私、増えてないよ?
シンチャオ、趙氏貞です。
今日のベトナム語は Đây có phải là ~ không?(ダイ・コー・ファーイ・ラー ~ ホン?)。
「これは~ですか?」という確認の言い方です。
乗り物や場所が合っているか確かめたい時にも使えます。
「清河、Đây có phải là 趙氏貞 không?」
「違う。私だ」
「でも黄色い服で象に乗ってるよ?」
「お前が着せたんだろ!」
旅行では、分からない時に確認するのは大事です。
「じゃあ、あっちの黄色い人は?」
「知らねえよ!」
「その向こうにもいる」
「増えてんじゃねえか!」
増えてません。
たぶん……
今回は、私が何人いるのか確かめます。
朝、象が二頭増えていた。
昨日まではいなかったので、寝ている間に生えたわけではないと思う。
役所の前へ出ると、見覚えのない二頭が、昔からここに住んでいたような顔で枝を食べていた。
その隣には里の男たちが十人ほど並び、米俵や干し草まで積んである。
「……誰の象?」
一番前の男が胸を張った。
「氏貞殿へお連れしました!」
「どうして?」
「九尺に迫る女丈夫が象一頭では寂しいでしょう!」
朝から嫌な言葉を聞いた。
「私、九尺ないよ?」
「もちろん存じております!」
「じゃあ、どうして九尺って言ったの?」
男は少し考えた。
「その方が格好いいので」
最近、みんなこれである。
兄が奥から出てきて、二頭を見るなり顔をしかめた。
「象が増えてる!」
「もらったみたい」
「そんな近所から瓜もらったみたいに言うな! 象が増えりゃ食わせるものも増えるんだぞ!」
兄は象より先に、その後ろへ積まれた餌を調べ始めた。
「干し草だけじゃ足りねえ。葉もいる。水も飲む。誰が面倒見るんだ」
「文七?」
「全部あいつに押しつける気か!」
ちょうど文七が来た。
何も聞かず、一頭ずつ脚を見て、耳を見て、鼻先へ触れる。
一頭は大人しくしていたが、もう一頭は鼻を振って文七の肩を押した。
「こっちは若いです。戦にはまだ出さない方がいいです」
「分かるの?」
「なんとなく」
またそれだった。
文七の「なんとなく」は、だいたい後から正しい。
もう一頭の前へ移った文七は、少し間を取った。
「こっちは気が強いです」
象が鼻を振り上げ、近くにあった籠をひっくり返した。
「今ので私にも分かった」
文七が倒れた籠を直している間、私は少し離れて三頭を見た。
前からいる私の象と新しく来た二頭は、近くなら違いが分かるのに、役所の端まで離れてみると思ったより似て見えた。
「文七」
「はい」
「もっと遠くから見ても、どれが私の象か分かる?」
文七も三頭を眺めた。
「丘一つくらい離れたら難しいと思います」
「乗ってる人は?」
「もっと分かりません」
そうなのだ。
前の戦でも、遠くから私を見た人たちは黄色い服を黄金の鎧だと言い、八尺にも届かない身体を九尺にした。
遠くからなら、見えているようで、案外見えていない。
そこへ清河が来た。
「何朝から象眺めてんだ?」
私は清河を見た。
背が高く、私と並んでもそこまで大きな差はない。
「清河」
「何だ?」
「私の服を着て象に乗ったら、遠くから私に見えるかな?」
清河が止まった。
「何で私がお前の服着るんだよ」
「見えるか聞いただけだよ」
「朝っぱらから嫌な質問すんな」
少し離れて話を聞いていた景謙が顔を上げた。
「待て」
清河も振り返る。
景謙は私と清河、三頭の象を順番に見た。
「氏貞、今の話をもう一度言え」
「清河が私の服を着て象に乗ったら、遠くから私に見えるかなって」
景謙はすぐ地面へ目を落とした。
その顔を見て、私は嫌な予感がした。
「……使える」
やっぱり……
清河の口元が上がる。
「何に?」
「敵の目だ」
景謙は地面に線を引いた。
「氏貞は中央にいる。清河は別の丘へ出る。一度隠れて、別の場所からまた姿を見せればいい」
清河も分かったらしい。
「向こうから見りゃ、氏貞があちこち走り回ってるように見えるわけか」
「それだけじゃない」
私は三頭の象をもう一度見た。
「象も、何頭いるか分からないよね?」
景謙の手が止まった。
「……そうだ」
「じゃあ、人も?」
今度は清河まで黙った。
私は特別なことを言ったつもりはない。
遠くから分からないなら、分からないものは全部同じだった。
景謙の口元が動いた。
「氏貞。お前、自分が何を思いついたか分かってるか?」
「遠くからだと分からない?」
「それでいい」
よく分からないけれど、二人には分かったらしい。
その日の昼、興が北から戻ってきた。
「兵が来る! 四千くらい。騎兵もいる!」
清河の顔が一気に明るくなった。
「よし!」
「清河、敵だよ?」
「分かってる!」
「何がよしなの?」
「試せるだろ!」
戦が始まりそうなのに、どうして楽しそうなのだろう。
興が地面へ道を描いた。
呉軍は本道を南へ来る。
両側には低い丘があり、その向こうには灌木と畑が続いている。
前のように橋はない。
でも、隠れる場所はたくさんあった。
景謙が黄色い布を持ってきた。
「清河」
「おう」
そこまでは勇ましかった。
布を渡された瞬間、清河の顔が止まった。
「……黄色?」
「氏貞と同じ色にしないと意味がない」
清河は布をつまみ、嫌そうに眺める。
「これ着んの?」
「影武者だからね」
「分かってるけどよ……黄色かぁ」
四千人へ突っ込む話には一度も迷わなかった人が、服の色には抵抗している。
「似合うと思うよ?」
「そういう問題じゃねえ!」
「何色がよかったの?」
「今それ聞くな!」
結局、着た。
黄色い衣の上に似た形の胸当てをつけ、気の強くない方の象へ乗せる。
離れて見ると、思っていた以上に私に似ていた。
「清河」
「何だよ?」
「私より強そう」
「影武者が本物食ってどうすんだ!」
「胸は小さいけど」
「今、それを言うな!!」
文七が私たちを見比べた。
「遠くなら分からないと思います」
清河が胸を張った。
「よし」
「叫ぶと分かりますけど」
「何でだよ!」
「氏貞殿は、そんなに怒鳴りません」
清河が文七を睨んだ。
黙って戦うのは、たぶん無理だ。
兄も準備を始めていた。
荷車の後ろへ長い枝を何本もくくりつけている。
「それ何?」
「尾根の裏を走らせる。土煙が出れば、大勢動いてるように見えるだろ」
清河が笑った。
「兄貴まで悪くなったな」
「ただし荷車を壊すなよ! 終わったら米運ぶんだからな!」
兄だけ目的が最後まで違う。
午後、呉軍が見えた。
本道を四千人が埋めている。
私は中央の丘で象に乗った。
清河は西へ回る。
さらに何か所かへ黄色い布を置き、興が斥候の動きを見ながら合図をつなぐ。
最初に東の丘へ黄色が出た。
呉軍の騎兵が何人か動く。
続いて西に清河が現れた。
敵の先頭で指を差す者がいた。
しばらくすると清河は尾根の裏へ消え、今度は北西の切れ目から出る。
また斥候が走った。
私を見る。
清河を見る。
誰もいない丘の黄色い布を見る。
その間に荷車が尾根の向こうを走り、乾いた土を巻き上げた。
林の奥では、戦わせない象が鳴いた。
離れたところから別の象が応える。
「文七」
「はい」
「これ、向こうから何頭いるように聞こえる?」
「分からないと思います」
「じゃあ成功だね」
本当はこちらも、急に人が増えすぎて困っていた。
各地から集まった兵は戦い方も違うし、合図もまだ揃っていない。
だったら、無理に全員を同時に動かさなければいい。
少人数ずつ見せて、隠して、別の場所からまた出す。
呉軍の方が勝手に数えてくれる。
数えるたび、合わなくなるようにすればいい。
夕方近くまで、敵は進んでは止まった。
右を警戒すると左に清河が出る。
西へ兵を向けると、中央で私が象を進める。
東では黄色い布が風に揺れている。
とうとう先頭の騎兵だけが前へ出すぎた。
文七が象の耳へ触れた。
「そろそろです」
「何が?」
「向こうの馬が疲れています。こっちの象も、もう怖がっていません」
私にはそこまで分からない。
でも文七が言うなら、その時なのだろう。
私は西を見た。
清河もこちらを見て、槍を持ち上げた。
「行きたいんだね」
「止めても行くと思います」
「だよね」
合図を出した。
清河が象を前へ出す。
そして当然のように叫んだ。
「行くぞお前らァ!」
遠くても聞こえた。
「文七」
「はい」
「私じゃないって分かるね」
「分かります」
清河の後ろから兵が飛び出した。
全軍を出すのではなく、前へ出すぎた騎兵と後ろの歩兵の間だけを狙う。
呉軍が立て直そうとしたところで、私は中央から象を前へ出した。
黄色い衣に夕日が当たる。
敵の方で誰かが叫んだ。
「趙氏貞だ!」
別の声が返した。
「西にもいるぞ!」
私は西を見る。
清河が暴れていた。
こっちを見る。
私はここにいる。
相手からすれば、たぶん意味が分からない。
私にも少し意味が分からない。
前の兵が止まり、後ろの兵が左右を見た。
その隙に清河がさらに押す。
「どっちが本物か考えてる暇があったら帰れ!」
影武者が言うことではないと思う。
呉軍は日が落ちる前に退いた。
追わなかった。
集まったばかりの兵を、暗くなるまで走らせたくなかった。
それでも四千人をまともに受け止めずに追い返せた。
清河は役所へ戻るなり黄色い布を脱いだ。
「もう着なくていいよな?」
景謙が答える。
「次もやるぞ」
「嫌だ!」
「似合ってたよ?」
「氏貞は黙ってろ!」
ところが、次の日には私たちが決める必要さえなくなった。
南の里から来た頭領が、一人の女を連れてきた。
私より少し年上で、日に焼けた腕には筋肉がついている。
腰に短い槍を差し、肩には黄色い布を巻いていた。
「その黄色、何?」
女が笑った。
「昨日の話を聞きまして。うちでもやろうと思います」
「何を?」
「氏貞殿を」
私は清河を見た。
清河も私を見る。
「増えたな」
「増えてないよ?」
女は笑ったまま首を振った。
「私が氏貞殿になるわけじゃありません。向こうから、そう見えればいいんです」
なるほど。
分かりたくなかったけれど、理屈は分かった。
その里には象が一頭いる。
別の集団では象がないので、頭領の妹を馬へ乗せるらしい。
山側の村では、背の高い女が自分から黄色い布を巻いた。
数日もしないうちに、私の知らないところで同じことを始める者が増えていった。
私と背丈が近い女を選ぶところもあれば、「遠ければ分からない」と、まるで似ていない人を出すところまである。
「清河、あの人、私よりずっと小さいよ?」
「敵に言ってこい」
「あっちの人は清河より大きい」
「何でまだ私と比べんだ!」
呉軍の斥候は、もっと困ったらしい。
東で私を見たと言う者がいる。
同じ日に西でも見たと言う。
南では象に乗り、山では馬に乗っていたことになっている。
とうとう興が笑いながら報告を持ってきた。
「向こうじゃ、氏貞殿が何人いるのか分からないって」
「一人だよ」
「知ってる」
「じゃあ教えてあげて」
「嫌だよ。せっかく困ってるのに」
興まで清河に似てきた。
夕方、兄は増えた兵と象の数を確かめながら唸り、文七は新しく来た象使いたちに、知らない象同士を急に近づけるなと教えていた。
景謙は地面に描いた地図へ、黄色い印を増やしている。
私はその横へしゃがんだ。
「これ、全部私?」
「敵から見ればな」
「私、一人しかいないよ?」
景謙は顔を上げた。
「一人しかいないから使えるんだ」
まだ少し分からなかった。
でも、最初に遠くから象を眺めた時よりは分かる。
見えないところを、人は勝手に埋める。
九尺も。
黄金の鎧も。
そして今度は、人数まで。
そこへ興が駆け込んできた。
今度は笑いをこらえていた。
「氏貞殿、北の村から知らせ!」
「敵?」
「違う。明日の戦に出す氏貞殿を用意したって」
私は嫌な予感がした。
「何人?」
「七人」
清河が腹を抱えた。
「よかったな。増えたぞ」
「増えてないよ!」
どうやら明日の私は、八人いるらしい。
呂清河だ。
今回はベトナムの呼びかけ方だ。
相手の年齢で呼び方が変わって、少し年上の女性なら chị ơi、叔母くらいの世代なら cô ơiと呼ぶ。
旅行中、人に声をかける時にも便利だぞ。
「清河、cô ơi」
「誰が叔母上だ!」
「じゃあ chị ơi」
「最初からそれにしろ!」
「興にも教えてあげようか?」
「やめろ! あいつ絶対わざと cô ơiって呼ぶ!」
旅先では、相手への敬意が大事だ。
「黄色い女が八人いたら?」
「年齢見て呼べ!」
次回。
氏貞は一人でも、ややこしさは増えていく。




