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影武者は寝返りまで真似をする

シンチャオ、趙氏貞です。

今日のベトナム語は「Tôi sẽ đi cùng bạn.(トイ・セー・ディ・クン・バン)」

「私はあなたと一緒に行きます」という意味です。

旅先で「私も一緒に行きます」と伝えたい時に使える言葉です。


「氏鳳も一緒に来てくれる?」

「はい、私は氏貞様についていきます」

「即答だね」

「もう決めましたので」


清河が氏鳳を見る。


「お前、影武者だからじゃねえのか?」

「それもあります。でも、私が氏貞様と行きたいんです」

「……強えな、お前」


私は嬉しくなった。

すると氏鳳が私と同じ角度で笑った。


「そこまで真似するの!?」


加入の決意は本物らしい……

蒲田へ戻ると、兄は私より先に氏鳳を見た。

「その女は誰だ?」

第一声がそれだった。

私は象から降りながら、氏鳳を手で示した。

「黎氏鳳。西の里で一緒に戦ってくれたの。影武者もしてくれるって」

兄の目が細くなったが、嫌な視線ではない。

米俵の数を数える時の顔だった。

「氏貞、そこに立て。氏鳳殿も横へ」

「え?」

言われた通りに並ぶと、兄は私たちの前を一度通り、今度は後ろへ回った。

清河が腕を組む。

「何してんだ、兄貴」

「確認している」

「何を」

「使えるかどうかだ」

私は氏鳳を見た。氏鳳も私を見る。

「私、道具になった?」

「私も今そう思いました」

兄には聞こえていたらしい。

「人として見た上で、使えると言っている」

「余計ひどくなったぞ」

清河が即座に突っ込んだが、兄は気にする様子もなく、私と氏鳳をもう一度見比べた。

「背丈はほぼ同じ。肩幅も遠目では分からん。髪もまとめれば似せられる。黄色い衣と、その金色の鎧なら戦場では十分だ」

氏鳳が真面目な顔でうなずく。

「では、もっと似せます」

「もっと?」

聞き返した私を、氏鳳がじっと見た。

次の瞬間、私と同じように片足へ少し重心を寄せる。

私が首を傾げると、氏鳳も傾げた。

戻すと戻す。

もう一度傾げると、また傾げる。

「……氏鳳?」

「はい」

「今、真似した?」

「はい」

清河が腹を抱えた。

「もう始めてんのかよ!」

氏鳳は笑わない。

「影武者なら、立ち方や歩き方も同じでなければ、近くで見た者には違いが分かります」

「近くで見られたら顔で分かるだろ!」

「なら、近くで見られる前に迷わせます」

清河が一度黙った。

「こいつ、真面目すぎて強えな」

私もそう思う。

兄はむしろ満足したらしく、その場で話を先へ進めた。

「決めた。氏鳳殿は今日から氏貞の影武者兼最側近だ。平時は常にそばに付け。戦になれば別働して、氏貞が二人いるように見せろ」

「兄さん、今決めたの?」

「今しか決める時がない」

「本人に聞いた?」

兄と私が同時に氏鳳を見ると、氏鳳は姿勢を正した。

「お受けします」

「早いね」

「氏貞様がお嫌でなければ」

「私は嬉しいよ」

清河が嫌そうな顔をした。

「即決同士で話進めんな」

ちょうどそこへ、李氏三兄弟と文七も戻ってきた。

弘公が私と氏鳳を見比べ、美公が一歩ずれてもう一度見比べ、成公まで反対側へ回る。

「何してるの?」

「確認です」

「こちらからでも」

「似ています」

三人とも兄と同じことをしている。

「そんなに見る?」

「必要です」

「影武者ですから」

「見分けられなければ成功です」

三方向から言われると、私の方が間違っている気がしてくる。

兄はそのまま護衛の配置まで変えた。

「弘公たちは今までより外へ出ろ。氏貞の周囲に三人とも張り付く必要はない。道と里の出入りを見てくれ」

「承知」

「しました」

「外から守ります」

やっぱり返事が三つに割れる。

「文七は今まで通りだ。戦になれば氏貞の象から離れるな」

文七は象の鼻先を撫でながらうなずいた。

「そのつもりです」

「じゃあ私は?」

兄が私を見る。

「お前は、まず勝手にいなくなるな」

役割ではなかった。

しかも兄の話は、まだ終わっていない。

「氏鳳殿。寝所も氏貞と同じでいい」

「え?」

今度は私と清河が同時に声を上げた。

氏鳳だけは動じない。

「承知しました」

「そこも即答すんのか!」

「最側近なら当然では?」

「当然かどうかは今から考えろ!」

私は少し考えてみた。

「一緒に寝るなら、夜も話せるね」

「お前は喜ぶな!」

なぜかまた清河に怒られた。

兄はもう次の仕事へ頭が移っているらしく、私たちを置いて倉の方へ歩き出す。

「氏鳳殿、氏貞が勝手に出歩こうとしたら止めてくれ」

「分かりました」

「兄さん!」

「止められるものならな」

聞こえていた。

私は少し傷ついた。

その日の夕方、清河まで付いてきて、三人で湯浴みをすることになった。

「なんであたしまで来てんだ」

「清河も泥だらけだから」

「そうじゃねえ。お前ら二人だけにしたら、風呂でまで影武者の稽古始めそうだからだよ」

「しませんよ」

氏鳳がきっぱり答えたので、清河が安心しかけた。

ところが氏鳳は、少し考えてから付け加える。

「湯浴みの所作も必要なら別ですが」

「やる気だったじゃねえか!」

湯気の向こうに清河の声が響いた。

私は髪をほどきながら氏鳳を見る。

金色の鎧を外した氏鳳は、やっぱり私とは違った。

かなり違った。

「氏鳳」

「はい」

「それ、鎧の中で苦しくないの?」

清河が勢いよく振り向いた。

「そこ聞くのかよ!」

氏鳳は自分の胸元を見下ろした。

「苦しいです」

「やっぱり?」

「かなり」

「じゃあ、どうして平気な顔してるの?」

「平気ではありません」

清河が額を押さえた。

「真顔で耐えるな!」

氏鳳は首を傾げた。

私もつられて傾げる。

すると氏鳳は私を見て、わざわざ同じ角度まで傾け直した。

清河が湯を叩く。

「風呂でまで合わせるな!」

「今のは練習です」

「休め!」

「でも氏貞様は今、右へ首を傾けました」

「見るな!」

清河の怒鳴り声に、私は笑ってしまった。

氏鳳も少しだけ笑った。

「あ、氏鳳も笑うんだね」

「笑います」

「よかった」

「何がです?」

「ずっと真面目だから、笑わない人なのかと思ってた」

氏鳳は困った顔をした。

それも私にはあまりない顔だった。

清河が私たちを交互に見て、ため息をつく。

「顔は似てねえのに、遠目じゃ間違えるんだから戦場って雑だよな」

「清河も間違えられてるよ」

「あたしは動けばバレる」

「確かに」

「納得すんな!」

また湯が跳ねた。

湯浴みを終える頃には、氏鳳は私の髪の結び方まで覚えていた。

私が紐を一度口にくわえて両手を空けると、氏鳳も同じようにする。

「そこまで?」

「そこまでです」

「私、そんなことしてたんだ」

「いつもしています」

後ろから清河が呆れた声を出した。

「お前、自分の癖を影武者に教えられてどうすんだよ」

本当にそうだった。

夜になると、氏鳳は本当に私の寝所へ来た。

しかも寝具を置く位置まで私に合わせようとする。

「氏鳳、そこだと近くない?」

「近い方が守れます」

「でも寝返りしたらぶつかるよ」

「では、氏貞様の寝返りの幅も覚えます」

「覚えなくていい!」

戸口から清河が叫んだ。

帰ったと思っていた。

「まだいたの?」

「様子見に来たんだよ! そしたら寝返りまで真似しようとしてんじゃねえか!」

氏鳳は本気で不思議そうだった。

「夜襲があった場合、氏貞様と入れ替わる可能性があります」

「寝てる最中にか?」

「可能性はゼロではありません」

「ゼロにしろ!」

私は寝具へ横になると、右を向いた。

氏鳳も右を向く。

左を向いてみる。

氏鳳も左を向いた。

面白くなって仰向けになると、横でも氏鳳が仰向けになる気配がした。

「氏鳳」

「はい」

「遊んでる?」

「訓練です」

清河が戸口に額をぶつけた。

「もう好きにしろ……」

「清河も泊まる?」

「泊まらねえ!」

そう言いながら、しばらく帰らなかった。

結局、三人で話し込んだ。

西の里のこと、燃やした桟道のこと、林邑からの知らせを途切れさせないこと。

次に高涼兵が来たら、どこで止めれば里へ入れずに済むのか。

戦の話ばかりだったのに、不思議と今日は重くならなかった。

氏鳳がいるだけで、部屋の空気が少し変わった気がする。

私が何か言えば真面目に聞き、清河が怒鳴ればなぜ怒ったのか考え、気づけば私の座り方まで真似している。

「そこは真似しなくていいよ」

「分かりました」

そう言いながら、まだ同じ座り方をしていた。

私は笑った。

たぶん、これからもっと一緒にいることになる。

 ◇ ◇ ◇

その頃、蒲田の別の部屋では、邢景謙が一枚の報告を睨んでいた。

読み終えても机へ戻さず、もう一度最初から目を通す。

報告には、黎氏鳳は氏貞とほぼ同じ背丈の女で、影武者として採用されたとある。

それだけでなく、趙国達は彼女を最側近に据え、寝所まで氏貞と同じにしていた。

紙を持つ指に力が入った。

これまでなら、氏貞の周りに男が多すぎると言えた。

護衛が近すぎるとも、必要のない男を寝所へ近づけるなとも言えた。

だが、氏鳳は女だった。

しかも趙国達が正式に置いた最側近で、氏貞本人まで喜んでいる。

追い払う理由がない。

口を出す理由さえない。

それが、いちばん腹立たしかった。

景謙は報告を机へ戻した。

「また、趙国達か」

誰も返事をしない部屋に、その名だけが残った。

氏貞の周囲に人が増えるたび、彼女が自分から遠ざかっていくように感じる。

そして、氏貞の周囲へ誰を置くのかを決めているのは、いつもあの男だった。

景謙はもう一度、報告に書かれたその名を見る。

「趙国達……」

紙の端が、指の下でゆっくり潰れた。

シンチャオ、呂清河だ。


今回のベトナム文化講座は、ホテルのチェックイン。


ベトナムで宿に泊まる時、外国人旅行者はパスポートを確認される。

受付ですぐ出せるようにしておくと楽だぞ。


「氏貞、パスポート出せ」

「氏鳳と同じのでいい?」

「駄目に決まってんだろ!」


氏鳳が真顔で氏貞を見る。


「顔写真まで似せる必要がありますね」

「旅券まで影武者になるな!」

「じゃあ寝る部屋は一緒でいいよね?」

「そこはもう決まってんだよ!」


問題は、その決定を聞いた男だ。

氏鳳を追い出せないと分かったそいつは、今度は兄貴の名前を何度も見始めた。


次回――景謙の目が、とうとう兄貴へ向く。

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