交差点に立つ。あるいは、全員が少しずつ違う方向を見ているということについて
同じ場所に集まっているはずなのに、
それぞれが見ている方向は、微妙に違っていた。
テーブルを囲む五人分の視線。
誰も間違った場所を見ているわけじゃない。
ただ、焦点が一致していないだけだ。
僕は、その中央に座っていた。
自然とそうなったのか、
それとも、いつの間にかそういう役割になっていたのか。
「……で、結局どうするの?」
軽い口調。
けれど、その言葉が持つ重さを、ここにいる全員が分かっている。
すぐに答えは出ない。
それを責める空気もない。
テーブルの端で、誰かがコップを回す。
氷の溶ける音。
会話の隙間を埋めるには、ちょうどいい音だった。
「急ぐ話じゃないでしょ」
そう言った声に、頷きが重なる。
誰も反対しない。
だからといって、安心できるわけでもない。
僕は一度、深く息を吸う。
ここで黙ることもできた。
相槌だけで、話をやり過ごすことも。
――けれど。
「急がなくていい、ってことはさ」
言葉を選びながら、続ける。
「決めない時間も、ちゃんと引き受けるってことだと思う」
視線が、こちらに集まる。
驚きでも、反発でもない。
ただ、「そういう話か」という理解の色。
誰かが、小さく笑った。
「相変わらずだね」
それが褒め言葉なのかどうかは、分からない。
でも、否定ではなかった。
それぞれが、少しずつ違う事情を抱えている。
同じ結論に辿り着く必要はない。
ただ、同じ場所から考え始めることだけが、今は重要だった。
沈黙が戻る。
けれど、さっきよりも柔らかい。
窓の外で、信号が変わる。
赤から青へ。
交差点を、人と車が動き出す。
――選択肢は、なくなっていない。
そう確認するように、僕はもう一度、テーブルを見回す。
ここにいる全員が、別々の未来を想像している。
それでも、この時間だけは、共有できている。
「じゃあ……今日はここまでにしようか」
誰かの提案に、異論は出なかった。
立ち上がり、椅子を引く音が重なる。
その一つ一つが、次の動きに繋がっていく。
店を出ると、夕方の空気が流れ込んできた。
昼と夜の境目。
どちらにも完全には属していない時間。
僕は少し遅れて歩き出す。
全員の背中を、一度に視界に収めながら。
――まだ、交差点の真ん中だ。
そう自覚しつつも、
少なくとも、立ち尽くしてはいない。
それだけで、今は十分だった。




