5物語の情景
ホーカーがタウベと別れたのには理由があるのだろう。
術にかかって襲うかもしれない。錯乱させる類の術なのか、操られてしまうのか。どちらかだとすれば危ない。
眠らせるとすれば一人でいるほうが危険だが、ホーカーはその可能性は低いと考えたらしい。
それに、捜索は分担したほうが効率がいい。
一緒に行動していたらこちらが見つかってしまう可能性も高い。
しかもホーカーはあれだけジエダスのことを知っていたのだから、顔見知りなんだろう。
塔の追手を避けようと行動されるなら、ホーカーよりタウベが先にジエダスを見つける可能性のほうがある。
太陽は真上。あの位置に月が昇るまで、まだたっぷり時間がある。
「そういえば、ここに住んでる人はいないのかな」
いくら花が多いといっても、道を埋め尽くすほどではない。
よく見れば野菜を育てる小さな畑が点在して、もっとよく見れば畑ではなく花壇に野菜が植えられている。
これだけの花や野菜の世話を一人でしているとは思えない。
しかし家どころか小屋のような建物さえ見当たらない。さながらここは、歪で巨大な庭苑だ。
砂漠では草花を見る機会が少ない。
瑞々しい野菜を拝めるのは畑を持つ者の特権。まして花など、魔法薬や染料の材料としてくらいしか育てる価値もないだろう。
「あ、そっか。あの本に書かれてた情景って、こんな感じだったんだ」
想像力に乏しいタウベは以前その本を読んだとき、ただの文字の羅列に思えた。舞台も主人公の心情も想像できなかった。
〝穏やかな風が花蜜の香りを届けてくれるだろうか。彼は想った〟
〝彼が愛情を注いだ花の香りを、素敵だと言ったあの女性に〟
〝しかし、吹き戻った風が運んだのは、彼女の訃報だった〟
〝自分の愛は届いていたのか。本当に彼女は手の届かないところに行ってしまったのか〟
〝口実が欲しかっただけなのだ。彼はもう一度、あの女性に届けたかっただけなのだ〟
〝色鮮やかな花を。酔いそうになるほど甘く、芳醇な香りを〟
〝彼女は喜んでくれるだろうか〟
「……予想通り、色々と分からずじまいになったなぁ」
主人公の心情は分からないままだろう。でもこれで、情景は想像できるようになったかな。
塔を出る直前に読んだ本の結末を思い返しながら、タウベは住人探しを続けた。




