表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
痛いのも苦労するのも嫌なので、お家で美味しいご飯を作って静かに暮らしたい(※ただしダンジョン最深部)  作者: 翠碧ノ人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/50

第11話 移動式かまど計画(火竜、飼い慣らします)

外でも、あったかいごはんが作りたい。ただそれだけの理由で――

レンは、街のみんなが恐れる“火竜”を、飼い慣らしに行くことにしました。

あの、賑やかな、"食卓の会"から。数日が、過ぎた。


 みんなで、囲んだ、あたたかい夜。その、余韻は、まだ、私の中に、あたたかく、残っていた。「椅子、もっと増やそうかな」なんて。柄にもなく、そんなことを、思ったりも、した。


 あたたかい食卓は、人を、呼ぶ。腹を空かせた者、心の寒い者を、この、湯気が、引き寄せる。……その予感は、思ったより、ずっと早く。しかも、思いも、よらない形で、当たることに、なる。


 でも、その日の私は。まだ、そんなこと、知る由も、なく。ただ、いつも通り、のんびりと、暮らしていた。


 ことの、始まりは。私の、ちょっとした、不満だった。


 その日、私とティルは、街の外れの、森へ、食材を、採りに来ていた。木の実や、山菜や、きのこ。箱庭の、保存食も、大事だけれど。やっぱり、新鮮な素材は、外で、採ってくるのが、いちばんだ。


 ティルは、すっかり、採取が、上手に、なっていた。


「レン、みて。このきのこ、いいにおい、する」


「お、よく見つけたね。それ、香り茸だ。炙ると、すごくいい出汁が出るの。今夜の、スープに、使おう」


「やった!」


 鼻の利く、竜鱗族の血が、こういうときは、役に立つ。ティルは、匂いだけで、美味しい食材と、そうでないものを、嗅ぎ分けられる。もはや、立派な、私の、相棒だ。


 たっぷり、収穫して。お腹も、空いてきた。


「ティル、お昼にしようか。……あ」


 そこで、私は、気づいた。


 あたたかい、お昼を、作りたい。でも、ここには、かまどが、ない。火を、おこすには、薪を集めて、火打ち石で、ちまちま、やらないと、いけない。


 ……面倒くさい。


 私は、めんどくさがりだ。火おこしなんて、地味で、手間のかかる作業は、できることなら、やりたくない。


「どこでも、ぱっと、あったかいものが、作れたら、いいのに」


 思わず、そう、こぼした。


 結局、この日は、冷たい、握り飯で、済ませた。箱庭から、持ってきた、保存食のパンと。それは、それで、美味しかったけれど。でも、やっぱり――外で食べる、あたたかい、汁物には、かなわない。


 冷たいごはんを、頬張りながら。私は、決意した。


「……よし。どこでも使える、かまどを、作ろう」


 前世の私が、聞いたら、呆れるだろう。「そんなことのために、わざわざ?」と。でも、料理のことに、なると。私の、面倒くさがりは、なぜか、逆向きに、働く。「楽して、美味しいものを、食べる」ためなら。私は、いくらでも、手間を、かけられるのだ。


 それに、と、私は、思う。


 どこでも、あたたかいごはんが、作れる、ということは。どこでも、"帰れる場所"を、作れる、ということだ。


 冷たい場所でも。暗い場所でも。危険な場所でも。あたたかい湯気と、いい匂いさえ、あれば。そこは、もう、"ただの、怖い場所"じゃ、なくなる。あたたかい、食卓の、ある場所に、変わる。


 前世の私は、それを、知らなかった。どこにいても、心が、冷えていた。あたたかいごはんを、食べる余裕なんて、なかった。


 だから、今世は。どこにいても、あたたかくいられるように。持ち運べる、"火"を、手に入れたい。


 ……なんて。ちょっと、大げさかな。まあ、本音の、半分は。ただ、外で、あったかい汁物が、飲みたいだけ、なんだけど。


    ◇


 箱庭に帰って、私は、さっそく、"移動式かまど"の、構想を、練った。


 問題は、火力だった。


 持ち運べるくらい、小さくて。でも、しっかり、料理ができる、火力があって。しかも、薪が、なくても、使える。そんな、都合のいい、熱源。


 普通なら、無理な、注文だ。


 最初は、いろいろ、試してみた。


 熱くなる石――"火岩"を、使ってみたけれど。火力が、弱すぎて、お湯を沸かすのが、精一杯だった。次に、油を、燃やしてみたけれど。煙が、もうもうと、出て。箱庭が、真っ黒に、なりかけた。ティルと二人で、慌てて、換気をした。


「けほっ、けほっ……だめだ、これ」


「レン、まっくろ……」


 ティルの顔も、私の顔も、煤で、真っ黒だ。二人で、顔を、見合わせて、笑ってしまった。


 試行錯誤は、続いた。でも、どれも、決め手に、欠けた。持ち運べて、火力が強くて、薪がいらない。その、三つを、同時に満たす、熱源が、どうしても、見つからない。


 でも――私には、料理人としての、直感が、あった。


「熱源、熱源……あ」


 ふと、ギルドで聞いた、噂を、思い出した。


 最近、街の近くの、山に。火竜の、幼体が、住みついた、という話。まだ、子どもだけれど、その炎は、あたりの木々を、焼き尽くすほど、強い。冒険者たちは、「危ないから、近づくな」と、警戒している、らしい。


 火竜の、炎。


 あたりを、焼き尽くすほどの、熱。


 ……それって。


「最高の、熱源、じゃない?」


 私は、思わず、にやりと、した。


 誰もが、「危ない」と、恐れる、火竜の炎。でも、私の目には、それが、"究極のコンロ"に、見えた。あの炎を、飼い慣らして。ちょうどいい、火力に、調整できれば。世界一の、移動式かまどが、作れる。


「役に立たないものなんて、ない。役に立つ使い方が、まだ、見つかってないだけ」


 私の、口癖だ。危ない、怖い、近寄るな。そう言われるものほど。使い方次第で、とんでもない、宝物に、化ける。ティルの鱗が、そうだったように。毒霧スライムの、毒が、そうだったように。


    ◇


「……というわけで、ティル。火竜を、飼い慣らしに、行こうと、思う」


 私が、そう言うと。ティルは、目を、まんまるに、して、固まった。


「か……かりゅう!? あの、こわい、ドラゴン!?」


「うん。まあ、子どもらしいけど。……大丈夫。倒すわけじゃ、ないの。ちょっと、仲良く、なりたいだけ」


「なかよく……ドラゴンと!?」


 ティルは、混乱している。無理も、ない。普通、火竜と、仲良くなろう、なんて、考える人は、いない。


 でも、私には、勝算が、あった。


 【硝子の繭】。あらゆる、攻撃を、通さない、伝説の盾。火竜の炎が、どれだけ、強くても。私には、まったく、効かない。だから、私は、炎の中でも、平然と、立っていられる。


 攻撃が、効かない相手に。魔物は、どう、するか。


 ……たぶん、最初は、驚いて。それから、諦めて。最後は、興味を、持つ。犬や、猫と、同じだ。危害を、加えてこない相手には、警戒を、解く。そして――あたたかいごはんの、匂いを、嗅がせれば。


 どんな生き物だって、心を、開くものだ。私は、そう、信じている。


「大丈夫だよ、ティル。あなたは、後ろで、見ててくれれば、いい。危ないことは、私が、ぜんぶ、引き受けるから」


「……レン、ほんとに、だいじょうぶ?」


「うん。……ただ、ひとつだけ、心配なのは」


「なに?」


「火竜が、私の作るごはんを、気に入って、くれるかどうか、なんだよね」


 私が、大真面目に、そう言うと。ティルは、こてん、と、首を、かしげて。それから、ぷっと、噴き出した。


「レン、しんぱいする、とこ、そこなの……!」


「そこが、いちばん、大事でしょ。仲良くなる、いちばんの近道は、美味しいごはん、なんだから」


    ◇


 翌日。私たちは、火竜の、住むという、山へ、向かった。


 念のため、箱庭から、とっておきの、食材を、持って。火竜が、喜びそうな、大きな、お肉も。(火竜は、肉食のはずだ。たぶん。)


 山を、登っていくと。だんだん、あたりの木々が、焦げ始めた。地面には、点々と、焼けた、あとがある。近くに、いる。火竜が。


 道中、下山してくる、冒険者と、すれ違った。彼らは、私たちを見て、ぎょっと、した。


「おい、嬢ちゃん! この先は、火竜が、出るぞ! 子ども連れで、登る場所じゃ、ねえ! 引き返せ!」


「ご忠告、ありがとうございます。……でも、大丈夫です。ちょっと、火竜に、用があるので」


「用!? 火竜に、用って……お前、正気か!?」


 冒険者は、信じられない、という顔で、私たちを、見送った。まあ、そうだろう。普通の感覚なら、火竜のいる山に、わざわざ、登る人は、いない。


 でも、私は、普通じゃ、ない。というか、私の"危ない"の基準は、みんなと、少し、ずれている。だって、私には、どんな攻撃も、効かないのだから。世界でいちばん、危険な相手だって。私にとっては、"ちょっと気難しい、ご近所さん"くらいの、ものだった。


「ティル、こわい?」


「……ちょっと。でも、レンが、いるから、だいじょうぶ」


 私の手を、ぎゅっと、握る、ティルの手は。少し、震えていたけれど。それでも、逃げなかった。この子は、本当に、強くなった。


 やがて。開けた、岩場に、出た。


 そこに――それは、いた。


 真っ赤な、鱗。まだ、幼いけれど、それでも、私の、背丈より、大きい、火竜の、子ども。ぐるる、と、喉を、鳴らして。こちらを、睨んでいる。口の端から、ちろちろと、炎が、漏れている。


「……いた」


 ティルが、私の、後ろで、身を、固くした。


 火竜の、幼体が。大きく、口を、開けた。喉の奥が、真っ赤に、燃えている。


 ――炎が、来る。


 私は、ティルを、背中に、かばって。一歩、前に、出た。そして、いつもの、退屈そうな声で、呟いた。


「【硝子の繭】」


 ふわり、と。私の体を、儚げな光の膜が、包んだ。


 次の瞬間。火竜の口から、轟音とともに、灼熱の、炎が、放たれた。


 あたりの、岩が、真っ赤に、焼ける。すさまじい、熱。……のはずだった。


 でも、私は。その炎の、真ん中で。一歩も、動かず。髪の毛、一本、焦がすことも、なく。ただ、静かに、立っていた。


 火竜の、幼体が。ぽかん、とした。


 全力の、炎を、浴びせたのに。目の前の、小さな人間は。平然と、立っている。何が、起きたのか、わからない、という顔だ。


 火竜は、もう一度、炎を、吐いた。今度は、さっきより、大きく。それでも――結果は、同じだった。私は、まったくの、無傷。繭の膜の内側は、そよ風ひとつ、吹かない。


 火竜が、うろたえ始めた。ぐるぐると、その場を、回って。焦ったように、何度も、炎を、吐く。でも、どれも、効かない。やがて――疲れたのか、諦めたのか。火竜は、炎を、吐くのを、やめた。


 ぜえぜえと、肩で、息を、して。恨めしそうに、私を、睨んでいる。「なんで、効かないんだ」と、言いたげに。


 ……うん。犬や、猫と、同じだ。効かないと、わかれば。次は、警戒と、興味が、やってくる。


 いよいよ、ここからが、本番だ。心を、開いてもらう、番。そして、それは――私の、いちばん、得意な、分野だった。


 私は、にっこりと、笑って。火竜に、話しかけた。


「こんにちは。……あのね。あなたのその、すごい炎で。美味しいごはんを、作りたいんだけど。……ちょっと、お話、いいかな?」

お読みいただきありがとうございます。

「役に立たないものなんて、ない」。誰もが恐れる火竜の炎も、レンの目には“究極のコンロ”。次話、いよいよ火竜と、仲良くなれるでしょうか?


★ブックマークと「☆評価」で応援いただけると、更新のはげみになります。毎日20時更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ