私、九尺ないよ?
シンチャオ、趙氏貞です。
今日のベトナム語は Cho tôi hỏi...(チョー・トイ・ホイ……)。
「ちょっとお尋ねします」という意味で、道を聞いたり、店で分からないことを尋ねたりする時に便利です。
「清河、Cho tôi hỏi...」
「何だ?」
「私、何尺ある?」
「八尺ねえだろ」
「じゃあ九尺じゃないね」
「当たり前だ!」
安心しました。
「何で今さら確認してんだ?」
「みんな九尺って言ってるから」
「誰が話を育てた!」
「清河も黄金の鎧の説明してたよ?」
「それは別件だ!」
別件もあるそうです。
旅行先で分からないことがあったら、遠慮せず尋ねてみてください。
ただし今回、私が知りたいのは道ではありません。
いつの間に、こんなに大きくなったの?
朝起きたら、私は九尺になっていた。
もちろん、寝ている間に背が伸びたわけではない。
「氏貞殿は、身の丈九尺に迫る大女丈夫だって!」
役所の前でそう叫んでいた若い男を、私はしばらく黙って見ていた。
向こうは私に気づくと、嬉しそうに手を振った。
「氏貞殿! ちょうどあなたの話をしていたところです!」
「聞こえてたよ」
「この前の川の戦で、象の上から五千の呉兵を見下ろしたそうですね!」
「見下ろしたのは本当だけど……私、九尺ないよ?」
「またまた!」
何が、またまた、なのだろう。
私は背が高い。
それは知っている。
里でも昔から女の中では頭ひとつ抜けていたし、男と並んでも高い方だった。
でも、八尺には少し届かないくらいで、九尺に迫った覚えはない。
そこへ清河が来た。
「朝っぱらから何やってんだ?」
「私、九尺になったみたい」
「は?」
事情を説明すると、清河は男を睨んだ。
「誰が九尺って言った?」
「昨日、北から来た連中が」
「そいつらは誰から聞いた?」
「川向こうの里の者からだと」
「じゃあ、そいつらは?」
「その前の戦にいた人たちじゃないですかね」
清河が額を押さえた。
「もう分かんねえじゃねえか!」
男はむしろ誇らしそうだった。
「でも八尺近くあるなら、九尺に迫るでも間違いでは――」
「間違いだよ」
「氏貞、お前そこはちゃんと怒れ」
怒れと言われても、九尺と言われるだけなら、そんなに困らない。
少し大きく言われただけだ。
ところが、どうやら味方の人たちは私を小さく言うのが嫌らしい。
その日の昼には、別の里から来た男たちが酒を飲みながら言い争っていた。
「趙氏貞殿は八尺ほどある」
「何言ってる。九尺に迫るぞ」
「俺は象の上で見た。もっとでかかった」
「象の分まで足すなよ」
私は最後の人が正しいと思った。
それでも誰かが八尺と言えば九尺へ直され、九尺と言えば「象の上ならもっと大きく見えた」と続く。
清河がとうとう割って入った。
「本人そこにいるんだから聞けよ!」
みんなが私を見る。
「八尺ないよ」
一瞬静かになった。
ところが、一人が感心したように笑った。
「氏貞殿は謙虚だからな!」
どうしてそうなるのだろう……
本当に嫌な予感がしたのは、その日の午後だった。
呂興が走ってきた。
「清河殿、氏貞殿って黄金の鎧を持ってるの?」
清河の眉が動いた。
最近、興は叔母と呼ぶと怒られるので「清河殿」で逃げている。
「持ってねえよ」
「私も持ってないよ」
二人で答えると、興は首を傾げた。
「でも、みんな言ってるよ。川の戦で黄金の鎧を着て、象の上に立ってたって」
「黄色い服だよ?」
「黄色?」
「これ」
私は袖をつまんだ。
その日も黄色い服を着ていたし、戦の時にも同じような色を着ることが多い。
山や林では少し目立つけれど、象の上から味方に居場所を知らせるには都合がよかった。
興が袖と私の顔を見比べた。
「遠くから見たら金色に見えたのかな」
「布だよ」
「日に当たったら光ったとか?」
「布だって言ってるでしょう?」
清河が興の頭を小突いた。
「お前まで話を育てんな!」
ところが夕方には、黄金の鎧は完成していた。
「氏貞殿は黄金の鎧を着ているらしい」
「着てないよ」
「でも黄色いんですよね?」
「服がね」
「遠目には金色だとか?」
「清河!」
清河が顔をそむけた。
「私は『遠くからならそう見えたんじゃねえか』って説明しただけだ!」
また清河だった。
翌朝には、「黄金の鎧を着ても平然と戦える女」になっていた。
「もう黄色い服やめろ」
「なんで私が?」
「噂が増えるからだよ!」
「清河が増やしてるんじゃない?」
「違う! 私は消そうとしてる!」
「説明するたび大きくなってるよ?」
「何でだよ!」
清河は火を消そうとすると、よく燃やす。
文七だけは何も言わなかった。
新しい象の腹帯を直しながら私を一度見て、
「金ではありません」
と言っただけだった。
「文七は分かってくれるんだね」
「毎日近くで見ていますから」
それはそうである。
そして午後。
今度は、もっと困る噂が来た。
原因は胸だった。
最初に誰が言ったのかは分からない。
象に乗った私を遠くから見た者が「趙氏貞殿は身体が大きい」と話し、それを別の誰かが「胸も大きい」と付け足したらしい。
そこまでは、まあ、間違ってはいない。
問題はその先だった。
「数尺あるそうです」
書佐が真顔で言った。
私は黙った。
ちょうどそこへ清河が入ってきた。
「何が数尺なんだ?」
書佐が答えた。
「氏貞殿の乳です」
清河も黙った。
しばらくして、私を見る。
「……数尺あるのか?」
「ないよ」
「だよな」
私は少し考えた。
「でも、清河よりは大きいよ?」
清河の顔が止まった。
「何で私と比べた!」
「分かりやすいかなと思って」
「分かりやすくするな!」
「だって清河も女でしょう?」
「そういう問題じゃねえ!」
清河の顔が一気に赤くなった。
書佐は猛烈な勢いで下を向いた。
そこへ興が顔を出す。
「清河殿、何の話?」
「入ってくんな!」
「何で?」
「今は駄目だ!」
「叔母上、顔赤いよ?」
「姉ちゃんだ! じゃなくて今それ言うな!」
興は追い出された。
私は清河を見る。
「でも本当に、清河よりは――」
「二度と言うな!」
そこへ象具を抱えた文七が通りかかった。
書佐が助けを求めるように振り向く。
「文七殿……氏貞殿の乳が数尺あるという噂についてですが」
文七は私を一度見た。
「ありません」
清河が勢いよく振り向いた。
「何で即答できんだよ!」
文七は少し考えた。
「象に乗せる時に分かります」
「説明すんな!」
清河が頭を抱えた。
私は少し安心した。
「ほら、文七も違うって」
「そこじゃねえ!」
その騒ぎを聞きつけたらしく、今度は景謙まで入ってきた。
「何を騒いでいる」
清河が即座に答えた。
「お前は帰れ」
「何故だ?」
「いいから帰れ!」
景謙は納得していなかった。
ただ、真っ赤な清河、下を向いた書佐、無表情の文七、それから私を順番に見て、珍しく質問せずに出ていった。
私は感心した。
「景謙、空気読めるんだね」
「今そこ褒めるな!」
ところが、景謙が戻ってきたのはその日の夕方だった。
今度は笑っていなかった。
「誰がこんな話を広めた」
「分からないよ」
「分からないで済ませるな。お前の名前なんだぞ」
私は少し驚いた。
「でも、私が数尺あるわけじゃないって、みんなそのうち分かるでしょう?」
「そういう問題じゃない」
景謙は苛立っていた。
九尺でも、黄金の鎧でも、胸が数尺でも、本人である私より景謙の方が腹を立てている。
「氏貞の名を勝手に使って、好き放題な話を作らせるな。誰が何を言ったか調べるべきだ」
「そこまでしなくてもいいよ」
「よくない」
横で聞いていた兄が顔を上げた。
「景謙」
「何だ」
「噂を止めたいのは分かる。ただし、氏貞が気にしてないことまで、お前が代わりに決めるなよ」
景謙の顔が止まった。
「俺は氏貞のために言ってる」
「だから言ってんだ」
二人がしばらく見合う。
私はよく分からなかった。
噂より、二人の方が面倒なことになっている気がする。
結局、胸の話は訂正できなかった。
というより、誰も訂正する方法を思いつかなかった。
「趙氏貞殿の乳は数尺ではなく――」
と書佐が言いかけた時点で、清河と私が二人そろって止めたからである。
仕方なく放っておいたのだが、それがいけなかった。二日後には――
「九尺に迫る大女で、黄金の鎧をまとい、乳が数尺ある」
という話が北へ向かっていた。
「どうしてそこだけそんなに早いの?」
私が聞くと、清河は吐き捨てた。
「男だからだろ!」
それ以上は聞かなかった。
噂は胸だけでは終わらない。
私がまだ嫁いでいないのも事実だった。
ただ、嫁がないと誓った覚えはないし、男が嫌いなわけでもない。
今までそういう相手がいなかっただけで、これから先までどうなるかは私にも分からない。
ところが私が未婚だという話は、最初、
「趙氏貞殿ほどの女に釣り合う男はいない」
だった。
次に、
「求婚した男をすべて断った」
になった。
最後には、
「男に嫁ぐ気などないと言い切った」
になっていた。
「私、言ってないよ?」
清河へ言うと、清河は腕を組んだ。
「じゃあ嫁ぎたい奴いるのか?」
「今はいないけど……」
「ほら面倒くせえ!」
「清河は?」
「いねえよ!」
「じゃあ同じだね」
「何で私まで伝説に入れようとしてんだ!」
入れようとはしていない。
その頃には、私の周りにいる若い男たちまで噂の材料にされていた。
各地から使者や護衛、里の若者や伝令が来るうえ、興や文七、景謙までいる。
戦が大きくなれば、私のところへ来る人も増える。
その中に若い男が何十人いたところで、不思議ではない。
ところが誰かが、
「趙氏貞の傍らには若い男が多い」
と言った。
翌日には、
「若い男を十数人従えている」
になった。
さらに翌日には、
「若い男数十人を侍らせている」
になった。
私はその言葉の意味を聞いて、しばらく何も言えなかった。
「清河」
「嫌だ」
「まだ何も頼んでないよ?」
「訂正してこいって言うんだろ! 嫌だ!」
「だって私、そんなことしてないよ。男の人とそういうことしたことだってないし」
「知ってる!」
「清河もないよね?」
「私だってねえよ! 何で今それ確認すんだ!」
また清河が真っ赤になった。
二人とも戦場では何千人を相手にしているのに、男の話になると急に役に立たない。
ちょうどそこへ、前の戦で腕を負傷した若い男が通りかかった。
「どうされました?」
私は助かったと思った。
「みんなが、私が若い男を何十人も侍らせてるって――」
「誰がそんな失礼なことを!」
彼は本気で怒った。
「氏貞殿はそのような方ではありません!」
そう言ってくれたのは嬉しかった。
ただ、周囲にいた男たちが一斉に彼を見る。
「お前、ずいぶん詳しいな?」
若い男の顔が真っ赤になった。
私は理由が分からなかった。
清河が頭を抱える。
「もう黙れ……全員黙れ」
少し離れたところで象の世話をしていた文七は、一度こちらを見ただけで作業へ戻った。
景謙は笑わなかった。
むしろ、若い男をしばらく見ていた。
それが何を意味するのか、その時の私には分からなかった。
結局、その噂も止まらない。
むしろ味方が勝手に誇るようになった。
「九尺近い女傑だぞ」
「黄金の鎧で象に乗るんだ」
その先で誰かが胸の話を始めたので、私はその場を離れた。
「氏貞! 逃げんな!」
「清河が止めて!」
「私だって嫌だよ!」
戦なら二人で前へ出られるのに、噂話には二人とも勝てなかった。
しかも厄介なのは、噂を広げている人たちが私を悪く言っているつもりではないことだった。
むしろ、呉を怖がらせるなら少しでも大きく、派手に語った方が格好いいと思っているらしい。
好き放題だった。
私は普通でいいのに。
興だけは面白そうにしていた。
「清河殿、氏貞殿って本当は何尺なの?」
「お前は何の話をしてんだ!」
「身長」
「先に言え!」
そうしている間にも、私の知らない趙氏貞は北へ進んでいった。
身の丈九尺に迫る女丈夫。
黄金の鎧をまとい、巨象に乗る。
胸は数尺あるらしく、男へ嫁ぐ気はなく、それなのに若い男を数十人従えている。
一つずつなら、どこから出た話なのか分からなくもない。
全部まとめると、誰なのか分からない。
少なくとも、私ではないと思う。
それでも、その名前を聞いてこちらへ来る人は増えた。
兵を連れてくる者がいれば、米を運んでくる里もあり、「趙氏貞がいるなら」と、今まで様子を見ていた人まで動き始めた。
景謙は増えていく噂を気にし、兄はそんな景謙を気にしていた。
文七だけは相変わらず、何も言わずに象の世話をしている。
その横で清河は、もう訂正する気を半分なくしていた。
「九尺くらいあった方が格好いいだろ」
「清河まで言うの?」
「胸の話よりマシだ!」
基準がおかしい。
私が訂正している間にも、噂はまた北へ進んでいく。
どうやら今の私は、戦うたびに少しずつ大きくなっているらしい。
身体ではなく。
名前の方が。
呂清河だ。
今回は寺や仏塔へ行く時の服装だ。
旅行で立ち寄るなら、肩や膝が出すぎない格好にして、入る時は帽子を外せ。
暑いからって何でも軽装で突っ込むなよ。
「清河、黄色い服は?」
「普通ならいい」
「黄金の鎧は?」
「持ってねえだろ!」
「でも、みんな持ってるって」
「噂を寺まで連れてくんな!」
旅行中、派手さより大事なのは、その場所への敬意だ。
寺は戦場じゃねえ。
「じゃあ象は?」
「何で乗って行く前提なんだ!」
まったく油断ならねえ。
次回。
氏貞より先に、氏貞の噂が走っていく。




