私、命令してないよ?
シンチャオ、趙氏貞です。
今日のベトナム語は Đường này có đi được không?(ドゥオン・ナイ・コー・ディー・ドゥオック・ホン)。
「この道は通れますか?」という意味です。
工事や大雨で道の様子が分からない時、現地で確認するのに便利です。
「清河、この道は通れるって」
「よし、行くぞ!」
「どこへ?」
「敵のいる方!」
「聞かなきゃよかった」
「道は通れるんだろ!?」
「旅行者向けの会話だよ!」
通れる道だからといって、進むべき道とは限りません。
今回は、私が知らないところで道も人も動き始めます。
そして北から、あまり嬉しくないものまで近づいてきます。
蒲田の北で火が上がった。
一つではない。
山の向こうで最初の火が見え、その少し後に川沿いでも煙が立った。
さらに西の高い場所からも合図が返り、城壁の上にいた興が身を乗り出した。
「来た! 北の里からだ!」
清河が槍を抱えて走ってくる。
「敵か!」
「たぶん」
「たぶんで呼ぶな!」
「見張り火なんだから仕方ないだろ!」
私は二人の後ろから空を見る。
昨日の会盟で決めたばかりの合図だった。
呉軍を見つけたら、近い里が火を上げる。
それを見た隣が次へ伝え、蒲田まで知らせる。
言葉にすると簡単だったけれど、本当に動くとは思っていなかった。
「氏貞!」
国達兄さんが下から叫ぶ。
「北へ兵を出すなら数を先に言え! 勝手に全部持ってくなよ!」
「まだ何人出すか決めてないよ」
「決める前に清河を止めろ!」
見ると、もう門へ向かっている。
「清河」
「何だ!」
「まだ行かないよ」
急に止まった。
後ろを走っていた兵が何人かぶつかりそうになる。
「何でだよ! 敵来てんだろ!」
「北の里から次の知らせを待つの」
「待ってる間に殴られたらどうすんだ!」
「そのために近いところから助けるって決めたでしょう?」
清河は不満そうだった。
昨日までなら、敵が出たと聞けば蒲田から兵を出していた。
今日は違う。
興が別の火を指した。
「東からも上がった!」
「敵が増えたの?」
「違う! あれは援軍出したって合図!」
清河が目を丸くする。
「もう出したのか?」
「近い里が動いたんだろ」
そこへ伝令が馬で飛び込んできた。
息を切らしながら地面へ降りる。
「北の二里、合わせて百二十ほど出ました! 川沿いからも四十が向かっています!」
清河が私を見る。
「もう戦ってんじゃねえか!」
「そうみたい」
「私ら要らなくねえ!?」
それは私も少し思った。
国達兄さんだけが嬉しそうだった。
「いいぞ! 近い奴が先に出りゃ、こっちは米も兵も減らねえ!」
「兄さん、それしか見てないよね」
「戦ってのは食うんだよ!」
たぶん正しい。
私は北の方を見る。
煙が増えている。
でも、蒲田から兵を送り込むほど崩れている感じはない。
李弘公が隣へ来た。
「氏貞殿、今は待った方がよいかと」
「そう思う?」
「はい、あちらが持ちこたえられるなら、我らが全部出る必要はありません」
美公も地図を持ってきた。
「こちらの道なら、もし北が破られても途中で止められます」
成公は私の後ろに立っていた。
最近、三人の役割が勝手に決まってきている。
誰も命じていない。
それなのに、私が高いところへ上がれば誰かが先に足場を見るし、人が近づけば一人が間へ入る。
「成公」
「はい」
「また後ろにいるね」
「そうでしょうか?」
「いるよ」
「では、少し離れます」
本当に一歩だけ下がった。
清河が横から叫ぶ。
「一歩じゃ変わんねえよ!」
「そうですか?」
「お前ら絶対分かってやってんだろ!」
たぶん分かっていない。
その間にも、北の戦いは進んでいた。
次に来た伝令は笑っていた。
「退きました!」
清河が身を乗り出す。
「どっちが!」
「呉軍です!」
「よし!」
清河が拳を上げた。
私は何もしていない。
それなのに周りの兵まで喜んでいる。
「追ってる?」
私が聞くと、伝令が首を振った。
「追っておりません。麗海婆王殿の決まり通り、里の外へ出すぎるなと」
私は少し固まった。
「誰の決まり?」
「麗海婆王殿の」
「私?」
「昨日、蒲田で決められたと」
清河が笑い出した。
「お前の命令になってんぞ!」
「みんなで決めたんだよ!」
「でも名前はお前だ!」
困る。
しかも婆まで付いている。
「氏貞殿」
弘公が真面目な顔で言う。
「今はその呼び名で通っておりますので」
「そこ直せない?」
「難しいかと」
私はまだ諦めていなかった。
昼までに、別の知らせも届いた。
東では渡し場を守る里が呉軍の小隊を引き返させ、西では山道を塞いだことで敵が近づけなかったらしい。
蒲田から出した兵は、ほとんどいない。
私は地図の前で考え込んだ。
「これ、私たち勝ったの?」
国達兄さんが木札を書きながら答える。
「勝ったっつうより、向こうが勝手に守った」
「じゃあ私たち何したの?」
「昨日しゃべった」
「それだけ?」
「それが一番面倒だったんだよ!」
清河が納得していない。
「つまんねえな」
「何が?」
「私、今日まだ一人も殴ってねえ」
「いいことだよ」
「戦してんだぞ!」
「殴らなくて済むなら、その方がいいでしょう?」
清河はしばらく考えた。
「……でもちょっと殴りたい」
「我慢して」
「子供扱いすんな!」
その時、文七が戻ってきた。
象を二頭連れている。
一頭は歩き方が少し遅かった。
文七は私たちの騒ぎには入らず、その象の脚を見ていた。
「疲れてる?」
私が聞くと、うなずいた。
「象だけではありません」
「誰が?」
「馬もです。伝令が増えましたから」
興が振り返る。
「そんなに?」
「昨日からかなり走っています」
文七は馬の汗を指で触った。
「北へ行った馬が戻って、すぐ東へ出ています。今は動けても、このまま続けば先に馬が参ります」
清河が腕を組む。
「兵じゃなくて馬が先か」
「人も同じです」
文七は普通に言った。
「広くなれば、それだけ走る人が増えます」
私は地図を見る。
昨日まで、線が増えるのが少し嬉しかった。
今見ると、線は蒲田から遠くまで伸びている。
「広げすぎたかな」
「氏貞殿が広げたわけではありません」
文七が言う。
「勝手に広がってます」
「もっと困る言い方だね」
「そうですか?」
本人には悪気がない。
そこへ景謙が入ってきた。
「なら、伝令を増やせばいい」
文七が顔を上げる。
「馬が足りません」
「各地から出させる」
「飼葉も要ります」
「里ごとに持たせればいい」
「道が悪い場所もあります」
「直させる」
国達兄さんが木札から顔を上げた。
「誰にだ?」
「各地の里だ」
景謙は当然のように答えた。
「今のままでは遅い。蒲田まで情報が届く前に戦が終わる。だったら、もっと細かく伝令所を置けばいい」
「それ、誰が決めたの?」
私が聞く。
「必要だろう?」
「必要かもしれないけど」
景謙は地図を指した。
「今日うまくいったのは、まだ敵が小さいからだ。もっと大きな軍が来れば、今のやり方では間に合わない」
そこは分かる。
でも、その先がいつも違う。
「北に三か所、東に二か所、川沿いにも伝令所を置く。必要な馬と見張りは各里から出させればいい」
もう決めている。
「景謙」
「何だ?」
「また私に聞いてないよ」
景謙がこちらを見る。
「お前が一つずつ聞いて回る必要はない」
「そうじゃなくて」
「俺が決めれば早い」
清河の顔から笑いが消えた。
国達兄さんも黙る。
私は少し考えた。
「景謙が早く決めるのと、景謙が決めていいのは別でしょう?」
空気が止まった。
景謙の目が細くなる。
「結果が同じなら問題ない」
「違うよ」
「何が違う」
「その土地の人に聞いてない」
景謙は地図を見た。
「聞けば反対する者もいる」
「だったら話せばいいよ」
「時間がかかる」
「でも、その人たちの馬でしょう?」
景謙は答えなかった。
私の後ろで、三兄弟がまた近づいた気配がした。
振り向かなくても分かるようになってきた。
清河が小さく笑う。
「お前ら、もう音で分かるぞ」
「何がです?」
弘公が本当に分からない顔をする。
「護衛だよ!」
景謙が三人を見る。
また嫌な目だった。
私はその視線が好きではない。
「景謙」
「何だ」
「三人はここにいていいよ」
先に言った。
景謙の口が止まる。
弘公たちは何も言わなかった。
ただ、少しだけ私の近くへ寄った。
「近くなったよ?」
「すみません」
すぐ半歩下がる。
清河が笑った。
景謙は笑わなかった。
夕方になるころには、朝の戦の詳しい報告が届いた。
北で退いた呉軍は二十人ほどの負傷者を連れて戻り、東でもこちらの渡し場を抜けられなかったらしい。
死者は少なく、こちらにも大きな損害はないと聞いて、私は少し安心した。
「今日はうまくいったね」
清河が不満そうに言う。
「私は何もしてねえけどな」
「いいことだよ」
「明日は殴る」
「予定に入れないで」
国達兄さんは帳面を閉じる。
「一番いいのは、今日みたいな勝ち方だ。兵が死なねえ。米も減らねえ」
「兄さん、最後まで米だね」
「最後まで米だ!」
その時、城門の外からまた馬が来た。
今度の馬は、文七が先に見た。
「かなり飛ばしてます」
「また?」
私はもう驚かなかった。
ところが、文七は少しだけ眉を寄せた。
「これは北からです」
興が走る。
馬から降りた使者は、昨日の会盟に来ていた者だった。
顔が青い。
「麗海婆王殿」
今日はもう直さなかった。
「どうしたの?」
「北の呉軍が退いたのは、敗れたからだけではないようです」
清河が槍へ手をかける。
国達兄さんが帳面を開き直した。
景謙は地図へ近づく。
使者は息を整えた。
「さらに北で、兵が集められております」
「どれくらい?」
「まだ分かりません。ただ――」
男は一度、言葉を飲んだ。
「これまでのような小隊ではありません」
誰も笑わなかった。
私は地図を見る。
朝には、線が増えたことを喜んでいた。
今は、その線の一番北から、何か大きなものがこちらへ近づいてくるように見えた。
呂清河だ。
今回はベトナムの乾杯だ。
宴席では、みんなで「Một, hai, ba, dô!(モッ・ハイ・バー・ヨー!)」と声を合わせることがある。
意味はだいたい「一、二、三、乾杯!」だ。
誘われたら、グラスを持って一緒に声を出せば楽しみやすいぞ。
「一、二、三!」
「清河、待って」
「突撃!」
「乾杯だよ!」
「数えたら行くだろ普通!」
「行かないよ!」
戦場では合図を間違えると大変だが、宴会なら笑って済む。
今回は火の合図で味方が動いた。
次は北から、笑って済まない数が動いてくる。




