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ウロコなラクエン  作者: 吉川 優
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「ほんと気が付けば知り合いが多いね」

なんとか2ヶ月以内に投稿できました。。。。



「そんな話だったのか」

「自分のことながら不思議なものですよね~」


 塔から王城への帰り道、私は馬車に乗りながらエンセルさんとした私の体質の話をラファエルさんに話していた。

 あまり公にはしないほうがいい話だけれど、ラファエルさんや私の周囲にいるルザリドには他言無用で話してもいいとエンセルさんからは許可がでたのだ。荷車の中は王城の部屋と同じように防音のしかけがしてあるらしいので、大声で説明しなければ大丈夫だろう。


 エンセルさんにもらったコンパスをラファエルさんに貸してみせると、興味深げにラファエルさんはコンパスをひっくり返したり回したりしてみていた。

 今ここに魔素を吸収している物は特にないのか、コンパスの中の針は動かす度にいろんな方向を向いている。


 コンパスは常に見えないと魔素の動きを注意できないので、王城に戻ったら紐か何かで結んで常に服のどこかに結んでおこうかと思っている。


「魔素というのはこの世界のヒューモスにとっても馴染みが浅いけれどね。異世界にはもしかすると魔素自体がないのかもしれないな」

「そうですね。勝手に魔素を吸い取ってこの草がこんなに花を咲かすようなことないですし」


 そう言いつつ私は傍に置いた植木鉢を見た。白い花がきれいに咲き誇っている。

 この花はもう魔素を吸収していないらしい。魔素を限界まで吸っているので、発光はしていないけれど魔石に近い状態なのだという。元々雑草なので別に返してもらわなくても良かったのだけれど、もう研究も済んだらしいのでせっかくだからもらっておいた。


 私は柔らかい白い花弁に触れた。水も上げていないのにそれは瑞々しく、弾力を持って私の指を軽く押し返してきた。


 本当に元は自分の世界の草だというのにやはり見たことがない植物に見える。


「塔の上部にはなかなか興味深い物がたくさんあったよ」


 ラファエルさんは私の話の代わりに塔で見た物を教えてくれた。

 宙を浮く水時計に、精密に書かれた星見表。他にもラファエルさんには理解できないものもたくさんあり、ルザリドの文明がヒューモスより格段に進んでいることを改めて実感したのだと言う。


 本当に体力さえあれば、私も行きたかった。


「ところでサラ。車酔いは大丈夫か」

「…………思い出させないで下さいよ。お話しして気を紛らわせようとしてるのに」


 遅くなってしまったこともあり、やはり徒歩で帰ることはトアが許可を出してくれなかったので馬車に乗ることになってしまった。まだ辺りは暗くはなっていないけれど、明るく地表を照らすメアンとテアンは随分と地平線に近づいていた。

 二つ太陽のあるこの空には随分慣れた気がする。


「車酔い防止のために外を眺めてますね」

「馬車からあまり顔を出し過ぎないようにね」


 私が肩を落としながら言うと、ラファエルさんが苦笑しながら了解してくれた。エンフォーレの街並みを見ていると少しは楽な気がするのだ。行きの馬車ではトアがあまり外に顔を出さないようにと注意してきたので、馬車の中でおとなしくしていたので余計車酔いがひどかった。


 トアに見つからないように御者台に顔を出す。周囲にトアの姿は見つからない。

 馬車のを操縦していたレンに何か用事があるのか聞かれたので、景色を見たいだけだと説明する。


「トゥーキアさんなら、その、先に王城に帰られましたよ。

 今日は夜に、宴席がありますから、それの準備に」

「なんだ。そうだったんだ」


 そう言えば王城を出る前に、帰ってきたら宴席に参加してもらいたいとクリスさんに言われていたのだった。馬車の中を振り返ると、ラファエルさんがうなずいた。どうやら彼は知っていたらしい。


 馬車は私にとっては小走りに近いスピードで走っている。ルザリドたちにとっては普通に歩く程度でついてこれるようで、周囲の護衛ルザリド達もそれほど離れていない場所を歩いていた。グルスタッフに行くときほどのスピードではないけれど、結構な距離をずっとこのスピードで歩き続けられるルザリドたちの身体能力はやはり高いのだろう。


 レンと話している私に気付いて何かあったのかとジャスも傍に来たけれど、なんでもないと答えつつ周囲を見回す。


 さて、今はどこらへんだろう。


 私は街並みの方に目をやろうとした時だった。


「そこの馬車、何の用だっ。

 こちらに何故近づいてくる!」


 アルの鋭い声が飛ぶ。

 見ると一つの馬車が傍まで近づいてきていた。傍と言っても広い道だ。護衛が馬車を囲んでいることもあって、並走しているというには距離があるほどだったけれど、アルは念のために警戒したんだろう。


「あぁ悪い悪い。暗かったので距離感がつかめなかったんよ」


 どこか聞いたことのある声だ。


「…………あんたは」


 アルの声にとげとげしい物がなくなる。

 私は馬車から身を乗り出して、その声の主の姿を探す。すると近づいてきていた馬車の御者台にその姿はすぐ見つかった。


「あれ? ギューテスさん」

「サラ、か。こんなところで会うとは珍しいんよ」


 隻腕のルザリドがそこにはいた。トーカスハさんの古いお友達で、つい先日町で楽しくおしゃべりして友達になってもらった彼だった。


「さか…………そうの……」


 ジャスが息を短く吸い込みながら、そう声を漏らす。


「どうかした?」

「……あんた、知り合いなの?」

「うん、友達だよ」


 ジャスの声は何かに驚いているようで、しきりに私とギューテスさんを比べている。そう言えば以前、ギューテスさんと出会ったお店に迎えに来てくれたのはレンとアルだったので、彼女は初対面なのだろう。


 そうこうしている内にギューテスさんは乗っていた馬車を操り、私たちの乗っている馬車に近づけてきた。並走するつもりらしい。周囲にいた護衛のルザリドもアルに指示され、ギューテスさんの馬車の動きを止めはしない。

 トーカスハさんの友達であることしかよく知らないけれど、どうやらギューテスさんもそれなりに有名な人だったらしい。


「ここにいるということは、塔の帰りか?」


 そんな有名人は気軽に話しかけてきた。


「はい。ギューテスさんは何か買い出しですか?」

「ああ。商売道具を少し仕入れてきた帰りさな」


 そう言いながら御者台から後ろの荷台を示す。私からは何が乗っているのかはわからなかったのだけれど、


「サラ、コンパスが」


 背後からラファエルさんの声がした。振り返ると先ほどラファエルさんに預けていたコンパスの中の赤い針の先がギューテスさんの荷台を向いている。


 魔素の動きに干渉する物は少ない。

 私も別に今は取り乱しているということはない。

 ということは……―――


「もしかして魔石ですか?」

「おや、珍しい物をもってるんよ。この荷台に反応してるか?」


 私がコンパスを手にしているのを見て、ギューテスさんが目を細める。


「昔はよく見かけたが、今もまだそんな物がどこかで売ってるのか?」

「これは買ったんじゃなくてもらったんですよ。エンセ……え~と魔術長に」

「ああ、あの人なら持っててもおかしくないんよ」


 ギューテスさんが言うには、このコンパスはそもそも発動している魔法陣を見つけるために作られたものなのだという。本来なら複数の部隊で一つずつ所持し、正確に魔法陣の位置を割り出すのだけれど、そんな面倒なことをしている間に魔法陣が発動しては意味がない。結局あまり普及しなくて存在自体知っているルザリドすら少ないそうだ。


「魔石を加工して作ってあるんよ。もし予備がいるなら作るか?」

「いえ、一個で十分です。ありがとうございます」


 別に私は魔法陣の位置が知りたいわけではない。けれど荷車から顔を出している状態では使用用途の詳細を説明するわけにはいかない。壊れたらお願いするかもしれないけれど、ギューテスさんの提案を辞退する。


「それよりも知ってる人が少ないのに、よくギューテスさんは知ってましたね?」

「わしは魔石を仕入れて商いをしているんよ。単純な魔石に関する道具の知識ぐらいはもっておくのも商売さな」

「そうなんですか」


 そう言えばギューテスさんの今の仕事の話は聞いていなかった。トーカスハさんと同じ軍にいたことは聞いていたけれど。

 ギューテスさんの操る馬車を見る。さすがにクラウスさんが用意してくれた私の乗っている馬車よりは小さいけれど、作りとしてはほとんど同じだ。気性の荒そうなこの世界の馬が引く荷台には幌がついていて、ギューテスさんの背後と荷台の後ろは空いている。荷台には見える範囲で木箱がいくつか積まれているようだ。


「そういえば今日はマルシエさんは一緒じゃないんですか?」

「あいつは出不精なんよ。基本的に家からは出ずに店番さな」

「店番ってことは、何かお店をやってるんですか?」

「ああ、小物を扱ってる小さな店さな」


 そう言いながら、ギューテスさんは私の頭に目を止める。


「その頭につけてるのは前はつけてなかったな」

「ああ、これですか?」


 私は自分の髪を触る。そこに付いているのは元の世界から持ってきた数少ない物の一つの髪留めだった。毎日制服を着ているわけにもいかず、鞄すら持ってこなかった私にとっては持ち歩ける唯一の私の世界の物だ。基本的にはいつも着けているのだけれど、以前ギューテスさんに会ったときは、お風呂上りをトーカスハさんに攫われたので外していたのだ。


「私の故郷のものです。

 ルザリドは髪がないから、こんな髪留めは珍しいですか?」

「髪留めというものはないさな。けれどそれなんでできてるんか? 変わった光沢なんよ」

「多分プラスチックだと思いますけど……私の故郷ではあまり珍しい物ではないです」


 こげ茶のプラスチックを見て興味を持ったギューテスさんが、しきりに気にしている。


「それを売る気はないか?」

「え? これをですか?」

「さっきも言った通りマルシエは小物を扱っているさな。簡単な加工もやっているので見たことない材質のものを喜ぶんよ」


 そう言うギューテスさんの目には一切の悪気はない。


「すみません」


 それでも私の声は思わず固くなった。


「これは売れません」


 この髪留めが私の元から無くなることを想像しただけで、お腹の底が痛くなる様な不安を感じた。思わず腹筋に力をいれるけれどマシになった気がしない。

 私は底知れない不安を少しでも抑えるようにお腹に手を当てた。

 この髪留めが手元からなくなるかもしれない。そう思っただけでこんな不安を感じるとは思わなかった。日本から私が持ってきたものの中で唯一、今持っているものだからかもしれない。


「ああ、悪かった。そんな大事な物だと思っていなかったんよ」


 私の態度に、ギューテスさんが謝ってくれる。


「大丈夫さな。無理やり奪ったりはせんから安心するんよ」


 その声は優しく、私はいつの間にか止めていた息を吐く。

 そんな私を見て、そして進行方向を見てからギューテスさんはまた口を開く。


「今から王城か?」

「はい、そうですけど?」

「だったらピューレに伝えてくれるか? 頼まれていた物が用意できたと」


 本当なら明日ギューテスさんが王城まで足を延ばして、ピューレさんに報告するつもりだったらしい。


「いいですよ」


 微妙な空気にしてしまった罪悪感もあって私は頷く。これぐらいの頼みは聞いても構わないだろう。

 私の了解を受け、ギューテスさんが礼を言う。そしてどうやらここで道が異なるらしくギューテスさんの馬車は私達から離れて行った。


 馬車の中に戻り、私は髪留めを頭から外す。


 何の変哲もないただの髪留めだ。それなのに自分が無くなることを想像しただけで息を止めるほど不安を感じるまでこの髪飾りに依存していたのは驚きだった。


 ホームシックにならなかったのはこの髪留めのおかげかな?


 そう思いつつ、また髪につけ直す。


「なんであんたの周りには有名な方ばかり集まるのよ」


 ため息交じりに唐突に聞こえたジャスの声に振り向くと、彼女はアルと何かを話しているギューテスさんと私を見比べていた。


「ギューテスさんのこと?」

「当然でしょ? 五爪の一人なんだから」

「五爪って、なに?」

「戦時中にギューテス様がそう呼ばれていたのよ」


 ジャスの話とレンの補足によると、未だヒューモスの国と激しい戦争が行われていたころ、特に戦功をあげたと言われる五人のルザリドを指し示す言葉らしい。ちなみにトーカスハさんも五爪の一人だ。


「あれが五爪か」


 ラファエルさんも噂だけは聞いたことがあったらしい。

 アルに軽く手を振って、角を曲がっていくギューテスさんを見つめていたラファエルさんはふとこんなことを言った。


「それにしてもサラはよく見分けがつくな」

「え?」

「国王やトアのように少し変わった鱗の色を持つルザリドなら私でも見分けがつくが、茶系統の鱗のルザリドは比較的多いだろう? 一瞬で見分けをつけるのは私にはまだ無理だな」


 そう言われればギューテスさんもアルも茶色の鱗だ。

 けれど鱗の質感や、凹凸の出方も一人一人全く異なる。けれどそれを説明してもラファエルさんはピンとこないようだった。

 私の話を聞いて、多少疲れたように息を吐きだすとラファエルさんは言った。


「一週間でここまで知り合いを作ったことも正直すごい話だな」

「私としては本気でルザリドの友達が百人くらい欲しいですよ」


 私は少し茶目っ気を込めてそう返したのだった。








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