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底辺薬草配信者、怪我した激カワネッコを拾ったらダンジョン配信が大変なことになりました  作者: 水源


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14/15

薬草採取配信中にヘルクロウの群れが来たので、鎌で追い払いました

 それから数日後。


 協会には、チィの脚が落ち着いてから相談に伺いますと、すでに返信してある。日程は、来週に決まった。


「よし、今日はみんなでお出かけしようね!」


 両手を広げて声をかけると、ルゥが「みゃっ!」と元気よく鳴いた。


 チィも、蜘蛛に痛めつけられた脚がすっかり回復し、歩いたり、短い距離を走ったりできるまでになっていた。念のため、しばらくは全力疾走を控えてもらうつもりだけれど、本人は早く走り回りたいらしい。


「チィ、脚の調子はどう?」


 しゃがんで声をかけると、チィは立ち上がって、私の足元まで歩いてきた。そして、鼻先をちょんと私の指へ押しつける。


「ふふっ。元気になってよかったね」


 最初は近づくだけでも逃げていたのに、今では自分から甘えてくれることも増えた。まだ少し臆病だけれど、私やルゥとの暮らしにも、すっかり慣れてきたようだ。


「今日は薬草を採りに行くけど、チィも一緒に来る?」


 チィは耳をぴんと立てて、ルゥを見る。ルゥが胸を張って「みゃっ!」と鳴くと、一瞬だけ身構えて、すぐに私の足元へ戻ってきた。


「よし、じゃあ一緒に行こう!」


 今日は、二匹がダンジョンに出るのも初めてなので、首輪も着けていくことにした。水色の首輪のルゥと、琥珀色の首輪のチィ。銀白色の縁取りが、並ぶとおそろいに見える。


「二匹とも、私から離れちゃ駄目だよ?」


 人差し指を立てて、順番に顔を覗き込む。


「みゃっ!」


「みゃう」


 元気に返事をするルゥと、控えめに鳴くチィ。私は笑って、採取道具と配信機材を背負った。


 * * *


 ダンジョンに入って、いつもの採取場所へ向かいながら、配信を開始する。


「みなさん、こんにちは。小鳥遊ひよりです。今日は薬草採取の配信をしていきますね!」


 同時視聴者数は、開始直後からかなりの勢いで増えていた。以前は十人にも満たなかったのに、今では大勢の人が集まってくれる。


〈ひよりさん、こんにちは!〉


〈今日は何を倒すんですか?〉


〈いやいや、薬草採取配信だからw〉


「はい! 今日は二匹とも一緒です」


 カメラを少し下へ向けると、足元を歩いていたルゥが「みゃう」と鳴いた。その隣で、チィが少し警戒しながら周囲を見回している。


〈二匹いる! 二匹いるぞ!〉


〈首輪、ちゃんと着けてる! かわいい!〉


〈チィちゃん、脚はもう大丈夫なの?〉


「はい。だいぶよくなりました。ただ、まだ無理はさせないようにしています」


〈ひよりさん、完全にお母さんだw〉


 コメント欄が一気に流れ始める。……いけない。まだ薬草を採り始めてもいないのに、二匹が可愛すぎて配信が進まない。


「こほん。それじゃあ、今日も薬草を採っていきましょう!」


 * * *


「あ、ありました!」


 岩場の陰に、銀白色の葉を持つ植物が群生していた。葉の表面には細かな光の粒が浮かび、薄暗いダンジョンの中でも、月明かりを受けたように淡く輝いている。


「こちらが月光草です。回復薬の材料として使われる薬草ですね。葉っぱが似ている別の植物もあるので、採取するときは葉の裏側と茎の形を確認してください。それから、根元を無理に引っ張らないこと。根を傷つけると、その株が枯れてしまうことがあります」


 しゃがみ込んで、採取用の鎌を使い、必要な部分だけを丁寧に刈り取っていく。


〈説明がわかりやすい〉


〈最近の戦闘映像から来たけど、普通に勉強になるな〉


 ルゥが月光草へ鼻を近づけて、ひくひくと動かしていた。


「ルゥ、どうしたの? ……そういえば、あの犬はこの匂いに怯えたのかなって思ったけど、ルゥは全然平気そうだね」


 袖口にも、薬草の匂いは残っている。やっぱり、匂いは関係ないのかな。


 そのときだった。


 ――ギィヤアアアッ!


 頭上から、鋭い鳴き声が響いた。


 顔を上げると、薄暗い天井近くを、黒い影が横切っていく。最初は数羽のカラスかと思った。けれど、急降下してきた姿を見て、目を丸くした。


 翼を広げても人の腕ほどの大きさしかない、小柄な鳥型モンスター。黒い羽根には金属のような光沢があり、嘴と爪は鋭く尖っている。赤い目が、獲物を見定めるように輝いていた。


「カラス型モンスター……ヘルクロウ!」


〈うわ、ヘルクロウだ!〉


〈小型の群れは面倒なやつ!〉


〈ひよりさん、頭上!〉


 岩陰や天井の裂け目から、次々と黒い影が飛び出してくる。十羽、二十羽。あっという間に、頭上は黒い羽根で覆われた。


 月光草の群生地を見回す。せっかく見つけた薬草だ。ここで荒らされるのは困る。それに、二匹を危険な場所に置いておくわけにもいかない。


「ルゥ、チィ。あそこの岩棚で、少し待っていてね!」


 ルゥは小さな翼を広げて、ふわりと岩棚へ飛び上がる。チィも脚の具合を確かめるように軽く跳んで、岩棚の陰へ移動した。


 私は腰の採取道具入れへ手を伸ばした。右手には、使い込んだ鎌。左手には、剪定ばさみ。何年も使い続けてきた、ただの相棒だ。


「……せっかく見つけた薬草が、台無しになっちゃうじゃない」


 小さく息を吐いて、ヘルクロウたちを見上げた。


 * * *


 最初の一羽が、翼を畳んで急降下してきた。狙いは私の頭。


 半歩だけ身体をずらすと、黒い影が頬のすぐそばを通り過ぎた。嘴が空を切り、風圧で髪が揺れる。その瞬間、右手の鎌を軽く走らせた。


 ガツッ!


 鎌の背がヘルクロウの身体を捉え、突進の勢いを利用して横へ弾き飛ばす。地面に落ちた個体は、光の粒子となって消えていった。


〈えっ、今の何!?〉


〈鎌で叩き落とした!?〉


「ふう……。飛んでくる相手は、距離が難しいですね」


 草を刈るときと同じ要領だ。どう動かせば、狙ったところへ刃が届くのか、手に取るようにわかる。


 二羽が左右から同時に飛び込んできた。円を描くように足を運んで、進路をわずかにずらす。右手の鎌が一羽の翼をかすめ、姿勢を崩す。もう一羽の爪は、左手の剪定ばさみで受け止めた。金属音が響く。


 そのまま身体を回転させ、鎌の背で一撃。


 ドンッ!


 二羽が相次いで地面へ落ち、光の粒子になって消えた。


〈動きが滑らかすぎる!〉


〈何で鎌と剪定ばさみで空中戦をしてるんだよ!〉


〈武器が地味なのに、技が地味じゃないw〉


〈しかも薬草が無事なんだよな……〉


 けれど、ヘルクロウたちはひるまなかった。頭上だけでなく、左右や背後からも襲いかかってくる。相手に背後を取らせないよう、常に群れの位置を視界に入れながら、薬草の群生地へ攻撃が飛ばないように誘導して迎え撃つ。


 それでも、数が多い。こちらが一羽を相手にしている間にも、別の個体が死角へ回り込んでくる。さすがに、すべてを一人で相手にするのは面倒だった。


「うーん……。少し、手伝ってもらおうかな」


 岩棚へ目を向けると、ルゥがこちらをじっと見つめている。


「ルゥ、飛んできた子たちを、ちょっと追い払ってくれる?」


「みゃっ!」


 ルゥは小さな翼を広げて岩棚から飛び立ち、砂色の身体が黒い羽根の群れへと向かっていった。


〈ルゥちゃん飛んだあああ!〉


〈かわいい! でも大丈夫なの!?〉


 ヘルクロウの一羽が、ルゥへ向かって急降下した。けれど、ルゥは慌てない。翼をひらりと動かして軌道を変え、相手の横をすり抜ける。勢いを殺しきれずに旋回したヘルクロウへ、前足をちょんと伸ばした。


 ぽすっ。


 たったそれだけだった。なのに、ヘルクロウは弾かれたように吹き飛んで、壁にぶつかり、地面へ落ちた。


 いつもなら、倒されたモンスターは光の粒子となって消える。けれど、この個体は黒い身体のまま地面に残り、ぴくりとも動かなくなった。


〈あれ? 今のカラス、消えてなくない?〉


 私は次々に迫るヘルクロウへの対処に追われていて、その違いに気づく余裕はなかった。


 ルゥは何事もなかったかのように、楽しそうに空中を飛び回る。突然現れた翼付きのネッコに、ヘルクロウたちは隊列を乱し始めた。ルゥの翼や前足に軽く触れられただけで、あっけなく地面へ落ちていく。


「ルゥ、すごいね!」


 声を弾ませると、ルゥは褒められたのが嬉しいのか、「みゃっ!」と鳴いて、翼を大きく羽ばたかせた。その風圧で、近くのヘルクロウたちがまとめて体勢を崩す。


 私はその隙を逃さなかった。身体を滑らせるように踏み込み、鎌で先頭の個体を引っ掛けて軌道をそらし、剪定ばさみで密集した二羽をまとめて弾き落とす。


 そのとき、低空へ降りてきた一羽が、チィのいる岩棚へ向かった。


「あっ、チィ!」


 けれど、チィは怯えているだけではなかった。身を低くして岩棚の陰へ滑り込み、脚に負担をかけないよう小さく動いて、鋭い爪をかわす。足場を見失ったヘルクロウがふらついた隙に、尾を翻して距離を取った。


「チィ、無理はしないでね!」


 チィは短く「みゃっ」と返事をした。


〈黄色い子、動きが速い!〉


〈そしてルゥちゃん、やっぱりおかしいw〉


 数は、かなり減っている。それでも、最後に残った数羽は執拗だった。仲間が倒されても逃げるどころか、互いに間隔を詰め、私の頭上へ一斉に集まってくる。黒い影が重なり、天井近くでひとつの塊のように旋回した。


 私は鎌を構え直した。


 視界の端で、ルゥが動きを止めた。岩棚の下、地面に転がったままのヘルクロウの身体を、金色の瞳でじっと見つめている。


「……ルゥ?」


 呼びかけても、ルゥは振り向かなかった。

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