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第百九話 白桜の精鋭と勝田の新たなる五勢


桜駆け第五走。


五つの門によって分かれた道は、それぞれ距離も難易度も大きく異なっている。


最短の道が必ずしも最も速いとは限らない。


強力な物怪が待ち受ける道もあれば、険しい地形が続く道もある。


そして、中には――。


「……なるほど。随分と性格の悪い道を引き当てたものだね」


二組の襷持ち、志津朔夜が苦笑した。


その前方には、鬱蒼とした森が広がっていた。


一見すると、何の変哲もない森である。


しかし、朔夜の隣を走る上志津玲司は、周囲を見渡しながら眉をひそめていた。


「朔夜。この森、妙だぞ」


「うん。僕もそう思っていたところだ」


「何が妙なんだ?」


下志津凌雅が尋ねる。


その声に、玲司は前方の木々を指差した。


「さっきから同じ木を三度見ている」


「……あ?」


凌雅が目を凝らす。


確かに、道の脇には幹が大きく二股に分かれた古木が立っていた。


「おいおい。さっきもあったぞ、あの木」


「だから言っただろう」


玲司が呆れたように答える。


「だが、妙だな」


朔夜が呟いた。


「道はずっと真っ直ぐだったはずだ」


「幻術か?」


中志津牡丹が巨大な戦斧を肩に担ぎながら尋ねた。


「おそらくね」


朔夜は周囲に視線を巡らせた。


「ただの幻術ではないと思うけど」


その時だった。


「皆さん、止まってください!」


志津香花が声を上げた。


五頭の霊馬が一斉に速度を落とす。


香花は手綱を片手に持ち、もう一方の手で札を取り出した。


「朔夜 あちらの木をご覧ください」


香花の指差す先には、先ほどの二股の古木があった。


「木の根元に、微かな霊力の流れがあります」


朔夜が目を凝らす。


「……本当だ」


「地中に術式が組まれています。おそらく、森全体に張り巡らされた結界術です」


「ふむ……」


玲司が考え込む。


「つまり、俺たちは道を真っ直ぐ進んでいるつもりで、術式によって方向をずらされていたということか」


「その可能性が高いですね」


香花が頷く。


「なら、ぶっ壊せばいいんじゃねぇの?」


凌雅があっさりと言った。


「それは駄目だ」


玲司が即座に否定する。


「無闇に術式を破壊すれば、別の罠が発動する可能性がある」


「面倒くせぇな」


凌雅が頭をかく。


牡丹は大きな戦斧を持ち直した。


「だったら、私が周りの木を全部薙ぎ倒してやろうか?」


「牡丹。それでは凌雅と同じだよ」


朔夜が笑った。


「なんだい! 私まで一緒にするな!」


「俺と一緒で何が悪いんだよ!」


「全部だよ!」


二人が睨み合う。


その様子に、香花が小さく笑った。


「お二人とも、少し静かにしてください」


そして札に霊力を込める。


「術式の中心を探ります」


香花が札を放つ。


宙に浮かんだ札が淡い光を放ち、そこから幾筋もの細い霊力の糸が伸びていった。


糸は周囲の木々へと広がり、地中に隠された術式の流れを浮かび上がらせる。


「……見えました」


香花が微笑んだ。


「朔夜 あの古木が術式の起点です」


「ありがとう、香花」


朔夜が頷く。


「玲司、できるかい?」


「当然だ」


玲司は札を三枚取り出した。


一枚を古木へ。


残る二枚を左右の地面へ。


「結界の流れを逆算すれば、解除するのは難しくない」


玲司は指先に霊力を集中させた。


「解!」


三枚の札が同時に輝いた。


パリンッ!!


硝子の割れるような音が森に響く。


すると、先ほどまで同じように続いていた景色が、まるで薄い膜を剥がすように変化していった。


「おおっ!」


牡丹が声を上げる。


「道が現れたじゃないか!」


五人の前には、それまで見えていなかった一本の道が伸びていた。


「さすが玲司だね」


朔夜が微笑む。


「この程度、できて当然だ」


玲司は涼しい顔で答えた。


凌雅がニヤリと笑う。


「相変わらず可愛げのねぇ奴だな」


「お前に言われたくない」


五人は再び霊馬を走らせ始めた。


しかし――。


この森の罠は、それだけではなかった。


◆


「うわっ!?」


先頭を走っていた凌雅が、突然手綱を引いた。


足元の地面が大きく沈み込んだのだ。


「落とし穴かよ!」


凌雅の霊馬が前脚を高く上げる。


その瞬間、周囲の地面から無数の蔓が飛び出した。


「今度は何だい!?」


牡丹が叫ぶ。


蔓は生き物のようにうねりながら、五頭の霊馬に絡みつこうとしていた。


「凌雅! 右を頼む!」


朔夜が声を上げる。


「おう!」


凌雅は背中の武器を抜き放った。


素早く構えを変え、迫る蔓を次々と斬り払っていく。


「牡丹! 左!」


「任せな!」


牡丹が巨大な戦斧を振り上げた。


ブォン!!


豪快な一撃。


太い蔓が数本まとめて断ち切られた。


「ははっ! この程度!」


しかし、断ち切られた蔓の根元から、新たな蔓が伸び始める。


「ちょっと! 切っても切っても出てくるじゃないか!」


牡丹が不満そうに叫ぶ。


「術式で再生しているんだ!」


玲司が答えた。


「香花!」


「はい!」


香花はすでに札を構えていた。


「霊力の流れを断ちます!」


放たれた札が地面へ突き刺さる。


「封!」


淡い光が広がり、地中を走る術式の一部を封じ込めた。


すると、蔓の動きが鈍くなる。


「今だよ!」


朔夜が声をかけた。


凌雅と牡丹が同時に動く。


「おらぁっ!!」


「邪魔なんだよ!!」


二人の武器が、残る蔓を一気に薙ぎ払った。


五人はその隙に落とし穴を飛び越える。


「よし!」


凌雅が笑う。


「今度こそ抜けたな!」


だが――。


「いや、まだだ」


玲司の声が響いた。


その直後。


森の奥から、甲高い悲鳴が聞こえてきた。


「助けてぇぇぇ!!」


「誰かぁぁ!!」


少女の声だった。


牡丹が思わず振り返る。


「誰かいるのかい!?」


「待ってください!」


香花が制止する。


「……あれも罠です」


朔夜も頷いた。


「声の方向に霊力の反応がない。それに、あまりにも都合がよすぎる」


「人の声まで使うのかよ」


凌雅が呆れる。


「悪趣味な森だな」


「まったくだ」


玲司が同意した。


しかし、次の瞬間。


「助けて! お願い!!」


再び少女の声が響く。


今度は、まるで牡丹のすぐ後ろから聞こえた。


「うわっ!?」


牡丹が驚いて振り向く。


そこには誰もいない。


「なんなんだい! 気味が悪い!」


「音を利用した幻術ですね」


香花が説明する。


「声のする方向へ誘導して、別の罠にかける仕組みでしょう」


「だったら、その術式も――」


玲司が札を取り出そうとした時だった。


「待って、玲司」


朔夜が制した。


「ここは僕に任せてくれないか」


「……分かった」


朔夜は目を閉じた。


周囲に流れる霊力を感じ取る。


木々。


地面。


空気。


そして、微かに漂う不自然な霊力の揺らぎ。


「……そこか」


朔夜が目を開いた。


手にした札を、何もない空間へ放つ。


「破!」


札が閃光を放った。


パァァン!!


空間が弾けるような音とともに、少女の悲鳴が消えた。


同時に、周囲の木々に隠されていた複数の術式が姿を現す。


「なるほど」


玲司が感心したように呟いた。


「幻術の解除そのものを囮にしていたのか」


「そういうことだね」


朔夜が笑う。


「香花が声の仕組みに気づいてくれなければ、僕も余計な術式に触れていたかもしれない」


「朔夜なら、すぐに気づかれたと思います」


香花が微笑む。


「いや、香花の手柄だよ」


そんな二人の会話を聞きながら、凌雅が頭をかいた。


「……なあ」


「何だ?」


玲司が尋ねる。


「この森、やたらと陰湿じゃねぇか?」


「それは同感だ」


玲司はため息をついた。


「まるで、俺たちが苦手なことを次々と試されているみたいだ」


その言葉に、朔夜が微笑んだ。


「……そうだね」


そして、ふと思い出したように言った。


「でも、こういう状況には覚えがあるだろう?」


玲司と香花が顔を見合わせる。


「ああ」


「そうですね」


二人が同時に頷いた。


◆


それは、桜駆けが始まる少し前のことだった。


黒桜寮の一年生たちが勝田家の合同合宿で修練に励んでいた頃。


二組の五人は、白桜寮の先輩たちから特別な修練を受けていた。


白桜寮。


代々、優秀な陰陽師や武芸者を数多く輩出してきた寮である。


名門の子弟も多く集まり、学業、陰陽術、武術、そのいずれにおいても高い水準が求められる。


そんな白桜寮の上級生たちが、五人の指導に当たっていた。


もっとも――。


その修練を取り仕切るはずの二人は、寮にはいなかった。


麻賀多道隆。


そして、その妹である麻賀多道香。


二人とも勝田家の合同合宿に参加していたのだ。


しかし、白桜寮の後輩たちへの指導を疎かにしたわけではなかった。


むしろ、出発前に他の上級生たちへ、かなり細かな指示を残していた。


『朔夜たちには、個々の技量を高めるだけの修練は必要ありません』


道隆は、白桜寮の上級生たちにそう告げていた。


『彼らはすでに、一年生としては非常に高い能力を持っています。特に志津家の五人は、幼い頃から共に修練を積んできました』


その隣で、道香が頷く。


『だからこそ、今回の修練では彼らの弱点を徹底的に突いてください』


『弱点、ですか?』


上級生の一人が尋ねた。


道香は微笑んだ。


『ええ。彼らは優秀です。けれど、優秀だからこそ、自分たちの判断が正しいと思い込みやすい』


そして、用意した修練内容を示した。


『幻術による誘導、複数の罠を連動させた結界、囮を利用した判断の攪乱。それに、仲間同士を分断する仕掛けもお願いします』


『かなり厳しい内容ですね』


『構いません』


道香はきっぱりと答えた。


『力で突破できる罠ばかりでは、意味がありませんから』


道隆も静かに頷いた。


『五人が、それぞれの役割を理解して動けるようにしてください』


そして、穏やかな笑みを浮かべた。


『一人の天才よりも、互いを信頼して動ける五人の方が、ずっと強いのです』


こうして始まった白桜寮の特別修練。


その内容は、想像以上に厳しいものだった。


一つの罠を解除すると、別の罠が作動する。


敵の幻影を倒せば、味方の幻影が現れる。


正しい道を選んだと思えば、そこに落とし穴が待ち受ける。


時には五人が分断され、それぞれ異なる情報を与えられた。


凌雅と牡丹は力任せに突破しようとして失敗し、玲司は複雑な術式の解析に時間をかけすぎた。


香花は仲間を気遣うあまり判断が遅れ、朔夜も全員の動きを一人で把握しようとして、何度も足を止めてしまった。


それでも、五人は諦めなかった。


失敗するたびに話し合い、役割を見直し、互いの欠点を補い合った。


そして、修練の最終日。


五人は上級生たちが用意した複雑な結界迷宮を、ほとんど足を止めることなく突破してみせたのだった。


◆


「……そういえば、こんな罠ばかりだったな」


凌雅が笑った。


「まったくだよ!」


牡丹も大きく頷く。


「あの時の先輩たち、随分と楽しそうに私たちを罠にかけてくれたからね!」


「それも、道隆様と道香様の指示だったんだから仕方がない」


玲司が苦笑する。


「しかし、こうして実際に役立つとはな」


「ええ」


香花も頷いた。


「お二人は、こういった状況まで考えてくださっていたのでしょうね」


朔夜は微笑んだ。


「うん。ありがたいことだね」


そして、前方に目を向けた。


「さて、そろそろこの森ともお別れしたいところだ」


その視線の先には、大きな石門があった。


しかし――。


「……何だ、ありゃ?」


凌雅が呟いた。


門の前には、同じ形をした三本の道が伸びていた。


それぞれの道の先には、まったく同じ石門が立っている。


「また幻術か?」


牡丹が尋ねる。


玲司は周囲を見渡した。


「いや……これは少し違うな」


「どう違うの?」


朔夜が尋ねる。


「三つの門すべてに霊力が通っている。どれも偽物ではない」


「つまり?」


「どれを選んでも、何かしらの仕掛けが発動するということだ」


凌雅が笑う。


「なら、全部突破すりゃいいじゃねぇか!」


「それでは時間がかかるだろう!」


玲司が呆れる。


しかし、朔夜は楽しそうに笑った。


「いや、凌雅の言うことも間違いではないよ」


「……朔夜?」


「三つとも突破する必要はない。でも、三つとも調べることはできる」


その言葉に、玲司が目を細めた。


「なるほど……そういうことか」


「香花、三つの門の術式を調べてくれる?」


「はい」


香花は札を三枚放った。


それぞれの札が、三つの門へ向かって飛んでいく。


「玲司は術式の構造を」


「任せろ」


「凌雅と牡丹は、何か飛び出してきたらお願いするよ」


「おう!」


「任せな!」


朔夜は静かに目を閉じた。


五人の役割は、すでに決まっていた。


数秒後。


「朔夜 分かりました!」


香花が声を上げる。


「左の門は足止めの結界。右の門は侵入者を森へ戻す転移術式が組まれています」


「真ん中は?」


「真ん中は……」


香花が少し困ったような顔をした。


「術式の流れが、途中で途切れています」


「なるほど」


玲司が頷いた。


「真ん中だけ、解除させることを前提とした二重術式かもしれないな」


朔夜は微笑んだ。


「なら、答えは簡単だ」


「どれだ?」


凌雅が尋ねる。


朔夜は真ん中の門を指差した。


「真ん中だよ」


「待て、朔夜!」


玲司が声を上げる。


「二重術式だぞ!」


「うん。だからこそだよ」


朔夜は笑った。


「最初の術式を解除した瞬間、次の仕掛けが現れる。そこを凌雅と牡丹に任せればいい」


「……なるほどな」


凌雅がニヤリと笑う。


「そういうのは得意だぜ」


牡丹も戦斧を構えた。


「ようやく私たちの出番かい!」


「香花、玲司。お願いするよ」


「はい!」


「任せろ!」


二人の札が同時に輝く。


「解!!」


パァァァン!!


真ん中の門を覆っていた術式が砕け散った。


その瞬間――。


ゴゴゴゴゴッ!!


門の両側から、巨大な石の腕が現れた。


「来たな!!」


凌雅が叫ぶ。


左右から迫る巨大な石腕。


その間に挟まれれば、五頭まとめて押し潰されかねない。


しかし――。


「凌雅、右!」


「おう!!」


「牡丹、左!」


「任せな!!」


二人が同時に飛び出した。


凌雅の武器が、右の石腕の関節部分を正確に捉える。


ガキィィン!!


霊力を込めた一撃が、石腕の動きを止めた。


一方、牡丹は――。


「うおおおおおっ!!」


巨大な戦斧を振り下ろした。


ドガァァァン!!


左の石腕が粉々に砕け散る。


「今だ!」


朔夜が叫ぶ。


五頭の霊馬が一斉に門を駆け抜けた。


その直後、背後で石門が大きな音を立てて崩れ落ちた。


「……抜けたか?」


凌雅が振り返る。


そこには、もう先ほどの森は見えなかった。


目の前には、広々とした草原が広がっている。


「どうやら、抜けられたようだね」


朔夜が微笑んだ。


「やれやれ」


玲司が小さく息を吐く。


「随分と手の込んだ仕掛けだったな」


「でも、面白かったじゃねぇか!」


凌雅が笑う。


「そうかい? 私はもう十分だよ!」


牡丹が不満そうに答える。


香花がくすりと笑った。


「皆さん、お疲れ様でした」


朔夜は四人を見渡した。


「みんな、よくやってくれた」


その言葉に、玲司が少し不満そうな顔をする。


「何を言っている。これくらい当然だろう」


「そうだぜ!」


凌雅が笑う。


「まだ本気も出してねぇ!」


牡丹も頷いた。


「これからが勝負だろう?」


香花は穏やかに微笑んだ。


「朔夜 先を急ぎましょう」


「うん」


朔夜は胸にかけた襷に手を添えた。


「白桜寮の実力、まだまだ見せてあげないとね」


五頭の霊馬が草原を駆け出した。


名門の誇り。


積み重ねてきた修練。


そして、幼い頃から培ってきた信頼。


志津家を中心にまとまった二組の五人は、誰一人として遅れることなく、次の道へと進んでいった。


◆


一方、その頃――。


「もうっ!! なんなのよ、この道!!」


森の中に、少女の怒鳴り声が響いた。


五組の襷持ち、勝田天音である。


「さっきから虫ばっかりじゃない!!」


その言葉の通りだった。


五組が選んだ道は、どうやらあまり当たりとは言えない道だったらしい。


湿った地面。


生い茂る草木。


薄暗い森。


そして何より――。


やたらと虫の物怪が多かった。


「また来たぞ!」


長熊義臣が叫ぶ。


木々の間から、巨大な百足の物怪が這い出してきた。


その後ろには、無数の蜘蛛の物怪。


さらに空からは、甲虫に似た物怪が飛びかかってくる。


「うわっ! 気持ち悪っ!」


上別所薫子が顔をしかめた。


「もう何匹目よ!」


米戸光子も呆れたように言う。


「数えるのも嫌になってきたわ」


「文句言ってる場合じゃないぞ!」


瓜坪悟が叫んだ。


その言葉に、天音が手綱を握り直す。


「分かってるわよ!」


天音は片手で札を取り出した。


「火球!」


札から放たれた火球が、空中を飛ぶ甲虫の物怪を直撃した。


ボォン!!


「ギギィィッ!!」


甲虫が黒い煙となって消える。


「薫子! 右!」


「はいはい!」


薫子が札を放つ。


幾筋もの霊力の糸が蜘蛛の物怪を絡め取った。


「光子!」


「任せて!」


光子が両手を合わせる。


「雷撃!」


バチィィィン!!


霊力の雷が蜘蛛の群れを貫いた。


「義臣! 悟!」


「おう!!」


「分かってる!」


男子二人も武器を構え、迫ってくる百足の物怪を迎え撃つ。


義臣が正面から攻撃を受け止め、悟が側面へ回り込む。


「今だ!」


二人の攻撃が同時に決まった。


百足の物怪が霊力の粒子となって消えていく。


「ふぅ……」


薫子が息を吐いた。


「また片づいたわね」


「もう嫌……」


光子が肩を落とす。


「虫の物怪って、なんでこんなにたくさんいるのよ」


「知らないわよ!」


天音が不機嫌そうに答えた。


「こっちが聞きたいくらいだわ!」


そんな三人を見て、義臣が笑う。


「ははは! まあ、下級の物怪ばかりだからな」


悟も頷いた。


「確かに。大して強くはない」


「そういう問題じゃないの!」


薫子が言い返す。


「見た目が嫌なのよ!」


「そうそう!」


光子も頷いた。


「せめてもう少し可愛らしい物怪ならいいのに!」


「虫に何を求めてるんだよ……」


悟が呆れたように呟いた。


天音はため息をついた。


「とにかく、さっさと抜けるわよ!」


五頭の霊馬が再び走り始めた。


しかし――。


しばらく進むと、森の様子が変わり始めた。


「……ん?」


義臣が顔を上げる。


「おい、何かおかしくないか?」


「何が?」


天音が尋ねる。


「さっきまであれだけいた虫の物怪が、急にいなくなった」


「……そういえば」


悟も周囲を見渡した。


確かに、先ほどまで絶え間なく現れていた物怪の姿が見えない。


森の中は、不気味なほど静まり返っていた。


「いなくなったならいいじゃない!」


薫子が嬉しそうに言う。


「ようやく静かになったんだし!」


しかし、義臣の表情は険しかった。


「いや……これは、ちょっとまずいかもしれない」


その時だった。


ミシッ。


森の奥から、何かが軋む音が響いた。


ミシミシミシッ!!


巨大な木が揺れる。


そして――。


バキィィィン!!


太い幹が真っ二つに折れた。


「えっ!?」


光子が目を見開く。


折れた木の向こうから現れたのは――。


巨大な黒い甲虫だった。


全身を覆う漆黒の甲殻。


太く頑丈な六本の脚。


そして、頭部から伸びる二本の巨大な大顎。


その姿は、まるで巨大な鍬形虫。


いや――。


普通の鍬形虫とは、あまりにも大きさが違っていた。


「……な、何あれ!?」


薫子が震える声を上げた。


巨大な甲虫は、五頭の霊馬を見下ろしながら大顎を鳴らした。


ガチンッ!!


その音だけで、周囲の空気が震える。


「……まずいな」


義臣が呟く。


「おい、悟」


「ああ。間違いない」


悟も顔を引きつらせていた。


「上級の物怪だ」


「上級!?」


天音が驚く。


義臣が頷いた。


「大鍬羅《おおくわら》だ」


「大鍬羅?」


「巨大な鍬形虫の姿をした上級の物怪だよ」


悟が説明する。


「見ての通り、頑丈な甲殻と強力な大顎が特徴だ」


義臣が続けた。


「特にあの大顎は危険だ。大木でも簡単にへし折るほどの力がある」


「……冗談でしょ?」


光子が青ざめた。


その時。


ガチィィン!!


大鍬羅が大顎を鳴らした。


そして、巨大な身体を揺らしながら、五人へ向かって突進してきた。


「来るぞ!!」


義臣が叫ぶ。


「散開!!」


天音の指示で五頭の霊馬が左右へ分かれる。


ドォォォン!!


大鍬羅の巨体が、先ほどまで五人のいた場所を通り過ぎた。


その勢いで、背後の木々が次々とへし折られる。


「うわぁっ!?」


悟が叫んだ。


「なんて馬鹿力だ!」


天音は大鍬羅を睨みつけた。


「……なるほどね」


そして、ニヤリと笑う。


「だったら、勝田五勢で相手をしてあげるわ!」


◆


勝田五勢。


攻め、守り、崩し、誘い、騙し。


五つの勢を状況に応じて使い分け、相手を制する勝田家の武術である。


天音は幼い頃から、その五勢を徹底的に叩き込まれてきた。


どれほど強大な相手でも、動きを見極め、隙を作り出せば勝機はある。


そう教えられてきたのだ。


「まずは……誘い!」


天音が霊馬を走らせる。


大鍬羅の正面へ飛び出し、注意を引く。


「こっちよ!」


大鍬羅の巨大な頭部が天音へ向いた。


「そうそう。こっちに来なさい!」


天音は、相手が突進してくる方向を予測して霊馬を操った。


突進を誘い、直前でかわす。


その隙に側面へ回り込み、大顎の付け根を狙うつもりだった。


しかし――。


「……えっ!?」


大鍬羅は天音の動きなど気にも留めず、一直線に突っ込んできた。


「ちょっ! 待ちなさいよ!!」


天音は慌てて霊馬を横へ跳ばす。


ドォォォン!!


巨大な甲虫が地面を抉りながら通り過ぎた。


「危なっ!!」


「天音!!」


薫子が叫ぶ。


「大丈夫!?」


「平気よ!」


天音が答えた。


「もう一度!」


今度は左右へ動きながら、大鍬羅の注意を引こうとする。


相手の反応を見て、その裏をかく。


勝田五勢の《騙し》。


しかし――。


ガチィィン!!


大鍬羅は天音の動きに合わせようともせず、巨大な大顎を振り回した。


「うわっ!?」


天音が慌てて身を伏せる。


頭上を、大顎が凄まじい勢いで通り過ぎた。


「ちょっと!! 何なのよ、こいつ!!」


天音が怒鳴る。


「少しは相手の動きを見なさいよ!!」


「いや、無茶言うなよ!」


悟が叫んだ。


「相手は虫だぞ!!」


「分かってるわよ!!」


天音が言い返す。


しかし、実際には何もうまくいっていなかった。


大鍬羅は、天音の駆け引きなど理解しようともしない。


誘いも、騙しも関係ない。


目の前にいるものへ突進し、邪魔なものは大顎で挟み潰す。


ただそれだけ。


圧倒的な力任せの攻撃だった。


「くっ……!」


天音は唇を噛んだ。


「だったら、崩しで……!」


再び構えを取ろうとする。


しかし――。


「天音!」


薫子が声を上げた。


「ちょっと待って!」


「何よ!?」


「ねえ、覚えてる?」


薫子が真剣な表情で言った。


「この前の合宿で、武尊と桜晴真君が試合をした時のこと」


「……えっ?」


天音が目を瞬かせた。


勝田家の合同合宿。


あの時、上勝田武尊と桜晴真は試合を行っていた。


晴真は勝田五勢を使いながらも、角来流の体術を取り入れ、これまでとは違う戦い方を見せていた。


それは、勝田家の武術を学んできた天音にとって、強く印象に残る光景だった。


「あの時の桜君、五勢だけじゃなかったよね?」


薫子が続ける。


「角来流の技を組み合わせて戦っていたでしょ?」


「……うん」


天音が頷く。


「確かに、そうだったけど……」


すると、光子が笑った。


「だったら、私たちもやってみようよ!」


「……えっ?」


「勝田五勢の枠から飛び出して戦ってみようってこと!」


光子は手にした札を掲げた。


「せっかく合宿で、いろんな流派の技を教えてもらったんだから!」


「そうよ!」


薫子も頷いた。


「勝田五勢だけにこだわる必要なんてないじゃない!」


その言葉に、天音は少し驚いた。


「……でも」


「でも?」


「勝田五勢は、勝田家の武術なのよ?」


天音が呟く。


「私が、それを使わずに戦うなんて……」


すると、義臣が笑った。


「誰も使うなとは言ってないだろ?」


「えっ?」


「五勢に他流の技を組み込めばいいんだよ」


悟も頷いた。


「桜君だってそうしてたんだろ?」


「……そうだけど」


義臣は大鍬羅へ視線を向けた。


「そもそも、あんな力任せの物怪に、駆け引きばかり仕掛けても仕方がないだろ」


「相手がどう動くかを考えすぎなんだよ」


悟が続ける。


「もっと単純に、俺たち五人の力で倒せばいい」


天音は四人を見渡した。


薫子。


光子。


義臣。


悟。


幼い頃から、共に武芸や陰陽術を学んできた仲間たち。


武尊たちとも寺子屋の頃から付き合いがあり、勝田家の武術を身近に感じながら育ってきた。


だからこそ、天音の気持ちもよく分かっている。


「……そうね」


天音が小さく笑った。


「私、少し頭が固くなってたみたい」


そして、胸にかけた襷を握りしめる。


「分かった!」


天音の瞳に、力強い光が宿った。


「五勢にこだわるのは、もうやめる!」


「そうこなくっちゃ!」


薫子が嬉しそうに笑う。


光子も頷いた。


「じゃあ、作戦を立てよう!」


天音は大鍬羅を見据えた。


「……よし!」


そして、四人に声をかける。


「皆! 私に考えがあるわ!」


◆


ガチィィン!!


大鍬羅が再び大顎を鳴らした。


その巨大な身体から、禍々しい霊力が溢れ出す。


「まずは、あいつの動きを止める!」


天音が叫んだ。


「薫子! 光子!」


「任せて!」


二人が同時に札を取り出す。


「結界!」


薫子が放った札が、大鍬羅の正面に光の壁を作り出した。


しかし――。


ドガァァァン!!


大鍬羅は、その結界に真正面から突っ込んだ。


「きゃっ!!」


衝撃で結界が大きく歪む。


「やっぱり無茶苦茶な力ね!」


薫子が叫ぶ。


「でも、これでいい!」


天音が答えた。


「光子!」


「分かってる!」


光子が札を地面へ放つ。


「結界柱!」


地面から四本の霊力の柱が立ち上がった。


その間に光の線が張り巡らされ、大鍬羅の周囲を囲い込む。


合同合宿で学んだ、結界柱を分担して構築する方法。


それを二人で応用したものだった。


「閉じて!!」


光子が叫ぶ。


四本の柱から伸びた結界が、大鍬羅の身体を包み込んだ。


「よし!」


悟が声を上げる。


しかし――。


ミシミシミシッ!!


大鍬羅が暴れ始める。


強靭な脚で地面を蹴り、巨大な大顎で結界を叩きつける。


「くっ……!」


光子の表情が歪んだ。


「長くは持たないわ!」


「十分よ!」


天音が叫ぶ。


「義臣! 悟!」


「おう!!」


男子二人が同時に駆け出した。


義臣は武器に霊力を巡らせ、大鍬羅の左側へ。


悟は右側へ回り込む。


「狙うのは脚だ!」


義臣が叫ぶ。


「分かってる!」


二人は大鍬羅の後脚へ向けて、同時に攻撃を放った。


ガキィィン!!


硬い甲殻に武器が弾かれる。


「硬っ!!」


悟が驚く。


「そんな簡単には通らないか!」


しかし、天音は叫んだ。


「そのまま続けて!!」


「おう!」


二人は諦めず、同じ箇所へ何度も攻撃を重ねた。


大鍬羅が苛立ったように身体を揺らす。


その瞬間――。


「今よ!!」


天音が叫んだ。


光子が結界の一部を解除する。


大鍬羅が自由になった脚を大きく振り上げた。


そして、義臣へ向けて踏みつけようとする。


「来るぞ!!」


義臣が叫ぶ。


だが、その時。


「薫子!!」


「はいはい!」


薫子が札を放った。


大鍬羅の足元に、風の術式が広がる。


「烈風!」


ゴォォォッ!!


地面を這うような突風が、振り上げられた脚の下へ吹き込んだ。


巨体そのものを吹き飛ばすほどの力はない。


しかし――。


その脚が地面を捉える瞬間を、僅かにずらすには十分だった。


「ギギィィッ!?」


大鍬羅の身体が大きく傾いた。


「今だ!!」


義臣が叫ぶ。


悟が素早く武器を構え直す。


「おらぁっ!!」


大鍬羅の脚の関節部分へ、霊力を込めた一撃を叩き込む。


ガキィィン!!


甲殻の隙間に武器が食い込んだ。


「よし!!」


義臣も反対側から攻撃を重ねる。


大鍬羅の身体が、さらに傾いた。


「天音!!」


薫子が叫ぶ。


「今よ!!」


「分かってる!!」


天音は霊馬の鞍から身を躍らせた。


身体に霊力を巡らせる。


目指すのは、大鍬羅の頭部。


しかし、その直前。


ガチィィン!!


大鍬羅が巨大な大顎を振り上げた。


「危ない!!」


光子が叫ぶ。


天音は空中で身体を捻った。


「……そう来ると思ったわ!」


天音は大顎に向かって手のひらを突き出した。


その構えは――。


勝田五勢のものではなかった。


「角来流――」


天音の掌に霊力が集まる。


「《柔波掌》!!」


ドンッ!!


放たれた柔らかな霊力の波が、大顎の勢いを受け流した。


完全に止めることはできない。


しかし、直撃を避けるには十分だった。


天音の身体が、大顎の横を滑るように通り抜ける。


「……よし!」


着地と同時に、天音は大鍬羅の頭部へ向き直った。


「これなら!」


今度は両脚を踏みしめる。


霊力を丹田から全身へ巡らせ、掌へと集める。


合同合宿で学んだ、将門流の身体操作。


まだ完全に習得したわけではない。


しかし――。


「晴真くんだって……!」


天音の脳裏に、あの試合が浮かぶ。


「自分の武術だけにこだわってなかった!」


そして。


天音は一歩踏み込んだ。


「将門流――」


掌を大鍬羅の頭部へ押し当てる。


「《霊衝勁》!!」


ドォォォン!!


接触した掌から、圧縮された霊力が一気に放出された。


「ギギィィィィッ!!」


大鍬羅が悲鳴を上げる。


硬い甲殻の表面ではなく、その内側へ衝撃が伝わっていく。


巨大な身体が大きく揺らいだ。


「……やった!?」


薫子が叫ぶ。


しかし――。


「まだよ!!」


天音が叫んだ。


大鍬羅は倒れていなかった。


巨大な脚を踏ん張り、再び身体を起こそうとしている。


「くっ……!」


天音は歯を食いしばった。


「やっぱり、私一人の力じゃ……!」


その時だった。


「一人じゃないだろ!!」


義臣の声が響いた。


「そうだぜ!!」


悟も叫ぶ。


二人は大鍬羅の脚を押さえ込むように、武器に霊力を込めた。


「薫子!!」


「任せて!!」


薫子が再び風の術を放つ。


「光子!!」


「分かってる!!」


光子は残る結界柱に霊力を集中させた。


四人の力が、大鍬羅の動きを封じ込める。


「天音!!」


四人の声が重なった。


「今だぁぁぁ!!」


天音の瞳が輝く。


「……みんな!」


そして、大きく頷いた。


「ありがとう!!」


天音は再び掌を構えた。


勝田五勢。


攻め、守り、崩し、誘い、騙し。


その五つの勢は、決して絶対の型ではない。


相手に応じて変化し、勝利へと繋げるための考え方なのだ。


ならば――。


他流の技を取り入れることも、勝田の武術を捨てることにはならない。


むしろ、それこそが新たな可能性なのかもしれない。


「これが……!」


天音は全身の霊力を掌へ集めた。


「私たちの戦い方よ!!」


そして――。


「はぁぁぁぁぁっ!!」


大鍬羅の頭部へ、渾身の一撃を叩き込んだ。


ドォォォォォォン!!


凄まじい衝撃が森に響き渡った。


大鍬羅の巨大な身体が大きく仰け反る。


「ギギギギギィィィッ!!」


断末魔の悲鳴。


そして――。


バァァァァン!!


巨大な甲虫の身体が、霊力の粒子となって弾け飛んだ。


一瞬、森が静寂に包まれる。


「…………」


天音は、その場に立ち尽くしていた。


そして、ゆっくりと自分の掌を見つめる。


「……倒した?」


「……ああ」


義臣が呟いた。


「倒したぞ!」


悟も目を見開いていた。


「俺たち、上級の物怪を……!」


「やったぁぁぁ!!」


薫子が歓声を上げた。


「天音!!」


光子も嬉しそうに駆け寄る。


「すごいじゃない!!」


「……うん」


天音は、まだ少し信じられない様子だった。


しかし、次第にその顔に笑みが広がっていく。


「……やった」


そして、両拳を握りしめた。


「やったぁぁぁ!!」


五人の歓声が森に響き渡った。


「ははは! すげぇじゃねぇか!」


義臣が笑う。


「まさか本当に倒せるとはな!」


「何よ!」


天音が笑いながら言い返した。


「私たちなら当然でしょ!」


「さっきまで散々苦戦してたくせに!」


悟がからかう。


「うるさいわね!」


五人が笑い合う。


薫子が天音の肩を叩いた。


「ねえ、天音」


「何?」


「今の技、すごかったよ!」


「……本当?」


「うん!」


光子も頷いた。


「角来流の柔波掌と将門流の霊衝勁。それを勝田五勢の動きに組み込むなんて!」


「……まあ、まだまだだけどね」


天音が少し照れくさそうに笑った。


「どちらも合宿で教わったばかりだし、晴真君みたいには使えないわ」


「それでも十分だよ」


義臣が言った。


「それに、俺たち五人で倒したんだからな」


「そうそう!」


悟も笑う。


「天音一人じゃないんだぜ!」


その言葉に、天音は四人を見渡した。


「……そうね」


そして、嬉しそうに微笑んだ。


「みんながいてくれたから、倒せたのよね」


薫子が笑った。


「やっと分かった?」


「何よ、それ!」


「天音って、昔から一人で頑張りすぎるんだから!」


光子も頷いた。


「そうそう!」


「……もう!」


天音は少し頬を膨らませた。


しかし、その表情はすぐに柔らかな笑顔へと変わった。


「……ありがとう、みんな」


四人は顔を見合わせた。


そして、笑った。


「何言ってんだよ!」


義臣が答える。


「仲間だろ?」


その言葉に、天音は大きく頷いた。


「……うん!」


◆


しばらくして。


五人は再び霊馬に跨っていた。


「さあ、行くわよ!」


天音が声を上げる。


「まだ第五走は終わってないんだから!」


「そうね!」


薫子が頷いた。


「こんなところでのんびりしてたら、ほかの組に置いていかれちゃう!」


「……もう置いていかれてるかもしれないけどな」


悟がぼそりと呟く。


「そういうこと言わない!」


光子が睨んだ。


「はいはい!」


義臣が笑った。


「まあ、ここから巻き返せばいいだろ!」


天音は前方を見据えた。


そこには、森の出口へと続く細い道が伸びていた。


長い道のり。


次々と現れる虫の物怪。


そして、上級の物怪《大鍬羅》。


決して当たりとは言えない道だった。


しかし――。


この道を選んだからこそ、天音たちは新しい戦い方を見つけることができた。


勝田家の武術。


他流の技。


そして、五人の連携。


そのすべてを合わせれば、これまで越えられなかった壁も越えられる。


天音は胸にかけた襷を握りしめた。


「……よし!」


そして、勢いよく手綱を引いた。


「五組!!」


四人が天音を見る。


「絶対に諦めないわよ!!」


「おう!!」


「もちろん!!」


五人の声が重なった。


ヒヒィィィィン!!


五頭の霊馬が一斉に嘶く。


そして――。


森の出口へ向けて、一気に駆け出した。


その先には、明るい陽光が差し込んでいる。


二組は、白桜寮で培った知恵と技術、そして完璧に近い連携で悪辣な罠を突破した。


五組は、勝田五勢の枠を越え、仲間と共に新たな戦い方を見いだした。


そして、一組と三組もまた、激しい先頭争いを繰り広げている。


さらに、蒼蛇眼を持つ西御門蒼空率いる四組の行方も、まだ分からない。


五つに分かれた道。


五つの組。


それぞれが異なる困難を乗り越え、最後の直線へと向かっていく。


桜駆け第五走。


その決着の時は、刻一刻と近づいていた。


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