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三月の断絶、あるいは「さよなら」を拒絶する敗北者たちの行進について

校門を出る。 そこには、三年前の僕たちが知らなかった、重苦しくて愛おしい「未来」が待っていた。 校門の外には、保護者や後輩たちが溢れ、別れを惜しむ涙と笑い声が交差している。


けれど、僕たち五人の周りだけは、不自然なほどの静寂と、濃密な情念が渦巻いていた。


「……これで、終わりじゃないわよ、西野」 佳樹が、東京へ向かう特急列車のチケットを握りしめながら言った。 「これは、遠隔管理システムへの移行に過ぎない。あなたが大学で誰と話し、どんなサークルに入り、どんな単位を落とすか。そのすべてを、私は監視し続ける。……一週間に一度のビデオ通話を義務付けるわ。拒否権はない」


「……一ノ瀬、お前、東京に何しに行くんだ。勉強しろよ」


「勉強? あなたを管理すること以上に、私を高める学問なんてこの世に存在しないわ」


彼女は、僕のネクタイを最後にもう一度強く締め直すと、振り向かずに歩き出した。その背中は、どんな法務大臣よりも威厳に満ちていたが、僕には彼女が小さく震えているのが分かった。


「和彦! 私は明日から、お前の大学の正門まで走る練習を始めるからな! 毎日、お前の『おはよう』を一番に奪い取ってやる!」


檸檬が、太陽のような笑顔で僕の背中を叩いた。 「負けるなよ、和彦! 世の中には誘惑が多いけど、私より速い女なんていないんだからな!」


「……ああ。お前の足音、聞き逃さないようにしておくよ」


檸檬は、そのまま全力疾走で街の中へ消えていった。卒業してもなお、彼女の人生は僕というゴールへの全力疾走だった。


「……和彦、さん。……大学の、……図書館で……待って、……ます。……あなたの、……読んでいる……本の、……裏表紙に……私の、……名前、……書いて……おきます、から……」


小鞠は、僕の影を最後に踏むと、幽霊のように静かに去っていった。彼女の物語は、これから始まる「大学編」という名の、より深淵な地獄へと続いていくのだろう。


そして、最後に残ったのは、杏菜だった。 校門の桜が、まだ蕾のままの枝を揺らしている。


「和彦くん。……私たち、本当に卒業しちゃったんだね」


「……みたいだな。明日からは、制服を着てここに来ることはない」


「……でも、私ね、全然悲しくないんだ」 杏菜が、僕の隣に並んで歩き出す。 「だって、和彦くんの胸には、私のボタンがあるもん。……ねえ、10年後の私たち、今のこの瞬間を思い出して、笑ってられるかな」


杏菜の問いに、僕は答えなかった。 代わりに、僕はふと、空を見上げた。 そこには、EP81で見た、あの「不必要に青い空」が広がっていた。


未来。 そこには、僕を奪い合い、管理し、追いかけ、綴り続ける四人の少女たちがいる。 そして、その中心で「やれやれ」と言いながら、誰よりも幸せそうに溜息をついている僕がいる。


僕は、自分の胸の、杏菜が縫い付けた不器用なボタンに触れた。 そこには、確かに熱があった。 卒業。それは、僕たちが「子供」という逃げ場を失い、お互いの人生を正面から侵食し始めるための、合図に過ぎなかった。


「……さあ、行こうか。……明日は、引っ越しの準備で忙しくなるだろ」


「うん! また明日ね、和彦くん!」


杏菜の明るい声。 僕は、彼女たちの「敗北」を一生分背負って、新しい季節の中へと踏み出した。

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