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灰燼(かいじん)の設計者  作者: 蒼牡蠣
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第13話:盤上の罠と、猛毒の気化

異音を聞き取った瞬間、私の思考は極限まで加速した。


冷却バルブを破壊した魔力炉は、機能を停止しつつある。

だが、その魔力停止を「スイッチ」として、塔の基部に隠されていた物理的なシリンダーが作動する音が響いた。


シュウゥゥゥゥッ……!


塔の隙間から、黄色く濁った気体が猛烈な勢いで噴出し始めた。


(……塩素系の毒ガスか!)


呼吸を止め、即座に後方へ跳躍する。

しかし、ガスの噴出速度は異常だった。ただの圧力弁ではない。内部で化学反応を強制的に促進させ、爆発的な速度で気化させている。


魔法の罠ではない。純粋な化学兵器。

魔力探知に頼る魔術師では絶対に察知できない、物理的な殺意。


(敵の指揮官……私の「論理」に気づき、対策を練ってきたか)


ガスが私の周囲を完全に包み込もうとしている。

比重が重いガスだ。地表を這うように広がり、谷底から逃げることは不可能。

息を止めていられるのは、もって一分。皮膚からも微量に浸透するタイプなら、あと数十秒で肺と粘膜が焼かれて死ぬ。


ご都合主義の奇跡は起きない。

私は周囲の環境変数を脳内で高速処理した。


地形、風向き、ガスの比重、そして先ほど私が作らせた「熱気と煙の層」。


私は迷わず、腰のポーチから携帯用の火薬玉を取り出し、足元の岩盤に向かって力一杯叩きつけた。


ドンッ!!


小規模な爆発が起きる。

だが、狙いは爆発の威力ではない。火薬が燃焼する際に発生する「瞬間的な超高温」だ。


周囲の空気が一気に熱せられ、猛烈な上昇気流が発生する。

地表を這うように広がっていた重い毒ガスが、上昇気流に巻き込まれ、トルネードのように空高くへと吸い上げられていく。


私はその強引な「煙突効果」の中心で、残されたわずかな酸素を吸い込みながら、ガスが上空で霧散していくのを冷徹な目で見つめていた。


「……危ないところでした」


数分後、完全にガスが晴れた渓谷に、エレン中佐が兵士たちを連れて駆けつけてきた。


「今の黄色い煙はなんだ。魔力反応は一切なかったぞ」


「化学トラップです。私が魔力炉を破壊した瞬間に作動するように物理的な仕掛けが組まれていました」


私は塔の基部から、焼き切れたシリンダーの破片を拾い上げ、中佐に渡した。


「敵に、こちらの意図(物理現象による破壊)を完全に理解している者がいます。魔法に依存しない、極めて合理的な頭脳が」


私の言葉に、エレン中佐は微かに目を細め、その破片を強く握りしめた。


「面白い。……神の奇跡ではなく、盤上のルールを理解した相手がいるということだな」


「ええ。これからの戦いは、魔法の撃ち合いではなくなります。純粋な殺し合い(物理)です」

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