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青の断層。あるいは、十年前の「空白」が暴かれる時について

二十八歳になった僕たちの間には、あの頃にはなかった「沈黙の質」が横たわっていた。 砂浜に置かれたタイムカプセル。その中身は、僕たちが想像していたような「甘酸っぱい過去」などではなく、剥き出しの執念が詰まったパンドラの箱だった。


「……西野。あなた、気づいていたでしょう。私が十年前、タイムカプセルに入れた封筒……あれ、実は白紙だったってこと」


一ノ瀬佳樹が、波打ち際で月光を背に受けて立ち止まった。 彼女の言葉に、隣にいた杏菜が息を呑む。佳樹は、砂まみれの自分の封筒を指先で弾いた。


「書こうとしたわ。でも、十年前の私には、未来の私を縛る資格なんてないって気づいたの。……だから、あの日私は『嘘』をついた。タイムカプセルを、空っぽの期待で満たしたのよ。……でもね、西野。その白紙が、この十年、私をどれだけ追い詰めたか、あなたにはわかる? 綴られなかった言葉たちが、私の体内で法的な強制力を持つ呪いへと変わっていったのよ」


どんな言葉も、僕への執着を表現するには足りなかったから、彼女はあえて「無」を埋めた。それは自由のためではなく、より強固な縛り付けのための「空白」だった。


「……一ノ瀬。白紙だったのは、お前だけじゃない。……実は、僕の封筒も中身は白紙だ」


僕が告げると、檸檬が「えっ、さっき何か読んでなかったか?」と怪訝な顔をした。僕は、ポケットから色褪せたキーホルダーと、先ほど読み終えた「便箋」を取り出した。


「ああ。僕がさっき読んでいたのは、便箋の裏側に、爪を立てて刻みつけただけの……インクのない文字だ。光の加減でしか読めない、僕自身の『やれやれ』な往生際の悪さだよ」


あの日、僕がタイムカプセルに入れたのは、何も書いていないように見える便箋だった。だが、そこには筆圧だけで、自分でも呪わしくなるほどの本音が刻まれていた。 『十年経っても、お前たちに囲まれていたい』 そんな、口が裂けても言えない願望を、白紙という偽装で封じ込めていたのだ。


「……和彦、さん。……まさか、あなたも……物語を、白紙で……擬態していたんですか?」 小鞠が、僕の影を強く踏みつける。 「……作者、泣かせ……です。……真っ白な、ページに……隠された、本音。……それは、執着の……最上級、ですから……」


二十八歳の僕たちは、十年前の自分たちが遺した「空白」という名の地雷に、今さら直面している。 杏菜が、僕のシャツの袖を、あの頃よりも強い力で握りしめた。彼女だけは、最初から僕の「白紙」の嘘を見抜いていたような、悲しくて愛おしい瞳をしていた。


「……私は、白紙じゃなかったよ。……十年前も、今も。……ねえ、和彦くん。みんなが『白紙』で逃げ道を確保していたなら、今ここで、その空白を埋めてもいいかな? 私たちの、本当の第2章を」


杏菜の瞳には、かつての少女のような脆さと、大人の女性としての覚悟が同居していた。 十年前の「嘘」が暴かれ、僕たちの間に、新しい「断層」が走る。 それは、別離のための溝ではない。 僕たちが、本当の意味で「17歳の夏」を終わらせ、空白だった十年間にインクを注ぎ込むための、痛みを伴う産声だった。


深夜の海。 僕たちの「負け戦」は、十年という長いロスタイムを経て、今、真のプレイボールを迎えたのだ。

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