私、盟主になってないよ?
シンチャオ、趙氏貞です。
今日のベトナム語は Tôi có cần đặt trước không?(トイ・コー・カン・ダット・チュオック・ホン?)。
「予約は必要ですか?」という意味です。
店やツアーへ行く前に確認したい時に便利です。
「清河、予約って必要かな?」
「何のだよ?」
「私に会う予約」
「昨日までそんな制度なかっただろ!」
「でも朝から並んでるよ?」
「人気店みたいに言うな!」
しかも、相談だけではなく兵まで連れてきます。
「予約なしで軍勢来るの怖くない?」
「お前が呼んだんだよ!」
旅行では先に確認すると安心です。
私は今から、九真の相談窓口になるらしいです。
高涼から届いた黄呉殿の書状を読んだ翌朝、国達兄さんは頭を抱えていた。
理由は簡単で、昨日よりさらに人が来ていた。
しかも今日は相談だけではなく、みんな自分の兵まで連れてくる。
「何で増えてるんだよ!」
兄さんが城門の前で叫ぶと、清河が楽しそうに笑った。
「氏貞が呼んだからだろ!」
「全員呼べとは言ってねえ!」
「でも話し合うなら、みんな来た方がいいでしょう?」
私が言うと、兄さんがこっちを見た。
「お前が一番怖えよ!」
「どうして?」
「その顔で規模を増やすからだ!」
黄呉殿の使者が持ってきた書状には、呉に対抗する者同士で連絡を取りたい、とあった。
だったら九真の中でも、今後どうするのか一度話した方がいい。
私はそう思っただけだ。
ところが興に近隣へ知らせてもらったところ、返事より先に人が来始めた。
川沿いの里長だけでなく、山側で兵をまとめている者や、呉の役人を追い出した集落の顔役まで現れた。
それを聞きつけた別の土地からも、人が向かっているらしい。
清河が城壁の上から外を見て、妙に嬉しそうな声を上げた。
「氏貞! また増えたぞ!」
「何人?」
「分かんねえ!」
「数えてよ」
「動くんだよ!」
人だから仕方がない。
城門の内側では、李弘公たち三兄弟が当然のように人の流れを分けていた。
弘公が武器を預からせ、美公が名前と出身を確かめ、成公が私へ近づく者を一人ずつ通している。
昨日より手際がいい。
「三人とも」
「はい」
「慣れたね」
「何にでしょう?」
「私の前に立つこと」
三人が顔を見合わせた。
弘公が困ったように言う。
「立っていますか?」
「立ってるよ」
清河が横から怒鳴った。
「完全に護衛だっつってんだろ!」
「そう見えますか?」
「昨日もそれ聞いた!」
本人たちは本当に分かっていないらしい。
そこへ文七が象を連れて戻ってきた。
人で埋まりかけた中庭を見て、少しだけ首を傾ける。
「象を入れる場所がありませんね」
国達兄さんが振り返った。
「最初に心配するのそこか!」
「象を外に置くと落ち着きません」
「俺も落ち着いてねえよ!」
「兄さん、象より大きい声出してるよ」
「誰のせいだ!」
たぶん私だけのせいではない。
会盟は昼から始めることになった。
問題は、どこでやるかだった。
蒲田の中に全員入れる建物なんてない。
結局、城内の広い場所に布を張り、日差しを避けながら座ってもらうことになった。
その準備でも兄さんが死にそうになっていた。
「米を出す! 水も出す! 馬の飼葉も要る! 兵まで連れてきやがって!」
「宴じゃないんだから、少なくていいんじゃない?」
「遠くから来た奴に何も食わせねえ方が問題なんだよ!」
「なるほど」
「なるほどじゃねえ!」
その横で景謙は、別のことをしていた。
席を決めている。
誰を私の近くへ置き、誰を後ろへ回すのかまで、勝手に決めている。
私はしばらく見ていたが、黄呉殿の使者まで場所を変えられそうになったところで声をかけた。
「景謙」
「何だ?」
「何してるの?」
「席を決めている」
「どうして?」
「話をまとめるためだ。遠い者、兵の多い者、発言力のある者を近くへ置いた方がいい」
「私の近くに?」
「当然だ」
当然なのだろうか。
私は少し考えた。
「好きなところに座ってもらえば?」
景謙が止まった。
「それではまとまらない」
「座る場所で決まる話なの?」
「そういう問題じゃない」
「じゃあ何の問題?」
景謙が答える前に、清河が後ろから覗き込んだ。
「お前さっきから偉そうだな」
「必要なことをしているだけだ」
「誰に頼まれた?」
「頼まれなければ何もできないのか?」
清河の眉が上がった。
まずい。
この二人を近づけると、話し合いの前に別の戦が始まる。
「清河」
「何だよ?」
「喧嘩はあとにして」
「あとならいいのかよ!」
「景謙も」
「俺は喧嘩していない」
「そういうところだぞ!」
結局、席はかなり適当になった。
私が中央近くへ座ることだけは、なぜか全員一致だった。
そこだけ誰も譲らなかった。
「私、端でいいよ?」
「駄目です」
弘公に即答された。
「どうして?」
「皆、氏貞殿と話すために来ています」
「聞こえれば同じでしょう?」
「見えません」
美公まで言う。
「見えなくても話はできるよ」
成公が首を振った。
「氏貞殿が見えないと、たぶん皆、不安になります」
「私、旗なの?」
清河が吹き出した。
「だいたい合ってる!」
私は仕方なく座った。
その後ろへ李氏三兄弟が並ぶ。
「近いよ?」
「邪魔でしょうか?」
「邪魔じゃないけど」
「では、ここにおります」
もう諦めた方がいいのかもしれない。
景謙は私の右へ座ろうとした。
国達兄さんが荷を抱えたまま足を止める。
「お前、そこなのか?」
「何か問題があるか」
「いや」
兄さんはしばらく景謙を見た。
「随分いい場所だと思ってな」
景謙は答えなかった。
会盟が始まると、もっと面倒だった。
みんな呉と戦いたい。
そこまでは同じだった。
問題は、その先だ。
北側では兵をまとめろと言われれば、川沿いからは船と渡し場を先に押さえろと返ってくる。
山側は道を塞ぐべきだと言い、市場を抱える里に至っては、戦より先に米の値段を何とかしてほしいと言い始めた。
最後の話だけ国達兄さんの目が光った。
「それは俺に聞け!」
今日一番元気だった。
清河が呆れている。
「戦の話より食いついてんじゃねえか」
「米がなきゃ戦えねえんだよ!」
「正しいけどよ!」
話はなかなかまとまらなかった。
私は聞いていた。
それぞれ言っていることは違うけれど、全部、自分の土地を守りたいという話だった。
なら、無理に一つにする必要はないように思う。
ところが景謙は違った。
「兵を一つにまとめるべきだ」
場が静かになった。
「各地で勝手に動けば、呉軍に一つずつ潰される。指揮を統一して、命令系統を蒲田へ集める」
何人かがうなずいた。
景謙は続ける。
「兵がどれだけいて、米や船、馬、象をどれだけ動かせるのか、すべて一度ここへ報告しろ。誰がどこを守るかも、こちらで決める」
私は景謙を見る。
「こちらって?」
景謙も私を見た。
「俺たちだ」
まただ。
昨日と同じ言い方だった。
私は嫌だった。
でも会盟に来た人たちの中には、その方が楽だと思う人もいるらしい。
「氏貞殿が決めてくださるなら、それで構いません」
誰かが言った。
別の人も続く。
「我らも従います」
その言葉が広がりかけた。
景謙の顔がわずかに変わる。
嬉しそうには見えない。
でも、待っていたようには見えた。
「では――」
「待って」
私が言うと、景謙が止まった。
みんなもこちらを見る。
どうしてこうなるのだろう。
本当に旗みたいだ。
「私は、みんなの土地のことを全部知ってるわけじゃないよ」
誰も話さない。
「川のことは川に住んでる人の方が分かるし、山道は山にいる人の方が知ってる。私が蒲田から全部決めたら、たぶん間違えるよ」
景謙が眉を寄せた。
「だから統一しないと言うのか」
「違うよ」
私は布の上に広げられた地図を見る。
「敵が来た時に知らせる方法は揃えよう。隣が危なければ助ける。米が足りなければ、余ってるところから回す。でも、自分の里をどう守るかまで、私が全部決める必要はないでしょう?」
黄呉殿の使者が初めて口を開いた。
「では、氏貞殿は何を決めるのです?」
困った。
考えていなかった。
清河が肩を震わせている。
笑うな。
「……喧嘩しないこと?」
何人かが笑った。
景謙だけ笑わなかった。
私は続けた。
「呉と戦う前に、こっち同士で米や道を奪い合ったら意味ないよ。助けを求められたら、できるところが助ける。それでいいんじゃない?」
しばらく誰も言葉を出さなかった。
最初にうなずいたのは弘公だった。
「我らは、それで構いません」
美公も続く。
「氏貞殿が土地を取らないから、我らはここにおります」
成公が少し笑った。
「取る方なら、昨日のうちに帰っていました」
清河が私の背中を叩いた。
「よかったな。お前、取らないから取れたぞ」
「何を?」
「人だよ!」
意味が分からない。
でも、それをきっかけに話が動いた。
渡し場の合図を揃え、隣り合う里同士で連絡役を決める。
兵糧の勝手な徴発は禁止し、呉軍が現れれば近い勢力から助けに入ることで話がまとまった。
全部を蒲田の命令にするのではなく、蒲田を連絡の中心にする。
それなら、みんな納得した。
景謙だけは黙っていた。
会盟が終わる頃には、夕方になっていた。
私は疲れていた。
国達兄さんはもっと疲れていた。
「二度と一日にこんな人数集めるな」
「でもまとまったよ?」
「食わせる側の身にもなれ!」
清河は満足そうだった。
「面白かったな!」
「お前は何もしてねえだろ!」
「見てた!」
「一番腹立つ!」
文七は途中から象の世話へ戻っていた。
「会議、終わりましたか」
「終わったよ」
「象は最初から終わると思って寝てました」
清河が振り返る。
「何で象の方が賢そうなんだよ!」
そんなことをしているうちに、会盟に来た人たちが帰り始めた。
私の前を通るたび、みんな頭を下げる。
「今後とも、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
また一人。
また一人。
私は途中で気づいた。
みんな、私に挨拶して帰る。
黄呉殿の使者まで最後に深く頭を下げた。
「高涼へ戻り、この会盟のことを伝えます」
「そんな大げさなことした?」
清河が即座に言った。
「したんだよ!」
私は少し納得できなかった。
その夜、景謙は一人で地図を見ていた。
九真の里々から伸びた線が、蒲田へ集まっている。
そこへ高涼から来た一本まで加わった。
「景謙」
呼ぶと、ゆっくりこちらを見る。
「何を見てるの?」
「先を見ている」
「先?」
景謙は地図の上へ指を置いた。
「今日集まった連中は、お前の言葉なら聞く」
「みんなで決めたんだよ」
「同じことだ」
また、それだった。
私は何か言おうとした。
その時、外から興が駆け込んできた。
「氏貞!」
息を切らしている。
「どうしたの?」
「呉軍の捕虜から聞いたんだけど……向こうで、氏貞に妙な呼び名が付いてるらしい」
清河が顔を出した。
「妙な呼び名?」
興がうなずく。
「かなり広まってるって」
私は嫌な予感がした。
戦に勝つたび、人が増えた。
蒲田へ来てからは、土地まで勝手についてきた。
今度は名前まで増えるらしい。
ろくなことにならない気がする。
呂清河だ。
今回はベトナム旅行で気をつけたい、ひったくりの話だ。
都市部では、バイクで横を通りながらスマホやバッグを奪う手口がある。
道路側でスマホを突き出したり、バッグを車道側の肩へ掛けたまま歩いたりするのは避けた方がいい。
「氏貞、鞄はこっち側に持て」
「三人いるよ?」
「李氏三兄弟を防犯用品にすんな!」
「景謙もいる」
「あいつは別の意味で警戒しろ!」
写真を撮る時も、車道から離れて周囲を確認しろよ。
次回、氏貞から奪われそうになるのは荷物じゃない。
名前まで勝手につけられる。




