第六話
「以前より穏やかなお顔をされていますね」
フォスティーヌが話しかけると、アリアナは弾けるような笑顔で、
「ええ!このお休みにシェリルの領地へ遊びに行くのです!私、友人の家に行くなんて、初めてで!」
何か手土産を持っていったほうが良いかしらと興奮気味に話す。一年ほど前のアリアナとは大違いで、あの時の孤独に苛まれた瞳はなかった。
「よろしゅうございました。私も嬉しいです」
「フォスティーヌ様のおかげですわ。ありがとうございます」
「アリアナ殿下、申し訳ございません。我が娘が迷惑をかけまして……」
ソニアが頭を下げる。ここのところのミルティナの愚行は、もちろん報告されている。
「あら気にしないで。編入前から聞いていたし、多少吃驚したけれど、友人達のおかげで苦ではないわ。今は…、そうね、少し筋肉がついたかしら。」
「申し訳ございません!」
更に頭を下げるソニアに、
アリアナは、スタイルも良くなったし健康的だから大丈夫よ、とコロコロと笑う。
本来のアリアナは、このような可愛らしい娘だったのか。穏やかな微笑みも、明るい笑顔も美しく、ルクレール帝国の侍女が言っていたとおり、アリアナだから愛されてきたのだろう。
彼女の失っていた自信が戻ってきたようで、フォスティーヌは嬉しかった。
「お兄様から返事が届いたわ。
貴方がたが求めていた国王夫妻の廃位が会議で決定したそうよ。」
「……そうですか」
アリアナ以外の全員が安堵したが、
それでね、確認するように言われてるの、とアリアナが続けると、緊張が走った。
「今後のこと。まず、国王夫妻とその側近たち。
平民として、ルクレール帝国の鉱山に行くことになったわ。命までは取らない。そのかわり、クルサード王国が失った財の補填をしてもらうわ。
それでいいかしら、フェルナン様」
「はい。ご配慮いただき感謝いたします」
「次は……、ミルティナ様の処遇ね」
アリアナは書類をめくる。
「子爵家から離籍後、クルサード王国内の修道院へ行ってもらうわ。」
「え!?それだけで良いのでしょうか」
ミルティナは国王夫妻と共に贅を尽くした生活をしていた。その上、アリアナに対しての態度は到底許されるものではない。国外追放、鉱山送りをソニアは覚悟していたが。
「但し、ハイドフェルド子爵家は、罪人を二人出したことで男爵位に降爵。」
「はい……はい!ありがとうございます!ありがとうございます!」
ソニアは泣き崩れる。
面会は禁止されてないわよ。とアリアナは一言添えた。
「次、アンジュ様。」
「はい」
アンジュは背筋を正し、アリアナを見つめる。
「いい瞳ね。
アンジュ様の王位継承の許可がおりました。これからはアンジュ王太女となります。貴女が一番背負うものが多いわ。」
「はい。承知しております。クルサード王国を正しく導けるよう精進いたします」
「いい覚悟だわ。もちろん、ルクレール帝国が後ろ盾となります。
けれど辛くなった時は、貴女を愛し、支える人がいることを思い出してね。
孤独を感じたら寂しいと声に出して。
誰よりも貴女を大切にしているフォスティーヌ様がいらっしゃるのだから」
「……っ、はい!」
「学園に在学中ですが、即位は断罪後直ぐとなります」
「あのっ!学園は飛び級して早く卒業した方が良いのでしょうか?」
「……そうね、学力は足りているのでしょうけど……。友人はいらっしゃるの?」
「はい」
「では勿体ないわ。学園生活を楽しんで!それが貴女の力になる」
「はい!」
「アンジュ様はクルサード王国女王になります。
よって、フォスティーヌ様は王太后となってください」
「わ、私が王太后ですか!?」
「ええ。公爵家に戻してあげたいけど、フォスティーヌ様が王族に残れば、アンジュ様の後ろ盾が強くなりますわ。
それにアンジュ様も今まで執務を手伝ってきたとは言え、まだ学生ですし、いきなり全ては無理です。
フォスティーヌ様がいらっしゃらないと。ソニア様も」
「え!?私もですか!?」
「当たり前ですわ!ルクレール帝国国王は、貴女方の手腕を認めているわ。二人が居れば心配はいらないとの事です」
「なんと!光栄にございます!」
「ありがとうございます!」
フォスティーヌとソニアは両手で握りあった。
「……処遇については以上よ。何か問題はあるかしら」
「待ってください!」
フェルナンは立ち上がり叫んだ。
「僕は……」
アリアナは一息つき、フェルナンに座るように促す。
「僕は両親やミルティナと散財してきました。
僕も平民となり、同じ道へ行かなければ……」
「フェルナン様ですが……」
アリアナは一枚の書類を差し出す。
フェルナンはそれを受け取り確認すると、
「……白紙……」
「そうなの。帝国側も困ってるみたいですわ」
「でも僕は……」
「散財していたことは帝国も把握していますわ。
でもその内訳は、マジェスタとミルティナへの贈り物。あとは歴史書、帝国語辞書、他国の言語書等、沢山の本。とてもあの二人が必要としているとは思えないわ。
貴方は一人で学んでいたのしょう」
フォスティーヌ様が調べてくださったのよ、と教える。フェルナンがフォスティーヌを見ると、彼女はウィンクを寄越した。
「……!」
「これらのことはルクレール帝国皇太子が直接通達します。そうね、時期は……、卒業パーティーかしら。
フェルナン様の処遇は、皇太子に一任されました。
その時は、フェルナン様。貴方の本当の姿を見せてください。決して演技はしないで。
私は兄にフェルナン様のありのままを見てほしい」
アリアナはフェルナンの瞳を見つめ、訴えかけた。
「……はい」
フェルナンにとって、卒業パーティーまで覚束ないだろう。彼が王位に就くことはない。それは決定している。
だが、フェルナンの苦難と努力を考えると、どう纏めれば良いのか……。
アリアナは悩んでいるとルクレール帝国に伝えていた。
卒業パーティーまで、国王夫妻、その側近、ミルティナに気づかれないよう、細心の注意を払って、アリアナ達は綿密に話し合った。
その中で、アリアナは長期休暇で友人の領地に遊びに行ったこと。そこでカフェにも行ったこと。店で買い物をしたこと。とても楽しく過ごせたことを報告した。
そして、
「両親から手紙が届いたのです。側近の令嬢達からも。最初は怖くて読めませんでした。でも勇気を出して手に取ると、重たいほどの愛が溢れた内容で笑ってしまいました!」
と、アリアナはクスクスと笑い出す。
「フォスティーヌ様が仰ったでしょう。私は皆からの愛を忘れているだけだって。……。その通りでした。
家族には可愛がっていただいてたし、側近の令嬢達との間にも、しっかり友情がありました。
本当に心が疲れていたんですね。
フォスティーヌ様に誘われてこの国に来て、王女としてでなく令嬢として生きる事で、狭まっていた視界が元に戻りました。いえ、広がったかもしれません。
来て良かったです!ありがとうございました。」
本当に愛らしい方だわ、とフォスティーヌは嬉しく思った。
「あ、もう一つ報告があります!婚約を解消しました!」
「「「「えっ!!!!」」」」
「真実の愛に目覚めたそうですよ。
今考えれば、な〜んか胡散臭かったんですよね〜。
私、そこまで視野が狭くなってたのかって思いましたよ!」
腕を組み、ウンウンと一人で納得しているアリアナを見て、フォスティーヌ達は、
この王女、子爵令嬢に染まりすぎてないか、
と焦りを感じた。
その上、
「慰謝料、たんまり貰ったので、私、今ちょっとした小金持ちです♡」
((((ど、どうしよう〜!!!!))))
と、王宮に心の声が響いたとかなんとか……。
読んでいただき、ありがとうございました。




