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灰燼(かいじん)の設計者  作者: 蒼牡蠣
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第11話:解析者の仮説と、仕掛けられた盤面

「……ガレア砦が、内側から弾け飛んだだと?」


ヴァルン帝国の第一魔導特務軍司令室。

報告を受けたユリウス・フォン・ノイマン大佐は、手元の羽ペンを止めることなく、冷たい声で聞き返した。


「は、はい。生存者の証言によれば、砦の下部にある揚水管が突如として破裂し、その水圧が内部の魔力炉を直撃したとのことです。敵の魔法攻撃の兆候は一切確認されていません」


「魔法ではない。流体力学だ」


ユリウスは羽ペンを置き、卓上に広げられた地図のガレア砦にバツ印を書き込んだ。


「揚水管の吸水口を物理的に塞いだのだ。行き場を失った水の運動エネルギーが強烈な圧力波となって管を逆流する。水撃作用ウォーターハンマー。過去の文献で読んだことがあるだけの、純粋な物理現象だ」


副官は理解できないという顔で立ち尽くしている。

無理もない。魔力という万能の力を持つ彼らにとって、水や泥といった自然物は、魔法によって操られるだけの「結果」に過ぎないからだ。


だが、ユリウスの脳内では、先日の三色の絶対障壁の崩壊と、今回のガレア砦の崩壊が完全に一本の線で繋がっていた。


「排熱不良による内部暴走。水圧の逆流による配管の粉砕。……間違いない。敵軍には、魔法を『物理的な構造物』として解体し、急所を突く異常者がいる」


ユリウスの端正な顔に、獰猛な笑みが浮かんだ。

それは、長年退屈な盤面を眺めていたチェスプレイヤーが、初めて自分と同等のルールを理解する対戦相手を見つけた時の顔だった。


「面白い。ならば、その『論理』を逆手に取って殺すまでだ」


ユリウスは新しい羊皮紙を引き寄せ、複雑な術式と、それに連動する物理的な装置の設計図を描き始めた。


「次の防衛線、ルビコン渓谷の『自動迎撃塔』の設定を変更する。魔力による探知を切り、光学的な照準のみに切り替えろ。そして、塔の内部に『細工』を施す」


「大佐? どのような細工でしょうか」


「ただの化学反応だ。魔法の崩壊をトリガーとして起動する、猛毒の罠だ。……論理で魔法を壊すなら、壊した瞬間に論理で殺す」


帝国最高の頭脳が、名も知らぬ戦場の掃除屋に向けて、明確な殺意を放った瞬間だった。

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