082 力の代償
気付いた時には私は完全に地面に倒れている状態だった。
起き上がろうと体を持ち上げれば、あまりの重さに支える腕が震えた。
怠いというよりも私の体に違う何かがいくつも乗せられたようなそんな重みだ。
太ったとかそんな小規模の変化ではない。
「目覚めたか。違和感があろうが耐えるのだ。……すまんな」
「この体がものすごく重く感じるのも王竜の力のせいなんだね? それに……なんだか色が変わったのかい? 随分とくっきり見えるようになったけど」
先程と変わらず伏せた状態の王竜に訊ねる。
力を渡される前は影に溶けるような色合いで、注意深く見ないと見つけられなかった姿が、今ではくっきりと見えるのだ。
力を渡したことによって色が変わったのだろうか。
「ふはは、それは儂が変わったのではなく、お前の感覚が変わったのだよ」
面白おかしそうに王竜は笑う。
それでも地を這うように響くのだから毎回驚かざるを得ない。
しかしどこか弱々しく感じるのは気のせいだろうか。
「じゃあ、見えるものが今までと多少違って見えるのは力のせいってことかい? 随分と色々なものに影響するんだねえ……」
肩を竦めた私に王竜は指をさす。
その先は頭ではなく体に向けられているのは確かだ。
「この谷にいる間に力も多少は馴染むだろう。だが、本来は人の身で扱えるものではないのだ。いずれはお前の身を蝕むやもしれん」
「何言ってるんだい。罰なのに力を預かって何も起きないほうがおかしいじゃないか」
そう。これは罰なのだ。
火竜というこの地において重要な存在を殺したという罪に対しての。
二〇〇年も生きるなど想像もできないが、それだけでは罪に対して罰が軽すぎると思う。
感覚の変化だってまだ多少の範囲だ。
力に体が蝕まれるほうがよほど罰らしいではないか。
「……それもそうか」
王竜は大きなため息のように息を吐きだしながら言った。
その様子もやはり力ない。
「——大丈夫かい? 随分と疲れているようだけど」
「ははは! この王竜、ついに人に心配される日が来ようとは! 案ずるな。力を渡すのは儂とて大仕事なのだよ。……おお、そうだ。忘れとった」
言葉通りの仕草をした王竜は、前足で地面を踏みしめた。
すると私の目の前に一本の剣とそれに引っかかっている輪っかのようなものが迫り上がってきた。
まるで地面から生えたかのように現れたそれは、どちらも鈍く輝く白色だ。
「儂からの贈り物だ。お前の身を守るだろう」
王竜曰く、剣は神が創ったもの以外なら何でも斬ることができ、輪っかは腕輪であり、ありとあらゆる危険を知らせ、それらから身を守ってくれるらしい。
この二つがあるだけで無敵なのではないだろうか。
そう思わせるほどの効能だ。
「こんなもの……、本当に良いのかい?」
「構わんよ。儂としてはお前に何かあっては困るからな」
はははと王竜は笑うが、それにしてもとんでもないものをもらった気がする。
何でも斬れる剣を抜き身でというのも恐ろしい。
とはいえそのままにしておくのも悪いので、腕輪はありがたく着けさせてもらって、剣もとりあえず受け取った。
そしてちと疲れたからそろそろ休む、と王竜は言って私を薄暗い空間から追い出した。
明るい谷底に戻ってその明るさに目が眩む。
こんなに明るかっただろうか。
「あ、ママ!」
私が戻ってきたのを見つけたリーデルが、文字通り飛んでやって来た。
そのまま鼻先を頬に擦り付けてじゃれ始める。
「あのね! あのね! さっきちっちゃいどうぶつをやっつけたんだよ! それからね——」
私がいない間にあったことを嬉しそうに話すリーデルの言葉は止まらない。
きっと褒めてほしいのだろう。
そっと頭を撫でれば、気持ちよさそうに目を細めた。
「リーデル、そろそろお休みの時間だよ。悪い子はいつまで経っても一人前になれないよ?」
「——⁉ ママ、おやすみなさい!」
いたずらっぽく言えば、リーデルが驚いて寝床に飛んでいった。
こういう純粋なところは本当に可愛らしいと思う。
子供が生まれていれば、こんな感じだったのだろうか。
無意識に凹凸のない腹を撫でた。
触れた場所からぴしりと弱いながらも鋭い痛みが走る。
これも感覚の変化によるものだろうか。
「……私も疲れたからかもしれないね……」
今日は色々なことがあった。
力を受け取るという大仕事があったせいで、想像以上に疲れているのかもしれない。
体の変化についてはゆっくり休んでから考えよう、と私も休むことにした。




