表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新訳 太閤記 ~ 転生 豊臣秀吉、未来を識る僕は史実の道を静かに歩む 〜  作者: 条文小説


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/219

2-22 姉川の十一段崩しvs魔王の盾

挿絵(By みてみん)


 『太閤記たいこうき』は、豊臣秀吉の伝記に用いられる題名。太閤は摂政・関白経験者で、その子が同様に摂関となった者が称する号であるが、ここでは秀吉を指す。秀吉の伝記・一代記の総称として用いられるが、小瀬甫庵の著作である『太閤記』を指すこともある。秀吉を中心とした人物を描いた戯曲作品は特に太閤記物という。

 『絵本太閤記』(えほん たいこうき、旧字体:繪本〜)は、江戸時代中期に書かれた読本よみほん。豊臣秀吉の生涯を描いた講談をもとに、武内確斎が文を著し、岡田玉山が挿絵を入れた。全7編84冊。出典:Wikipedia

 朝霧が、世界を白く染め上げていた。


 元亀元年(1570年)6月27日、早朝。姉川あねがわを挟んで対峙する織田・徳川連合軍と、浅井・朝倉連合軍。冷たい水面を挟んで睨み合う両軍の熱気で、夏の朝霧はまるで沸き立つ湯気のように怪しく揺らめいている。


 遠藤喜右衛門えんどうきえもんという狂気の将が、命を賭した特攻アルティメット・アタック計画アサシン・プランを胸に秘めていたまさにその頃。僕は、織田軍の本陣前衛フラッグ・ガードで、愛馬のたてがみを引き絞りながら冷や汗を流していた。


(……おいおい、未来知識ネタバレで知ってはいたけど、迫力が違いすぎるだろ……!)


 前世は日本のしがない一般人。不慮の事故で死に、気がつけば戦国時代の尾張で『日吉丸』という最底辺の幼児に転生していた。未来知識チートと、死に物狂いの努力ハードワークを駆使して、ようやく信長の直臣にまで上り詰めた。だが、そんな僕の「未来知識アドバンテージ」をもってしても、目の前に広がる圧倒的な「暴力の気配」には、魂が縮み上がりそうになる。


 対岸に布陣する浅井軍の先陣トップバッター。その数、およそ5,000。漆黒の軍勢の先頭で、一際巨大な槍を引っ提げて馬を躍らせている男がいる。浅井家中において『勇猛無双の剛兵』と恐れられる戦鬼――磯野丹波守貞満いそのたんばのかみさだみつだ。


 彼の背後に従う士卒たちは、ことごとく勝ち立った歴戦のつわものばかり。その纏うオーラは、飢えた猛獣の群れ、いや、檻から解き放たれた『猛虎』そのものだった。彼らの辞書に「防御ガード」の文字はない。ただ前方の敵を食い破るためだけに特化した、完全な戦闘狂バーサーカーの集団だ。


 磯野丹波守は、地平線を埋め尽くす織田軍の重厚な「段々の陣」をはるかに見渡すと、獰猛な笑みを浮かべて槍を突き上げた。


「野郎ども、よく聞けェ! この敵を破るには、小細工など一切不要ノー・タクティクス! 我らは『長蛇ちょうだの陣』にて、ただ一筋に突き入るのみ! 左右を顧みるな! 正面を切り崩し、信長めが座す本陣まで一気に押し詰め、勝負を一挙ワンパンに決すべし!!」


「「「オオオオオオオオッ!!」」」


 5,000の絶叫ウォー・クライが姉川の谷響きとなって轟いた。磯野自身が真っ先に馬腹を蹴り、冷たい川の水を爆発させるように跳ね上げて突撃レイドを開始する。それと同時に、猛虎の群れが織田陣営へと殺到してきた。いよいよ、戦国史に刻まれる最悪のデスマッチ、『姉川の戦い』の火蓋が切って落とされた。


「ひるむな! 我らが一番備ヴァンガードの意地を見せよ! 放てっ!!」


 押し寄せる浅井軍の波に対し、織田軍の最前線を任された一番備――坂井右近正尚さかいうこんまさなお率いる2,000人が、冷静に前に繰り出した。両陣営の距離が急速に縮まり、ついに射程距離キルゾーンへと突入した瞬間、坂井の号令とともに織田の鉄砲隊ガンナーが一斉に火縄銃を水平に構え、連べ放った。


 ドガァァァァァンッ!!!


 早朝の静寂を木っ端微塵に粉砕する、凄まじい斉射フルバースト。爆音とともに立ち上る白い硝煙が視界を覆い、鉛の弾丸が浅井軍の先頭集団を容赦なく引き裂く。水飛沫とともに数え切れないほどの兵士が血を流して倒れ込んだ。普通の軍勢なら、この一撃で進軍の足が止まるはずだった。


 ――だが、磯野丹波守は、普通の武将ボスキャラではなかった。


「フン、織田の飛び道具など、屁の突っ張りにもならんわ! 時分タイミングはよし! かねて左右に備え置きし鉄砲、撃てェッ!!」


 磯野が軍扇を開いて左右をさし招くと、浅井軍の左右の脇から、密かに配置されていた鉄砲隊が躍り出た。彼らが手にした数百挺の火縄銃が、今度は織田軍に向けて一斉に火を噴いたのだ。


 バリバリバリバリッ!!!


 激しく撃ち込まれる浅井軍のカウンター・ドライブ。至近距離からの容赦ない銃撃を受け、今度は坂井の兵士たちが正面を向くこともできず足元をガクガクと震わせて動揺した。前衛の防衛ラインが一瞬でパニックに陥る。


「よし! 今だっ!!」


 磯野丹波守はその瞬間を逃さなかった。自ら大槍を掴み直して、雄叫びを上げて先頭を突き進む。一騎当千の怪力で織田の兵士を次々と串刺しにし、文字通り道を切り開いていく。その圧倒的な突進力の前に、一番備である坂井の陣は右往左往に散乱する完全に戦線崩壊という無残な状態に追い込まれてしまった。


(う、嘘だろ……!? 織田の一番備が、ものの数十分で消し飛ばされたぞ……!?)


 後方で戦況を見ていた僕は、背筋に冷たいものが走るのを禁じ得なかった。これが、本物の戦国武将の『殺気ガチ』なのか。未来のゲームの比ではない。


「一番備が破れたか! ならば我らが押し返すまでよ! 全軍、槍を入れよ!」


 坂井軍の敗退を見るや否や、すぐさま動いたのは、信長の二番備セカンド・ウォールを任されていた池田勝三郎信輝いけだかつさぶろうのぶてる2,000人だ。信長の乳兄弟であり、織田家屈指のサラブレッドである彼が、坂井に代わって前線へと突入する。


 しかし、磯野の兵士たちは少しもためらわなかった。一番備を粉砕した勢いのまま、池田が陣へまっすぐに突いて入り、切り立て、薙ぎ立てる。その烈しきこと、まさに電光ライトニングの如し。浅井軍の突撃速度モメンタムは衰えるどころか、勝利のバフを受けてさらに加速していた。


「ええい、化け物め! 距離を詰めさせるな! 鉄砲を打ちかけよ!」


 池田勝三郎は必死に陣を進め、至近距離から鉄砲を打ちかけて応戦した。激しい銃撃戦と泥泥の白兵戦が繰り広げられる。だが、磯野軍の凄まじい圧力は、池田の防衛線をもじりじりと押し込んでいく。


「二番備も持ちこたえられんか! 三番備、蜂谷兵庫頭頼隆はちやひょうごのかみよりたか、出陣する! 磯野の首をわしづかみにせよ!」


 続いて織田軍の三番備、蜂谷兵庫頭の2,000人が、池田をサポートするために戦線へと繰り出された。蜂谷はこれ以上の突破を許すまいと、磯野の兵士を左右から包み込み、完全にホールドしようとした。


「ガハハハハ! 包囲サラウンドなど怖れるに足りんわ! 浅井の男児の意地を見せてやる! 鯨波一声ときのこえを上げよッ!!」


 磯野丹波守が「おっう!」と喚いて槍先を揃えると、5,000の軍勢が一丸となって一点突破のウェッジとなった。ただひたすら槍を突き立てて前進する。その捨て身の突撃デス・チャージの前に、蜂谷の備えも気勢を削がれ、戦意を喪失させられた。猛攻に耐えきれずに戦線離脱を余儀なくされた。


(おいおいおい! これで三番備までぶち抜かれたぞ! ゲームなら完全にリトライ案件だろこれ!)


 僕の手汗は止まらない。磯野軍の進撃ルートは、一直線に信長の本陣へと向かっている。まるでドミノ倒しのように、織田の精鋭たちがなぎ倒されていく。


「ふん、騒がしいな。ここからは織田の戦い方を教えてやろう」


 ここで満を持して前に出たのが、四番備フォース・ラインを預かる佐久間右衛門尉信盛さくまうえもんのじようのぶもり2,000人だ。のちに『退き佐久間』と呼ばれる守備の達人トップ・ディフェンダー。佐久間は備えを厳重に繰り出し、全軍の士気を高めるため鬨の声を上げさせて、自ら陣前に馬を乗り出した。


「うろたえるな! 敵は連戦で疲弊している! ここで我らが壁となり、浅井の進撃を完全にストップさせるのだ!」


 佐久間の的確な下知コントロールにより、織田軍の防衛線はようやく持ち直すかに見えた。だが、磯野丹波守の勢いはまさに破竹はちくの勢い。すでに三つの防衛線を紙切れのように引き裂いてきた勝ち誇った軍勢だ。磯野は軍扇を開いて左右の部隊を招き、鉾先を鋭くして佐久間の陣へと突きかかった。


「そこまでだ、戦鬼め! この佐久間右衛門尉が通さん!」


 佐久間は陣形を崩すまいと、自ら槍を引っ提げて敵の渦中へと飛び込んだ。その見事な槍さばきにより、目の前に迫った敵の騎兵5、6騎をまたたく間に瞬殺した。流石は織田家の宿老、伊達に高い知行をもらってはいない。


「おのれ、ならば俺が相手をしてやろう!」


 味方を倒された磯野丹波守が、怒りに目を血走らせて馬を馳せ寄せてきた。無言のまま、佐久間に向かって超高速の突きを繰り出す。


「望むところよ! 織田の盾の硬さ、思い知れ!」


 佐久間もまた、凄まじい怒濤の気迫をまとい、たちまち髪の毛が逆立つほどの怒髪天を突き、勇を振るって応じる。双方ともに、猛勇剛士トップランカー。上段、下段と隙間なく火花を散らして一騎打ちを繰り広げた。もしこれが普通の合戦であればば、周囲の兵たちは手を止めて見物していただろう。でも、これは一瞬の瞬きする余裕すらない烈しいデスマッチである。


 佐久間の獅子奮迅の強さに、浅井側の大将たちも危機感を覚えた。


「おい、磯野を討たすな! 続けや、野郎ども!!」


 浅井軍の後方から、高宮三河守たかみやみかわのかみ大宇大和守おおうやまとのかみ赤田信濃守あかたしなののかみ山崎源太左衛門やまざきげんたざえもんという四人の勇将ネームドキャラが、一度にどっと佐久間に向かって突きかかってきたのだ。


「ずるいぞ、一騎打ち(タイマン)じゃないのかよ!?」とツッコミを入れたくなるような、完全な数の暴力レイドバトル


 佐久間の軍卒たちも「主を守れ!」と喚き叫んで馳せ寄り、敵の四将と切り結ぶ。戦場は完全に混沌カオスとした乱戦へと変貌した。佐久間右衛門がいかに個人の戦闘力が優れていようとも、この4人の猛将と数千の精鋭は凌げず、徐々に劣勢になってきた)。


「チッ、ここまでか……!」


 守備の達人である佐久間は、完全に壊滅する前に戦いを次の備えにスイッチり、左右へ鮮やかに戦線を離脱して後退した。


「おうよ! ここからはこの森三左衛門のステージだ! 浅井の雑魚ども、まとめてあの世へ送ってやるわァ!!」


 佐久間に代わって槍を合わせたのは、五番備ファイナル・ゲートを守る森三左衛門可成もりさんざえもんよしなり2,000人。のちに『鬼武蔵』と呼ばれる森長可や、あの森蘭丸の父親であり、織田家最強のアタッカーの一人だ。しかし、迎え撃つ磯野の勢いは、すでに織田の備えを四番まで打ち破り、完全にノリに乗っている状態だ。その鉾先は鋭すぎて、正面から受け止めるのは不可能に思えた。バフが十重に累積した無双状態の突撃である。これを見た森三左衛門は、猛烈に焦り、激怒し、自身の槍を握りしめて吠えた。


「お前たち、よく聞け! もしこの陣を破られなば、次は信長様の旗本なるぞ!! 織田家最強を自負する我らが、生きて恥をさらすくらいならここで死ね! 討死せよ!!」


 森は自ら真っ先に槍を合わせ、一歩も退却しないという絶対防衛の構えで狂ったように戦った。その凄まじい槍さばきで、浅井の兵士がゴミのように吹き飛んでいく。一方、あぶみを踏ん張り、馬上で大きく身を起こした磯野丹波守は、はるかに敵の陣の奥を見据えていた。森の軍勢のすぐ後ろ。そこに、黄金に輝く織田軍の本陣が見える。風にひるがえっているのは、『南無妙法蓮華経』の大旗。信長が自らの権威を示すためのシンボルだ。


「ガハハハハ! 見えたぞ! 信長の首がすぐそこにある!」


 磯野は歓喜に顔を歪め、味方の諸勢を顧みて吠えた。


「皆の衆! この備えを破れば、次はいよいよ信長の本陣ぞ! 力を尽くし、ただ一突に切り崩して歴史に名を残せ!!」


「「「おおおおお(信長を殺せ)!!!」」」


 浅井軍は残った総勢を合わせ、およそ5,000人。一丸となって、まっしぐらに森軍へと最後の総突撃フルバースト・チャージを仕掛けた。森軍の防衛線が、ギチギチと悲鳴を上げて軋み始める。


「……おのれ、長政の犬どもめが。これほどまでに狂い咲くか」


 はるか後方から、五番備までが押し込まれるこの凄惨なていを見ていた信長は、かつてないほどの衝撃を受け、その端正な顔を歪めた。史実において、信長の人生の中で最も「死」に近づいた瞬間の一つ。それが、この磯野丹波守による『姉川の十一段崩し』だ。前衛の五つの防衛ラインが全て機能不全に陥り、魔王の本陣が丸裸にされようとしている。


「ええい、もう余裕はない! 本陣の親衛隊を繰り出し、森の備えを扶助カバーしろ!!」


 信長が焦燥に駆られて下知した、まさにその時。


「――お待ちください、信長様!」


 床几に座る信長の前へ進み出たのは、そう。僕――木下藤吉郎だ。深く頭を下げながらも、胸の内は不思議なほど静かだった。転生者としての冷静な判断力と、この戦国の世で這い上がると決めた覚悟。その二つだけは、誰にも負けるつもりはない。


「信長様。ご心配無用です。この藤吉郎が控えている以上、敵を本陣へ近づけることは決してございません」


 信長はゆっくりと僕を見据えた。その眼差しには、この土壇場で名乗り出た若武者への驚きと、わずかな期待が入り混じっている。僕はその視線を真っ向から受け止め、言葉を続けた。


「いかなる強敵が相手であろうとも、この先は一歩たりとも通しません。押し寄せる敵は、この藤吉郎が必ず食い止め、打ち破ってご覧に入れます」


 しばしの沈黙の後、信長は小さく口元を緩めた。


「……猿め。そこまで言うなら、やってみせよ」


「はいっ!」


 僕は立ち上がり、すぐさま配下へ命令を飛ばした。


「全軍、戦闘準備!」


 僕の手勢は2,000。でも、ただ数を揃えただけの足軽ではない。未来の知識をもとに集団戦を徹底して叩き込み、兵站を整え、日々の訓練を積み重ねてきた、僕が自ら育て上げた精鋭部隊プライベート・アーミーだ。


 この戦場で、その力を証明する時が来た。


 僕はすぐさま、前線で孤立無援のデス・マッチを演じている森三左衛門のもとへ、俊足の軍使メッセンジャーを立たせて申し入れさせた。


「森殿! このままでは損害が増えるばかりです! これ以上兵を失う前に、ここは私に任せて戦線を離脱してください!」


 軍使の言葉を聞いた森可成は、顔を血に染めながら「何だとぉ!?」と怒鳴り散らした。


「ふざけるな、猿ッ! 俺が引けば本陣がどうなるか分かっているのか!?」


「問題ありません! 我が主には『必勝の計略』がございます!」


「……チッ、あの猿め!」


 森勢はこの時、浅井軍と火花を散らして死闘を演じていたけれど、所詮はバフが累積した磯野軍を相手に正面から勝てる合戦ではなかった。森可成は脳筋の猛将に見えて、実は戦況の引き際を見極められる冷静さも持っている。森は僕の提案に従い、後退を組織して、右方向へとばっと退いた。森の軍勢がサイドへと引いたことで、目の前の視界が一気に開けた。


「おおおっ!? 織田の五番備が逃げ出したぞ! 勝った、勝ったぞ!!」


 森の撤退を「敵の敗走」と誤認した磯野の軍勢は、勝利を確信して狂喜乱舞した。ただ一突に僕の備えを破り、そのまま信長を討ち取るべしと、テンションを最高潮まで引き上げて突入してくる。地響きが、僕の足元から伝わってきた。押し寄せる浅井軍5,000の、圧倒的な破壊の津波。その先頭に立つ戦鬼・磯野丹波守の目が、まっすぐに僕を捉えた。


(さあ……歴史の史実シナリオ通り、ここからは僕の舞台ターンだ)


 僕は腰の刀を抜き払い、前世の記憶データベースをフル回転させながら、冷徹な笑みを浮かべた。


 幼児として転生したあの日、日輪の熱を胸に宿して生き延びると誓った。泥水をすすり、這いつくばって手に入れたこの『木下藤吉郎』の地位。ここで魔王の盾となり、未来の天下人の器を証明してやる。


前衛フロントは盾を構えろ! 後衛リアは次の一撃の準備チャージを怠るな! ……さあ、戦国の怪物がどれほどのものか、僕が直々に査定オーディットしてやるよ!」


 夜明けの姉川に、僕の声が響き渡る。迫り来る暴風雨のような敵軍を前に、僕は不敵な笑みを崩さず、新しい時代の第一歩を踏み出した。


 


【繪本太閤記 作:武内確斎 絵:岡田玉山 寛政9年】




姉川合戰あねがはかつせん始末しまつ


信長のぶなが先陣せんじん坂井右近さかいうこん淺井あさゐ先陣せんじん磯野丹波守いそのたんばのかみ雙方さうほうたがひやりせ、ひつついて相戰あひたたかふ。磯野丹波守いそのたんばのかみ時分じぶんはよしと、かねて左右さいうそなきし鐵砲てつぽう下知げちしてさしまねけば、たちまち兩方りやうほうより數百挺すひやくちやう鐵砲てつぽうを、あめよりしげちかくれバ、坂井さかひ兵士へいしおもてくべきやうもなく、ただようてえたりける。磯野丹波守いそのたんばのかみ、すはや勇戰ゆうせんいまなりと、みづかやりをおっつて、どつとおめいてつれば、坂井さかひぢんさんざんにやぶれて、右往左往うおうさおう散亂さんらんす。これを信長のぶなが二番備にばんそなへ池田勝三郎いけだかつさぶろう二千餘人にせんよにん坂井さかひつてやりるる。磯野いその兵士へいししたもためらはず、池田いけだぢんおもてもふらずいてり、て、そのはげしきこと電光でんくわうのごとし。池田勝三郎いけだかつさぶろうぢんすすめ、鐵砲てつぽうちかけむかうたり。三番備さんばんそなへ蜂谷兵庫頭はちやひやうごのかみ二千餘人にせんよにん先陣せんじんとなし、磯野いその兵士へいしをわしづかみにつた。磯野いそのなにかはしばしもためらふべき、鯨波げいは一聲いつせい、おつとおめいて槍先やりさきそろへ、無二無三むにむさんつれば、蜂谷はちやそなへもしらまされ、これも左右さいうげける。四番備よんばんそなへ佐久間右衛門尉さくまうえもんのじよう二千餘人にせんよにんそなへをし、ときつくつて、みづか陣前ぢんぜんうまし、味方みかた下知げちしてたたかうたり。磯野丹波守いそのたんばのかみほこつて破竹はちくいきほひ軍扇ぐんせんひら左右さいうまねき、鉾先ほこさきするどにきかかれば、佐久間備さくまそなへみださじと、自身じしんやりもつてきにあたり、眼下がんか五六騎ごろつきせたり。磯野丹波守いそのたんばのかみ、「にくてきのふるまひかな、いで物見ものみせん」とうませ、こゑをかげずきかかれば、佐久間さくま獅子ししいかりをなし、たちまちかみさかしまでち、ゆうふるうてたたかふありさま、雙方聞さうほうきこゆる猛勇まうゆう剛士がうし上段じやうだん下段げだん透間すきまなくちがうてひけるが、尋常よのつねいくさなりせば、見物けんぶつして勝負しようぶてど、これはさへふるなきはげしき合戰かつせんなりければ、淺井方あさゐがた大將たいしやう高宮三河守たかみやみかわのかみ大宇大和守おほうやまとのかみ赤田信濃守あかたしなののかみ山崎源太左衛門やまざきげんたざえもん四人よにん勇將ゆうしやう、「磯野いそのちたすな、つづけや」と、一度いちどにどつときかかれば、佐久間さくま軍卒ぐんそつしゆたせじとり、おめさけんでむすぶ。佐久間右衛門さくまうえもんゆうなりといへども、この大敵たいてきしのぎがたく、負色まけいろえければ、たたかつぎそなへにゆずり、左右さいうへばつときたりける。五番備ごばんそなへ森三左衛門もりさんざえもん二千餘人にせんよにん佐久間さくまつてやりすに、磯野いそのいきほひ織田おだそな四番よばんまでやぶり、つたるずぎ鉾先ほこさきあたりかたくえにけり。森三左衛門もりさんざえもんおほいにいらち、「このぢんやぶられなば、御大將おんたいしやう旗本はたもとなるぞ。なに面目めんぼくきてひとおもてはさん。討死うちじにせよ人々(ひとびと)」とて、みづか眞先まつさきやりせ、一足ひとあしかじとたたかうたり。磯野丹波守いそのたんばのかみあぶみり、はるかにてきぢんるに、はや次備つぎそなへ信長のぶなが旗本はたもとえて、南無妙法蓮華経なむみようほうれんげきやう大旗おほはたかぜにひるがへつてえければ、味方みかた諸勢しよしかへりみてまうしけるは、「このそなへをやぶるやいな信長のぶなが旗本はたもとなるぞ。めいめいちからつく一突ひとつくずし、高名こうみやうせよ人々(ひとびと)」と、惣勢そうぜいはして五千餘人ごせんよにん、まつしぐらにもりそなへへりたり。信長のぶながはるかにこのてい御覽ごらんじ、おほいにおどろたまひ、「旗本はたもとせいし、もりそなへを扶助ふじよすべし」と下知げちたまへば、木下藤吉郎きのしたとうきちろう御前ごぜんにまかりで、「きみすこしもこころなやましたまふべからず。藤吉郎とうきちろう秀吉ひでよしこれにひかさふらふほどに、いかなる大敵たいてき強將ごうしやうといへども、いかでか御旗本おんはたもとまで亂入らんにふいたさせまうすべきや。いまきたてきそれがしうちやぶつて、きみ御心みこころやすんじたてまつらん」と、手勢てぜい二千餘人にせんよにん合戰かつせんそなへをなし、森三左衛門もりさんざえもん軍使ぐんしててまうさせけるは、「御戰おんたたかあやさふらふほどに、味方みかた損亡そんぼうこれなきうち、はやはや御引取おんひきとさふらふべし。べつ必勝ひつしよう計略けいりやうこそこれあり」とまうおくりければ、もりせいこのとき火花ひばならしたたかひけれど、所詮しよせんつべき合戰かつせんにあらざれば、木下きのしたことばしたがひ、繰引くりびきにみぎへばつと退しりぞけば、磯野いその軍勢ぐんぜい、ただ一突ひとつ木下きのしたそなへをやぶり、信長のぶながうちとるべしと、いさみにいさんでそなへをすすむ。

〜参考文献〜

太閤記 底本:『史籍集覧』第6冊,近藤出版部 - Wikisource

https://share.google/AxQqE2xRgf0LcmxAN

絵本太閤記 武内確斎 著 夕陽亭馬齡 編

夕陽亭文庫 Amazon Kindle https://x.com/bpaaw700


〜舞台背景〜

 姉川の戦い(あねがわのたたかい)は、戦国時代の元亀元年6月28日(ユリウス暦1570年7月30日/グレゴリオ暦8月9日)に近江国浅井郡姉川河原(現在の滋賀県長浜市野村町および三田町一帯)で、織田・徳川連合軍と浅井・朝倉連合軍の間で行われた合戦である。「姉川の戦い」「姉川合戦」という呼称は元々は徳川氏によるものであり、布陣した土地の名から織田・浅井両氏は「野村合戦」、朝倉氏側は「三田村合戦」と呼んだ。出典:wikipedia


 つまり「姉川の合戦」と記述されてる資料はみんな江戸幕府(家康)への忖度そんたくが入ってます。なので本当に活躍したのはいったい誰なんでしょうねw


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名探偵 藤原彰子の宮中事件簿 ――『転生皇后 藤原彰子』スピンオフ外伝
転生皇后 藤原彰子 〜 欠けることのない望月の世は私が創る 〜
新訳 太閤記 ~ 転生 豊臣秀吉、未来を識る僕は史実の道を静かに歩む 〜
新訳 三河物語 〜 徳川家康と家臣団の戦国サバイバル 〜 with 逆行転生犬シロ
新訳 北条五代記 〜 近所の隠居が書いたメモがガチの戦記だった件〜
美しき女帝 北条政子 〜 婚約破棄どころか強制結婚!? 平家のエリートに嫁がされそうになったので、豪雨の山を越えて愛する無職の元へ走ってみた 〜
新訳 曽我物語 〜 復讐系なろうの原点、父を殺された兄弟の二十年の復讐譚〜
箴言・格言・名言集 〜頑張るあなたへ、今日を乗り越えるための一言〜
拝啓、愛読者様。― 想いを少しだけ 謹呈 条文小説
六道輪廻抄 〜 戦国転生記 〜
コミックス「六道輪廻抄〜戦国転生記〜」
動画生成AIが作成したイメージビデオ
動画生成AIが作成したなろう小説イメージビデオ
動画生成AIが作成したなろう小説イメージビデオ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ