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底辺薬草配信者、怪我した激カワネッコを拾ったらダンジョン配信が大変なことになりました  作者: 水源


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2/12

薬草解説配信者、強敵を一撃で倒したらバズりました

 ルゥが我が家にやってきて、数日が経った。


 怪我をしていた翼も少しずつ回復し、今では部屋の中を元気に歩き回っている。ただし、まだ完全に治ったわけではないので、飛ぶのは禁止だ。


「だーめ。まだ無理をしちゃいけません」


「みゃう……」


 ルゥは翼をぱたぱたさせ、不満そうに私を見上げた。


 その顔があまりにも可愛くて、私は思わず頭を撫でる。


「そんな顔をしても駄目だよ。ちゃんと治ってからね」


「みゃっ」


 ルゥは私の膝に前足を掛けると、よじ登ってきた。そのまま丸くなり、服をふみふみし始める。


「……もう、甘えん坊なんだから」


 こうなると、なかなか動けない。


 けれど、今日は仕事があるのだ。


「ルゥ、今日はお仕事だからね。いい子でお留守番していてね」


「みゃっ!」


 返事をしたルゥは、ふかふかの丸いベッドへ移動した。どうやら、すっかりお気に入りの場所になったらしい。


 私はその様子を確認してから、配信機材と採取道具を準備した。


 今日もダンジョンで薬草を採取しながら、見分け方や使い方を解説する予定だ。


 最近は、ルゥを拾った配信がちょっとした話題になり、以前よりも見に来てくれる人が増えた。家で配信するときは、膝に乗ってきたルゥが一緒に映ってしまうこともある。とはいえ、私のチャンネルはまだまだ小規模。相変わらず、薬草の解説が中心である。


 派手な戦闘も、華々しい攻略もない。


 それでも、役立つ知識を一つずつ紹介していけば、いつか誰かの助けになるかもしれない。


「よし、それじゃあ行ってきます!」


 私はルゥに手を振り、家を出た。


 * * *


 今回やってきたのは、街の郊外にある中層ダンジョンだった。


 比較的安全な階層には薬草が多く自生しており、探索者の間でも採取目的で訪れる人が多い。


「こんにちは、小鳥遊ひよりです。今日はヒールリーフの採取方法と、似た植物との見分け方を紹介していきますね」


 配信を開始すると、画面の隅にコメントが流れ始めた。


 〈待ってました!〉

 〈今日はルゥちゃんいないの?〉

 〈薬草回助かる〉


「あ、ルゥはおうちでお留守番です。怪我もだいぶよくなってきましたけど、まだ無理はさせられないので」


 〈えらい〉

 〈ルゥちゃんの健康第一〉

 〈飼い主さんの顔が完全に猫好き〉


「飼い主……というか、まだ一緒に暮らし始めたばかりなんですけどね」


 私は苦笑しながら、足元に生えている植物をカメラへ向けた。


「では、こちらがヒールリーフです。葉の縁に細かい切れ込みがあって、裏側には薄い銀色の筋が見えます。似た形のポイズンリーフもあるので、形だけで判断しないでくださいね」


 採取の際には、根を傷つけないようにすること。採取した薬草は種類ごとに分け、湿気がこもらないように保管すること。


 私は実物を見せながら、いつもどおり丁寧に解説を続けた。


 そのときだった。


「きゃああああっ!」


 遠くから、甲高い叫び声が響いた。


 続いて、何かが激しく地面へ叩きつけられる音。


 私は顔を上げた。


「……今の、探索者さん?」


 声のした方向から、土煙が上がっている。


 ただ事ではない。


 私は解説用に摘んでいたヒールリーフをバッグに押し込み、採取道具をしまって、すぐに走り出した。


 〈え、どうした?〉

 〈悲鳴聞こえた?〉

 〈ひよりさん、気をつけて!〉


「すみません、ちょっと様子を見てきます。危険そうなら、すぐに離れますから」


 そう説明しながら、私は声のした方向へ急いだ。


 * * *


 開けた空間に飛び込んだ瞬間、私は状況を把握した。


 探索者らしい男女が二人、ごつごつした岩場の近くにいた。女性は壁際に座り込み、片足を押さえている。男性は彼女をかばうように立っていたが、その前には大きなモンスターがいた。


 全身を黒い甲殻に覆われた、四本腕のモンスター。


 岩のような外殻。鋭い爪。口元からは白い息が漏れ、足元の地面には深い爪痕が刻まれている。


 黒甲獣《こっこうじゅう》だ。本来は、もっと深い階層に棲むモンスターのはずだった。名前と生息域は知識として知っていたけれど、探索者の間でどれほど恐れられている相手なのかまでは、詳しくない。


「嘘でしょ……! なんで中層に、こんなやつがいるのよ!」


 女性が震える声で叫んだ。


 その顔を見て、私はようやく気づいた。


 見覚えがある。


 彼女は、探索者の戦闘配信で有名な人気配信者、天城レナさんだった。


 登録者数は数十万人。危険なモンスターにも果敢に挑み、華麗な戦闘技術で知られている。


 その彼女が、今は負傷して動けなくなっていた。


「レナさん! 大丈夫ですか!」


「えっ!? 誰……って、今は逃げて! こいつ、私たちじゃ手に負えない!」


 レナさんの隣にいた男性も、必死に叫んだ。


「そこの人、早く離れてくれ! こいつは装甲が硬すぎるんだ! 攻撃が通らない!」


 黒甲獣が四本の腕を振り上げた。


 狙いは、動けないレナさんだった。


「……あれは、ちょっと危ないですね」


 私は地面を蹴った。


 黒甲獣の腕が振り下ろされる。


 けれど、その爪がレナさんへ届くことはなかった。


 私は彼女の前に滑り込み、片手で腕を受け止めていた。


「え……?」


 レナさんが目を見開く。


 私の手のひらに、重い衝撃が伝わってきた。


 なるほど。確かに、かなり力が強いモンスターらしい。


 でも、これなら問題なさそうだ。


「お二人とも、少し下がっていてくださいね」


 黒甲獣は低く唸り、残る三本の腕も一斉に振り下ろしてきた。


 私はレナさんを抱えて横へ移動し、攻撃を避ける。


 四本の腕が地面を砕いた。


 衝撃で砂埃が舞い上がる。


 〈え?〉

 〈今の何?〉

 〈ひよりさん、レナさんを抱えて移動した?〉

 〈速すぎない?〉


 コメントの流れる速度が、一気に上がった。


 私はレナさんを安全な岩陰へ座らせ、彼女の足を確認した。


「足を痛めていますね。骨折の可能性もあるので、無理に立たないでください」


「え、あ、はい……。でも、あいつが!」


「大丈夫です。少し待っていてくださいね」


 私は立ち上がり、黒甲獣へ向き直った。


 黒い甲殻のモンスターは、私を敵と認識したらしい。


 四本の腕を広げ、こちらへ突進してくる。


 その速度は、一般的な中層モンスターとは思えないほど速かった。


 けれど、真正面から受け止める必要はない。


 私は迫りくる巨体を紙一重でかわし、そのまま一気に懐へ踏み込んだ。


 踏み込んだ足で地面を捉え、腰を切り、体を鋭く翻す。


「――はっ!」


 鉄山靠《てつざんこう》。


 肩から背中にかけての一撃を、黒甲獣の胴へ叩き込んだ。


 ドゴォォンッ!


 轟音がダンジョンに響き渡った。


 黒甲獣の巨体が、まるで砲弾のように吹き飛んでいく。


 その体は数メートル先の岩壁へ激突し、深々とめり込んだ。


 岩壁に、大きな亀裂が走る。


 そして――。


 パキンッ、と何かが砕けるような音が響いた。


 次の瞬間、岩壁にめり込んでいた黒甲獣の体が淡い光に包まれた。


 黒い甲殻も、四本の腕も、鋭い爪も、光の粒となって崩れていく。


 やがて、その体は跡形もなく消滅した。


 あとに残されたのは、岩壁にできたくぼみと、地面に散らばる素材の数々だった。


 黒甲獣の甲殻。鋭い爪。太い牙。どれも高値で取引される、貴重な素材だった。


 その山から少し離れた場所には、濃い紫色の結晶――魔石も転がっている。


「あ、素材も出たんですね!」


 思わず声が弾んだ。


 これはいいものを見つけたかもしれない。


 そう思った、その直後だった。


 ミシミシミシッ――。


「……ん?」


 頭上から、不穏な音がした。


 見上げると、黒甲獣が激突した岩壁に走った亀裂が、周囲へと広がっていた。


 あ。


 これ、もしかして。


 ドゴゴゴゴゴッ!


 岩壁の一部が、まとめて崩れ落ちた。


 大小の岩塊が、黒甲獣の素材が転がっている場所へ降り注ぐ。


 ゴリッ! バキッ! グシャッ!


 甲殻が砕け、爪が折れ、牙が粉々に砕け散った。


 高級素材たちは、落ちてきた岩塊に押し潰され、あっという間に黒い粉末と細かな破片へと変わってしまった。


 最後に大きな岩が、ごろん、と転がった。


 しん……。


 あたりが静かになった。


 そこには、粉々になった素材と、崩れた岩の山が残されていた。


 その岩山から少し離れていたおかげで、魔石だけは無事だった。


 私の頭くらいありそうな大きな魔石が、傷ひとつなく、きらきらと輝いている。


「…………あれ?」


 私は素材の残骸と魔石を交互に見た。


「……素材、粉々になっちゃいましたね」


 思わず、しょんぼりしてしまった。


 黒甲獣の素材は、どれも貴重なものだったはずだ。甲殻も爪も牙も、無事ならかなりの値段になったかもしれない。


 それが、今や粉末と破片である。


「うう……。もったいないことをしちゃった……」


 もちろん、岩壁を壊すつもりなんてなかった。


 ただ、襲いかかってきたモンスターを止めようとしただけなのだ。


 私は崩れた岩の山を見つめてから、少し離れたところに転がっていた魔石へ歩み寄り、拾い上げた。


「でも、魔石は無事でよかったです! これ、大きいですねぇ」


 魔石はモンスターが消滅したとき、必ず残るものだ。大きさや純度によって価値も変わる。


 それにしても、これは大きい。私がこれまでに見た魔石の中でも、かなりの大きさだった。


 そんなことを考えていると、背後から声が聞こえた。


「…………は?」


 振り返ると、レナさんも、その隣にいた男性も、そろって呆然とした顔をしていた。


 無理もない。突然現れた人間が、巨大なモンスターを岩壁にめり込ませて消滅させ、岩壁まで崩落させたあげく、素材の残骸を見て落ち込み、大きな魔石を見つけるとうれしそうにしているのだから。


 配信のコメント欄も、見たこともない勢いで流れていた。


 〈…………え?〉

 〈今、何した?〉

 〈鉄山靠!? 黒甲獣が壁にめり込んだぞ!?〉

 〈しかも消えた!?〉

 〈壁まで崩落してるんだけどwww〉

 〈薬草解説配信者とはいったい……〉


「えっ? あれ、何かおかしいんですか?」


 私はコメント欄を眺めながら、首を傾げた。


 どうやら、みなさんを少し驚かせてしまったらしい。


 でも、今はそれよりも気になることがある。


「レナさん、気分は悪くないですか? 頭を打ったりしていませんか?」


 私はすぐに彼女のもとへ戻った。


 レナさんは、私と崩れた岩壁、それから私が抱えている魔石を交互に見ていた。


「……え、あの……あなた、誰?」


「小鳥遊ひよりです。薬草の解説配信をしています」


「薬草……?」


 レナさんは、理解できないという顔をした。


 初対面の人にそんな顔をされるのも、無理はないのかもしれない。


 * * *


「とりあえず、救助を呼びましょう」


 私は通信端末を取り出し、探索者協会へ連絡した。


 負傷者がいること、通常とは異なる強力なモンスターが出現したことを伝える。幸い、ここは中層でも比較的入口に近い場所だ。救助隊が来るまで、それほど時間はかからないはずだった。


 連絡を終えると、私はレナさんの足を改めて確認した。


「腫れていますね。痛みはどのくらいですか?」


「かなり痛いです。でも、さっきよりは落ち着きました」


「わかりました。無理に動かさず、足を固定しましょう」


 私は採取用のバッグから応急処置用品を取り出した。


 さらに、先ほど解説に使っていたヒールリーフを確認する。


「これは擦り傷や腫れの手当てに使える薬草です。ただし、骨折そのものを治せるわけではありません。痛みがあるからといって、これだけで大丈夫だと思わないでくださいね」


 せっかくの配信だ。こういうときの知識も、きちんと伝えておきたい。


 私はカメラに薬草を見せながら、応急処置の方法と注意点を説明した。


 〈こういうときの薬草知識は助かる〉

 〈戦闘も救助もできる薬草配信者って何?〉

 〈しかも本人が一番落ち着いてるの草〉


 レナさんは、私が手際よく処置を進める様子をじっと見つめていた。


「……あなた、本当に何者なんですか?」


「えっ? 小鳥遊ひよりですけど……」


「いや、そういうことじゃなくて!」


 レナさんは思わず声を上げたものの、すぐに痛そうに顔をしかめた。


「あ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」


「大丈夫……。いや、そうじゃなくて! あの黒甲獣、普通なら上位探索者が何人も必要な相手なんですよ!? それを、あなた一人で……」


「そうなんですか?」


「そうなんですか、じゃないですよ!」


 思わず怒られてしまった。


 私は困って頬をかいた。


「でも、襲ってきたので……止めないと危ないかなって」


「それはそうですけど……!」


 レナさんは言葉を失った。


 そんなに驚くことなのだろうか。


 確かに、あのモンスターは硬かった。真正面から殴るより、体の勢いを乗せて懐から打ち込んだほうがよさそうだったので、鉄山靠を使ったのだけれど。


 ……ちょっと、力を入れすぎたかもしれない。うん。次から気をつけよう。


 そう心に決めていると、レナさんの視線が私の配信用カメラへ移った。


「もしかして、今の……全部配信されてます?」


「はい。いつもどおり配信していますけど……」


「……私も映ってますよね?」


「ええと、たぶん……」


 レナさんは片手で顔を覆った。


「うわあああ……。私、助けられたところまで全部、全国に流れてる……」


「でも、怪我がひどくならなくてよかったです!」


「そういう問題じゃ……いや、そういう問題でもあるんですけど……!」


 どうやら、いろいろ複雑な事情があるらしい。


 私は首を傾げたものの、ひとまず彼女が無事だったことに安心した。


 * * *


 救助隊が到着するまで、私たちは岩陰で待機した。


 レナさんの同行者も、幸い大きな怪我はなかった。彼は私に何度も頭を下げてくれた。


「本当にありがとうございます。あなたが来てくれなかったら、どうなっていたか……」


「いえ、無事でよかったです」


 やがて救助隊が到着し、レナさんたちを搬送する準備が始まった。


 私も事情聴取を受けたが、説明できる範囲で状況を伝えただけだった。魔石を見せると、救助隊の人は「……ずいぶんと大きいですね」と、なぜか少し遠い目をした。


 私、何か変なことをしたのだろうか。


 搬送の直前、レナさんが私を呼び止めた。


「あの、小鳥遊さん!」


「はい?」


「今日のお礼、改めてさせてください! それと……今日の配信の映像を、私のチャンネルで紹介してもいいですか? お礼と、みんなに知ってもらいたい気持ちがあって。それから、過去の配信も全部見させてください!」


「えっ、もちろんです。薬草の話ばかりですけど……」


「それでいいんです!」


 レナさんは力強く頷いた。


「私、探索者として活動してるのに、薬草の知識はまだまだ足りないんです。今日も、もっと早く回復手段を用意できていたら……。だから、あなたの配信を見て勉強したいです」


「そう言ってもらえるとうれしいです!」


 私は笑顔で答えた。


 自分の配信を見て、誰かが必要な知識を得てくれる。


 それは、私にとって何よりもうれしいことだった。


 レナさんは連絡先を交換すると、救助隊の人たちと一緒にダンジョンを出ていった。


 私はその背中を見送り、配信を終了した。


「……さて、私も帰ろうかな」


 ルゥが待っている。


 きっと、帰ったら迎えに来てくれるだろう。


 そう考えると、自然と足取りが軽くなった。


 * * *


 ――その夜、ネットの向こう側では。


 搬送先の病院のベッドで、人気配信者・天城レナは、自分のチャンネルに一本の動画を投稿した。ひよりの了承は得ている。


 タイトルは――。


『【緊急】ダンジョンで絶体絶命になった私を救ったのは、登録者数の少ない薬草配信者でした』


 動画には、ひよりの配信アーカイブから切り出した映像が使われていた。黒甲獣の腕を片手で受け止め、鉄山靠で岩壁へめり込ませるひより。直後に岩壁が崩れ、貴重な素材が粉々になる場面。そして、無傷の魔石を拾い上げ、しょんぼりと素材の残骸を見つめる姿。


『……素材、粉々になっちゃいましたね』


 そんなひよりの声まで、アーカイブの音声にしっかりと残っていた。直後、彼女は魔石を見て笑顔になる。


『でも、魔石は無事でよかったです! これ、大きいですねぇ』


 投稿から間もなく、コメント欄は騒然となった。


 〈誰この人!?〉

 〈薬草配信者って書いてあるんだけど……〉

 〈待って、あの鉄山靠、威力がおかしくない?〉

 〈本人が一番ショック受けてるじゃねえかw〉

 〈いや、本人が自分の強さを理解してない可能性あるぞ〉

 〈ひよりさんのチャンネル行ったら、膝の上に羽付きネッコいたんだが。激カワなんだが〉


 動画は短く編集されて各所へ拡散され、再生数は夜のうちに数十万を超えた。ひよりのチャンネルにも、次々と新しい視聴者が訪れ始める。


 そこで人々が目にしたのは、薬草を手に取って真剣に解説する穏やかな女性の姿。そして、その膝の上で幸せそうにふみふみしている、愛らしい羽付きのネッコだった。


 戦闘動画を見てやってきた人たちは、薬草の解説と甘えん坊のネッコという予想外の組み合わせに戸惑いつつも、次々と過去の配信を再生し始めた。


 地味だった薬草配信者のチャンネルは、夜が更けるにつれて、少しずつ大きな話題になっていった。


 一方、ひよりは。


「ルゥ、お待たせー!」


 帰宅し、玄関まで迎えに来てくれたルゥを抱き上げていた。


「みゃう!」


「ふふっ、寂しかった? ごめんね。今日はちょっと大変なことがあったんだよ」


 ルゥは彼女の胸元に顔を埋め、ごろごろと喉を鳴らした。


「ダンジョンで怪我をした人がいたんだけど、ちゃんと助けられたんだ。もう大丈夫そうだったよ」


「みゃう?」


「うん。ルゥにも、いつかいろんなところを見せてあげたいな」


 ひよりはルゥを抱き直し、頬をすり寄せた。


 その瞬間、スマートフォンが何度も震えた。


 ぶるぶる、ぶるぶる。


「……え? なにこれ?」


 画面を確認したひよりは、思わず固まった。


 配信の再生数も、コメント数も、通知の数も、見たことのない数字になっている。


 チャンネル登録者数まで、短い間にどんどん増えていた。


「えええっ!? 私、何かやっちゃったの!?」


 腕の中では、ルゥが不思議そうに首を傾げている。


「みゃっ」


「えっ、ルゥは知らない? そっかぁ……」


 ひよりはスマートフォンとルゥを交互に見た。


 そして、ふと思い出した。


 今日、ダンジョンで助けた人は、ものすごく有名な配信者だった。


「……もしかして、レナさんが何かしてくれたのかな? まあ、明日になったら落ち着くかな?」


 ひよりはひとまずスマートフォンを置いた。


 今はそれよりも、ルゥのほうが大事だ。


「ルゥ、今日は一緒にゆっくりしようね」


「みゃう!」


 返事をしたルゥは、ひよりの膝によじ登り、当然のように丸くなった。


 ごろごろ、ごろごろ。


「……ふふっ。本当に甘えん坊なんだから」


 ルゥの頭を撫でながら、ひよりは幸せな気持ちで目を細めた。


 ただ、怪我をした可愛いネッコを拾い、困っていた人を助けた。


 それだけのつもりだった。


 けれど、その何気ない行動が、薬草解説配信者としての彼女の日常を、少しずつ、とんでもない方向へ変え始めていた。

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