裏剣が飛び出した。


昨日手に入れた依代から作り出された――霊装武具の手裏剣。


狙いは当然。


晴真と道満。


だが――。


「いない!?」


手裏剣が空を切る。


開始と同時。


晴真と道満も動いていた。


「巡らせ――三重!」


二人の全身へ霊力が駆け巡る。


そして。


ダンッ!


左右へ分かれた。


「二手に分かれた!」


与一が声を上げる。


道満を追うのは――。


迅と茜。


晴真を追うのは――。


綾女と桔梗。


そして隼人は姿を隠したまま、戦場全体を見ていた。



「道満君!」


茜が懐から何かを取り出す。


バサッ!


広がったのは――投網。


「捕まえた!」


道満へ投げつける。


「甘い!」


宵桜を抜く。


ザンッ!


一閃。


投網が真っ二つに斬り裂かれた。


同時に。


「晴真君!」


桔梗も投網を放つ。


「うわっ!」


晴真へ覆い被さる。


だが。


晴真は札を取り出した。


「突風!」


ブワァァァッ!!


強烈な風。


「きゃっ!」


投網が押し返され、桔梗ごと吹き飛ばされる。


「やっぱ駄目か!」


そこへ――。


「道満!」


迅が飛び込んだ。


ギンッ!


忍刀を振り下ろす。


しかし。


バァン!


道満の前に結界が展開。


「うおっ!?」


迅が弾き返される。


「正面から来るとは珍しいな」


道満が宵桜へ手を掛ける。


一方。


晴真の背後。


シュッ!


「晴真!」


綾女の忍刀が迫る。


晴真が振り返る。


身体を半歩ずらし。


綾女の手首を取る。


「えっ――」


引く。


崩す。


相手の勢いをそのまま利用して――。


ドンッ!


「くっ!」


綾女の身体が地面へ落ちる。


晴真はそのまま腕を制し――。


ようとした瞬間。


シュシュシュッ!


「わっ!」


横から手裏剣。


晴真が咄嗟に手を離す。


綾女はその隙に転がり。


ザッ!


すぐに体勢を整えた。


「危なかった」


「こっちも」


晴真も構え直す。



「迅!」


道満が踏み込む。


宵桜が走る。


ギィン!


迅が忍刀で受ける。


「くっ!」


そこへ。


「もらった!」


茜が横から斬りかかる。


道満は身体を回転させるように――。


ブンッ!


宵桜を薙ぎ払った。


「わっ!」


「くそっ!」


迅と茜が同時に距離を取る。


道満も追わない。


互いの間合いが離れる。


その瞬間――。


隼人の目が鋭くなった。


「今だ」


シュッ!


一本の苦無が地面へ突き刺さる。


「何?」


道満の足元。


いや。


狙ったのは――。


道満の影。


ズンッ!


「……!」


道満の身体が止まった。


「これは……」


動こうとする。


しかし。


足が地面へ縫い付けられたように動かない。


隼人が姿を現す。


「忍術――影縫い」


霊力を込めた苦無で対象の影を地面へ縫い止める。


影を縫われた者は――。


その場から動けなくなる。


「道満!」


迅の目が輝く。


「もらった!」


一気に踏み込もうとする。


だが――。


「待て迅!」


隼人が叫ぶ。


その前に。


晴真が札を頭上へ向けていた。


「火球!」


ボッ!


火球が――。


空へ放たれた。


「何!?」


火球の光が周囲を照らす。


その瞬間。


道満の足元にあった影が――。


薄れる。


そして。


消えた。


カラン。


影を失った苦無が倒れる。


「なるほど」


道満が笑う。


「影がなければ縫えないのか」


「しまった!」


隼人の顔が変わる。


道満が動いた。


「迅!」


「え?」


一瞬で間合いを詰める。


「やべっ!」


迅が忍刀を振る。


しかし。


道満はそれを読んでいた。


刀を受け流し。


身体を返す。


そのまま迅の懐へ――。


「もらった」


「くっ!」


返し技。


決まる。


――その寸前。


シュッ!


一本の苦無。


それが――。


迅の影へ突き刺さった。


ピタッ!


「えっ?」


迅の身体が止まる。


道満も思わず動きを止めた。


「何?」


迅の影を縫ったのは――。


隼人。


「迅!」


隼人が怒鳴る。


「無闇に突っ込むな!」


「せっかく止めても、お前が罠に飛び込んでどうする!」


「へいへい」


迅は影縫いを解かれながら頭を下げる。


「すみません、お頭」


「今はふざけるな!」


「へい、お頭!」


「迅!」



五人が一度距離を取る。


晴真と道満も無理には追わない。


「……うまくいかない」


茜が呟く。


桔梗も頷く。


「私たちの考え通りに全然動いてくれない」


綾女が隼人を見る。


「なんで?」


「多分――」


隼人は晴真と道満を見る。


「俺たちの戦い方を知ってるからだ」


「どういうこと?」


「俺たちは忍びだ」


隼人が言う。


「真正面から意味もなく仕掛けることは少ない」


「だからあいつらは――」


道満を見る。


「何か仕掛ければ、その裏に狙いがあると最初から疑ってる」


そして晴真。


「罠に掛かってから対処するんじゃない」


「罠そのものを成立させないように潰してくる」


綾女が小さく頷く。


「……やりにくい」


「だろ?」


その時。


迅が口を開いた。


「だったらさ」


「俺のやり方で行くか?」


四人が迅を見る。


「俺の技で――」


「正面から突っ込む!」


「…………」


茜が呆れる。


「迅」


「何だよ」


「それ、この前の実技試験で誘われて突っ込んで負けたでしょう」


「それを言うなよ!」


「事実」


綾女が言う。


「お前まで!」


だが。


隼人だけは――。


「…………」


黙っていた。


「お頭?」


迅が見る。


「そうか……」


隼人が呟く。


「え?」


隼人の目が鋭くなる。


「それだ」


「何が?」


「迅」


隼人が笑った。


「お前の案に乗るぞ」


「マジで?」


「ああ」


茜と桔梗が驚く。


「正面から?」


「本当に?」


「そうだ」


隼人は言う。


「考えてみろ」


「あいつらは俺たちが忍びだから、何か仕掛けてくると思っている」


「罠」


「囮」


「誘導」


「不意打ち」


「全部警戒されている」


綾女が気づく。


「なら――」


「逆」


「ああ」


隼人が頷いた。


「一度、理詰めを捨てる」


そして。


にやり。


「全員で突っ込むぞ」


「…………」


迅の顔が輝いた。


「それ俺がいつもやってるやつじゃん!」


「お前はいつも考えなしだ!」


「酷え!」



五人が散開する。


隼人が指を動かす。


合図。


茜。


桔梗。


道満。


迅。


晴真。


そして――。


隼人と綾女は。


互いに目を合わせた。


「来るぞ」


道満が言う。


「うん」


晴真も構える。


シュッ!


最初に動いたのは隼人。


道満へ向け――。


霊装武具の手裏剣を放つ。


シュシュッ!


「それはもう見た!」


道満が僅かに身体を傾ける。


スッ。


手裏剣が横を通過する。


その瞬間。


「今!」


「行くよ!」


左右から――。


茜と桔梗。


二人同時。


忍刀を振りかぶる。


「待っていた!」


道満は完全に読んでいた。


右。


左。


二人の攻撃。


宵桜を返す。


一人目を受け流し。


その勢いで二人目を――。


「そこだ!」


返し技。


道満の口元が上がる。


一方――。


「晴真!」


迅が真正面から突っ込んでいた。


「行くぜ!」


全身へ風が纏わりつく。


「風遁――!」


爆発的な加速。


「疾風迅雷!」


ダンッ!!


「やっぱり来た!」


晴真も予想していた。


札を地面へ向ける。


「氷結!」


パキパキパキッ!


迅の進路。


地面が一気に凍りつく。


「うおっ!?」


踏み込みが滑る。


「くそっ!」


速度が落ちた。


「今!」


晴真が懐へ入る。


迅の腕を取る。


相手の勢いを流す。


「うわっ!」


身体を崩す。


そして――。


合気術で地面へ制そうとする。


「もらった!」


晴真。


そして道満。


二人とも。


目の前の相手を――。


完全に捉えた。


その瞬間。


「…………え?」


晴真の首筋。


ひやり。


何かが触れた。


道満も。


「……なに?」


首筋へ。


冷たい刃。


忍刀。


晴真の背後には――。


綾女。


道満の背後には――。


隼人。


「…………」


修練場が静まり返った。


刀也が目を見開く。


「いつの間に!?」


迅が。


にやっ。


「引っ掛かったな」


茜と桔梗も笑う。


「私たち――」


「囮でした!」


道満が首筋の忍刀を見る。


そして。


自分が仕留めようとしていた茜と桔梗を見る。


「……そういうことか」


晴真も迅を見て。


「あっ!」


気づいた。


「迅君も最初から囮だったんだ!」


「正解!」


迅が笑う。


隼人が言う。


「お前たちは俺たちが何か仕掛けると考えていた」


「だから――」


綾女が続ける。


「分かりやすく仕掛けた」


「正面から突っ込む」


「それだけ」


隼人が笑う。


「ただし――」


「本命を隠してな」


道満は一瞬黙り。


やがて。


ふっ。


笑った。


「完敗だ」


晴真も嬉しそうに笑う。


「すごい!」


「全然気づかなかった!」



パンッ!


春花が手を叩いた。


「そこまで!」


全員が春花を見る。


「勝者――」


一拍。


「第三班!」


「よっしゃああああ!!」


迅が拳を突き上げる。


「勝った!」


「やったぁ!」


茜と桔梗が飛び跳ねる。


綾女も小さく拳を握った。


隼人は――。


ふう。


大きく息を吐く。


「何とか……勝てた」


「お頭!」


迅が肩を組む。


「やったな!」


「お前の馬鹿みたいな案が役に立つとはな」


「褒めてねえだろ、それ!」


「褒めてる」


「絶対嘘だ!」


茜と桔梗も飛びつく。


「流石お頭!」


「お頭最高!」


「だからお頭って呼ぶな!」


わはははは!


一年一組から大きな笑い声が上がった。



観戦していた大人たちも。


驚いた表情で五人を見る。


麻倉疾風は腕を組んだ。


「なるほどな……」


「忍びらしく戦うことに拘らず」


「相手が『忍びならこう動く』と考えること自体を利用したか」


鏑木与之介も頷く。


「しかも囮になった三人は、本気で相手を倒しにいっている」


「だから晴真君と道満君も、囮だと見抜けなかった」


刀真が豪快に笑う。


「いいじゃねえか!」


「正面から突っ込むのも立派な作戦だ!」


刀姫が父を見る。


「父上はいつもそれでしょう」


「……そうとも言う」


皆が笑う。


一方。


晴真と道満は五人のところへ歩いていく。


「隼人君」


晴真が笑う。


「すごかった!」


「僕、最後まで分からなかったよ!」


「俺もだ」


道満も素直に認める。


「こちらが読み過ぎた」


隼人は少し照れくさそうに鼻を掻く。


「でも」


道満は続ける。


「一つ聞いていいか?」


「何だ?」


「もし俺たちが茜と桔梗、迅を無視して」


「最初からお前と綾女を狙っていたら?」


「…………」


隼人。


綾女。


迅。


茜。


桔梗。


五人が固まった。


「…………」


「…………」


隼人が目を逸らした。


「その時は――」


少し考えて。


「逃げる」


「逃げるの!?」


刀也が大笑いする。


「忍びだからな!」


隼人が開き直った。


再び修練場が笑いに包まれる。


だが。


春花は満足そうに五人を見ていた。


「それで良いのです」


皆が春花を見る。


「作戦とは、予定通りに進めるためだけのものではありません」


「予定が崩れた時」


「相手が想定を超えてきた時」


「それでも仲間と考え――」


「その場で次の手を作る」


隼人たちは静かに聞く。


「第三班」


春花が微笑んだ。


「良い勉強になりましたね」


「はい!」


五人が揃って答える。


理詰めで戦う忍び五人衆が。


理詰めでは読めない二人を相手に――。


最後に選んだのは。


まさかの正面突破。


だが。


それすら囮に変え。


天才と規格外から一本を取った。


チーム研修の発表まで――。


あと僅か。


一年一組は。


今日もまた。


確実に強くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。