ユリウスという男
侯爵視点
「入りたまえ」
応接室へ入ってきたのは歳はセシリアとそう変わらないであろう若い男がはいってきた。
「座ってよいぞ」
私がそう言うと彼は「失礼します」とひと声かけ向かいの席へと座った。
うむ、こやつ見るからに怪しい男だが身なりはきちんとしていて礼儀作法は自然だ。何処で習ったのやら立ち振る舞いは貴族のようだ。
「ユリウスと言ったか。早速本題へ入ろう。クロムレントの名を借りたいと?」
「左様でございます」
「あらかたセシリアから聞いたが、一つだけ奇妙な事がある。お主は何者だ?」
セシリアから話を聞く前にヘレナからも事情を聞き此奴が王都へ入る前にこの男について影を使い調べていた__が文字通り何も出てこなかった。
クラウドに住んでいたと言うのでクラウド全体の過去の住民の名前、この男の似顔絵を使い知っている者を探し、街の入退門の記録。しかしこの男に纏わる情報は1つも出てこなかった。もしもの為にその他周辺の街を調べたがそちらも同じ。この男がセシリアと出会うまでのいっさいの情報が得られなかった。
この目の前にいる男は怪しい以外に何者でもない。
私は魔力を解放してこの目の前の男を威嚇する。普通の一般人なら失神する程の魔力量だ。だがこの男はどうだろう。
フッ__
涼しげに笑っていた。
なるほど、セシリアが言っていたが喰人鬼を一瞬で倒した程の実力者だ、この程度の脅しは効かぬか。
「何者…ですか。確かにユリウスという名は偽名です。ですが決して侯爵様の思っているような者ではございません。私は訳あって正体を隠さなければならない理由があるのです」
私は机の端に置いてある水晶を見る。『真実の珠』__対象の発言が嘘か本当か見抜く為の魔道具。この珠には小細工は絶対に不可能である為どんな嘘でも必ず発見する。かなり希少だがこの為だけに大金を叩いてきた。
「ふむ。では本当の姿を今ここで見せてくれないか?」
「申し訳ございません。それは出来かねます。ですがこれだけはお約束いたします。クロムレント家には絶対に損だけはさせません」
反応がない、本当のようだ。
「仕方ない。お主の事は信用したわけではないがこれ以上は何も聞かぬ」
「ありがとうございます。侯爵様なら信用せずとも、もしものことがあったら私の事など簡単にどうこうできるでしょう」
「ふんっ、生意気な奴め。これを持ってゆけ、これがクロムレント家が後ろ盾になる証明になる」
私は引き出しからクロムレント家の紋様が入ったブローチを手渡した。
「ありがたく頂戴いたします」
「それとは別にセシリアを助けてくれたそうだな。君が誰であれ親として礼を言わせてくれ。ありがとう」
私は頭は下げずに目を軽く伏せる。
「やめてください。 私は当たり前の事をしたまでです」
ブォーン。『真実の珠』が白く光り輝いた。つまりは『嘘』
「「……」」
こやつは何かしら目的がありセシリア達を助けたことになる。
「ぶはっ!! 失礼……」
私の隣に立つ執事が耐えられずに吹き出した。
真実の珠が正常に作動した。これで先程の言葉が真実だとこれではっきりとした。
「すまない。君を試させてもらっていたのだ。これは『真実の珠』という魔道具で嘘を見抜く能力がある。君のことは信用できないがこれのおかげで先の発言が信用に値することが証明出来たわけだ」
「そのようですね。まぁそれはお互い様なので水に流しますよ」
ユリウスはニヤリと笑った。やはり猫を被っていたか。真実の珠を使うということは相手のことを信用していないと言っているようなもの。相手からすればこちらの事も信用できないだろう。
「ではこれで用事も済みましたし侯爵様も忙しいでしょうから失礼いたします」
「あぁ、くれぐれも悪用だけは厳禁だ」
「わかっています」
私が鈴を鳴らすとメイドが部屋の扉を開けた。
「それでは失礼いたします」
ユリウスが部屋から出ていく直前、ふと足を止めて振り返った。そして徐に私の隣に立つ執事の方へと向いて
「これからよろしくお願いしますね、侯爵様」
と気持ち悪い笑みと共に頭を下げた。
ゾワッ
部屋の中の温度が一気に下がるのを肌で感じる。
此奴いつから気がついていた…!? 私が旦那様の影だという事に。
その後すぐにユリウスが退室し部屋には妙な気持ち悪さだけが残った。
「これは一本取られたな。まさかお前の正体に気付かれるとは」
「ええ、思った以上に恐ろしく危険な奴でした。やはりあの男は信用できません」
「そうだな」
「あの男にはこれまで以上の監視をつけます。何か不審な動きがあれば報告致します」
「よろしく頼む」
「はっ、お任せを」
こうして結局はユリウスという男の正体もわからないままこの話し合いはおわった。
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