曇天の下で。あるいは、説明されない日常が続いていくという事実について
空は一日中、はっきりしない色をしていた。
雨が降るほどでもなく、晴れるわけでもない。
ただ、光が鈍く、影が薄い。
そんな日は、予定を立てる気にならない。
だから僕は、特別な目的もなく街を歩いていた。
通り沿いの店が、いくつか入れ替わっている。
気づいたのは、最近なのか、それとも前からだったのか。
意識しないものは、いつの間にか背景になる。
信号待ちの間、ガラスに映った自分を見る。
少し疲れた顔。
けれど、驚くほど変わっていない。
――何かが決定的に変わった、わけじゃない。
そう理解している。
ただ、もう戻らない地点を越えた、というだけだ。
公園のベンチに腰を下ろす。
濡れた木の匂い。
誰かが置き忘れた空の缶が、風で転がる。
子どもの笑い声が聞こえる。
それを見守る大人の、少し離れた距離感。
そのどちらにも、自分は属していない気がした。
「……まあ、そういう年齢か」
独り言は、特に意味を持たない。
答えを期待していない言葉は、気楽だ。
ポケットの中で、スマートフォンが鳴る。
画面を見る。
名前を確認して、すぐには出ない。
無視しているわけではない。
ただ、今は立ち止まるほどの理由が見当たらなかった。
ベンチから立ち上がり、歩き出す。
靴底が、まだ乾ききっていない地面を踏む。
その感触が、妙に現実的だった。
――日常は、続いていく。
それは希望でも、諦めでもない。
説明されないまま、積み重なっていく時間の話だ。
空を見上げる。
相変わらず、曇ったまま。
それでも、遠くの雲は、少しずつ流れている。
僕はその下で、特別な決意もなく、
けれど確かに前へ進む方向だけは失わずに、
また一歩、歩幅を刻んでいった。




