つまらないので悪役になってみる。
さて、悪役になるにはどうしたら良いか。一番手っ取り早いのは人類の脅威になる事。だがそれだとすぐに英雄ギルドへ討伐クエストが出されすぐに俺は殺されてしまう。だとするならばどうすれば良いか。
圧倒的な影響力を手に入れる事だ。
その為にはまず何をするかが重要だ。幾つか候補はあるが俺に最も適した職業『商人』になろう。
まずは資金と部下を集める事を目標にする。
「街から結構離れたけど万が一ギルドの奴らに遭遇するとめんどくさいから顔と声を変えるか」
俺は麻袋へと手を突っ込み中を漁る。
「あれはええと……あった、あった」
シンプルな見た目だがどこか不気味さを放つ仮面を取り出す。仮面を顔へ嵌めると目の前に半透明な画面が出てきた。この画面を操作することで自分の見た目を自由に変えられるという魔道具だ。とあるA級ダンジョンの最奥で入手したものを俺がギルドメンバーに無理言って譲り受けた。
「う〜ん どんな見た目にしようか。目立つのは控えたいけど」
人馴染み易い優しそうな顔でいくか、それとも舐められない威厳ある顔でいくか。
数分考えた末、細目の朗らかそうで何処か裏がありそうなミステリアスな雰囲気を持つ青年の顔が出来た。
「これだ、こういうのでいいんだ。いかにも悪役っぽい、最高だっ!!」
喉に力を入れ、声質を変化させ少し高くさせる。これで誰にも気づかれないだろう。
ここから数日歩いた先に次の街がある。早速、次の街で商人の登録をしよう。
「まずはこの森を抜ける所からだ」
今いるところは街から離れた場所にある森の中だ。なぜここにいるか、単に変身するところを誰にも見られないようにする為である。
ユオンが早速空へ駆けようとしたところ違和感を感じた。
「んー? 森の奥の方で一瞬空気中の魔素が乱れた??」
ユオンはこの現象に覚えがある。この5年間、アイツに嫌というほど散々見せびらかされたから。
「誰かが魔法をつかった??」
魔法、それは戦闘スキルの中でも重宝される限られた人間にしか扱うことができない技法。主に『炎』、『水』、『風』、『土』、『無』の5つの属性に分かれており更にその5属性から派生されより強力に変化させた上位属性、『空間』『時間』『聖癒』など特殊な属性のことを希少属性と呼ぶ。
魔物が魔法を使うことはできない。よってこれが人間による仕業というのがわかる。
こんな森に人がいるのは珍しいことではない。熟練の冒険者がたまに魔物を間引く為に来ることがある。それなら良い。だが最悪のケースも考えうる。
「一応見にいくか」
俺は森の奥めがけて一気に空を駆けた。
___
騎士 ヘレナ視点
最悪だ。この状況は実にまずい。なんとしてもお嬢様だけは生きて返さないと……。
我々はクロムレント侯爵家が次女セシリアお嬢様の専属護衛騎士、お嬢様の学園入学と共に王都へ送迎途中に盗賊に襲われ、森へと仕方なく逃げ延びた。
それは苦渋の決断だった。なぜならここにはC〜Aランク相当の魔物がうじゃうじゃいるからだ。
普段は誰も決して入ろうとはしない。盗賊もそのことがわかっているからか後を追ってこようとはしなかった。もしこの森に入る者がいるとするならば相当なバカか最高位のギルドメンバーくらいだろう。
そして悪いことというのは続けて起こる。
「私がアイツを魔法で食い止める。長くは持たないっ!!なるべくお嬢様を遠くへ、何がなんでも生きて帰すんだっ!!」
「でも、それだと団長がっ!」
「私の事はいい!!これが最善だ」
私の最後の務め、死ぬまで目の前の人喰鬼を足止めする事。喰人鬼はBランクの魔物。普段は問題なく勝てる。だが盗賊との連戦で私の魔力はほぼ底をつきかけている。仲間たちも負傷している者が多い。1人で全員を守り切れる保証はない。ならばこの私、1人の命だけでいい。最後の足掻きだ私のとっておきの魔法を喰らわせる。
剣先へ魔力を集め、それを纏わせる。すると魔力が炎へと変わる。これが私の魔法。気合を込め喰人鬼に向け全力で剣を振る。肩から入ったその剣は肉を断ち片腕を焼き切り落とす。喰人鬼は数十秒ほど悶え苦しんだがそれでも止まらない。もう片方の腕で大剣を振りかぶると私めがけて振り翳した。
避けられない。先の一撃で魔力が完全に底をつき剣を地面に刺して体を支え立っているのもやっとだ。
「ヘレナッ!! 駄目っ!!」
後方の馬車の窓から最愛の主人が涙を流しながら叫んでいるのが目に入った。
あぁ、お嬢様。駄目ですよ、綺麗なお顔に涙は似合わない。でも貴方にそんなお顔を最後に見られるのも悪くなかった。
人生最後に見た光景がお嬢様で終わりたい。そう願い私は騎士にあるまじき行為だとわかっていながらもそっと目を閉じた。
「おっと、何とか間に合ったか」
ん?
大剣が私へと到着する時間が異様に長い。それに知らない声が聞こえた私は状況を確認する為もう一度目を開いた。
そこにはどういう訳か喰人鬼は白目を剥いて倒れていた。そして目の前には目が細く怪しげに笑う男が立っていた。
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