私、信用してないよ?
シンチャオ、趙氏貞です。
今日のベトナム語は Ở đây có an toàn không?(オー・ダイ・コー・アン・トアン・ホン?)。
「ここは安全ですか?」という意味です。
知らない土地へ行った時、夜道や場所の様子が気になるなら覚えておくと便利です。
「清河、ここは安全?」
「敵が北と東から来てる時に聞くな!」
「じゃあ危険?」
「どう見ても危険だろ!」
「でも南からも武装した人が来たよ?」
「増やすな!」
しかも、その人たちは味方かどうかまだ分かりません。
「城を造った翌日に何で三方向から来るんだよ!」
「人気かな?」
「包囲って言うんだよ!」
旅行では、答えが「安全です」になる場所で使ってください。
私たちは今夜、たぶん無理です。
蒲田の七つの火は、その夜、すべて戦の合図に変わった。
北で二度、東で三度。
興が高台から駆け下りてくるころには、さっきまで夕飯の湯気が漂っていた本営じゅうを兵が走り回り、飯椀を片手に槍を探している者までいる。
「北は斥候だけじゃない! 後ろにも人がいる!」
「東は?」
「そっちも増えてる。暗くて数までは分からない!」
清河はもう槍を握っていた。
「よし!」
「何が?」
「来たんだろ!」
「来ない方がよかったよ?」
「造ったばっかの城だぞ! 使わねえでどうすんだ!」
城は使うために造ったらしい。
私は昨日まで知らなかったが、兄はもっと現実的だった。
「門の前を空けろ! 荷車を道から退かせろ! 火を兵糧庫へ近づけんな! 寝てる奴も起こせ!」
「兄さん」
「何だ!」
「みんなまだ夕飯――」
「食いながら働け!」
そこまで急ぐらしい。
文七だけは走らず、何頭かの象の間を歩きながら鼻の動きや耳の向きを眺め、やがて東の闇へ目をやった。
「北より、東を嫌がってます」
「敵が多い?」
「分かりません」
少し考えてから、いつものように付け足す。
「なんとなく」
清河が額を押さえた。
「そのなんとなく、毎回説明できねえのかよ!」
「できたら、なんとなくではありません」
それはそうだった。
私は北の火を自分で見ようと高台へ向かう。
ところが一歩目で景謙が前へ出て、そのまま道を塞いだ。
「氏貞はここにいろ」
「どうして?」
「敵が二方向にいる」
「だから見に行くんだけど」
「俺が見てくる」
「景謙が見ても、私は見れないよ?」
右へ動けば景謙も右へ寄り、左へ抜けようとすれば今度は左へ回る。
「景謙」
「何だ」
「遊んでる?」
「遊んでない」
後ろで清河が噴き出した。
「だったら氏貞通してやれよ!」
景謙は本気で不満そうな顔をしたが、ようやく半歩だけ退いた。
高台へ上がると、北と東の闇に小さな火が浮かんでいる。
蒲田の見張り火とは違い、遠くに散っていた点が時間とともに少しずつこちらへ寄ってくる。
その時、南側から声が上がった。
「人が来る!」
清河が振り返る。
「三つ目か!?」
「違う! 少ない!」
「じゃあ敵じゃねえのか?」
「分からない!」
たいへん分かりにくい。
門の外へ現れたのは、三人の男と、その後ろに数十人ほどの武装した者たちだった。
先頭の男が火に照らされた柵を見上げる。
「この本営を預かるのは、趙氏貞殿か?」
私が答えるより早く、景謙が前へ出た。
「何者だ?」
男は景謙ではなく、こちらを見る。
「私の名は李弘公。こちらは弟の李美公と李成公。我らは蒲田の者だ」
「蒲田の?」
「今夜、北と東から兵が入ったと聞いた。自分たちの土地で戦を始められて、黙って寝ていられるほど我らも呑気ではない」
清河が笑う。
「気に入った!」
「まだ何もしてないよ?」
「言い方がいい!」
景謙だけは笑わなかった。
「兵を連れてきた理由は?」
「蒲田を守るためだ」
「氏貞に従うためではないのか?」
李弘公は少し間を置く。
「まだ決めていない」
景謙の目つきが変わった。
「じゃあ、何を見に来たの?」
私が尋ねると、李弘公は蒲田の内側へ目を向ける。
「あなた方です。蒲田だけ守れば済む話ではありません。外にも里があり、畑があり、家族がいる。呉軍に踏み荒らされるのは困るが、追い払った者が次に米を持っていき、働き手を兵に取り、畑を戦場にするなら、旗が変わるだけです」
「だから食わねえって――」
清河が口を開いた瞬間、兄が被せた。
「お前は黙ってろ。話がややこしくなる」
「まだ何も言ってねえだろ!」
だいたい言っていた。
李美公が本営の奥を見ながら続ける。
「昨日から大勢が蒲田へ入ったと聞いています。象も荷車も来た。それなのに、周辺の家から米を勝手に持っていったという話がない」
「当たり前だ!」
兄が胸を張る。
「その当たり前を確かめに来ました」
兄が黙った。
李成公も柵の内側へ目をやる。
「負傷者を入れる場所と兵糧を置く場所が分かれている。荷車の道も、村人が使う道を全部塞いではいない。城を造ったと聞いた時は、正直もっと酷いと思っていました」
「兄さんがうるさいから」
「お前も働いてんだよ!」
褒められたのに怒られた。
知らない武装集団が象まで連れて押しかけ、昨日いきなり城を造ったのだから、警戒する方が普通だと思う。
「それなら、一緒に見てもらえばいいんじゃない?」
李弘公の眉がわずかに動く。
「何をです」
「私たちがどう戦うか。心配なら、見た方が早いでしょう?」
景謙が振り向いた。
「氏貞、信用するのが早い」
「信用してないよ?」
「なら中へ入れるな」
「でも、この土地を知ってるんでしょう?」
李美公が答える。
「少なくとも、あなた方よりは」
「じゃあ教えてください」
三人へ近づこうとすると、景謙も動いた。
半歩だけなのに、きれいに私と三兄弟の間へ入ってしまう。
「話ならここで聞ける」
「景謙」
「何だ?」
「邪魔だよ?」
清河が盛大に噴き出した。
兄は笑わず、景謙と三兄弟を一度だけ見比べる。
景謙もしばらく動かなかったが、最後には道を空けた。
「連れてきた兵は南側へ回せ」
兄が李弘公たちの後ろを顎で示す。
「門前を塞がれる方が迷惑だ。あと、勝手に兵糧袋へ手ぇ突っ込むなよ。誰に何人分渡したか分からなくなる」
「我らの兵糧は持ってきています」
兄の顔が一気に明るくなった。
「お前ら、いい奴だな!」
「兄さん、そこ?」
「そこだ!」
李氏三兄弟を一番早く信用したのは、たぶん兄だった。
北の見張り火がまた揺れる。
李弘公が地面へしゃがみ込み、指で道筋をなぞった。
「北から来るなら、この先で道幅が狭くなります。人数が多ければ、先頭を止めた時に後ろが詰まる」
清河も隣へしゃがむ。
「そこでぶん殴りゃいいんだな?」
「止められるなら」
「止める!」
「清河、まだ敵の数が分かってないよ?」
「だから見に行くんだろ!」
さっき自分でも似たようなことを言った気がする。
文七が象を一頭連れてくる。
「清河殿、今日はこの子を」
「何で?」
「北へ行きたそうなので」
象は本当に北を向いていた。
李弘公が象と文七を交互に見る。
「分かるのですか?」
「なんとなく」
「なんとなくで戦象決めんのかよ!」
清河が一番まともなことを言った。
「李弘公も一緒に行く?」
私が尋ねると、李弘公が頷く。
その返事へかぶせるように、景謙が言った。
「北へ行け。土地を知っているなら役に立つ」
李弘公は景謙ではなく私を見る。
「氏貞殿の御命令で?」
「お願いします。ただ、蒲田を守るために来た人まで私の兵みたいに扱うつもりはないよ。危ないと思ったら戻ってください」
李弘公が初めて驚いた顔を見せる。
「我らに退くかどうかを任せるのですか?」
「だって、まだ私に従うって決めてないでしょう?」
清河が象の上から叫んだ。
「細けえ話は走りながらやれ!」
「清河は走らないでしょう。象でしょう?」
「そういう意味じゃねえ!」
李弘公が笑う。
「承知しました。では、我らの判断で氏貞殿に力を貸します」
景謙の口元が固くなった。
清河は象を北へ向ける。
「行くぞ!」
「追いかけすぎないでね」
「分かってる!」
李弘公が私を見る。
「追いすぎるのですか?」
「すごく」
「氏貞!」
怒鳴り声を残して、清河は北へ消えていった。
東では、さっきまで点だった火が横へ広がり始めている。
数が増えたのか、距離が縮まったからそう見えるのかは分からないが、文七の言った通り、象たちは鼻を揺らして落ち着かない。
李美公が闇へ目を凝らす。
「こちらは平地です。夜が明ければ、向こうは好きなだけ横へ広がれます」
私は蒲田の柵へ目をやった。
遠くからなら、人も象も思ったほど見分けられないし、今は柵も土塁も、隠れる場所としてこちらの味方をしてくれる。
「東には出ない」
「そうだ」
また景謙が先に答えた。
「今、私が言ったよ?」
「同じ答えだ」
「同じでも、私が言ったんだよ?」
景謙は黙り、李美公と李成公は顔を見合わせた。
何か思っているらしいけれど、今は聞かないことにした。
「東から見て、一番目立つ場所は?」
「あの高みです」
「じゃあ、あそこに黄色い布を置こう」
「黄色?」
李成公が首を傾げる。
「氏貞みたいなものを増やす」
興が笑った。
「また増えるの?」
「私は増えないよ」
李氏の二人は完全に分からない顔をしている。
初日なので仕方がない。
黄色い布は二か所に分け、一つは人に持たせ、もう一つは火の近くへ立てて、風が吹くたび人影のように揺れるようにする。
象も一か所へ固めず、東で鳴かせた一頭を奥へ戻した頃に別の場所から次を鳴かせ、その隙間を兵が柵の陰から出たり消えたりするように動かした。
李美公はしばらく黙ってそれを見ていたが、やがてこちらを見る。
「敵に数えさせないのですか?」
「うん」
「氏貞殿がどこにいるかも」
「分からない方が困るでしょう?」
李成公が笑った。
「ずいぶん嫌な戦い方をされる」
「褒められた?」
「たぶん」
私もつられて笑った。
その拍子に肩が後ろへ引かれる。
景謙の手だ。
転ぶほど強くはないが、李成公へ向いていた身体を景謙の方へ戻すには十分だった。
「景謙?」
「東を見るならこっちだ」
「今、李成公と話してたんだけど」
「聞こえている」
「そうじゃなくて」
手は離れない。
李成公の笑みが消えた。
少し離れたところから、兄が呼ぶ。
「景謙」
それだけで、ようやく指が緩んだ。
私は何も言わずに東を見る。
闇の中で、敵がもう火の点ではなく、人の群れとして見え始めていた。
その頃には北から鬨の声が途切れ途切れに流れ、時々、象の甲高い鳴き声まで混じってくる。
清河たちは、もう盛大に殴り合っているらしい。
東には敵がいて、こちらにも兵がいる。
弓も槍も揃い、あと少し距離が縮まれば、誰かが最初の一声を上げるだけで戦になる。
それなのに、こちらは静かだった。
呂清河だ。
今回はベトナムのお金、ドンの話だ。
旅行で値札を見て「ゼロ多すぎだろ!」となっても慌てるな。
ベトナム・ドンは桁が大きいから、金額を見る時は最後の三桁を区切って考えると分かりやすい。
小さな買い物では現金を使う機会も多いぞ。
「氏貞、それいくらだ?」
「50,000ドン」
「ゼロを数えろ!」
「一、二、三、四……」
「途中で眠くなるな!」
大きな紙幣を出す時も、ゼロの数は確認しろ。
「清河、500,000ドン」
「一個増えてる!」
「増えたの?」
「お前じゃねえ、ゼロだ!」
次回、増えるのはゼロじゃない。
氏貞の周りの男だ。
「そっちの方が面倒くせえ!」




