表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新訳 太閤記 ~ 転生 豊臣秀吉、未来を識る僕は史実の道を静かに歩む 〜  作者: 条文小説


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/150

1-53 桶狭間、歴史が変わる刻

挿絵(By みてみん)


 『太閤記たいこうき』は、豊臣秀吉の伝記に用いられる題名。太閤は摂政・関白経験者で、その子が同様に摂関となった者が称する号であるが、ここでは秀吉を指す。秀吉の伝記・一代記の総称として用いられるが、小瀬甫庵の著作である『太閤記』を指すこともある。秀吉を中心とした人物を描いた戯曲作品は特に太閤記物という。

 『絵本太閤記』(えほん たいこうき、旧字体:繪本〜)は、江戸時代中期に書かれた読本よみほん。豊臣秀吉の生涯を描いた講談をもとに、武内確斎が文を著し、岡田玉山が挿絵を入れた。全7編84冊。出典:Wikipedia

 桶狭間の本陣。今川義元という男は、自らの持つ「46,000」という物理的質量リソースの大きさに、最後まで甘え切っていた。


 義元は、前線の丹下砦で味方の部隊が苦戦しているとの報を受けると、「それくらい瞬殺しろ」と大見得を切り、あろうことか本陣に残っていた護衛部隊までをも、残らず前線への援軍パッチとして投入してしまった。


 その結果、彼の周囲に残ったのは、わずか1,000の近習や小姓といった文官や付き人レベルの非戦闘員のみ。義元は僕たちが張った「六角の偽装軍」や「砦の死守」という派手なフロントエンドの裏側で、システムの脆弱性バックドアが完全に無防備になっていることに気づいていなかった。


 バケツをひっくり返したような豪雨。間道と呼ばれる獣道を経て、義元の本陣の背後バックヤードへと回り込んだ信長と僕たち斬首部隊デカピテーション・チームは、崖下を見下ろした。


「……空っぽだ。義元の旗本ファイアウォールは、完全に消え去っている」

 

 豪雨の中で目を凝らし、僕はニヤリと笑った。信長は無言のまま、抜刀した。それが「突撃エンター」の合図だった。


「――一番乗りは、この木下秀吉がもらうッ!!」


 僕は愛馬の腹を蹴り、急斜面を揉みに揉んで真っ先に駆け下りた。折りしも、雨脚がさらに強まり、白雨が本陣を呑み込むように降りしきる。大風が砂を飛ばし、木の根を穿ち、人馬の突撃音ノイズすらも完全に秘匿マスキングしていた。


 完璧なステルス環境。僕はあぶみを踏ん張り、背後に続く精鋭たちに向かって大声マイクで叫んだ。


「この異常な風雨こそ、熱田明神の神風だ! 神は我らと共にある!進め!進めえええッ!!」


 出陣前のあの「白鷺の奇瑞フェイク」を強烈に信じ込んでいる兵士たちの士気エンゲージメントは、ここで最高潮に達した。


 服部小平太はっとりこへいた毛利新助もうりしんすけ、遠山甚太郎、中条小八郎、林藤八郎といった猛将たちを先頭に、選りすぐりの精鋭500人が、崖の上から雪崩のように義元の本陣へと無二無三に切り込んだ。


「ひぃぃッ!?敵だ!織田の奇襲だァッ!!」

 

 完全に不意を突かれた今川方。しかも残っているのは非戦闘員ばかり。彼らは驚き、狼狽うろたえ騒ぎ、刀を抜いて戦おうとする者など一人もおらず、我先にと逃げ散っていった。


 その大混乱の中、ただ一人、逃げずに立ち塞がる巨漢がいた。今川治部大輔義元。東海の覇者たる男が、激怒に顔を歪ませていた。


「何者だ!何者なれば近くに来たって、この虎の髭を撫でるかッ!!」


 義元は、重代の太刀である「松倉郷まつくらごう」という名剣を抜き放ち、四方を白眼にらみつけて咆哮した。未来の企業のCEOなら逃げる場面だろうが、義元は生粋の武将だ。自ら物理的暴力フィジカルを行使する覚悟を決めている。僕は彼の正面に馬を進め、大音声を張り上げた。


「――織田上総介信長おだかずさのすけのぶなが、自ら参って見参する! 快く、その首級ヘッドを賜るぞ!!」

 

 僕の宣言と同時に、信長を護衛するあまたの勇士たちが、一同に義元めがけて斬りかかった。


「信長が直に寄せただと!?ならば刺し違えてくれるわッ!」


 義元はもとより大力の勇将。絶望的な状況下でも勇を震い、凄まじい剣幕で応戦する。その時、服部小平太が横合いから滑り込み、義元の右の太股ふとももを槍で深々と突き抜いた。


「ぐぅぉッ! 小童こわっぱが!」


 義元は痛みに顔を歪めながらも、松倉郷を力任せに振り下ろし、小平太の片足を太刀の勢いごと斬り飛ばした。小平太が絶叫とともに血の泥に倒れ込む。義元がなおも進んで戦おうとしたその瞬間。

 

「……獲ったァッ!!」

 

 背後の死角ブラインドから、毛利新助がむずと義元の巨体に組み付いた。彼は義元を押し倒すと、腰の短刀を抜き、豪雨の中で義元の脇腹に深々と突き立てた。


「があああっ!!」


 義元は組み敷かれながらも、最後の抵抗エラー・ハンドリングとして、新助の左の指にガブリと噛みついた。肉が千切れ、骨が軋む不気味な音が響く。


「い、痛ぇ……!だが、放すかよッ!!」


 新助は指を食いちぎられそうになりながらも、物ともせずに短刀を押し込み、ついに……その太い首を、一刀のもとに叩き斬った。


 ゴロン、と。


 海道一の弓取りの首が、泥水の中に転がり落ちる。新助は血まみれの手でその首を拾い上げ、太刀の先に貫いて、豪雨の空へ高々と突き上げた。


「――今川義元、討ち取ったりィィィッ!!」


 その絶叫が、戦場のすべてのノイズをかき消して、桶狭間の谷にこだました。


 時に永禄3年。義元、享年42歳。勇名は関東・東海に震い、さしも名将の誉れ高かった男。しかし、彼の大軍という「物理的な余裕」が招いた油断は、僕――木下秀吉が未来の最適化論理アルゴリズムを用いて組み上げた非情な罠によって完全にコントロールされ、ついに桶狭間の泥と露となって消え失せたのである。


「……終わったな」

 

 雨が嘘のように小降りになり始めた空を見上げながら、信長が静かに息を吐いた。義元の首を見つめるその目には、狂喜も、安堵もなく、ただ底冷えするような野心の炎だけが静かに燃え移っていた。


「はい。これで尾張は守られました」


 僕は馬から降り、泥にまみれた具足のまま、信長の傍らに歩み寄った。僕がこの戦国時代に放り出され、奴婢として泥水をすすりながら生きてきたのは、この瞬間のためだったのかもしれない。


 未来の夜風と、寺の木魚の音。その記憶のすべてが、今、この桶狭間の熱狂の中で完全に一つに統合マージされたのを感じていた。


「猿。お前の『最適化』とやら、少しは役に立ったようだな」


 信長が、僕に向かって初めて「認め」の言葉を口にした。


「恐れ入ります。ですが、これはまだ序章チュートリアルに過ぎません。……天下を獲るという覇道メインクエストは、ここから始まりますから」


 僕がニヤリと笑って答えると、信長もまた、ふっと口角を上げた。


「くっ……。小賢しい奴め。ならば、これからも俺の覇道を最前線で最適化し続けろ、秀吉」


「御意のままに」


 僕は深く一礼し、雨雲の切れ間から差し込んできた一条の光――日輪の輝きを眩しそうに見上げた。


 僕の胸の奥で、その光はかつてないほどの巨大な拍動となって鳴り響いている。

 

(僕は、生きている。この狂った戦国の世を、僕のやり方で遊び尽くしてやる)


 木下秀吉の、本当のサクセスストーリーは、この泥と血にまみれた桶狭間から、いよいよ本格的に幕を開けるのだった。




【繪本太閤記 作:武内確斎 絵:岡田玉山 寛政9年】




今川義元討死いまがわよしもとうちじに


このとき桶狹間おけはざま義元よしもと本陣ほんぢんは、「先手さきて合戰難儀かつせんなんぎなるよし、一時に蹴散いちじけちらしてよ」とて、旗本はたもと勢殘せいのこらず丹下たんげたたかひをたすけしめ、わずかに一千餘いつせんよ近習小姓きんじゅこせうのみにてひかへたり。信長のぶなが間道かんだう義元よしもとうしろまはり、今川いまがは旗本無勢はたもとぶぜいなりとてければ、木下藤吉郎きのしたとうきちらう一番いちばんうまし、みにんでせたるところに、りふし白雨ゆふだち一村ひとむらりしきり、にわかに大風砂たいふうすなばし、穿うがち、人馬じんばおとさらにこえず。藤吉郎とうきちらうあぶみ味方みかたむかひ、「この風雨ふううこそ熱田明神あつたみやうじん神風かみかぜぞや。すすすすめ」と下知げぢするにぞ、服部小平太はつとりこへいた毛利新助もうりしんすけ遠山甚太郎とやまじんたろう中條小八郎ちうじようこはちろう林藤八郎はやしとうはちろう織田酒造丞おだみきのじようはじめとして、遲兵勝ていへいかつつて五百餘人ごひやくよにん義元よしもと旗本はたもと無二無三むにむさんめば、今川方いまがはがた不意ふゐのことにてありければ、おほおどろ狼狽うろたさわぎ、たたかもの一人いちにんもなく、我先われさきにとづ。義元よしもといかつて、「何者なにものなればちかきたつてとらひげるや」とて、重代ぢうだい太刀たち松倉郷まつくらごうといへる名劍めいけんひさげ、四方しほう白眼にらみてつたりける。木下藤吉大音きのしたとうきちだいおんにて、「織田上總介信長おだかづさのすけのぶながみづかきたつて見參げんざんす。こころよ首級しゆきふたまはりさふらふ」と、あまたの勇士ゆうし一同いちどうに、義元よしもとがけ切込きりこみたり。義元よしもともとより大力だいりき勇將ゆうしやう信長のぶながぢかせたときてあれば、ちがへてなんものと、ゆうふるつてたたかひける。服部小平太はつとりこへいた横合よこあひより、やりひねつて駈合かけあはせ、義元よしもとみぎ太股ふとももきたり。義元よしもと太刀たちべて小平太こへいた片足かたあしり、なほすすんでたたかふところを、毛利新助もうりしんすけうしろより、むずと組付くみつ短刀たんとうもつ脇腹わきばらとほし、つひ組敷くみしうごかせず。このとき義元よしもと新助しんすけひだりゆびけをことともせず、つひくびとし、太刀先たちさきつらぬげたり。義元よしもとこのとき四十二歳しじふにさい勇名關ゆうめいせきひがしふるひ、さしも名將めいしやうほまたかかりけるも、うんすでにきぬれば、木下きのした軍配ぐんぱいすかだされ、つひ桶狹間おけはざまつゆとぞせけり。

〜参考文献〜

太閤記 底本:『史籍集覧』第6冊,近藤出版部 - Wikisource

https://share.google/AxQqE2xRgf0LcmxAN

絵本太閤記 武内確斎 著 夕陽亭馬齡 編

夕陽亭文庫 Amazon Kindle https://x.com/bpaaw700


〜 1万PV御礼投稿 7話/7話 〜

 いつもご覧頂きありがとうございます。おかげさまで投稿開始21日目に累積10,000PVを超えました。タイトルを付けるとすれば【感謝!累計1万PV到達!日間1,000PV&累積2,000ユニークOVER!感激ブクマ10件超!!】ですが、上っ面のタイトル変更ではなく書き溜めていた話を吐き出す事で御礼に代えさせて頂きます。とはいえ…これまでも誤字脱字謝罪や御礼ばっかしてたのであんまり貯まってませんw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新訳 太閤記 ~ 転生 豊臣秀吉、未来を識る僕は史実の道を静かに歩む 〜
新訳 三河物語 〜 徳川家康と家臣団の戦国サバイバル 〜 with 逆行転生犬シロ
新訳 北条五代記 〜 近所の隠居が書いたメモがガチの戦記だった件〜
美しき女帝 北条政子 〜 婚約破棄どころか強制結婚!? 平家のエリートに嫁がされそうになったので、豪雨の山を越えて愛する無職の元へ走ってみた 〜
新訳 曽我物語 〜 復讐系なろうの原点、父を殺された兄弟の二十年の復讐譚〜
箴言・格言・名言集 〜頑張るあなたへ、今日を乗り越えるための一言〜
拝啓、愛読者様。― 想いを少しだけ 謹呈 条文小説
六道輪廻抄 〜 戦国転生記 〜
コミックス「六道輪廻抄〜戦国転生記〜」
動画生成AIが作成したイメージビデオ
動画生成AIが作成したなろう小説イメージビデオ
動画生成AIが作成したなろう小説イメージビデオ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ