048 横穴の先で見つけたもの
一夜明かした私たちは再び登山を始めた。
白っぽい小石と草花が広がる景色はかなり登ったところで変わらない。
魔物に警戒しながら、変化のない景色にため息をつく。
パーティの会話も無くなっている。
先頭を歩くアルシウスの疲労もかなり溜まってきているだろう。
「もうそろそろ中腹ぐらいかい?」
先頭に届くよう声を張れば、アルシウスが天を仰いだ。山頂を見たかったようだ。
そして崖下を覗いて肩を竦める。
「……わからん」
この火山は道がある割に目印などがない。
これだけ歩かなければならないなら、休憩所や目印ぐらいあっても良さそうなのだが……。
「まあ、そうだよねえ……。このまま何も見つからないまま山頂に着いたらどうするんだい?」
「その時は空振りとして帰るしかない。一度集落で態勢を整えて次は密林だな……」
その回答に全員が遠い目になった。
密林は火山地帯全域に広がっている。
今登っている火山の他にもいくつもある大きな火山の周辺すべてを周るともなると、火山以上に調査に時間がかかりそうだ。
「また気の遠くなる話だねえ……」
「それよりもアルシウス、この登山道をどう見る? ただ登山を目的とした道にしては出来すぎているように見えるが……」
ファイドロの指摘通り、今使っている道は今の今まで道幅が均一だった。
途中無理やり山肌を削ったと思われるようなところもあったほどだ。
登山目的にしては整備されすぎている。
一体何のために作られたものなのだろうか。
「確かになにか目的があって作られた感じはするけど、目的までは……。ルッツも何も言わなかったから一族絡みではないと思う」
その言葉を最後に黙々と登り続ける。
途中で休憩を挟むものの、その間も無言だ。
いよいよ先の長さに余裕がなくなってきたようだ。
かくいう私も足が重くなってきている。体勢を崩さないように気をつけているせいか腰も痛む。
これは帰りも苦労しそうだ。
「…………横穴?」
太陽が真上に登るよりも前に、登山道は山肌から山の中に向きを変えた。
そこから続く横穴は崩れないように補強された跡がある。明らかに人の手が加えられている。
「進むなら入るしかないと思うが……」
横穴からはわずかに暖かな空気が漏れ出している。
中はどうなっているのだろうか。
そんな想像しているのか、揃って困惑した表情になった。
「他に道がないから進むしかない……。みんな、警戒は今まで以上に頼む」
気を引き締め直して頷いた私たちは、ぽっかりと空いた横穴に足を踏み入れた。
横穴の中もそれまでの登山道と同じ幅の道が続いている。
崩落防止用の柱の一部にはランタンが取り付けられており、やはり何者かが通るために作られた道としか思えない。
この先に一体何があるというのだろうか。
「やっぱり暗いな。エステラ、明かりを頼めるか。ランタンでも良いから」
アルシウスの指示に「わかりました」と答えたエステラは近くのランタンを取って明かりを灯し、先頭に移動した。
ランタンをアルシウスに託さなかったのは、消えてしまった時にすぐに灯せるようにだろう。
ランタンの柔らかな明かりで照らされた横穴はだいぶ続く。
真っ直ぐ続く道に分かれ道はなさそうだ。
奥からは相変わらず暖かな空気が流れてきている。
一歩進むごとに小石を踏みしめる音が響く。
「——魔物の気配はない、が、静かすぎないか?」
今のところ気配察知スキルでは何の反応も捉えていない。
魔物がいないのはありがたいが、それなら弱い小動物が住み着いていそうなものだが、それらの気配もない。
アルシウスの言う通り静かすぎる。
これはただの横穴と思わないほうが良いだろう。
「この先になにかあると見たほうが良いね。エステラ、正面に最大限注意するんだ」
小さく息を呑む音とともに私たちは更に奥へと進んでいく。
やがて少し開けた場所に出た。
そこは中央に打ち捨てられた台車がいくつか置かれ、壁際にはつるはしやスコップが落ちている。
おそらく採掘場かなにかだろう。
「……ここでなにか採っていたのか?」
壁際に寄ったアルシウスがそれに触れる。
不自然な凹凸に指先を引っ掛けているが表面が崩れる様子もない。
それに採掘していたなら何を採っていたのかわかりそうな状況なのだが、それらしいものは見当たらない。
「この様子だとこのあたりは採り尽くしたのだろうな……」
「更に奥があるのでしょうか? 掘っていたのがここだけだとは思えませんが……」
軽く見た限りではこの採掘場から先に進む道らしきものはなさそうだ。
エステラの言う通り、これだけしっかりと道を整備しておいて採掘していたのはここだけだとは思えない。
まだ奥がありそうなのだが、どこにあるのか。
「とりあえず手分けして奥への道を探そう。見つからなければ引き返す。無理に進んだところで目的のものはないだろうしな」
採掘目的で作られた場所なら、この先に進んだところで三賜物はないだろう。
それこそ採掘中に見つけていればお宝として持ち出された後に違いない。
持ち出された後ならその後を追えばいいが、道がないのであれば、ここには何もなかったと判断せざるを得ない。
伝説が存在している以上、それを目にした者がいるはずなのだから。
手分けしてこの場を調べる。
壁を叩いてみたり、邪魔なものを動かしてみたり。
台車を動かした跡を探してみたりと、あらゆる手を尽くす。
「——外があっちだから、台車はここを通った? ファイドロ、ここの壁崩せないかい?」
台車の跡を追って突き当たった壁は崩れてできたように見えなくもない。
体重をかけてもびくともしないので気のせいかもしれないが……。
「うむ……。待ってろ」
打ち捨てられたスコップを持ち、ファイドロが壁に向かって突き刺す。
するとスコップはあっさりと刺さり、掘り進めることができた。
アルシウスもやって来て二人がかりで掘れば、すぐに奥への道が姿を現した。
奥からはより暖かい空気が流れ込んでいる。
そこを照らし出して確認したアルシウスが息を呑んだ。
「……嘘だろ……。——採掘してた奴らは遺跡を掘り当てたんだ……!」
眉をひそめながら同じ様に奥を覗く。
明かりで照らされたそこは、これまでの掘って作られたものではなく、何かの建造物の中のような様相だった。
間違いなく遺跡だ。
「遺跡となると、ここにある可能性が高まるな。進むしかあるまい」
「ああ……」
明かりを持つエステラを先頭に遺跡に入り込めば、最初に待っていたのは下りの階段だ。
白い煉瓦で組み立てたような見た目は、火山の中だというのに安心感がある。
「しかし、遺跡の中も反応がないのは不安になるねえ……。魔物以上の危険があるってことかねえ」
「嫌なことを言うなよ。魔物以上の危険って考えただけでぞっとする」
遺跡は危険な場所であると一般に広く知られている。
きっと入り口が塞がれていたのは、遺跡の中の危険が外に出てこないようにするためだったのだろう。
中の危険を理解して埋めたのであれば、それだけのものがあるということになるが、事実がどうなのかはわからない。
まずは進むしかないだろう。




