私、聞いてないよ?
シンチャオ、趙氏貞です。
今日のベトナム語は Bạn có thể gửi lại được không?(バン・コー・テー・グイ・ライ・ドゥオック・ホン)。
「もう一度送ってもらえますか?」という意味です。
予約確認や住所、メッセージなどが届かなかった時に使えます。
「清河、陸胤殿から使者が来たんだって」
「昨日な」
「私、聞いてないよ?」
「景謙が帰した」
「じゃあ、もう一回来てもらえばいい?」
「外交を再送信みてえに言うな!」
「だって届いてないよ」
「人間が運んでんだよ!」
旅先では、大事な連絡が届かなければ遠慮せず確認しましょう。
今回は、私に届くはずだった言葉が途中で止まります。
問題は、誰が止めたのかです。
陸胤から私に使者が来たらしいのに、私は知らなかった。
知ったのは、使者が帰った後だった。
朝から兄は米袋の数を数え、清河は減った兵の配置を変え、文七は象の足を洗っていた。
李氏三兄弟は、なぜか私が移動するたびについてくる。
「三人とも、何か用?」
「護衛です」
弘公が答えた。
「朝からずっと?」
「はい」
「昨日もいたよ?」
「はい」
「いつ休んでるの?」
三人が顔を見合わせた。
「交代で」
「三人ともいるよ?」
少し沈黙があった。
清河が吹き出した。
「お前ら、交代の意味分かってねえだろ!」
「分かっています」
「じゃあ一人くらい消えろ!」
誰も消えなかった。
最近、私の周りだけ妙に人口密度が高い。
蒲田全体では人が減っているのに、不思議だった。
そこへ興が走ってきた。
「氏貞殿」
「どうしたの?」
「昨日の使者、何て言ってた?」
「使者?」
興が止まった。
私も止まった。
清河が振り向く。
「何の使者だ?」
「陸胤の」
今度は兄まで米袋から顔を上げた。
「陸胤?」
「うん。昨日、北門から来たよ。麗海婆王本人に話があるって」
「婆はいらないよ」
「今そこじゃねえ!」
清河に怒られた。
興は困った顔をした。
「景謙が会ってたから、氏貞殿も知ってると思った」
知らない。
昨日、景謙から聞いたのは、高涼のことだけだった。
陸胤から私へ使者が来たなんて、一言も聞いていない。
「興、その使者は?」
「もう帰ったよ」
「いつ?」
「昨日の昼」
私はしばらく考えた。
考えても、知らないものは知らない。
「景謙に聞こうか」
清河が槍を持った。
「何で槍持つの?」
「念のためだ」
「何の?」
「お前が余計なこと言った時のためだよ!」
私が言うのだろうか。
景謙のところへ行くと、書佐と何か話していた。
私たちが入ると、景謙は少し嫌そうな顔をした。
たぶん清河が槍を持っているからだと思う。
「何だ」
「昨日、陸胤の使いが来たの?」
景謙の表情が止まった。
ほんの少しだった。
でも最近、景謙の顔をよく見るので分かるようになった。
知っている顔だ。
「来た」
「何で教えてくれなかったの?」
「話す必要がないと思った」
清河の眉が跳ね上がった。
私は聞き返す。
「誰に?」
「お前にだ」
「私に来た使者なのに?」
景謙は書佐を下がらせた。
書佐は私と景謙を交互に見てから、ものすごく速く外へ出ていった。
逃げたようにも見えた。
「内容は降伏勧告だ。それだけだ」
「それだけ?」
「武器を置け。兵を解散しろ。そうすれば罪を問わない。今までと同じだ」
「じゃあ何で本人に言わないの?」
「聞く価値がないからだ!」
清河が一歩出た。
「それ決めんのお前じゃねえだろ」
「黙れ、清河」
「黙るか!」
三兄弟が同時に少し動いた。
まだ誰も殴っていないのに、もう殴った後みたいな配置になっている。
景謙が気づいた。
「お前たちは下がれ」
誰も動かない。
「聞こえなかったのか?」
弘公が答えた。
「氏貞殿からでしょうか?」
「俺が言っている!」
「では、このままで」
景謙の額に筋が浮いた。
清河が小さく笑う。
「完全に仕様が決まったな、お前ら」
美公が聞いた。
「仕様とは?」
「もういい!」
私は景謙を見る。
「使者、何て言ってたの?」
「言っただろう。降れと言ってきただけだ」
「全部聞きたい」
「必要ない」
「私が決めるよ」
景謙が黙った。
前にも同じことを言った気がする。
私のことなのに、景謙が先に決める。
王になるかどうか。
誰を帰すか。
今度は、誰の話を聞くかまで。
「景謙」
「何だ?」
「私、耳まで景謙のものになったの?」
清河が変な音を出した。
たぶん笑うのを我慢した。
兄が遅れて入ってきて、入口で立ち止まる。
「何の話だ?」
「兄さん、私の耳って景謙のもの?」
「何の話だ!?」
やっぱり分からないらしい。
景謙は額を押さえた。
「そういう意味ではない」
「じゃあ聞かせて」
長い沈黙の後、景謙が口を開いた。
陸胤の使者は、私自身へ言葉を届けに来たらしい。
武器を置けば命を保証する。
九真の里へ報復は行わない。
民が平穏に暮らせるなら、これ以上血を流す必要はない。
そして最後に、陸胤は私と直接話す用意があると伝えてきた。
清河の顔から笑いが消えた。
兄も黙っている。
私は少し考えた。
「それ、景謙が聞かせたくなかったの?」
「当然だ」
「何で?」
「お前が聞けば迷うからだ!」
私は首を傾げた。
「迷うよ?」
景謙の顔が険しくなる。
「だからだ!」
「でも、迷ったら駄目なの?」
「戦の最中だぞ!」
「戦の最中だから考えるんでしょう?」
景謙が言葉を詰まらせた。
私は陸胤を信用しているわけではない。
今、降った里を荒らしていないことは知っている。
言ったことを守っているらしいことも聞いている。
でも、それがずっと続くとは思っていなかった。
「陸胤殿は、今の約束は守る人かもしれないね」
清河が私を見る。
「信用すんのか?」
「陸胤殿が今してることはね」
景謙が鼻で笑った。
「甘い」
「でも、陸胤殿ってずっと交州刺史なの?」
誰も答えなかった。
「次の人も同じことするの?」
景謙の目が少し動いた。
「降った人たちだって、ずっと家で畑を作っていられるとは限らないよね。呉の兵が足りなくなったら、案内してくれとか、荷物運んでくれとか、そのうち兵になれって言われるかもしれない」
兄が腕を組んだ。
「まあ、あり得るな」
「陸胤殿が約束を破らなくても、その次の人まで同じとは限らないよ」
清河が口を開けた。
「お前、そこまで考えてたのか?」
「うん」
「だったら何で人を帰した!」
「帰りたいって言ったから」
清河が天井を見た。
「こいつ、賢いのか馬鹿なのか分かんねえ!」
「失礼だよ」
景謙は笑わなかった。
「だからこそ、帰してはいけなかったんだ」
「どうして?」
「分かっているんだろう! 陸胤が去れば元へ戻る可能性がある。帰った者が呉の兵に組み込まれる可能性もある。それなら今、こちらに残せばいい!」
「嫌がっても?」
「必要ならな」
「それ、呉と何が違うの?」
景謙の顔が変わった。
部屋が静かになった。
兄まで何も言わない。
「氏貞、お前は――」
「私は陸胤殿に降るって言ってないよ」
景謙が止まった。
「話を聞くのと、降るのは別でしょう?」
「会えば利用される!」
「景謙も私を王にしようとしたよ?」
清河が顔を覆った。
「また急所だよ……」
「何で?」
「もう気にすんな」
景謙が机へ手をついた。
「俺はお前のために言っている!」
「陸胤殿も同じこと言うかもしれないよ」
「一緒にするな!」
「じゃあ、何が違うの?」
景謙は答えなかった。
そこへ文七が入ってきた。
外が騒がしかったので見に来たらしい。
「どうしました?」
清河が指をさす。
「景謙が氏貞に来た使者を勝手に帰した」
文七は景謙を見る。
「そうなのですか?」
「必要のない話だった」
文七は少し考えた。
「それは護衛ではありませんね」
景謙の目が文七へ向く。
「何?」
「氏貞殿に近づく危険を止めるのが護衛です。氏貞殿が聞く言葉まで止めたら、氏貞殿ではなくなります」
清河が目を丸くした。
「今日も切れ味いいな、お前!」
「何がです?」
本人は分かっていない。
文七は続けた。
「象も、行く道を全部こちらで決めると怒ります」
「最後に象へ戻すな!」
清河が叫んだ。
私は少し笑った。
景謙だけは笑わなかった。
「今後、外から来る使者は全て俺を通す」
そう言った。
三兄弟が同時に景謙を見る。
弘公が聞いた。
「氏貞殿の御命令ですか?」
「軍のためだ!」
「氏貞殿の御命令ですか?」
同じことを聞いた。
景謙の顔が引きつる。
私は答えた。
「違うよ」
「承知しました」
三人が同時に私の後ろへ戻った。
清河が腹を押さえた。
「お前ら、とうとう景謙の命令を確認事項にしやがった!」
兄は笑わなかった。
景謙を見る。
「勝手に窓口を塞ぐな」
「国達まで何だ」
「誰が来て、どこの里が何を言って、何人動くか分からなきゃ、俺は米も荷車も組めねえんだよ。政治ごっこするなら他でやれ」
景謙の目が細くなる。
「政治ごときと言うのか」
「米がなくなりゃ政治もできねえ」
兄はそれだけ言って出ていった。
景謙の顔が、今まで見た中で一番怖かった。
でも、私は別のことが気になっていた。
「使者、もう帰っちゃったんだよね?」
興が頷いた。
「たぶん陸胤のところへ戻ってる」
「じゃあ、私が断ったことになってるのかな」
誰も答えなかった。
それは困る。
私は断っていない。
降るとも言っていない。
ただ、話を聞いていない。
なのに陸胤には、私が話すことさえ拒んだように見えるかもしれない。
「景謙」
「何だ」
「次に私宛ての人が来たら、ちゃんと教えて」
「必要ならな」
「必要かどうかも私が決めるよ」
また景謙の顔が固まった。
その時、外から馬の蹄が聞こえた。
興が真っ先に出る。
三兄弟も私の前へ回った。
清河が槍を取る。
「今度こそ陸胤の使いか?」
「また景謙が先に捕まえたら殴る」
「清河、それは駄目だよ」
「一発だけだ!」
外から興の声がした。
「氏貞殿!」
いつもと違った。
私たちは外へ出た。
斥候が馬から降りたところだった。
泥だらけで、息も切れている。
「高涼からです」
私は嫌な予感がした。
「黄呉殿?」
斥候が頷いた。
「黄呉殿は陸胤の条件を受け入れました」
清河の槍が止まった。
景謙が目を閉じる。
「高涼の者たちも、順次武器を置くとのことです」
誰も何も言わなかった。
昨日、陸胤は私にも話をしようとしていた。
私はその言葉を聞かなかった。
断ったからではない。
聞く前に、誰かが決めてしまったからだ。
高涼では話が届いた。
蒲田では届かなかった。
私は景謙を見た。
景謙も私を見ていた。
陸胤より近くにいる人の方が怖いと思った。
呂清河だ。
今回はベトナムの旧正月、Tết Nguyên Đánの話だ。
新年の挨拶は Chúc mừng năm mới!(チュック・ムン・ナム・モイ)。
「明けましておめでとう!」って意味だぞ。
テトには xông đấtって習慣がある。
元日に最初に家を訪れる人が、その年の運に関わると考えるんだ。
「氏貞、最初の客は誰にする?」
「景謙以外」
「即答かよ!」
「私宛ての人、勝手に帰しちゃうから」
「今回は根に持ってんな!」
テトの元日は、招かれてない家へいきなり押しかけるのは避けとけよ。
次回、北から来るのは昨日までの味方。
南から来るのは、名前を出せない味方だ。




