第八話
「この女が王女……?」
ミルティナは呆然とアリアナを見つめる。
まだ口を開くか……とスタンリーはため息をつく。
「妹は、私と同じ髪色と瞳。顔立ちも似ているとよく言われるのだが、お前の目は節穴か?」
「だって……、だって、だって……」
「分かるまでお前は修道院から出ることはない。連れて行け」
「いやーっ!」
ミルティナは衛兵に担がれながら会場を去った。
「さてと……」と、スタンリーは、フォスティーヌ達に近づく。彼らは頭を下げたままだ。
「面をあげよ」
三人は背筋を伸ばし前を向いた。
「まずはアンジュ王女。いや、王太女。準備が出来次第、女王として即位してもらう。年端もない君に押しつけることは申し訳ないが、君にしかできない。クルサード王国を頼む」
「誉れでございます。精進いたします」
「側妃フォスティーヌ。アリアナを助けてくれてありがとう。家族を代表して礼を言う。
今後は王太后としてアンジュ女王の道標となり、この国を正しい方向に導いてくれ。あと時々で良いからアリアナの相談相手になってくれるとありがたい」
「粉骨精神努めます」
フォスティーヌとアンジュは、礼をし、一歩後ろに下がった。
スタンリーはフェルナンの前に立ち、ククッと笑った。
「……不満顔だな」
「……軽すぎるかと」
「そうかな」
「せめて王族から離さないと、民に示しがつきません」
「でも君、散財したと言うけれど、王太子費用の範囲内でしょ。自分の出費を抑えて。
彼奴等の仲間のように振る舞っていたから、そう見えていたけど。
罰するけど、君は罪を犯していない。アンジュ女王を立てるための建前が必要なんだ。
理不尽を突きつけているのはこちらなんだよ」
「あ……っ、ありがとう……ございます」
「うん。励めよ」
「はいっ!」
スタンリーはパンパンと手を鳴らして、会場内を見渡す。
「すまないね。せっかくの卒業パーティーを台無しにしてしまった。
しかし、話はすべて纏ったから安心してほしい。
そうだ!このパーティーの費用は私が出そう!
そして共に新しいクルサード王国を祝おう!
さあ、門出に相応しい音楽を奏でてくれ!」
わあぁっ!
会場は一気に盛り上がり、人々が踊り出す。
「お兄様、かっこいいです!」
「当たり前だ!私はアリーにそう言われたいために励んできたのだからな」
「え?」
「なんだ、覚えていないのか。お前は小さい時、お兄様かっこいい!お兄様かっこいい!と言って、ついて回ってたんだぞ」
「私、忘れてばかりなのですね……」
「小さかったからな。でも久しぶりに聞いたよ。やっぱり嬉しいな」
「お兄様ったら」
「ははは、ほら別れを惜しみたい人がいるだろ。こっちを見てる令嬢がいる。行っておいで」
「はいっ!お兄様、またね!」
アリアナはシェリルの元へ走り出した。
淑女の見本といわれたアリーが走ってる……。それに、「またね」だと?
見たことのないアリアナの姿に、面を喰らい、
随分と元気になったものだな。とスタンリーは独り言ちる。
その後ろで、
「お兄様、踊っていただけますか?」
と、アンジュが手を差し出す。
フェルナンは一瞬戸惑ったが、
「喜んで」とアンジュの手を取った。
「ありがとう。フェルちゃん」
「アンジュっ!お前覚えて……」
「もちろんよ。お母様から、兄だと聞かされた時、どれほど嬉しかったか!」
「……アンジュ」
「守ってくれていたのでしょう。ずっと……」
「……ああ」
「ありがとう、お兄様」
「こちらこそ、アンジュがいなければ、僕は壊れてた。ありがとう。」
ふふふとアンジュは笑い、フェルナンの手を引っ張り、
「行きましょう!フェルちゃん!」と言う。
「もう大きくなったのだから、フェ、フェルちゃんはやめようか。」
と言いながらフェルナンはついて行った。
その微笑ましい二人の姿に、フォスティーヌは涙した。
その頃ソニアは、衛兵に担がれ運ばれるミルティナを追いかけていた。
「お母様!お母様、助けて!お母様!お母様!」
聞こえてくるのは、ソニアを呼ぶ声。
追いついたのは、ミルティナを修道院行きの馬車に乗せるところだった。
ソニアに気づいたミルティナは、
「お母様!お母様!ごめんなさい!ごめんなさい!
知らなかったの!分からなかったの!
お母様!お母様!お母様の言う事聞かなくてごめんなさい!
だから、だから助けて!お母様!お母様ぁ〜!」
と泣き叫ぶ。
ソニアはボロボロになったミルティナを抱きしめた。娘を抱きしめるなんて何年ぶりだろう。
「お母様!お母様!」
「しっかり努めなさい」
「お母様!お母様!」
「自分のしたことを反省しなさい」
「お母様!お母様!」
「……会いに行くわ、必ず」
「……お母様っ……!」
ミルティナを乗せた馬車は静かに走り出した。
ソニアは馬車が見えなくなるまで見送った。
「シェリルぅ〜」
アリアナは、思いっきりシェリルに抱きついた。
「で、殿下!」
「アリーでしょ!」
「そ、そんな恐れ多くて!」
「友達でしょ!」
「そ、そんな恐れ多くて!」
「一緒のベッドで寝たじゃない!」
「も、申し訳ありません!」
「もうやめて、シェリル。
私は王女としてじゃなく、アリアナとして貴女と友人でいたいの」
「……殿下」
「だからやめて。
貴方がいたから学園生活が充実していた。
貴方がいたから元気になれた。
貴女がいなかったら、……心が壊れていたわ。
貴女は私の大切な友人。
だから殿下なんて呼ばないで」
「……」
「……」
「……アリーの馬鹿っ!」
「へっ?」
「何で黙っていたのよ!
私にだけは教えてくれたら良かったのに!
だって……、私達は親友でしょ!」
「……親友」
「親友でしょ!!」
「親友だわ!!」
「アリィ〜」
「シェリルぅ~」
ガシッ!と抱き合いワンワンと泣く二人。
寂しいわ〜。手紙書きますね〜。私も書くわ〜。
と一通り泣いた後、キャッキャッと笑いながら、
軽食コーナーへ向かっていった。
「……フォスティーヌ殿、アリーは何時からあのように奔放な性格になったのだ?」
「申し訳ございません。気づいたときにはもう……」
読んでいただき、ありがとうございました。
最終話を22時にアップします。




