077 名前
「ふむ……。自らの立場も理解している、か……。よかろう。お前の罰を言い渡そう。──まずはついてくるが良い」
王竜はその巨体を動かして歩く。
一歩進むだけでズシン……と重たく響き揺れる。
ゆっくりと進む竜の後ろをついていけば、薄暗い空間を抜けて、もと来た明るい谷底に戻ってきた。
さらにその先へと進み、鼻先で岩陰を指し示す。
「そこにあるものを持ってくるが良い」
指し示された場所には私の片手程の大きさの塊が落ちていた。
少し大きめの石のようなそれは、表面は滑らかで、触れてみれば辛うじて触れられる程度に熱い。
「これは一体……」
言われた通り石のようなそれを持って戻って訊ねた。
少し震えるような動きがある。
そしてピシリとひび割れるような音とともに震えが大きくなっていく。
「ピィ!」
ひとりでに動き出す石に驚いたのも束の間、石が割れて中から赤い生き物が現れた。
「火竜だ。お前はこれからこの子を育てるのだ。それがお前の罰の一つだ」
石から現れた火竜に驚き硬直している私に王竜がそう告げた。
私が竜を育てる? そんなことができるはずがない。だって私は──。
「マ、マ?」
火竜は少し舌足らずな口調でそう言って、器用に飛びながら私の頬に鼻先を擦り寄せる。
それを私は両手で捕まえるようにして止める。
手で触れた火竜の体は石だと思っていた卵よりも熱い。
それに驚いてすぐに手を離した。
代わりに火竜を正面に見据える。
「──違うんだ。私は……」
「ママ!」
屈託ない声音で火竜が言う。
それに首を振って否定するが、火竜は認めない。
楽しそうに私の周りをくるくると回るように飛び始めてしまった。
「新たな火竜よ。お前の名はなんだ」
もはや私では御しきれない火竜に王竜が訊ねた。
それにぴたりと動きを止めた火竜は、小首をかしげるような仕草をした。
「リーデルだよ! じいじ!」
無邪気な回答に涙が溢れた。
とめどなく溢れ続けるそれを抑えようと手で覆うが止まりそうもない。
ありえないのだ。
その名前は生まれるはずだった子供につける予定だったものなのだから。
そんな偶然があるはずがない。
「おぉ、そうか。リーデルか」
静かに涙をこぼし続ける私をよそに王竜は嬉しそうな声を上げた。
そして少しだけ王竜にじゃれたリーデルと名乗る火竜がそっと私の元に戻ってきた。
「ママ、だいじょうぶ?」
涙で歪む視界に映る火竜はとても小さい。
すっかり弱ってしまった今の私でも簡単に傷つけられそうなほどに。
名前も相まって、私は火竜を抱きしめた。
「ああああああぁぁぁぁぁ……」
声を上げて泣く私に火竜も少しだけびっくりしたように跳ねたが、すぐにおとなしく身を任せた。
泣き続ける私を叱ることも慰めることもなく二体の竜は、私が泣き止むのをひたすら待った。




