第12話:自動迎撃の死角と、光の屈折
ルビコン渓谷。
両側を切り立った崖に挟まれた一本道の中央に、黒曜石で造られた高さ二十メートルの塔がそびえ立っていた。
塔の頂上には、巨大な眼球のような赤い水晶が鎮座している。
あれが敵の『自動迎撃塔』だ。
「厄介だな」
岩陰から双眼鏡で塔を観察していたエレン中佐が、短く舌打ちをした。
「あの水晶は、視界に入った熱源と動体を自動的にロックオンし、光速の熱線を放つ。魔力探知ではないため、隠密魔法も通用しない。我が軍の先遣隊は、一歩も近づけずに灰にされた」
光速の攻撃。見てから避けることは物理的に不可能だ。
だが、私は双眼鏡を受け取り、塔の周囲の地形と、赤い水晶の動きを観察して一つの結論を導き出した。
「問題ありません。視認(光学照準)で狙ってくるのであれば、眼を潰せばいいだけです」
「どうやってだ? 物理的な盾など、あの熱線の前では紙切れと同義だぞ」
「盾は使いません。『空気』を使います」
私は背後の部隊を振り返り、指示を出した。
「生木と、湿った草を大量に集めてください。それと、風魔法を使える部隊を三名」
十分後。
私たちは渓谷の入り口、塔の射程圏外ギリギリの場所に、湿った木々を高く積み上げて火を放った。
大量の白い煙と、強烈な熱気が立ち上る。
「風魔法部隊、煙と熱気を前方に押し出せ。上空に逃がすな。地表に沿って塔の方へ流すんだ」
風使いの兵士たちが杖を振り、熱気と煙の塊が、分厚い壁となって渓谷の底を這うように進んでいく。
冷たい渓谷の空気に、無理やり急激な熱の層(逆転層)を作り出したのだ。
私は煙の壁の後ろを歩きながら、静かに塔へと近づいていく。
塔の頂上の赤い水晶が、こちらの熱源を感知してギョロリと動いた。
赤い閃光が放たれる。
だが、光速の熱線は、私には当たらなかった。
熱線は煙の壁に突入した瞬間、急激な空気の温度差(密度の違い)によって軌道を大きく上へと「屈折」し、私の頭上の遥か高空を空しく焼き焦がした。
「……光は、密度の違う媒質を通る時に屈折する。逃げ水や蜃気楼と同じ原理です」
光学照準の致命的な弱点だ。
私は屈折した光の壁の真下を悠々と歩き、塔の真下へと到達した。
塔の基部には、巨大な魔力炉がむき出しになっている。
私は腰のハンマーを引き抜き、炉の冷却装置のバルブを力任せに叩き割った。
赤い水晶の動きが狂い、熱線が明後日の方向へと乱れ撃ちされる。
「これで終わりだ」
私が踵を返そうとした、その時だった。
カチッ。
塔の内部から、魔法の崩壊音とは違う、純粋な機械式の歯車が噛み合う音が聞こえた。




