幕外(砂塔)
塔に辿り着き、十階でタウベと別れたホーカーは十一階を目指す。
チークの重い扉をノックして開けると、いつも通りの人物たちが笑顔で迎えた。
「やあ、おかえり。任務は失敗かい?」
「……報告はいらねぇ感じ?」
失敗すると思って行かせたのだから、スマイル隊長も人が悪い。
「報告を頼むよ。重要なのはどう失敗して、君が何を持ち帰ったか、だからね」
「ジエダスは植物を守るため、弟子と共に貧民街二地区に移住。後にジエダスとその弟子は死亡。フィエルは二人の移住よりも前に死亡していたため、今の二地区に居住者は無し。植物だけがいる状態だ」
「そういう話にまとめてきたんだね」
ホーカーは頷くと、懐から羊皮紙を取り出す。筒状に丸められたそれには赤い封蝋がある。
それをスマイルの隣りに立っている副隊長のボーマシに手渡すと、ボーマシは内容を読み上げる。
〝貧民街二地区は無人である〟
〝これを砂塔が事実と認めるならば、ささやかなる奇跡を約束する〟
〝亡霊 フィエル〟
「……シンプルな商談とは言い難いね。説明してくれるかな」
「二地区には薬にできる草花と野菜が〝自生〟してた。この国は薬も食糧も潤沢とは言えねぇだろ? だから塔側が無人の二地区に干渉しないことを条件に、薬と食糧をくれるって契約書を持ってきた」
スマイルは笑い話を聞いたときのような顔をして言う。
「それは君が亡霊と約束してきたってことでいいのかい?」
「提案したのはタウベさ。そんで約束するのは俺でもタウベでもねぇ」
ホーカーはピッと正面の人物を指差す。
「なるほど。いやぁタウベは賢い子だね。面白そうだからサインしてあげるよ」
隣りでボーマシがむっとしているのも気づかないふりで、スマイルはさらさらと本当にサインして見せた。
亡霊たちにとって価値を持った契約書を手に、ホーカーは窓から飛び出していく。
「魔導士師団にはどう説明するつもりだ」
ボーマシが尋ねると、
「惜しい人を亡くした、ってところかな」
スマイルは肩をすくめて答えた。




